グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ)   作:水郷アコホ

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50「VS異界の座」

 ──カレーニャからの先手を許した団長達。

 ──団長が切り込み、アンナが慌てて魔法を準備する。

 

 

 

カシマール

「ボサットスンナヨ!」

 

アンナ

「う、うん!」

「カレーニャ……ごめん……!」

 

 

 

 ──団長を援護するため、流れ弾の被害を避け、火力を可能な限り抑えた火球の散弾を牽制に放つアンナ。

 ──しかし巨大なグラスから伸びる柱が、夏の空のように輝くと、屋根を覆う足元のグラスから、突如として青々とした液体が間欠泉のように噴き放たれ、火球を掻き消す。

 

 

 

アンナ

「あれは、水……じゃない。魔導グラス……!?」

 

 

 

 ──アンナの目が識別した結果では、液体は確かに魔導グラスだった。よもやソーダグラス等と寒い冗談でもあるまい。

 ──どうあれ魔力の炎に弱いはずのグラスが、正に水そのもののように火球を難なく消し去ってしまった。

 ──牽制が全く役目を果たさぬままに潰されてしまった。

 ──そしてカレーニャは駆け寄る団長をニヤニヤと待ち構えている。夢を語った先程の面影が欠片もない、ただの見慣れたカレーニャだ。

 

 

 

カレーニャ

「大体……このへん!」

 

 

 

 ──仰々しくカレーニャが腕を振ると、背後の巨大グラスの一部が水面のように小さく波打ち、その内部から何かが高速で撃ち出された。

 ──咄嗟に防御した団長だったが、錐揉み回転で迫る飛翔体は砲弾のように重く、団長は着弾の慣性に負けて吹っ飛ばされた。

 ──団長はそのままルリア達の脇を抜け、硬く角ばったグラスの上で2、3度跳ね返り、屋根の縁へと勢いよく滑っていく。

 

 

 

ビィ

「オ、オイッ!?」

 

ルリア

「ダメッ、止まってぇっ!」

 

 

 

 ──ルリア達が事態を把握し振り返った時には、団長は半身を屋根から宙に投げ出していた。

 ──無駄と解っていながらも一行が駆け寄ろうとしたその時、団長が(すんで)の所で、屋根と壁の境に出来た僅かな凹凸に指を引っ掛け、落下を免れた。

 ──場数で鍛え抜かれた腕力で復帰した団長に胸を撫で下ろす仲間たち。多少の打ち身と、服が一部裂けた以外に目立ったダメージも無い。

 ──団長の見据える先では、先程飛び出した飛翔体の正体……魔導グラスチェアーと、それを手元に引き寄せゆったり腰掛けるカレーニャの姿があった。

 

 

 

カレーニャ

「スプラッタは好みじゃござあませんけど──本気で(ワタクシ)を止めるつもりなら、こちらも貴族の娘として誠意ある態度で臨ませていただきますわ」

「まあ、逃げるなら止めやしませんわよ? 人殺しが好きな人間なんてそうは居りませんもの」

 

 

 

 ──クスクスと笑いながら、カレーニャを乗せた椅子が宙に浮かび、巨大グラスの一部にガチリと収まった。

 ──巨大グラスは椅子同様、滑るように宙を移動し、団長達の方へと迫ってくる。鉱物質の塊が威風堂々と浮遊する様は、さながら難攻不落の要塞を思わせた。

 ──態勢を立て直した団長だが警戒心が勝り、案じるルリアたちを庇う姿勢のまま踏み込めないでいる。

 ──幾多も相まみえて来た星晶獣の類に比べれば随分と小柄だが、人の身にその質量は充分に圧倒的だった。何より、戦っている場所が余りに不利だ。

 ──先程のような一撃を二度も三度ももらうようでは、ルリアの星晶獣に頼らねば転落は免れない。

 

 

 

カレーニャ

「折角ですから、とくと自慢してさしゃーげましょうか♪」

「これがあなた方にさんざ見せつけたげたグラス球の最終形態──名付けて『異界の座』ですわ」

「魔導グラスの中に魔力をた~っぷり閉じ込めて捏ね繰り回してやると、不思議な世界と繋がってしまうんですのよ」

「そこは空も地平も無い、そんなものさえ作らないままの、使い道の決まって無い膨大なエネルギーだけが存在する世界──」

「『異界の座』はそこからエネルギーを汲み上げて、私の──そう、全組織で以て”登録”し、座と同化したこの私の思い通り、エネルギーに形を与えてくださあますの」

 

ビィ

「エネルギーを汲み上げてって事は……他の魔導グラスみてえに魔力切れもしないって事か!?」

 

カレーニャ

「ん~惜っしい。向こうの世界のエネルギー使い果たせば流石に停まりますわよ。世界1つ使い潰す程のエネルギーを私に絞り出させればあなた方の勝ち♪」

 

ビィ

「そんなの底なしと同じじゃねぇか!」

 

カレーニャ

「さあどうかしら。本当に星晶獣を従えられるなら、もしかしたらって事もござあますでしょう?」

 

 

 

 ──カレーニャの愉悦に満ちた視線がルリアを捉えた。

 ──ルリアが覚悟の瞳で睨み返す。やろうと思えば、カレーニャが自分達を屋根から払い落とす事など造作もない。そのくらいの事はルリアでも解る。

 ──この状況はカレーニャに弄ばれているか、さもなくばカレーニャが殺人を躊躇い、その温情に与っているかでしかないのだ。

 ──心を研ぎ澄ませ、己の中で応える声を探し始めたルリアを、団長がそっと手で制した。

 

 

 

主人公(選択)

・「挑発に乗っちゃいけない」

・「まだ慌てるような時間じゃない」

 

→「挑発に乗っちゃいけない」

 

ルリア

「あ……は、ハイ!」

 

 

 

 ──返事を受けて、団長が再び異界の座へと駆け出す。

 ──呼ばせようとしている内は、カレーニャも封殺する備えがあると言う事。見守る事にだって勇気と覚悟が要るのだ。

 ──団長の言葉に落ち着きを取り戻したルリアは、余計な被弾で足手まといにならぬよう、ビィを抱えてその場に屈み、真っ直ぐにカレーニャと、その周りとを注視し始めた。

 ──いつ本当にいよいよとなっても応じられるよう、星晶獣を呼び出す用意も忘れない。

 

 

 

カレーニャ

「あらまあ。せっかく夕食会の約束、果たしてあげようと思いましたのに……」

 

 

 

 ──大して気にしていない素振りで、わざとらしく口だけは尖らせて見せながら、座の上からカレーニャがピッと団長を指差す。

 ──すかさず武器を構える団長。直後に座の柱から放たれた光線が、吸い寄せられるように団長の武器に弾かれた。

 

 

 

カレーニャ

「あら……まさか、見えてますの?」

 

 

 

 ──またも直撃と確信していたカレーニャが、少し慌てて追撃を放つ。

 ──立て続けに極彩色の柱から熱湯やら突風やらが襲いかかるが、全て紙一重で交わして距離を詰めていく団長。

 ──攻撃が見えている訳ではない。だが、修羅場をくぐり抜けてきた勘が、無意識に柱との距離と予測される軌道とを読み取り、被害を最小限に抑えているのだ。

 

 

 

カレーニャ

「だったら……!」

 

 

 

 ──カレーニャが手をかざすと、座を衛星のように取り囲むグラス球の内、6つが座を離れる。

 ──周囲に広がったグラス球はそれぞれの属性を思わせる色鮮やかな光線を放ち、球同士を互いに光線で結び合う。

 ──そして六芒星を更に綿密に線で埋め尽くしたような図形を描き、面積を駆使して団長へと飛びかかった。

 ──光線の正体は知れないが、触れればろくな事にならないのは容易に想像できる。

 ──ほんの一瞬、歩幅を縮めた団長だが、それでも止まらず光の網へ飛び込んでいく。

 

 

 

アンナ

「させない!」

 

 

 

 ──アンナの声が割り込むと同時、白い炎の大波がグラス球の群れに押し寄せた。

 ──波が過ぎた後には、半分以上とろけたグラス球達がフラフラと落下し、光の粒に還元されていった。

 

 

 

カレーニャ

「アンナさん……!?」

「フッ……やっぱり凄いんですのね。耐火調整入れてもまだ溶かして来るなんて……!」

 

 

 

 ──先程の火球散弾とは逆に、団長への被害も覚悟しての広域魔法。今度はこちらが手を潰されたと言うのにカレーニャは、炎をかわして駆け寄る団長さえも無視して嬉しそうにアンナを見やる。

 ──アンナは既に第二波の準備を終え、いつでも撃ち出せる状態だった。

 ──団長が咆哮を上げて注意を引く。反射的にカレーニャが振り向くと、既に団長は間合いに入っている。

 

 

 

カレーニャ

「まーぁ、お強いですこと」

 

 

 

 ──アンナへのそれよりも露骨にいい加減な称賛と共に、粉を蒔くような手振りをするカレーニャ。

 ──座の周囲で待機していたグラス球の残りが変形し、その身の一部をニュッっと団長の方へ伸ばした。

 ──トゲ一本だけのウニのようなシルエット。その先端は鉄杭のように尖りどこまでも伸び、矢のように速く団長の体へと迫ってくる。

 ──そこにアンナの炎の波が再び押し寄せる。

 

 

 

カレーニャ

「フフン……まだまだぁっ!」

 

 

 

 ──グラスが炎に飲まれたのを確認した瞬間、急に熱の込もった声で椅子の縁をグーで叩くカレーニャ。

 ──途端にグラス球達の蓄える虹色の光が増し、外へと溢れ出る程になった。

 ──グラスの槍と化した部分は、炎の中で赤熱しながらも今度は持ち堪え、勢いもそのままに深々と、狙いの地点を射抜いた。

 ──が、そこには団長の姿は無く、自らが敷いたグラスにその先端が突き刺さっている。

 

 

 

カレーニャ

「あ、あら……どこに?」

 

 

 

 ──思わず椅子から立ち上がり、辺りをキョロキョロと見回すカレーニャ。

 ──団長を探そうとしながらも、視界の隅のアンナがいつ打って出るかと気になり、無意識に視界がアンナの周囲に絞られてしまう。

 ──当の団長はと言えば、アンナの炎がカレーニャとの間を遮った瞬間、ガラス面の摩擦の少なさを利用して滑り込み、座の背後へと回り込んでいた。

 ──互いの信頼があればこそ為せる、打ち合わせ無しのフェイントである。ただし、硬いガラス面に擦られた団長の服はまた少々犠牲になった。

 

 ──異界の座を相手にしての勝算は、正しくここに有った。

 ──カレーニャはこの島で、魔導グラスのみに人生を捧げてきた、言ってしまえば一般人である。

 ──多くの敵と、多くの戦い方を目の当たりにしてきた団長達とは経験が違う。

 ──必要な心構え、知識、機転……反射神経に叩き込んできたノウハウに圧倒的な差があるのだ。

 ──それが証拠に、隙を丸出しにして見失った団長探しに執心し、それでいながら視界の隅で待ち構えるアンナの存在も振り切れず、その時点で手一杯だ。

 ──防御に専念するとか、目下の不安となるアンナに牽制を放つとか、いっそ上空へ退避するとか。岡目八目なら幾らでも思いつくだろう対策を咄嗟に講じられない。

 

 ──アンナがこれ見よがしに炎を生み出し、カレーニャの全神経が完全にアンナへ傾く。

 

 

 

カレーニャ

「くっ……まずはアンナさんを──」

 

ルリア

今です!

 

カレーニャ

「んなっ……!?」

 

 

 

 ──迎撃を準備した矢先にルリアが目いっぱいに声を張り上げ、振り向かされるカレーニャ。

 ──初の実戦となるカレーニャに視界の外にまで気を配る技術も余裕も無い。

 ──アンナを攻撃したい。団長の所在も気になる。ルリアの声に次なる手への予感まで押し寄せ、もうしっちゃかめっちゃかだ。

 ──もちろん、ドリイのようにぶっつけ本番で全てをこなす天才的器量も無い。

 

 ──ルリアの声の真意は、第三の手では無い。カレーニャの背後に回った団長へ向けたものだ。

 ──アンナに敵の注意が向いた瞬間を、団長の付け入る隙だと独断で判断し、もし異界の座に視界を遮られていても伝わるようにと呼びかけただけの事だ。

 ──しかし素人のカレーニャ相手には大成功である。

 ──すかさず団長が座へ一撃を叩き込む。座は団長のその体に似つかわしくない程の威力に、大きく深くヒビを入れ、拳半分ほどの破片が幾つか飛び散った。

 ──ドリイとの戦いでも、ドリイの意識から外れた個室のグラスをアンナが破壊して見せた。本体と言えど、カレーニャの不意を突けばダメージは充分に通るようだ。

 ──もしかすると、今なら図書館を覆うグラスも比較的容易に砕けるのかも知れない。

 

 

 

カレーニャ

「う、後ろぉ!?」

 

 

 

 ──座がカレーニャ諸共に悠然と団長の方へ旋回を始めた。

 ──その巨体と安定した動作は、明らかに見た目より損傷は軽微である。

 ──攻撃された部位に座の核となる物体でも収まっていない限り、攻撃されるに任せてアンナに注力した方が合理的だが、背後を取られた事にようやく気付いたカレーニャの頭に思考する余地は無い。

 ──アンナへ振り向き、今度は団長へ振り向き、座も創造主も玩具のように首を振るばかり。ほんの10度ほど頭と視線が外れれば、アンナの本命を放つにはもう充分すぎた。

 

 

 

アンナ

「カレーニャを……傷つけない……ように!」

 

 

 

 ──炎を気持ちカレーニャより遠く、座に集中するよう照準を定め、真っ青に魔力を蓄えた高温の炎が、龍の如く宙を駆けた。

 

 

 

カレーニャ

「しまっ……ぐぅぅ!」

 

 

 

 ──死角からの熱波と風圧に事態を察したカレーニャだったがもう遅い。

 ──唸りを上げる青い龍を視界に捉えたその瞬間に、龍の(あぎと)が座に喰らいついた。

 ──ガラスが砕け散る轟音と共に異界の座が揺らぎ、その形を湯をかけられた砂糖菓子のように変えながら、ゆっくりと高度を落としていった。

 

 

 

ビィ

「やったぜ! グラスが壊れちまえばこっちのもんだ!」

「何でえカレーニャのやつ。偉そうな事言ってた割にはあっけないじゃねえか」

 

ルリア

「このまま、終わってくれれば良いんですが……」

 

 

 

 ──ルリア達が見守る間にも火だるまと化した座はじわじわと落下し続け、熱波で周囲のグラス球まで蒸発し、本体が屋根に接触したと同時、ガラガラと突き出ていたグラスの柱達が折れ、屋根に落ちて干菓子のように崩れ去った。

 

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