グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ)   作:水郷アコホ

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44「6階」

 ──どうにかグラスの大群を切り抜け、階段を駆け上がっていく団長達。

 

 

 

アンナ

「ハァ……ハァ……い……今、何階……?」

 

ビィ

「えっとぉ──ここは6階だな。後もうちょっとだぜ」

 

カシマール

「トンデルヤツハキラクダゼ……」

 

ルリア

「はぁ……ふぅ……アンナちゃん、肩、貸しましょうか……?」

 

アンナ

「う……ごめん、ちょっとだけ、お願い……」

 

 

 

 ──歩みは遅いながら、一行には息を整える程度の余裕が見られた。

 ──3階まではゴリ押しでどうにか突き進んでいたが、4階でアンナが閃いたのだ。

 ──蔵書検索用のグラスは自力で移動する機構を持たず、他に有用なグラスが有ったためか置き晒しになっていた。

 ──これに目を付けたアンナの提案で、転がして運び、階段を登ってくるグラス達に投げ落とす事で、存外に足止めとして機能した。

 ──更に、居ても立ってもいられなくなったルリアが手近なテーブルに広げたままになっていた書物を無我夢中で投げつけた所、グラス達がこれを丁重に受け止めた。

 ──余り褒められた事ではないが、多勢に無勢で手段は選んで居られなかった。

 

 ──手近な本棚を押し倒してやると、グラス達が棚を支え、こぼれ落ちた書物を受け止め、更に書物を本棚に戻してと、コミカルな程に狼狽えた。

 ──先の1階の”ホラーショー”のためにかなりのグラスを投入していたようで、上階に移るほど待ち構えるグラスの数はまばらになっていった。こうなると、戦闘を回避しながら進むのも難しい事ではない。

 ──歴史的建造物ゆえか、図書館の建材に窓以外でグラスは使われていないらしい。明かりを避けて移動する団長達を、グラス達は完全に見失ったようだ。

 ──魔導グラスに付きっきりで生きてきたカレーニャは別に戦術のプロでも何でも無い。この不手際も無理からぬ事だった。

 

 

 

ルリア

「次の階段は……確か、そこの個室を過ぎた先の──」

「あ、あの部屋……」

 

ビィ

「そういやぁ、あの部屋でオイラ達、ゲームブックで遊んでたんだったなぁ……」

 

 

 

 ──半開きになった個室の扉の前で思わず立ち止まるルリア。昨日とは変わり果ててしまった館内を見渡す。

 

 

 

ビィ

「でも、今は先に進まねぇと……グラス達がいつ追いつくか解んねぇんだしよぉ」

 

ルリア

「はい……あの、でもちょっとだけ、良いですか……?」

 

 

 

 ──ルリアの要望を団長が認め、ルリアが個室の中を覗き込む。すると……。

 

 

 

女性の声

「ヒィッ!」

 

ルリア

「はわっ!?」

 

 

 

 ──月明かりに照らされた個室から悲鳴が上がる。

 ──ルリアの驚く声でグラスで無いと判断したのか、室内のテーブルの陰から女性職員がこちらに顔を覗かせた。

 

 

 

女性職員

「ま……まだ、生きている人が居たの──?」

 

ビィ

「たまたま部屋ぁ除いたら──こりゃとんでもねぇラッキーだぜ!」

 

 

 

 ──急ぎ職員を介抱する一行。額から少し血を流し足をくじいているが、他に目立った傷も無かった。

 ──精神状態も比較的落ち着いていたため、騒ぎの経緯について聞く事にした。

 

 

 

女性職員

「私達にも、何が起こったか解らないんです──」

「最初は窓を伝って何か流れていたのを見つけて、雨が振っているか、清掃でもしてるのかと思ったんですが、何か妙で──」

「天気も良いし夜間清掃の予定なんて聞いてなかったので、窓を開けて確かめようとしたら、ビクともしなくて開かなかったんです」

「その内に窓を流れてる物がそのまま固まって、大きくなって……何これって思ってたら悲鳴がして──」

 

 

 

 ──頭を抱え、声が甲高くなっていく。

 

 

 

女性職員

「お客様が持ち込んだグラスが、他のお客様を……!」

「他の職員も、地下からグラスが這い出して来てるって聞いて、もう、もうどうして良いか解らなくて……!!」

 

ルリア

「お、落ち着いて下さい! もう、大丈夫ですから……」

 

 

 

 ──慌てて職員を宥めるルリア達。

 ──そこからは記憶が曖昧で、気付いたらこの部屋で先程のように蹲っていたらしい。

 

 

 

ビィ

「結局、この姉ちゃんもよく解らない内にこうなっちまったみてえだなあ」

 

アンナ

「あ、あの……一つだけ……い、良いですか……?」

 

女性職員

「な、何か……?」

 

アンナ

「えっと……最初の……窓を何か、流れてるって言ってた所……なんですけど……」

「その時、外は何か……変な事って、無かった、ですか?」

 

女性職員

「変な……?」

 

アンナ

「例えば……えっと、火事があったとか、夜なのに街が暗かったとか……」

 

女性職員

「火事──いいえ、いつも通りの景色だったと思いますが」

 

アンナ

「やっぱり……」

 

ビィ

「何だよ、何がやっぱりなんだ?」

 

アンナ

「最初に何か起きたのは……やっぱり、図書館からかも知れない」

 

ルリア

「確かに、最初に窓を流れてた物って多分、今この図書館を覆ってる魔導グラスでしょうし」

 

ビィ

「でもそれがどうしたってんだよ」

 

アンナ

「だから、カレーニャが居るのも、やっぱりこの図書館で間違いないと思う……!」

 

 

 

 ──アンナの言葉に職員が反応する。

 

 

 

女性職員

「カレーニャ……!?」

「やっぱり……やっぱりこれはカレーニャの仕業なんですか!」

 

アンナ

「あっ……!」

 

ルリア

「え、えーっと、それは、その……」

 

 

 

 ──カレーニャ自ら認めた瞬間に立ち会った以上、軽々に「違う」と言えるほどルリア達も達者ではない。

 ──かと言って、肯定すれば次に職員から飛び出す言葉はもう容易に想像が付く。

 ──先程、子供相手に我慢ならなかったアンナがこの場に居てはどうなるか、余り考えたくない。

 ──アンナ自身も、自身の失言を悔やむように、歯噛みして視線を落としている。

 ──しかし、誰が口を開くより早く、団長が声を上げた。

 

 

 

主人公(選択)

・「それを確かめるために来た」

・「必要な事だけ話したい」

 

→「必要な事だけ話したい」

 

女性職員

「ひ、必要な事……?」

 

ビィ

「そ、そうそう。とにかくオイラ達、急いで上に行かなきゃなんねぇんだよ」

「そのぉ……カレーニャの事で色々言いたいのは解るんだけどよ。知りたい事だけ教えて欲しいって言うか……」

 

ルリア

「あ、も、もちろん、職員さんが襲われないように私達が守りますので!」

 

女性職員

「そう……そうでしたね。すいません、私ったら取り乱して──」

 

 

 

 ──少し項垂れながらも引き下がる職員。

 ──ルリア達の言葉を受け入れたというより、カレーニャを罵る気力も今は絞り出せないと言った様子だった。

 ──アンナが団長の傍らに歩み寄り、小声でそっと礼を告げた。

 

 

 

女性職員

「いつまでもここに隠れていても、見つかるのは時間の問題ですしね」

「私も、微力ながらお供します。館内の事なら何なりと頼ってください」

 

ビィ

「お、こりゃ頼もしいな。だったら早速図書館の”頂上”──」

「……あ~……なあアンナ、図書館の”頂上”って、そういやどこの事なんだ?」

 

アンナ

「へ? あ、ああ、えっと、えっと──」

「ご、ゴメン……そういえば、具体的にどこの事なのか……わ、解らないまま、ここまで来ちゃった……」

「図書館の”頂上”にきっと居るって、その……書いて……わ、解ったのは、それだけだったし……」

 

 

 

 ──人差し指の先端を突き合わせながら、申し訳なさそうに視線を逸らすアンナ。急に力が抜ける一同。

 

 

 

ビィ

「オイオイ……」

 

アンナ

「えっと……1番上って事だから……とりあえず、8階の事かなって、思ってた……ん、だけど……」

 

女性職員

「8階は──もしかしたら違うかもしれません」

 

ルリア

「えっ。もしかして、場所が解るんですか?」

 

女性職員

「残念ながらそこまでは……でもつまり、その”頂上”と言う場所にカレーニャが居るかも知れないという事──ですよね?」

 

ビィ

「おう。そういう事らしいんだけど──」

 

女性職員

「だったら、8階は少なくともカレーニャが根城にするには向いてないはずです」

「あそこには、魔導グラスが一切使われていないので」

 

アンナ

「魔導グラスが、無い……?」

 

女性職員

「8階は何年か前に改修工事があって……最初はフロア全体に魔導グラスを取り入れる予定だったそうです。『天井を魔導グラスにして、天気の良い時は日光を取り入れよう』みたいな事を──」

「ただ、少しして……誰だったかしら。どこかから鶴の一声があって、建材はもちろん、窓1枚、備品1つに至るまで魔導グラスを一切使わずに組み立てる事にしたんです」

「それはそれで、島の人も大喜びでしたよ。こんな大事業から爪弾きにされてオブロンスカヤもさぞ悔しがって──」

「あ、すみません。手短に済ませないとでしたね……」

 

 

 

 ──息を吐くように継ぎ足される悪態に大して悪びれる様子も無く、軽く咳払いする職員。

 ──思わず一行がアンナを見るが、幸い、当のアンナは冷静に続きを聞こうとしている。

 

 

 

女性職員

「それで、どこまで話したか──そうそう。とにかく、8階部分には魔導グラスを使用していないんです」

「それどころかグラスの置き忘れが無いか日に何度も調べるよう義務付けられてて、何故か改築当初から最近の修繕まで、機材や職人の道具さえもグラスが使われないようチェックしてるくらいなんです」

「カレーニャが魔導グラスを1から造り出せると言ったって、普段の発注してから届くまでの期間を考えると、1つ造るのにも何日かは要すると思うんです。図書館を覆うほどのグラスを8階で用意するのは難しいんじゃないでしょうか」

 

団長(選択)

・「異変があった時、8階に人は居たと思う?」

・「展望フロアは夜でも使える?」

 

→「展望フロアは夜でも使える?」

 

女性職員

「いいえ。流石に日が沈んでからは、お客様方も帰り支度を始める方が殆どですし、食堂も片付けを終える頃のはずです」

「人が居たとしても、厨房の皆さんと、残業前に残り物で小腹を満たしに来る職員くらいでしょうか」

 

 

 ──職員には、今のカレーニャがショーウィンドウ程度のグラスを、道を塞いで見せる程に増量させられる事など知る由もない。

 ──しかし、職員の証言では公共機関には珍しく、片付け半分とは言え夜中まで図書館は開放されている。そして事件当時、退館者と職員が主ながら、8階にも人が居た可能性が高い。

 ──魔導グラスの生産スピードはともかくとしても、人目の十分にある8階で死んだはずのカレーニャが現れれば、その時点で大騒ぎになったはずだ。

 

 

 

アンナ

「あの……カレーニャが居たのを見たって人とか……居ない、ですよね?」

 

女性職員

「はい。記憶が曖昧なのに、こんな事を言うのもなんですが、そんな事を聞いていたら忘れるはずがありません」

 

ビィ

「って事は、8階は本当に違うかも知れねぇなぁ」

 

ルリア

「他に”頂上”って言うと……もしかして、屋根の上とか?」

 

アンナ

「うぅ……もしそうだったら、どうやって行けば……」

 

女性職員

「その──差し出がましいようですが、これ以上はひとまず上に行って確かめてみるしか無いかと」

「確かに屋根ならここまでの辻褄も合いますけど、そうだった場合、私も機材無しで屋根に上がる方法は存じません」

「でも、少なくとも8階が屋根に最も近いのも事実です。その時はその時で改めて工夫してみるとしか……」

 

ビィ

「う~ん……それもそうだなぁ。ここまで来ちまった訳だし、下には……」

「じゃ、じゃあなくて、え~と……と、とにかくまずは上に行ってみようぜ。案外、カレーニャも8階に隠れてるのかもしれねえしな」

 

 

 

 ──ここで考えていても仕方ないという考えでまとまり、館内に詳しい心強い仲間を加えて行動を開始する一行。

 ──外の様子を探るため、職員には非常時に備えて部屋の中ほどに退避させた。

 ──個室のドアをそっと開けて様子を探る。何かが動く気配も無く、シンと静まり返っている。

 

 

 

ルリア

「だ……大丈夫、みたいですね。それじゃあ、付いて来てくださ──」

 

 

 

 ──振り向いて職員に呼びかけたルリアから表情が消えた。

 ──先頭で外の様子を伺っていた団長が最後に気付き、振り向くと……職員の姿がどこにも無かった。

 

 

 

ビィ

「お、おい。あの姉ちゃん、どこ行っちまったんだ……?」

 

ルリア

「わ……私が見た時には、何か、キラキラした物が、どんどん小さくなってて……」

 

ビィ

「何だそりゃ。何言ってるかよく解んねぇ──ん?」

「キラキラって──おいもしかして!?」

 

 

 

 ──先程まで居た場所を調べると、微かに光を反射する物が落ちている。

 ──拾い上げると、小さな光る石のような物。そして近くに、ネジとチェーンの付いたリング状の小さな金具も落ちている。

 

 

 

ルリア

「これって──イヤリング?」

 

アンナ

「だ、団長さん……その石……ま、魔導グラスだよ……!」

 

 

 

 ──途端、そう遠くない距離でグラス人形の足音が幾つも響く。

 ──つまり、女性職員は恐らくその自覚も無いまま、魔導グラスのイヤリングを身につけていた。そして最初からカレーニャに捕捉されていた。

 ──恐らくは1階の職員たち同様、(いたずら)に彼女をグラスで追い立て苛むために。

 ──そして偶然にも一行が出会った事で居所を感知し、魔導グラスを6階に配備する時間稼ぎのために。

 ──そして用済みになった今、イヤリングのグラスを増大させ、職員を飲み込んだのだ。

 ──これ以上図書館の情報を渡さないためか、はたまた希望を与えた直後に突き落とすためか。理由はどうあれ、その結果が今の状況である。

 

 

 

ビィ

「クソゥ! なんて悪趣味な事しやがんだ!」

「いくら事情があるっつったって、こんなのやりすぎだぜ!!」

 

アンナ

「カレーニャ……もう、やめようよ……」

「こんな事……こんな事したって……」

 

 

 

 ──イヤリングだったグラスに語りかけるように呟くアンナ。

 ──しかし、その最中(さなか)にもグラス達の足音は止まらない。

 ──この部屋は他に出口も無い。飛び出し、駆け抜ける他に無いのだ。

 ──ドアを蹴破るように開き、もう間近まで迫ったグラス達に脇目も振らず、一行は階段へと走り去っていった。

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