グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ) 作:水郷アコホ
──屋根裏部屋に突入した一行は真っ暗闇の中に居た。
──室内に続く小さな床板を押し開き、最後尾のアンナが踊りこむと、即座に階段の横幅が狭まり元の壁に戻ってしまった。
──館長の話では採光用の窓がどこかにあるらしいが、どうやら普段は光を通さないように工夫されているらしい。
──少しカビ臭い空気の中、他に視界を頼る物も無いため、止む無くアンナが慎重にマッチ程度の火の玉を灯した。
ルリア
「これって──子供部屋?」
──照らし出された室内は想像以上に小ぢんまりとした造りだった。
──ドラフ男性などは屈む必要があるほど低い天井はまだ仕方ない。ビィが昨日、8階上の奇妙なスペースを発見した時から、天井と床の厚みを考慮すれば1階層設けるのに些か高さが足りない事は解っていた。
──だが、広さも階下の3分の1程しか無く、大部分は壁で埋め立てられ、まさに一般家屋の屋根裏部屋程度の空間しか無い。恐らく、単純に人員不足で屋根裏全てを活用するのは困難だったためだろう。
──子供用の机に、ペッド、古びたぬいぐるみ。しかし先程通った床板を閉じれば室内に出入り口は見当たらず、ペットのケージのような印象を受ける。
──成長した10代が3人はもとより、1人で住むにも幾分か窮屈に感じられた。
ビィ
「カレーニャの親父さん、子供がデカくなるの考えて無かったのかなぁ?」
アンナ
「多分、造ってすぐ必要になるって思うくらい、島の人から酷い事を言われてたんだと思う」
「それか……もう、カレーニャが大きくなったらとか考える余裕が無いくらい……限界だったか……」
──思わず言葉に詰まるビィとルリア。
──この中でカレーニャの事情に最も詳しいアンナが言うだけに、大げさな表現とも思えなかった。
──アンナが何気なく低い天井の中央辺りを調べると、可愛らしい意匠が施されたランプが天井に括り付けるように固定されていた。
──解いて吊るした状態にして指先の火を入れると、中の燃料がまだ生きていたようで、一段と強い明かりが室内を照らした。
──天井の各所に吊るされた、星を象った装飾がキラキラと暖色の光を反射している。
──テーブルの上に「カレーニャへ」とだけ書き添えられた封筒が微かに埃を被っている。館長の言葉通りなら、これを置けたのは館長とカレーニャの父・レーヴィンしか居ない。開くべきでは無いだろう。
ルリア
「このお部屋……館長さんのお話の後だと、何だか悲しくなりますね……」
ビィ
「オイラも気が滅入ってくるぜ……早えトコ窓を探そうぜ」
──探索を始める一行。探す箇所は天井しか無いので、窓らしきものはすぐに見つかった。
──はめ込んだ硝子の上に屋根板が覗く。窓は内開き、屋根は外開きになっているようだ。
──早速、団長が腕を伸ばして窓の解錠を試みる。
ビィ
「有ったには有ったけど……これ、ルリアやアンナが登るにはちょっとキツイんじゃねぇかなぁ」
──ビィの懸念通り、問題はその高さだ。当然、窓は天井と同じ高さだ。
──2mも無いとは言え、一行が直立する程度の余裕はある。ここから屋根に出るとなると、懸垂の用量で這い上がるしか無い。華奢なルリア達では引き上げてもらわなければ難しいだろう。
アンナ
「それは……大丈夫だと、思う」
「多分、窓まで上がるための梯子か何かが、部屋のどこかにあるはずだから」
ルリア
「そうですね。この高さだと、ちっちゃい頃のカレーニャちゃんだと窓に手が届かないでしょうし」
ビィ
「なるほどなぁ。でもアンナ、よくそんな事解ったな?」
アンナ
「あ、うん……何だか、きっとそうだって気がして……」
──早速、団長に窓を任せて梯子を探す一行。
──天井にランプがある事も、窓に登る梯子があるという確信も、アンナに確たる根拠は無かった。
──ただ、何故かアンナはこの部屋にデジャヴを感じていた。空へと続くこの行き場のない部屋を、どこかで見たような気がしていた。その記憶が一瞬でかき消えてしまっただけで。
──程なくして、部屋の片隅に階段状の梯子が安置されているのが見つかった。軽い木で出来ており、子供向けの丸っこい作りだが十分な高さと強度が有る。
──ルリア達が車輪付きの梯子を押して戻ると、団長が窓を見上げたまま難しい顔で腕を組んでいる。窓ガラスは開かれているが、屋根板が手付かずだ。
ビィ
「ん? どうしたんだ。何かあったのか?」
主人公(選択)
・「窓が開かない」
・「何か引っ掛かってる」
→「何か引っ掛かってる」
ビィ
「オイオイ何だよぉ。放ったらかしすぎてガタが来ちまったのか?」
アンナ
「……違う。多分、これは──」
──アンナが言い終わらない内に、大きな鈍い音と共に屋根裏部屋が少し揺れた。
ビィ
「うぉおっ!? 何だ何だぁっ!」
──驚いている最中にも、また轟音が屋根裏を震わせる。どうやら下から響いている事は感じ取れた。
──階段が塞がれて以降、8階の喧騒は少しも届いて来なかった。しかしそれ故に、今何が起きているのかを判断する物は、この断続的に繰り返す音と振動以外に無い。
──しかし、アンナはこの状況を理解したらしく、重い表情で一行に語る。
アンナ
「きっと……館長さんが誰かと話しているのを、魔導グラスが聞き取ってたんだと思う……」
「だから、どこに逃げたのか探して、多分、昨日ドリイさんから聞いた屋根裏部屋の話を思い出して……」
ビィ
「グラスが壁に体当たりしてる音って事かよ!」
ルリア
「じゃあ、館長さんも、もう……」
ビィ
「もしかして、下手すりゃ柱もブッ壊されて、無理矢理ここまで登ってくるんじゃあ……」
──焦る一行。団長が武器を手に、屋根板を叩き壊しにかかる。
──幸いにも屋根板は簡単に砕け空が覗く。陽の光にはまだ大分遠いが、深い青紫に星が点々と光っている。
──しかし一行と空との間に硬く透明な物体が横たわっていた。嫌というほど見慣れた光沢。透き通った内部では時折、虹色の靄のような光が揺蕩って見える。
ビィ
「魔導グラスで塞がってやがったのか!」
アンナ
「やっぱり……。カレーニャが屋根から図書館を覆ったとしたら、多分、屋根一面がこんな感じに……」
「(カレーニャ……この部屋と空……塞いじゃったんだ……)」
──それがどうしたと言うのか、アンナ自身にも解らない。
──ただ何故か、その事が胸に突き刺さる程に悲しくて堪らなかった。
──しかしすぐに頭を切り替えた。感傷に浸っている場合ではない。グラスが相手なら、自分がやらねばならない。
アンナ
「み、皆……梯子を下げて、離れて。ボクが何とかする……!」
ビィ
「頼みたいのは山々だけどよぉ……こんな狭い穴からグラスだけ溶かすって、結構難しくねぇか?」
「疑ってるワケじゃねぇけど、この部屋に引火したらシャレにならねぇし……このくらいの厚さなら
アンナ
「ううん。図書館を覆ってる魔導グラスだけ、街に始めから有ったグラスと全然違う」
「多分、他のグラスよりずっと丈夫だから……お願い。ボ、ボクにやらせて……!」
カシマール
「マーミテナッテ!」
──アンナの熱意に押され、託す事にした一行。
──窓を塞ぐグラスをキッと見上げて炎を練るアンナ。
アンナ
「──やあっ!」
──威勢のいい掛け声とは裏腹に、鉛筆程の直径の細い火柱が立ち上る。瞬きする間もなく、肩幅1つ程から覗くグラスに炎が突き立った。
──見た目は弱々しいが、火柱の温度は十分なようで、炎としては見慣れぬ程に白熱している。火柱はグラスを掘り進みながら周囲を溶かし、見る見るクレーターを形成した。
──だが、グラスが僅かに波打って見えたかと思うと、自らが溶けるより更に速く再生を始め、グラス越しの景色がレンズを通すように歪む。グラス自体が不規則に厚みを増しているのだ。
ビィ
「どうなってんだよ。入り口のグラスはあっさり溶けたのに……」
──こうして魔導グラスと対面した以上、カレーニャもグラスを通してこちらに気付いているのだろう。
──アンナの見立てた所の「全然違う」グラスは本腰を据えて炎に抗い、完全にアンナの熱量に打ち勝っていた。
──何度目かの振動に伴って、固い物がガラガラと崩れる音がした。本当に力ずくで屋根裏への出入り口を掘り当ててしまいかねない。
アンナ
「(落ち着け──この先に行きたいのは、グラスから逃げたいからじゃない。カレーニャをやっつけるためでもない……)」
──首筋に通していた細い紐を手繰るアンナ。
──植物を1から、干して解して撚り上げた自作の首紐。まだまだお婆さまほど上手くは出来ず、所々でほつれた線維が毛羽立っている。
──紐の先のお守りを取り出し握り締め、何もかもを押さえつけんとするグラスの向こう、その先に居る人に届くと信じて、屈折した星空を見上げる。
アンナ
「カレーニャ…………ううん。何て言ったら良いか、言葉にならないや──」
「でもね……」
「絶対、そこに行くから……待ってて!!」
──アンナの声に呼応するように、お守りを握る手と、火柱が溢れんばかりに光った。
──傍らで見ていた団長達には、何が起きたか解らなかった。
──虹色の光が目に押し寄せ痛みを呼び、思わず塞いだ瞼を再び開いた時には、窓を覆っていたグラスだけが消え去っていた。
──否、もう一つ変化がある。窓の外から室内へ、虹色の光が仄かに注いでいる。
──呆気にとられる一行にアンナが呼びかける。
アンナ
「皆、早く梯子を! グラスがいつ再生するか、解らないから……!」
──我に帰った一行は大急ぎで梯子を窓に立て掛けた。
──見るからに真っ先に登りたそうなアンナだったが、押し込むように一行が登るのを優先させる。
──窓のグラスが再生するにせよ、階下のグラスが這い上がってくるにせよ、最も迅速に対処できる自分が
──団長が先陣を切り、続くルリアとビィを引き上げたのを確認して、アンナが梯子に足をかけた。ただの穴と化した窓の向こうから団長の手が差し伸べられている。
カシマール
「チャントミエテルカ?」
アンナ
「うん。今度は、ボクから──」
──淀み無く足元を踏みしめ、空に続く腕を強く握り締めた。