グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ)   作:水郷アコホ

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51「第2ラウンド」

 ──アンナと団長が残骸に駆け寄る。墜落の衝撃で投げ出されていたカレーニャが頭頂部を(さす)りながらゆっくりと起き上がった。

 

 

 

カレーニャ

「う~~……あんまり痛くなかったけど、芯までグワングワンしますわね……」

 

アンナ

「カレーニャ! ごめん、怪我は無……」

「っ……!?」

 

 

 

 ──砕けた形のまま横たわる大小の破片達を飛び越え、アンナの容態を第一に確かめる団長とアンナ。

 ──しかし、カレーニャの姿に息を呑む。

 ──座の熱に炙られた体の端々が赤熱し、溶けて輪郭が微妙に崩れている。虹色の炎に包まれたドリイのように。

 ──髪や指の先なら見るのは二度目だが、身に纏ったドレスの裾も同様に溶けていた。片方の靴は半分ほど残して赤熱した爪先を晒し、その足も足首で溶けて体から離れ、あらぬ方を向いて転がっている。

 ──カレーニャはその衣服まで魔導グラスで仕立てていた。

 ──仮にグラスの中を移動する仕組みが、グラスに取り込まれるのと似たようなものであるとすれば、出入りする度に1から体を再構成する事になる。着替え用の服をいちいち取り込んで再構成するより、グラスから編み出してしまう方が効率的なのかもしれない。

 

 

 

アンナ

「ご……ごご、ごごごごめん、なさい! カレーニャ、ボ、ボク、き傷つけないように、がが頑張ったん、だけ、ど、あの……!」

 

 

 

 ──声を上ずらせ、カレーニャの頭の天辺から足の先までひっきり無しに視線を上下させるアンナ。

 ──ドリイが焼き切られた手を再生させた事や、溶け出しながらも冷静に一行とやり取りしていた事を考えれば、鎮火した今なら大した損傷ではないのかもしれない。

 ──それでも見た目に受けるショックが勝る。自分が招いた結果だと思えば尚更だ。おぼつかない様子でカレーニャに触れようとしたアンナが、その中途でビクッと手を引っ込めた。

 

 

 

アンナ

「熱っ……!?」

 

 

 

 ──熱いどころではない。よく見ればカレーニャの肩口や頭上には薄っすらと陽炎まで立ち昇っている。

 ──先程までのカレーニャの話では、カレーニャの体は魔導グラスと元の肉体が混ざり合っている状態らしいが、カレーニャに自身を案ずる様子は無い。何か便利な機能で生身が焼けるのを防いでいるのだろう。

 

 

 

カレーニャ

「当ぁったり前でしょうがおバカ! 溶けてるガラスに素手で触れるおバカが在りますかこのおバカ!」

 

カシマール

「バカバカウッセーゾバカ!」

 

カレーニャ

「『取り敢えず自分の身も省みずに手ぇ出そう』っておバカをおバカ以外に何て呼べってんですのよこの”バカドール”!」

 

カシマール

「”カシマール”ダッテンダコノ”バカーニャ”!!」

 

アンナ

「カ、カシマール、今のはボクも悪かったから……」

 

ビィ

「おいおい、子供のケンカじゃねぇんだからよぉ……」

 

 

 

 ──ルリアと共に駆け付けたビィがツッコミを入れた所で、団長が武器を手にカレーニャの前に立った。

 ──立ち向かった以上、敵対者としてのケジメは付けねばならない。カレーニャのノリにいつまでも付き合う訳にはいかないのだ。

 

 

 

主人公(選択)

・「勝負あったね」

・「島の人達を解放して」

 

→「島の人達を解放して」

 

カレーニャ

「あぁらあら気のお早いこと」

 

 

 

 ──降伏勧告を涼しい顔で突っぱねられた。

 

 

 

主人公(選択)

・「お願いだから、言う通りにして欲しい」

・ 黙って武器を突きつける

 

→ 黙って武器を突きつける

 

 

 

 ──団長はその鼻先に押し付けるように武器を構え直した。

 ──その眉は顰み、突きつけた先端は微かに震えている。こういった事は普段の団長が望むような行いではない。

 ──しかし、この場でこう言った選択ができる人間は他に居ないのだ。

 ──団長の心の秤では、カレーニャへの同情より人々の安寧の方が幾分か重い。

 ──どんな事情があれ、島1つをそこに住む人達ごと巻き込むような真似は看過できない。

 

 

 

ビィ

「お、おい待てって。何もそこまでしなくたって……」

 

カレーニャ

「あら好都合。この体、理論上は首が飛んでもヘッチャラですけど、まだ試してませんの」

 

ビィ

「お前も刺激してんじゃねぇ!」

 

 

 

 ──ルリアが、団長の掲げる武器に触れ、そっと押し下げる。

 ──団長もルリアの無言の訴えを聞き入れ、一旦、武器をしまった。

 

 

 

ルリア

「カレーニャちゃん。もう、止めましょう?」

「島ごと魔導グラスにして、遠い所でずっと1人でなんて……そんなの、哀しいです」

「辛い事もあったかも知れないですけど、この空には、カレーニャちゃんを幸せにしてくれる事だって沢山ある筈です。だから……」

 

ビィ

「そうだぜ。それに本当に全部魔導グラスにしちまったら、楽しいモノも全部無くなっちまうだろ?」

「自分の造った魔導グラスしか無いなんて、オイラだったら退屈すぎて3日も耐えられねぇぜ」

 

カレーニャ

「へえへえ。眩しいですこと」

 

 

 

 ──おアツいカップルのノロケ話を聞いてるような態度のカレーニャ。

 ──真摯に聞き入れる気が無いと言うのも多分にあるだろうが、ルリア達の心からの言葉は、カレーニャからすればそれこそ絵本の向こうの言葉なのだ。

 ──そんなセリフが通用するキレイな世界はフィクションの向こうにしか無いのが、語るまでも無いこの世の仕組み。そのように考えている。

 ──そのニヒリズムが凝り固まった妄執で有ったとしても、当人に罪まで求められない。そしてそのような相手に、真っ直ぐな気持ちだけでは心に届きようも無い。

 

 

 

カレーニャ

「所で、このプラトニア図書館の蔵書がどれほどのものかご存知?」

 

ルリラ

「え? えーっと……も、ものすご~く沢山有ったのは、覚えてます……」

 

カレーニャ

「ドリイさんが読書時間を1冊10秒ちょっとに縮めて読み倒しても、開架分だけで少なくとも3割の書物が未だ手付かずですのよ?」

「ただ読むだけに留まらず、魔術書や学術論文の読解、古代の資料、閉架行きの書物まで勘定に入れれば、読み切るのに1000年かけたって足りませんわ」

「お生憎ですけど、むしろ退屈する時間が欲しいくらい。ご心配には及びませんわ。お外に逃したドリイさんも、たまには手土産でも持ってここまで帰って来るでしょうし──」

 

アンナ

「ド、ドリイさん、無事だったの……!?」

 

カレーニャ

「そこはご存知ござあませんでしたの?」

「私の最高傑作を簡単にパアにして堪るもんですか。あなた方が戦ってたのは──」

 

 

 

 ──またもカレーニャのペースに飲まれていく一行。

 ──団長達が戦ったドリイが一種の偽物だった事、今は自由の身にして島の外に旅立たせた事だけ説明した所で、カレーニャが自分の体を確かめ始めた。

 

 

 

カレーニャ

「──ん。熱もすっかり引いたみたいですわね。ハイ、休憩タイムおしまいですわ」

 

ビィ

「き、休憩タイムぅ?」

 

カレーニャ

「まさかあれっぽっちで座をこうまでしてくれるとは完全に予想外でしたけど……さっきも言いましたでしょう?」

「こんなんで私を諦めさせようだなんて、気が早すぎますことよ」

 

 

 

 ──片足を失って座り込んだ姿勢のままふんぞり返って見せるカレーニャ。

 ──”休憩タイム”の延長線上とでも言いたげな余裕の態度だ。とても追い詰められた側の振る舞いには見えない。

 

 

 

ビィ

「負け惜しみ言ってんじゃねぇぞ!」

「お前のとっておきはアンナがぶっ壊したんだ。これ以上何が出来るってんだよ!」

 

アンナ

「うん……カレーニャには、悪いと思うけど……」

「それに、魔導グラスは、形が壊れちゃうと駄目なんだってドリイさんも……」

「形…………もしかして……!?」

 

 

 

 ──アンナが何かに気付いた様子で異界の座の残骸に目を向ける。

 ──ガラス片は相変わらず方方に散らばり、うんともすんとも言う気配も無い。

 ──しかし、残骸を見つめるアンナの顔は徐々に険しいものになっていく。

 

 

 

カレーニャ

「ア・ン・ナ・さん♪」

 

アンナ

「ひゃ!? な、何……?」

 

 

 

 ──猫なで声で呼ばれて、肩を跳ねさせながら振り向くアンナ。

 ──意地悪そうな笑みのカレーニャが、溶けて小さな”つらら”を形成した自分の髪をいじくっている。

 

 

 

カレーニャ

「ど~やら皆さん方で一番おつむの回るらしいアンナさんに、1つお聞きしたい事がござあますの」

 

アンナ

「う、うん……」

 

カレーニャ

「アンナさん、先程私に駆け寄ってきた時、『ごめん』とか言ってましたわよねえ?」

「アレって……何の事でござあましたの?」

 

アンナ

「何でって……」

「あの……ボク、異界の座だけ溶かそうと思ってたけど……その……カレーニャまで、そんなにしちゃって……」

 

カレーニャ

「そんなってどんなぁ?」

 

アンナ

「だ、だから……カレーニャの……髪とか、服とか……と、溶かし、ちゃって……」

「(あれ……? 何だか、前にもこんな事が有ったような……)」

 

カレーニャ

「ま~あ、そうなんですのぉ。それは大変ですわねぇ」

 

 

 

 ──髪の先の”つらら”をポキリと折って手から落とすカレーニャ。

 ──落ちた”つらら”は、かつてカレーニャの足首を形成していた……今は冷えて固まったグラス溜まりに上に落ち、2つに割れた。

 

 

 

ビィ

「さっきから何言ってんだ? 大変も何もオマエの事じゃねぇかよ」

 

主人公(選択)

・「何かをごまかしてる?」

・「何だか既視感が……」

 

→「何だか既視感が……」

 

 

 

カレーニャ

「だぁって、私の体が溶けてるだなんて初めて知りましたもの?」

 

ビィ

「はぁ? なぁ、カレーニャのやつ、もしかしておかしくなっちまったんじゃぁ……」

 

カレーニャ

「それじゃあ教えて下さる?」

「アンナさんの魔法で溶けちゃったという私の体──”どこにあるのか”?」

 

 

 

 ──反射的に、一行の視線がやや上を向いた。

 ──人は誰かと会話する時、相手の目を見ようと見まいと、視線を一箇所に集中させる。

 ──そしてその一箇所が移動すれば、移動した先へ目で追おうとするものだ。

 ──団長達が見ていたのは、カレーニャの瞳だったかも知れない。額の辺りかも知れない。襟の辺りかも知れない。

 ──いずれにせよ、『そこ』がより高い所へ移動したのだ。

 

 

 

ルリア

「あ、あれ……カレーニャちゃん……立って……?」

 

 

 

 ──スックと立ち上がったカレーニャは、「さあもっと見ろ」とばかり澄ましたポーズを取っている。

 ──思わず足元に目をやれば、転がっていたはずの足首は消え、カレーニャの足はちゃんと2本付いている。

 ──溶けて崩れた服も、髪も元通り。ガラス製とは到底思えない上等かつリアルな質感を再現している。

 

 

 

アンナ

「だ、団長さん、皆、気を付けて!」

「やっぱり……異界の座は壊れてない。あれは……最初から”壊れやすい”ように出来てたんだ!」

 

 

 

 ──アンナが告げる間に、その言葉通りに座の破片がガラガラと宙に浮き、カレーニャの周りを回遊し始めた。

 ──得意満面のカレーニャがトンと足元を蹴り小さくジャンプすると、何も無い空間からグラスチェアーが生み出され、そこにカレーニャが腰掛けた。

 

 

 

カレーニャ

「ハイ大当たり。言ったでしょう? 異界の座の正体はアンナさんが落っことしてくれたあのグラスの球って」

「座は1個の球体じゃござあませんわ。異界へと繋がる機構を備えた小さな魔導グラスが集合して、球体を形作ってますの」

 

 

 

 ──如何にも「お嬢様の自慢話」の抑揚で種明かしをするカレーニャ。

 ──その傍からグラス片達が個々にその体積を増量させていく。

 

 

 

カレーニャ

「異界の座は魔導グラス技術としてまだまだ草分け。不具合があったり、こんな風に砕かれただけでオジャンではみっともないでござあましょ?」

「ゲートは1つ開いていれば充分。一欠片でも残っていれば、座には座を複製する設計図も仕込んでござあますから、後は異界のエネルギーを元手に再構築するだけ……」

 

 

 

 ──グラス片同士が癒着し合い、先程の座の形に戻っていく。

 ──そうはさせじと団長が駆け寄るが……。

 

 

 

アンナ

「団長さん、危ない!」

 

 

 

 ──団長の視界を、アンナの炎が駆け抜けた。過ぎ去った先……団長のすぐ真横で、巨大なグラスの塊がアンナの炎に溶かされ押し返されながら、尚も質量を頼りににじり寄っていた

 ──市民のアジトから聳え立つグラスの氷山。その1つが根本から浮き上がり、団長目掛けて飛んできたのだ。

 ──グラス球には、カレーニャ製のグラスを遠隔操作する機能がある。登録者の意向を優先して動作するグラスの特性を、カレーニャが独力で僅かに解析し、さらに拡張したものだ。

 ──座を復元しながらカレーニャは、グラスの山をへし折って投げつけていた。この島全てがカレーニャの武器なのだ。

 ──グラスの山は、団長に肉薄する間もなくアンナの炎に溶かされ、跡形も無く蒸発した。

 

 

 

カレーニャ

「あーら、やっぱりもう一般向けグラスの再利用じゃ足止めにもなりませんわねぇ」

「では改めて、今度は異界の力をもうちょっと贅沢に使わせていただきますわよ」

「落っことすのはもうちょっと先にしたげますから、頑張って戦ってくださあまし。折角ですし、異界の座にどこまで出来るか、あなた方で試させていただきますから」

 

 

 

 ──人1人に規格外の質量をぶつけておきながら、ちょっとした悪戯程度のようにクスクスと笑って見せるカレーニャ。

 

 

 

ビィ

「くっそぅ、完全に悪者みてぇなこと言い出しやがって!」

 

ルリア

「一欠片も残さずに消滅させないと元通りになっちゃうって事ですよね……」

 

 

 

 ──項垂れるルリア達の横を縫って、アンナが前に出た。

 ──躊躇うこと無く、再び青い炎が湧き上がる。

 

 

 

ルリア

「ま、待って下さいアンナちゃん!」

「全部溶かしちゃえば異界の座も止まるかも知れないですけど、そんな事したら──」

「そんな事したら、溶けたカレーニャちゃんが元に戻れなくなっちゃうんじゃ……!」

 

 

 

 ──ルリアの声に振り向くアンナ。しかし、炎は止めない。

 ──自信を感じさせる微笑みだけ返すと、アンナは正面に向き直り、眼前のカレーニャに問いかけた。

 

 

 

アンナ

「カレーニャ。聞きたい事があるの」

「カレーニャは、カレーニャの全部を使って、異界の座を自分の物にしたって事だよね……?」

 

カレーニャ

「ええ。魔導グラスは造ったその場から魔力を注ぎ続けるか、オブロンスカヤの体の一部を取り込ませる事で、初めてこの空に存在し続けられますの」

「だから座は私が直に魔力を送り続けて維持して、昨日の晩に初めて、全部まとめて”登録”しましたわ」

「座に私の体組織を登録する時は、私がグラスの体を手に入れる時って決めてましたもの」

 

アンナ

「じゃあ──」

「本当は、『今ある』異界の座だけ壊しちゃっても、カレーニャは大丈夫って事だよね?」

「今もカレーニャの体には、魔導グラスと、『よく解らないモノ』が混じってる。足もすぐ治った。それって、カレーニャを生かすためだけに、幾らかの座が使われてるから……そうだよね」

 

カレーニャ

「……本当に羨ましい目利きですこと」

 

 

 

 ──話している間に、異界の座の復元は完了してしまった。

 ──しかしカレーニャが仕掛ける様子は無い。むしろ一行が攻撃してくるのを待ってさえいるかのようだ。

 

 

 

カレーニャ

「いかにも。私の中に残ってる座の一部は、有機体をあらゆる環境から守り、先程みたいに体が溶けようとも、体内の有機物と座同士を迅速に修復する事へ常に殆どのリソースを割いてますわ」

「仮にアンナさんが外に出ている座を全て溶かしきって見せたのなら……私の体を維持しながら新しく座を造るのは一筋縄ではいかないでしょうね。座じゃあなく、私の培ったグラス技術の限界として」

「まあ、それっぽいモノで戦うくらいはできますけれど。それは普通に造って形を真似たタダの魔導グラス。今みたいなハチャメチャは出来ませんわ」

 

 

 

 ──あっさりと認めるカレーニャに、団長が違和感を覚えた。

 ──自慢したがりにしたって、これからアンナの攻撃を受ければ自分が負けるかもしれないと打ち明けるのは度が過ぎている。

 ──先程から待ち構えるばかりのカレーニャ。アンナの一撃を誘っているようにすら感じられた。

 ──しかし、待ったをかける間もなく、アンナの準備が完了する。

 

 

 

アンナ

「なら、大丈夫……!」

「もしやり過ぎちゃっても……ボクが、何とかするから!」

 

 

 

 ──青い龍が再びカレーニャへと飛びかかる。

 ──団長が懸念した通り、カレーニャはこれを避ける様子も防御する様子も無い。

 ──間もなく、異界の座は再び巨大な人魂と化した。

 

 

 

ビィ

「いっけえ! 今度こそ全部溶かしちまえ」

 

ルリア

「うぅ……アンナちゃんを疑うわけじゃないですけど……カレーニャちゃん、大丈夫かな……」

 

 

 

 ──大勝負を固唾を呑んで見守る一行。

 ──しかし段々と、先程とは違う展開となっている事に気付く。

 

 

 

ビィ

「……な、なぁ。さっきより随分立つけどよ……もしかして……」

 

ルリア

「炎が、全然小さくならない……これって、もしかして……」

 

アンナ

「ボクの魔法が……効いてない……!?」

 

 

 

 ──ようやく空の向こうが朝らしい色になってきた頃。それでも直上の空の色はまだまだ暗く濃い。

 ──そんな空を煌々と照らすアンナの炎だったが、その勢いが衰える気配が無い。即ち、薪が減っていないのだ。

 ──火だるまの中で、座は雫1つ垂らしては居ない。それどころか、目に映る色味からして、赤熱化すらしていない。

 ──座に鎮座するカレーニャも同様だった。熱に耐えるかのように眉根を寄せて目を閉じ、頬杖を突いてじっとしているが、毛先1つとて変化が無い。その口元は不敵な笑みを浮かべてさえいる。

 ──それでも根気よく炎を供給するアンナだったが、火種の魔力はジリジリと目減りし、とうとうほんの僅かに火力が弱まった。その瞬間、カレーニャの瞳がカッと見開かれた。

 ──同時に炎を突き破って、座から虹色の液体が噴き出した。液体は炎の更に上から異界の座本体を包み込み、アンナの渾身の一発を立ちどころに消火してしまった。

 ──座は虹色の球体となって炎を一切寄せ付けず、アンナがこれに観念して魔法を中断すると、少しして液体は、座とカレーニャに吸収されるようにして跡形も残さず消えた。

 

 

 

ルリア

「そんな……傷一つ無いなんて……!」

 

ビィ

「な、何でだよ! さっきはあんなにボロボロだったじゃねぇか。壊れやすく出来てるんじゃ無かったのか!?」

 

アンナ

「ハァ、ハァ……何で……」

 

 

 

 ──消耗からその場にへたり込むアンナを団長が支えた。

 ──見据えた先では、カレーニャが腕組みしながら、ゆっくりとグラスチェアーから立ち上がっていた。

 ──悪役が3段階に分けて大笑いする時の第一段階のような顔をしている。

 

 

 

カレーニャ

「フッフッフッフ……手段なら幾らでもありますわ。溶けるより速く再生させるなり、表面を絶え間なく冷却させるなり──」

「単純な答えですわ。アンナさんの熱量を押し返すくらい、大量のエネルギーを一気に引き出せば良いだけですの。後は思いつく方法で抗えば良い」

「人の話聞いてない皆さんに何度でも言って差し上げましょう。ここからは、異界の力をもうちょ~~~っと、贅~~~沢に使わせていただきますわ」

 

 

 

 ──欠片1つから全てを再生する耐久力に、団長達の対魔導グラスの要をも凌ぎ切る防御力。そして火力は言わずもがな。

 ──カレーニャが本気を出していない可能性は想定しては居たが、落差がありすぎた。

 ──ルリアもビィも唖然とするばかり。アンナは汗を滲ませて呼吸を整えるので手一杯。団長の表情にも苦悩の色が浮かぶ。

 

 

 

カレーニャ

「ほぉら皆さん、本番はここからでしてよ。あなた方のお相手は、グラスの向こうの世界丸ご──」

 

 

 

 ──その時、カレーニャの背後で剣閃が輝いた。

 

 

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