グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ)   作:水郷アコホ

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47「図書館頂上」

 ──団長の手を取りながら図書館の頂上に辿り着いたアンナ。

 ──ルリアとビィが唖然としながら辺りの景色を眺めている。遅れて確認する団長も、その景色を造りあげたアンナ自身も、思わず言葉を奪われた。

 

 

 

ビィ

「スゲェ……あ、、あれも、グラスなのか?」

 

ルリア

「でも、あの辺のグラス、どんどん溶けていってます。やっぱり、アンナちゃんの……?」

 

 

 

 ──アンナの名を口にしながら、ルリアは視線をアンナに向けられずに居た。もとい、眼前から目を離せずに居た。

 ──天井を覆うグラスを溶かした後、窓から注ぎ込んできた光。その正体は今、一行の周囲を照らし、各々の目を釘付けにしていた。

 ──図書館の屋根は水はけのための僅かな傾斜以外にほぼ平面。その全景を見渡せる屋根を囲むように、虹色の炎の壁が立ち昇っている。さながら地上のオーロラだった。

 ──屋根一面を覆っていたであろうグラスは殆ど消え去り、飛沫のように残ったグラスが、赤熱する間も無く見る見る光の砂塵に溶けていく。

 ──虹色の炎は屋根と呼べる一面からグラスのみを焼き払い、今は壁を覆うグラスとせめぎ合っていた。グラスは再生する側から溶けていく。アンナの手から離れたにも関わらず、その勢いはグラスとほぼ互角だった。

 

 

 

アンナ

「ボ、ボクも、ここまで凄い事になっちゃうなんて……」

「ハッ! そ、それより、カレーニャは……?」

 

 

 

 ──アンナの言葉に改めて周囲を確認する一行だが、自分たち以外に人影1つ見当たらない。

 

 

 

ビィ

「もしかして、こっから落っこっちまったとか……でなきゃ、アンナの火を被っちまって……」

 

アンナ

「そ……そんな……」

 

カシマール

「ンナワケネーダロ! アレミヤガレ!」

 

 

 

 ──カシマールが指図したのは遥か上空。

 ──見覚えのある真ん丸いグラスがゆっくりと屋根へと降下してくる。

 

 

 

アンナ

「あのグラス……魔導グラスと、よく解らないモノが混じってる……アレだよ!」」

「……カレーニャ!」

 

 

 

 ──身構える一行に反し、グラス球はスピードを変える事も無く悠々と高度を落とし、屋根から上、数十cmの空間で停止した。

 ──しばらく様子を窺うように動きを見せなかったグラス球だったが、前触れもなくその輪郭が水銀のようにうねり、表面からニュッと気品ある袖口と共に腕が突き出す。

 ──間もなくグラスの中から、窓から屋内に入るような動作でカレーニャが現れ、屋根に着地した。グラスチェアーは付属せず、自分の足で降り立った。

 

 

 

 

カレーニャ

「うー、どっこいせっと……」

「アンナさんたら、見かけによらずこんな隠し玉忍ばせてたなんて──」

 

 

 

 ──驚く一行に目もくれず、自慢のグラスを一掃した炎を見回している。表情に嫌味の類は微塵もなく、純粋に興味と感心が先行しているようだ。

 

 

 

ルリア

「カ……カレーニャちゃん!」

 

カレーニャ

「む゛っ……まだ”ちゃん”……

「ハァ……。あぁら、皆さんご機嫌麗しゅー」

 

 

 

 ──ルリアの呼びかけに一瞬、呆れたようなむず痒いような顔をするも、すぐに気を取り直すカレーニャ。

 ──適当な挨拶を返しながら、一行の頭数と欠員の有無を確かめる。

 ──人は複数の対象の中から、特に気になった物にはほんの一瞬でも注目する時間が長くなる。しかしカレーニャの視線は誰に対しても……アンナにもルリアにも平等に流された。カタリナの不在を気にかける様子もない。

 

 

 

カレーニャ

「本当にこんな所まで来るなんて、ご足労痛み入りますわ。まさかホントのホントに屋根裏部屋が有ったとは……一本取られましたわねぇ」

 

ルリア

「屋根裏部屋……カレーニャちゃん、その屋根裏部屋なんですが──」

 

カレーニャ

「ちょぉい待ち!」

 

 

 

 ──ビシリと手の平を突き付け、ルリアの言葉を遮るカレーニャ。

 

 

 

カレーニャ

「なーんか真面目なお話をしたいのでしょうけれど、何より先に言わせてくださる?」

 

ルリア

「へ……? あ、は、はい……」

 

 

 

 ──ルリアが発言権を譲ると、大仰な深呼吸を始めるカレーニャ。吸う時は勢いよく。吐く時は長く、低く、眉間にシワを寄せてかぶりを振りながら。

 

 

 

カレーニャ

「スーーッ……ハァ~~~~……」

「……あーた(がた)ねえ……」

 

ルリア

「は、はい……?」

 

カレーニャ

本を何だと思ってやがりますのよこのスットコドッコイ!!

 

ルリア

「はわっ! す、すっとこ……?」

 

カレーニャ

「7階ですわよ、7階ッ!」

 

 

 

 ──ズビシ、と一行の誰とも無く指差し激昂するカレーニャ。

 ──ルリアの締りのない返答に足元をタンタン踏みつけながら抗議を続ける。

 ──カレーニャは一行に、7階に収められている書物の価値を説き、それを他の階より一際ぞんざいに扱った彼らの行い、そしてその後始末に追われた苦労に、一方的に怒りを顕にしている。

 

 

 

カレーニャ

「アンナさんも!」

 

アンナ

「ボボ、ボクも……?」

 

カレーニャ

「忘れたたぁ言わせねぃですわよ! あなただけは信じてましたのに手につく端からポンポコポイポイ……!」

 

アンナ

「ご、ごめん……」

 

主人公(選択)

・「正直、ちょっと楽しくなってた」

・「カレーニャが追い回すのが悪い」

 

→「カレーニャが追い回すのが悪い」

 

ビィ

「そうだそうだ! グラス達が全然止まらねえから、オイラ達だって必死だったんだぞ!」

 

カシマール

「ジゴージトクダ!」

 

カレーニャ

「せがらしっ! それであーたらが貴重な資料を毀損して良い理由になってたまるもんですか!」

「本と人っ子何人かくらいの命とどっちが大切だと思ってますのよオタンコナス!」

 

ビィ

「いやそこは普通、命だろ……」

 

カレーニャ

「フツー本でしょ! 1人助けるためなら図書館に火ぃ放てるとでも仰れますの?」

「それともあーたらアレ? 命が秤に乗っかるたんびに思考停止で命だけ選べば良いとか思ってませんこと? 代わりに何が犠牲になっても『イノチイノチー』とかナントカ言っときゃおキレイにまとまるとでも?」

 

カシマール

「ダレモソコマデイッテネー!」

 

 

 

 ──主にビィとカシマールに対して舌戦を繰り広げるカレーニャ。内容は回りくどいが、本質はほぼ子供の口喧嘩である。

 ──文句を一通り並べ立て満足したのか、カレーニャが大人しくなった頃には、一行はここに来るまでの苦労や犠牲で張り詰めていた空気をどこかへ見失ってしまっていた。

 

 

 

ビィ

「ハァ……ハァ……何だよもぉ~。これじゃ昨日までのカレーニャと全然変わんないじゃねえか……」

 

カレーニャ

「何を当ったり前の事言ってますのよ。人が一日ぽっちでホイホイ変わるなんて英雄譚や訓話の中だけでしてよ」

 

ルリア

「だ、だってカレーニャちゃん……手が元通りになったり、魔導グラスさんの中に潜ったり……それに、こんな事……」

 

 

 

──口ごもりながらルリアが視線を泳がせた先では、虹色の炎の向こうに明かり1つ無い街並みが、明けかけの夜空の中でぼんやり浮き上がっていた。

 ──発着場の方に見える微かな明かりは、恐らくグランサイファーの物だろう。その発着場も、たった一日で何倍にも広くなったように見える。殆どの騎空艇が逃げ去った後なのだ。

 

 

 

カレーニャ

「こんなって……島のこと? これがどうかしまして?」

 

 

 

 ──カレーニャの口調は煽るような調子を全く含まず、純粋に何を言ってるのか解らないと言いたげだった。

 ──愕然としながらもすぐさま反駁する一行。

 

 

 

ビィ

「どうも何も見りゃ解るだろうが! これ本当にお前が全部やったってのか!?」

 

カレーニャ

「街でのやり取り見てたらお解りでしょうが。島の皆々様のお望み通り、私が一肌脱いで差し上げましたのよ」

「それに私が島の悪魔になって差し上げた事と、私が『いつも通り』とやらなのと、どういう関係が有るってんですの?」

 

ルリア

「どういうって……」

 

ビィ

「お前こそ、何言ってんだよ……」

 

カレーニャ

「え……ハァ???」

「ってか……何ですのよこの空気さっきから?」

 

 

 

 ──れっきとした疑問と不満がありながら、言葉の続かないルリアとビィ。憐れむような非難するような、何とも言えぬ視線を投げかけるしか出来ないでいる。

 ──カレーニャも、本気でルリア達の言いたい事が解っていない。

 ──例えば、これ程の凶行に出た今の彼女は、さながら冒険譚の魔王が真の姿を現すが如く、ルリア達の知らぬ凶悪な本性を見せつける。昨日までのカレーニャはルリア達を油断させる演技だった。

 ──そんな顛末を、ルリア達は無意識に期待していたのかもしれない。それは彼らにとって、悪事を働く者に対する自明の定理ですらあったかもしれない。誰かと……自分たちと打ち解けられた人間が、同じ顔で見も知らぬ人々に牙を剥くなど思いも寄らずにいた。

 ──2人には自分たちがそんな大前提の上で思考していたと言う自覚はない。故に、前提と食い違う実例が目の前に現れても、自分たちの認識とどこに齟齬があるのか、自分で把握する事も出来ていない。

 ──ただ「こんなのは間違っている」と言う感情以外に引き出せないでいた。

 

 

 

カレーニャ

「ぁ~~もう。とにかく……ナニ? 私が下手人だって事が、どうしてかあなた方には信じられない……っぽい? みたいですわね」

「だったらまあ、丁度良いですわ。ちょっと実演したげますから、良うご覧になってくださあましな」

 

アンナ

「実演……まさか……!」

「カレーニャ、待っ──」

 

 

 

 ──「しょうがないなぁ」と言った様子のカレーニャにアンナが一歩駆け寄ろうとした時には全てが終わっていた。

 ──カレーニャが指を2本揃え、クンッと引き上げるような動作をする。爆発に似た鈍い音と共に、ほぼ同時に、背後の景色で文字通りの氷山のような、高く巨大なグラスの塊がそびえ立った。

 ──周辺の家屋のみならず、石畳やその下の土まで宙に巻き上げ、グラスが地中から隆起した事をまざまざと誇示していた。

 ──それが何なのかをいち早く理解したアンナの顔が失意に染まる。

 

 

 

アンナ

「あ……あぁ……」

 

ビィ

「な……何だアレ?」

 

アンナ

「……魔導グラス…………」

「あの辺り……ボク達が、服屋さん達を送った……隠れ家が……」

 

ルリア

「隠れ家のある所に魔導グラス……じゃ、じゃあ──!」

 

 

 

 ──会話を許さぬかのように、相次いで同様の轟音が方方(ほうぼう)から押し寄せる。

 ──見回せば島のあちこちに同様のグラスの山が出来上がっていた。

 

 

 

カレーニャ

「はい。これで島の住民、残らず収容完了ですわ」

 

 

 

 ──得意な勉強や仕事を、ちょっと目の前でスラスラこなして見せたかのような。そんなちょっと得意そうで、しかし事も無げなカレーニャ。

 

 

 

カレーニャ

「ふっふーん。『グラスさえ使わなきゃ大丈夫ー』ってな考えだったんでしょうねぇ。本当に夢見がちな方々ですこと」

「ご自分たちが毎日恩恵に預かってるプラトニアの上下水道──」

「水を届けるために不純物も交えず、丈夫で長持ち、開拓される街並みに柔軟に対応できる。そぉんな便利な水道管がどうやって地中に据えられてるのか……」

「ちょ~っと考えれば解る事ですのにねぇ? んのっほっほっほっほ──」

 

 

 

 ──隠れ家の存在は、プラトニア地下に張り巡らされたインフラ設備で初めからお見通しだったのだ。

 ──団長達の活躍は、むしろ最後の一網打尽の一助となっていたも同然だった。

 ──如何にもお嬢様チックな高笑いをわざとらしく奏でるカレーニャ。

 ──その姿はルリア達の目に、やはり昨日までと変わらずに映った。やはり得意分野を見せつけて舞い上がっている。そんな笑い話の一幕のような振る舞いだった。

 

 

 

ビィ

「何で……何でだよ……」

「何でお前は、こんな当たり前みたいにヒデェ事が出来るんだよ!」

 

 

 

 ──ようやく思いの丈を言葉に置き換えられたビィ。

 ──だがカレーニャは何やら腑に落ちないような顔を返す。

 

 

 

カレーニャ

「何でって……あなたこそ何でそんな事が気になりますのよ?」

「物理的に出来る事をやってる。それっぽっちにケチ付ける方こそ不可解でござあませんこと? 生まれてこの方ただの一度も人を不快にさえした事ないと立証できるとでも?」

「せっかく犯行を実証して差し上げたってのに、それをさっきっから”こんな事”だの”ヒデェ事”だの……」

「今日もどこかで誰かがやってるような事に何を大騒ぎしてるのか、そっちの方がよっぽど疑問でなりませんわ」

 

ルリア

「そんな……」

 

 

 

 ──カレーニャと自分達との価値観の隔たりに、先程とは別の形で言葉が続かなくなる一行。

 ──例えばカレーニャの言葉の理由が、その本性が目的のためなら手段を選ばぬ形態の悪だからと仮定しても、結局そんなやつなのだと呑み込めたとしても、それでも彼らがこれまでカレーニャと言う人間に下してきた、純粋すぎる評価とのギャップが理解を阻む。

 

 

 

アンナ

「じゃあ……カレーニャがやった事は、もう聞かない」

 

 

 

 ──相変わらず首を傾げるばかりだったカレーニャに、アンナが新たに問いかける。

 

 

 

アンナ

「でも、カレーニャの事と……『やりたい事』は、聞かせて……」

「ドリイさんが言ってたの。グラスに取り込まれたカレーニャは……も、『もう死んだ』って……」

「今、ここに居るカレーニャは、本当にカレーニャなの?」

「本当にカレーニャなら、グラスの体を手に入れて、やりたかった事がこれなの?」

「カレーニャはこの後……この島を、どうしたいの?」

 

 

 

 ──カレーニャの目を見据えて語るアンナ。

 ──諸々の感情が入り混じったりそれを抑え込んだりで弱々しい瞳だったが、決して視線は外さなかった。

 

 

 

カレーニャ

「畳み掛けますのねえ」

「……ま、良いでしょう。やる事ぁ殆ど済ませましたし、皆さんも何だかんだここまでご足労なすったんですし、労い代わりって事で順に話してあげましょうか」

 

 

 

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