グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ)   作:水郷アコホ

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04「カレーニャ・オブロンスカヤと魔導グラス」

 ──団長達一行はカレーニャに連れられ、巨大な屋敷の客間へと通されていた。

 ──テーブルの上には来客のためのフルーツ盛り合わせ。今はルリアとビィが神妙な面持ちで注意深く頬張っている。

 ──二人の視線の先にはカレーニャとアンナ。傍らには救急箱。カレーニャが絹細工のように白いアンナの指に包帯を巻いている。

 

 

 

カレーニャ

「はい、おしまい。申し訳ありませんが治療の魔法は全く心得ござあませんので、後の処置は然るべき人と場所にお願いしますわ」

 

カタリナ

「とんでもない、こちらこそ──」

「それに、それほど深い傷でも無いのにそんなに慎重な手当をしてくれるとは……」

 

カレーニャ

「硝子で出来た傷というのは、細かな欠片が傷口に入り込みやすいものですから。幸い、今回はその心配は無いようですわ」

 

アンナ

「……」

 

 

 

 ──アンナは治療を受けた自分の指先を見つめている。正確には、カレーニャの方を見れないでいる。涙も、震えも、傷口の血もとっくに治まっていたが、表情は今にも痛みを訴えて蹲りそうな程に暗い。

 

 

 

カタリナ

「カレーニャ殿……だったな。ここまで案内して早々、有無を言わせずアンナの治療を申し出られたが……本題はここから、という認識でよろしいだろうか?」

 

 

 

 ──カレーニャの注意をアンナから逸らすかのように、声低くカタリナが語りかける。

 ──団長達はカレーニャが落とした物をハッキリとは見ていない。しかし破片の量からして、相当な大きさのガラス細工である事は明白だった。そうそう手に入る品で無いことは考えるに難くない。アンナが塞ぎ込んでいる原因もそこにある。

 ──財物というモノは金銭以上に持ち主の思い入れが関わる事を団長達はよく知っている。それを喪わせたとあれば、事と次第によっては……。

 ──慣れない緊張にビィとルリアは自分達が物を食べている事も忘れてムシャムシャとカレーニャの動向を伺っている。

 ──しかしカタリナ達の態度とは裏腹に、カレーニャはまるで他人事のように飄々としている。

 

 

 

カレーニャ

「そうなのですけれど、ドリイさんが戻ってくるまではちょっとお話のつけようがねぇ……」

「それにしても辛気臭いったら。せめてまずは──」

「お茶にしませんこと?」

 

 

 

 ──今、カレーニャが座っているのは屋外で腰掛けていた物とは違う、この部屋に元から有った木製の上等な安楽椅子。

 ──その手すりに埋め込まれた透明な球体を撫でると、客間の扉がひとりでに開いた。

 ──そして、扉の先には透明な物体がいくつも待ち構えゾロゾロと、しかし静かに客室の各所へ散っていく。まるで団長達を取り囲むように……。

 

 

 

ビィ

「んなっ、何だコイツら。コイツらも魔導グラスってやつか!?」

 

ルリア

「人みたいな形に、宙に浮いてるのや、車輪が付いてるのも……」

 

カタリナ

「なっ……! カレーニャ殿、これは一体どういう……!」

 

 

 

 ──見慣れぬ物体の物々しさに、反射的に警戒心が先立ったカタリナが声を荒げた。もしも彼らの居場所がマフィアのアジトで、目の前に座するのがその首領であったなら……と考えれば、共感するに十分だろうか。彼らはまだ、カレーニャ達の素性を知らないのだから。

 ──透明な物体達は明らかに来客の存在を意識して動いている。1人につき2~3体。それぞれに距離の置き方は異なるが、統制された無駄のない動きで一行を捕捉している。まるで軍隊のように……。

 ──当然、事態に気付く余裕があるかも怪しいアンナの元にも透明な影がにじり寄っていく。

 

 

 

カレーニャ

「だぁからそういう辛気臭いのはよして下さあましな。見てりゃあ解りますわよ」

 

ルリア

「カ、カ……カタリナッ!!」

 

カタリナ

「ルリアッ!? どうした、大丈……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルリア

すごいよカタリナ! この子たちお茶いれてくれてます!!

 

カタリナ

「オチャだとぉっ!? クッ……!」

「ん……お、お茶?」

 

 

 

 ──振り向いたカタリナの視線の先では、ルリアの隣に立つ透明な台車のような物体が、自らの上に乗った透明なポッドから、透明でなくボーンチャイナを思わせる上等な皿に乗った、これまた上等なカップに琥珀色の液体を注いでいた。

 ──空を飛ぶ個体群は、伸ばした腕のようなパーツを器用に操り、皿に果物をよそってお代わりを運び、その内の1体はテーブルから距離のある団長の元にまで健気に果物を届けている。

 ──更にルリアの傍らへ、絨毯を滑るように移動したチェスのコマのような物体が、どこからともなく見るからに滑らかな布を取り出し、果汁まみれのルリアの口元を優しく拭っている。

 ──程なくしてビィの歓声も響いた。こちらもほぼ同様の状況である。

 

 

 

主人公(選択)

・「すごいよカタリナ!」

・「あ、どうも。いただきます」

 

→「すごいよカタリナ!」

 

 

 

カレーニャ

「物々しい(モノ)着けて何を想像してましたの」

「聞こえませんでした? 『お茶にしませんこと』」

 

カタリナ

「い、いやその……失礼した」

 

 

 

 ──不敵にニヤつくカレーニャに手玉に取られたような気分を覚えながら、バツ悪く席に付いたカタリナと、隣のアンナの元へティーカップが添えられた。

 ──二人の傍らについた台車的な物体の上にはクッキーやスコーンと思しき茶菓子も添えられている。

 

 

 

カタリナ

「ああ、ありがとう」

「……色々聞きたい事はあるがとりあえず……今この部屋に招き入れた、その──彼ら? は一体……」

 

 

 

 ──思わず硝子達に礼を返しつつ、カレーニャに向き直るカタリナ。

 

 

 

カレーニャ

「先ほど何方(どなた)だったかが言った通りですわ。この島で、動く硝子と言ったらただ1つ」

 

カタリナ

「あれも魔導グラスと言う訳か。しかし言葉を返すようだが──」

「客をもてなすつもりと言うなら、全く道具ばかりと言うのはどういう……これ程の屋敷なら使用人くらい雇っていても──」

 

カレーニャ

「あらごめん(あさ)あせ。これが我が家流のもてなし方ですの。何せこのお屋敷、魔導グラスの他にはさっき貴方方が手伝ったドリイさんと、家主の私二人こっきりですから」

 

カタリナ

「ふ、二人きり!? この部屋に来るまでに見ただけでも数十人がかりで管理するような規模だぞ。まさか、全部魔導グラスが……?」

 

カレーニャ

「ええ。魔導グラスは決まった仕事が得意ですの。それもちょっと融通効かせたいくらいの小難しい仕事が特に。掃除、修繕、料理、応接、どれも人類顔負けでしてよ」

 

カタリナ

「そ、そうなのか……」

 

 

 

 ──カタリナの言葉には、単純な驚き以外のものが含まれていた。

 ──街を歩いていた時の事が頭をよぎった。目に留まった物だけでも、荷物や郵便物の運搬を請け負っていた。魔導グラスはこの島のインフラを支えているのだ。

 ──そして人の手は最低限に、屋敷一件にかかる全ての仕事までこなしてみせる。幾ら存分に普及しているとはいえ、こんな便利な物が二束三文な訳がない。

 ──実質一人で広大な敷地を構え、大量の魔導グラスを所有するこの少女がつい先程まで持っていた品。もし魔導グラスであったなら……。

 ──そこまで思案を巡らせた今、カタリナにはすぐ隣のアンナに目を向けづらい。

 

 

 

カレーニャ

「それで……ちょっと貴方。アンナさんで良いんですわよね」

 

アンナ

「ぅ……はい」

 

カタリナ

「(来たか……!)」

 

 

 

 ──か細く、どうにか絞り出したような返事を返すアンナ。

 

 

 

カレーニャ

「貴方、会った時からしんどそうな顔してばかりですけれど、もしかして生まれつきそういう(かんばせ)ですの?」

「それとも人と顔合わせるのが苦しくってしょうがないとか……?」

 

カタリナ

「え? あ、いや、確かにアンナは少々人に慣れていない所はあるが、これはその……」

 

カレーニャ

「ハァ……まあそれは良しとしますわ。とりあえずコレ、受け取ってくださあますこと?」

 

 

 

 ──二人の前に腕が伸び、そっと何かを置いた。

 ──台車型の魔導グラスが。

 

 

 

アンナ

「……?」

 

カタリナ

「これは……ミルクティー……か、何かに見えるが……」

 

カレーニャ

「それ以外何に見えますってんですの。我が家自慢の配合ですの。折角淹れたんですもの。ご賞味願いますわ」

 

カタリナ

「あ、ああ。ご厚意は有り難いが……生憎、今はそういう気分では……」

 

アンナ

「ボ……ボクも、あの……」

 

 

 

 ──やや低く、ゆっくりと。擬態語を添えるなら「ぴしゃり」といった具合にカレーニャが言葉を被せた。

 

 

 

カレーニャ

「アンナさん。それとそちら、さっき『カタリナ』さんと呼ばれてましたわね?」

(わたくし)が待機させた魔導グラスを部屋に入れる前、私なんて言いました?」

 

アンナ

「ぇ……あ、ぇと……ぅ……?」

 

カタリナ

「確か、『お茶にしないか』と──」

 

カレーニャ

「その前!」

 

カタリナ

「その前……ええと……ああ、『辛気臭い』だったか──」

 

カレーニャ

「そうソレ!」

「だのに何ですのさっきから。自分からお手手切り刻んだ後は、未練たらしく頑固に辛気臭さ垂れ流して──」

「一体どこの何方のためにわざわざそんなマネなすってますの?」

 

アンナ

「ぅ……」

 

カタリナ

「そんなつもりは断じて無い。しかしだな……!」

 

カシマール

「サッキカラエラソーナクチキキヤガッテ! スコシハアンナノキモチモカンガエヤガレ!」

 

カレーニャ

「……?」

 

 

 

 ──カレーニャが怪訝そうな顔で、挟まれた口の行方を探した。

 ──路地でも大声を挙げていたカシマールだが、彼女の眼中(あるいは耳中)には無かったようだ。

 ──程なくアンナの手元のぬいぐるみから発せられたものと気づくカレーニャ。

 

 

 

カレーニャ

「あぁら、持ち主と違って話の解るぬいぐるみですこと」

「お言葉ですけど、貴方がたこそ今は私の気持ちを──」

 

アンナ

「良いの、カシマール! カタリナも、ありがとう……」

 

カタリナ

「アンナ……」

 

アンナ

「その……ご、ごめん、なさい。お、おお茶……いただきます」

 

 

 

 ──アンナは初めから参ってしまっている。

 ──カタリナと団長もアンナをフォローするつもりでいたが、魔導グラスの闖入でペースを乱され主導権を握られてしまった。

 ──アンナとしては、憔悴の余りに黙って従う事を選んだだけかもしれない。これで話し相手が屈強なならず者か、はたまた詐欺師や怪しげな宗教の使いなら、飼いならされる序章である。

 ──とは言え、ここで変に言い争ってもかえって拗れるだけだ。まずは場を仕切り直す事が先決。

 ──カタリナも団長もそう判断し、アンナの献身に複雑な思いを抱えながら、ほぼ同時に茶を口に運んだ。

 

 

 

アンナ

「ン……」

「……ッ!?」

 

カタリナ

「こ……れは……!」

 

主人公(選択)

・「おいしい!!」

・「甘っ!!」

 

→「おいしい!!」

 

アンナ

「すごい……ホッとする香り……」

 

カタリナ

「機械的に作っているだけだろうと思ったが……驚いたな」

 

カレーニャ

「少しは落ち着きまして? ”暴漢を退けた腕利きの皆様”」

「どんだけ貴方がたが息巻いてるのかとんと興味ござあませんけれど、話したい事があるなら、少なくともそのカップ一杯飲み干す事ですわ」

「それまでこっちも実のある話する気はござあませんので、悪しからず」

 

 

 

 ──カタリナ達は、その態度はどうあれ、今カレーニャが求めている所を察した。

 ──被害者が目の前に居るとは言え、一行は今の今まで、割れた硝子の事で頭が一杯だった事に気付く。

 ──そして、言葉にはせずとも、カレーニャが彼らの胸中にあるものを見抜いていた事も。

 

 

 

カタリナ

「……重ね重ね失礼した。年長者として、情けない限りだ」

 

カレーニャ

「だぁからそれが辛気臭いと言ってますの。ほら飲んだ飲んだ」

 

カシマール

「ソレジャヨッパライミタイジャネーカ」

「ツーカ! ソレナラアンナヲイジメルヒツヨウネージャネーカ! カオガドートカ、オレサマチャントキーテタゾ!」

 

カレーニャ

「ま、ちょぉっと物言いが過ぎたのは認めましょ」

「ぬいぐるみさん方があんまりウダウダするものですから、つい──ねぇ?」

 

カシマール

「ンダトォ!? ソレト、オレサマノナマエハ『カシマール』ダ!」

 

アンナ

「い、良いのカシマール。ボクは気にしてないから……あれ、どうしたの二人とも?」

 

 

 

 ──いつの間にかアンナの傍らにルリアとビィが立っていた。手に持った皿をアンナの前に置くルリア。

 ──ビィが引き連れる魔導グラス達は、色とりどりのボトルを抱えている。

 

 

 

ルリア

「あ、あの、魔導グラスさん達、お菓子も沢山持ってきてくれて──」

「アンナちゃんも、お一つどうぞ」

 

ビィ

「なぁなぁ、こいつら頼んだらジュースも持ってきてくれたんだ。相棒(オマエ)も一緒に飲もうぜ!」

 

カタリナ

「持ってきた? カレーニャ殿、これはもしや魔導グラスが勝手に──」

 

カレーニャ

「融通が効くでござあましょ? そういう仕事が得意ですの。魔導グラスはね」

 

 

 

 ──やや饒舌にアンナ達に茶菓子を振る舞うビィとルリア。アンナが小さな声で語りかける。

 

 

 

アンナ

「あ、ありがとうルリア。し、心配してくれてるんだよね」

 

ルリア

「……言い合ってる感じなのは何となく解ってたんですけど、私じゃどうしたら良いかわからなくて……ごめんなさい」

 

アンナ

「ううん、大丈夫。とっても嬉しいよ、ルリア」

 

 

 

 ──しばし砕けた硝子の事は忘れ、一行は茶会を楽しんだ。

 ──その頃……。

 

 

 

ドリイ

「──既に登録済み。間違いありませんね」

 

 

 

 ──既に屋敷に戻っていた、カレーニャの付き人ドリイ。

 ──遠くで茶会の歓声が聞こえる中、炊事場のような一室で手の中の物をじっと見つめている。

 ──手袋の上では、ビー玉程の大きさの深く鮮やかな紅色の物体が、窓からの光を浴び淡く輝いていた。

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