グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ) 作:水郷アコホ
──カレーニャの突然の提案に、口々に驚きの声を上げる一行。
──ざわめきを制して、カレーニャが続ける。
カレーニャ
「さっきの『許せないのか』って、アンナさんなりの折衷案だと思ったんですけど、違いまして?」
アンナ
「え……う、うん。もう一度、島の人達と話し合って……」
カレーニャ
「それじゃあ話が早いですわ。じゃあこうしましょう」
「私はプラトニアがオブロンスカヤに行ってきた仕打ちを水に流す。条件として、あなた方は平和的にこの島を出ていく。それで如何かしら?」
「こっちとしましても、厄介の種は少しでも穏便に片付けておきたい所ですもの」
ビィ
「お、おいおい……さっきまでの話は何だったんだよ……」
ルリア
「でも、誰も傷付く事が無いなら、それに越した事は……」
カレーニャ
「はいはい。もちろんあなた方もお仲間もお船も、これ以上手出ししないと約束しますから」
アンナ
「あ、あれ……あれぇ……?」
──何だかトントン拍子に話が進み出し、完全に調子が狂う一行。
──だが「平和的」「穏便」という言葉につい流されてしまう。
主人公(選択)
・「カレーニャも一緒に行こう」
・「島の皆はどうなるの?」
→「島の皆はどうなるの?」
カレーニャ
「そりゃあもちろん皆殺しですわ」
──5秒、6秒と空気が硬直する。
──朗らかな笑顔で答えていたカレーニャは、キョトンとした顔で一行の顔を見比べている。
──皆、複数の感情が押し寄せ相殺した結果のような、理解の一歩目から脳が停止したような、力の抜けた何とも言えない顔でカレーニャを見ている。
──団長だけが、声を上げた時と変わらず、魔物を見るような険しい表情だった。
カレーニャ
「……な、何ですのよ。またこの空気? 私なにか変な事言いまして……?」
ビィ
「……い、いやいやいやいや、変しか無ぇだろ!?」
ルリア
「何でですかカレーニャちゃん!? さっき、島の人達の事は許してくれるって……!」
カシマール
「ドコマデバカニスリャキガスムンダテメーハ!!」
カレーニャ
「え、ハ……えぇぇ……?」
──カレーニャは本気で解っていない。むしろ詰め寄る一行の変貌ぶりに混乱しかけている。
主人公(選択)
・「許す事は、殺さない事にはならないの?」
・「グラスに取り込んだままと違いはあるの?」
→「許す事は、殺さない事にはならないの?」
カレーニャ
「なるわけないでしょ。元々は事のついでってさっき説明したじゃござあませんの!」
「この計画を果たすためには、どのみち島から私以外の生き物を排除せにゃなりませんの」
「島がやって来た事チャラにするって事は、それを口実に虐めてあげようって計画は破棄して、取り込んだ人間今から吐き出して空の底にでも──」
ビィ
「いやワケ解かんねぇよ!」
ルリア
「せ、せめて、島の人達を艇に乗せてあげるとかは出来ないんですか?」
カレーニャ
「出来るもんならどーぞ。ですけど、島の総人口100万200万じゃ納まりませんことよ。どうやって何に乗せるおつもり?」
「それにそんなんじゃ”中途半端”じゃござあませんの。正直言えばちょっと承服し難いですわ」
ルリア
「はうぅ……」
アンナ
「中途半端って……?」
カレーニャ
「さっき言った通りですわよ。お望み通りに、ただの人の子でしかない私がプラトニアの悪魔になるのが慈悲。これから掃いて捨てる有象無象への
「過程はどうあれ、この島と住民が無ければ私の打ち立てたアレやコレやも無かったでしょうから。贈り物と同じだけの物をお返しする、当然のマナーでしてよ」
「それを、取引に応じて五体満足のままで生かすだなんて、生き残った方々からすれば私は遥か彼方のボヤケた悪役止まりのまま、それも住処を追われた難民として勝手にのたうち回るしか出来ない。誰も得しませんわ」
ビィ
「んっとぉ……お前が悪者になれないからヤダとか、人の嫌がる事がマナーだとかって言いてえのか……?」
「ツッコミ所ありすぎだろ……」
カレーニャ
「どーしてそーなるの!」
「島の人間の願いがそうだから、それに応えて解りやすい悪役やってさしゃーげる方が、プラトニアにとっても少しは『足し』になるって、6階とかであーた方も身を以て解ってるはずじゃござあませんの!?」
──先程までカレーニャに感じていた憐憫が、じわじわと困惑と恐怖に染まっていく。
──カレーニャの口ぶりもまた、カレーニャにとっての当然の常識が伝わらない困惑と苛立ちが溢れている。
──話せば話すほどにカレーニャの歪みは深刻で、根本的なズレを思い知らされるばかりだった。
──もはや若い彼らには……あるいは老練の仲間がこの場に居たとて、彼女に寄り添うのは困難だ。
主人公(選択)
・「どうしても、島の皆を無事に帰す事は出来ないの?」
・「島の皆を無事に帰す方法があるって事?」
→「島の皆を無事に帰す方法があるって事?」
ビィ
「いや
アンナ
「あ……で、でもさっきから、『吐き出して』とか『五体満足で』とかって……!」
──頷く団長。押し問答で頭に血が上ったカレーニャを宥めて確認を取る。
カレーニャ
「あぁ? つまり、元に戻すって……?」
「そりゃあ出来ますわよ。取り込む手順も大体私と同じですから、取り出す時も私と同じように。混じりっけなしの生身なら私より簡単ですわ。それが何か?」
主人公(選択)
・「それが解れば充分」
・「アンナ、ごめん」
→「アンナ、ごめん」
アンナ
「団長さん……!?」
──カレーニャの眼前で武器を構える団長。
──これ以上は話しても溝が開くばかりだ。ゆっくり歩み寄っている余裕も無い。ここまで来て後戻りも出来ない。
──この戦いにどれほどの問題が横たわっていたとしても、どんなに考え決断したとしても、今の彼らにはまだ、カレーニャを力ずくで止める以外の手持ちが無いのだ。
──団長の意図を察し、ルリアとビィがその背後へ下がり、カレーニャは冷めた素振りで溜息を吐く。
カレーニャ
「ったく……どーせこうするしか無いだろうと思って、わざわざこっちから話し合いに持ち込んで差し上げましたのに」
「ま、この調子じゃあ、絵に描いたようなお花畑な平和的解決なんて有り得ませんものね。あなた方がどんだけアーパーに生きてきたのか存じませんが……」
──カレーニャの傍らでは、すっかり一行の意識から外れていたグラス球が漂っている。
──その中で、虹色の光のような、うねりのような色彩が一際忙しく蠢いている。
ルリア
「カレーニャちゃん……もう一度、お願いします。こんな事、もうやめてください」
カレーニャ
「あなた方のために止める理由がどっかにござあますの?」
「それとも、誰かの願いが何かを犠牲にするのは駄目だけど、あなた方のハッピーエンドのために誰それの夢や立場を潰すのは良いんだとでも?」
──悠々と背を向けて、歩いて屋根の端まで遠ざかるカレーニャ。
──団長は既に一触即発の心構えだったが、ルリア達を庇うようにその場を動かずカレーニャの動きを注視する。
──戦う意思を見せた団長達に、カレーニャは一歩も狼狽えない。一対多数の状況を物ともしない自信と、その根拠……武力がある事の証左だ。
──カレーニャの向こうで弾けるような音がした。魔導グラスが何か動きを見せたようだが、団長達からはカレーニャが陰になって伺い知れない。
──グラス球の姿が見えない。つまり、グラス球はカレーニャの陰に入っている。そしてこの音……既に何かを仕掛けていると見て良い。
アンナ
「カレーニャ!」
──呼ばれて振り返るカレーニャ。
──その姿がアンナの目に、昇降機の中から手を差し伸べて来た時の姿と重なる。
──光の量も向きも、カレーニャとの距離も立ち位置も姿勢も、何もかも違うのに、在り在りと。
──ただ、アンナへ忌憚なく伸ばしたあの手だけ、ぼやけて所在が知れない。
カレーニャ
「
アンナ
「最後……最後の質問、まだ聞いてない……」
「カレーニャは……この島を、どうしたいの……」
「ボク達がここに居なかったら、カレーニャはこの後、何をしてたの……?」
カレーニャ
「ああ。すっかり忘れてましたわ」
──出かける前にボタンの掛け違いに気付いたような軽い調子でアンナに向き直るカレーニャ。
──その背後から、氷山が割れるような音が絶え間なく。
カレーニャ
「お祖母様がね、最期に仰ってたの」
「『こんな事、いつでも放り出して良いんだ』って」
「お父様もよ。『どんなに辛くても、魔導グラスを憎んじゃいけない』って」
──思い出を振り返りながら語る音1つごとに、その声は優しく、その顔は輝きを湛えた、年相応の少女のそれだった。
──距離を開けたアンナへ呼びかける大きな声は、こんな状況で無かったら、遠くへ旅立つ友の乗る艇へ呼びかけるような、そんな風景が似合いの抑揚だった。
──謎の音が一際大きく空を裂くと、カレーニャの背後で華のように魔導グラスが広がった。
──団長が防御の構えを取り、背後のルリアとビィが身を寄せ合う。アンナだけはグラスに目もくれず、カレーニャだけを見据えている。
カレーニャ
「ずっと考えてましたの。お祖母様が、お父様が託した言葉の意味を」
「オブロンスカヤの最後の独りとして、私に何が出来るかを」
──グラスの華は花弁の先をくっつけ合うように折り畳まれ、ホオズキのような立体を形成する。
──その大きさは目測で、縦の長さがドラフ男性2人強ほどだろうか。
カレーニャ
「放り出すんですのよ。お祖母様の恩恵に預かりながら、意地でも認めようとしなかった、この島の全部。守って貢献するなんて信頼在りきの志も」
「魔導グラスは、お父様を苦しめてなんか居ない。お父様を苦しめた全てに立ち向かう力を授けてくれる希望なの」
「だから──」
──グラスの花弁は、その内側の空間からグラスを生み出し、隙間を埋め立て、1つの巨大な球体となった。
──グラスは更にその輪郭を磨きあげるように変形しながら、衛星のような小型のグラス球を周囲の中空から生み出す。
カレーニャ
「だから、
「この島の全てをグラスに溶かして、グラスの島を造るのよ」
「魔導グラスは私のトモダチ。空の一番低い所に島を移して、誰にも邪魔されず、愛に包まれて静かに過ごすの」
──グラスが変形を終えた。小さな宮殿のような、巨大な玉座のような姿だった。
──幾つかの柱状の突起が極彩色にその色を変え、その表面に、流れる水の紋の如く光を泳がせた。
──人の目に最低限の視界を得られても、雲海の果てに未だ白も見えない時間帯。その光は殊更に艶かしく、美しかった。
カレーニャ
「それが私の夢。愛する人達の夢のために生きてきた──」
「だから私……今、最高に幸せよ」
主人公(選択)
・戦う
・守る
→ 守る
──グラス柱が一際輝くのと同時、団長が背後の仲間を抱えて飛び退いた。
──ルリア達の安全を確認して振り向くと、炎、氷、岩、風の柱、そして得体の知れない眩い柱と黒いガスのような柱。
──6つの柱が、先程まで団長が立っていた地点を取り囲むように天へと突き上がり、間もなく消えた。
──6柱の建った箇所を覆うグラスには、それぞれの影響を思わせる傷跡が残っていたが、見る間に再生しキレイに消え去った。
──団長がその場を一歩でも動かなければ、傷一つ受ける事無く、中からあの柱達を見届けていただろう。中途半端な行動であったら……考えるまでも無い。
──豪奢な威嚇射撃と共に火蓋は切られ、ルリア達の無事を確かめた団長がカレーニャの懐へ飛び込んだ。