グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ)   作:水郷アコホ

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52「到着」

 ──勝ち誇るカレーニャの背後で鋭く閃くものがあった。

 ──次の瞬間、カレーニャの肩に突剣が咲き誇り、微かに血の花びらが舞い散った。

 

 

 

カレーニャ

「ぬ、あ……!?」

 

 

 

 ──首と視線を捻って背後を見やるカレーニャ。

 ──淡い栗色の長髪と、輝く甲冑にビィ達から歓声が上がる。

 

 

 

ビィ

「あ……姐さん!」

 

ルリア

「カタリナ!!」

 

 

 

 ──ルリア達に応えるように、剣の主カタリナが、貫いたカレーニャを座から屋根へ投げ落とす。

 

 

 

カレーニャ

「ふぎぁ!」

 

 

 

 ──顔面から落っこちるカレーニャ。

 ──傷口から飛び散った血が、屋根に落ちると小さな音を立ててガラスのように砕け、そして砂のように細かく瞬き、空気中に消えた。

 ──完全なグラスの体を持つドリイも、腹や口元から血を流していた。そしてドリイのそれらもすぐに消えた。魔導グラスは血液をも再現し、本当に人体の代替として機能するようだ。

 

 

 

カレーニャ

「く、ぬぅ……無茶な事なすってるのは感知してましたが、まさか本当に登りきって来るなんて……!」

 

 

 

 ──起き上がったカレーニャが鼻を押さえながらカタリナを睨み付けた。

 ──負傷を気にする様子は全く無く、肩に広がった赤い染みも見る見るドレスに溶けるように消えた。

 ──ルリア達は、遅れて登場した仲間に興奮仕切りだった。当のカタリナも、座から飛び降りるとカレーニャに目もくれず、一目散に団長達の元に合流した。

 ──アンナが僅かに目配せした以外、カレーニャの傷が消える瞬間に殆ど誰も目を向けていない。

 ──カタリナのそれは仲間を第一に案じての行動だったとして、団長達はもう、カレーニャ自身が銃弾も炎も凌いで見せただけに、少し感覚が麻痺してきたのかも知れない。

 

 

 

カタリナ

「皆、遅くなった。怪我は無いか」

 

ルリア

「私達は大丈夫です。でも、アンナちゃんが……」

 

アンナ

「ぼ、ボクも、大丈夫……ちょ、ちょっと、疲れただけ……だから……」

 

カタリナ

「大事ないなら何よりだ。だが無茶はするな」

団長(キミ)も、大丈夫か? 些か派手に立ち回った様子だが」

 

主人公(選択)

・「このくらいかすり傷にも入らない」

・「服が破けた……」

 

→「このくらいかすり傷にも入らない」

 

カタリナ

「ふふっ、相変わらず頼もしい団長殿だ」

「では、まずは状況を確認したい。戦いに至った経緯は察しが付く。私が駆け付けるまで、どのように戦ったかを教えてくれ」

 

 

 

 ──ルリア達が戦いの一部始終を説明する。それは同時に、カレーニャの力の程を共有する事にも繋がる。

 ──地形の不利、素人ゆえの隙の多さ、多様な攻撃手段、そして今しがた発揮した圧倒的タフネス。

 ──団長達が語らっている後方で、半ば忘れ去られているカレーニャ。しかしそれを特に気にする様子も無くグラスチェアーを呼び寄せ、座り直している。

 

 

 

カレーニャ

「全く……本当にこの人達は身内の事になるとイチイチ大げさですわね」

 

 

 

 ──チェアーがカレーニャを乗せ、木の葉のように宙に浮き上がり、座へと移動を開始する。

 ──カレーニャが両手を前に突き出すような仕草をすると、その手元から魔導グラスが生成される。

 ──完成したそれを掴み、構えるカレーニャ。手にしたグラスは、フライパンとお玉のような形をしていた。両手のグラスを何度も打ち合わせると、半鐘のような騒々しい音が響き渡る。

 

 

 

カレーニャ

「ホラホラ、いつまで作戦会議やってますの」

「あんまりノンビリしてると不意打ち仕掛けちゃいましてよ?」

 

 

 

 ──騒音に思わずカレーニャを注視する一行。

 ──ルリアが律儀に返事を返した。

 

 

 

ルリア

「す、すみません。今、ちょうどお話も終わった所です!」

 

カタリナ

「わざわざ待っていてくれたとは存外に親切だな」

 

カレーニャ

「異界の座の本領をたっぷり試して差し上げたいですもの」

「それに失礼ですけど、お一人増えたくらいでどうこうなるとも思えませんし」

 

カタリナ

「確かにな。今しがた聞いた限り、このまま無闇に突っ込んだのでは手の打ちようも無いだろう」

「だが……我々とて、絶望的な戦いに立ち向かった試しは一度や二度ではない」

「この”たった1人”──君が思うよりは、相当重いぞ」

 

 

 

 ──カタリナの言葉と同時に、誰が指示するでもなく、一行が陣形を立て直した。

 ──傍目には夢見がちにすら見えるほどに一行は、カタリナと再開し言葉を交わしたそれだけで、再びその瞳に闘志を宿していた。

 

 

 

カレーニャ

「ホントに、その寄り合えば勝手にフィーバーできる仕組み。理解できませんわね……」

「ほんじゃあ、そちらも準備オッケーみたいですし──」

 

 

 

 ──座から伸びる柱にまた光が満ちる。

 

 

 

カレーニャ

「どうぞどこからでも。どれだけ心強い味方なのか、見せていただきましょうか」

 

 

 

 ──柱の先端から光球が生まれ、ゆっくりと宙に放たれた。

 ──それらはガラス球へと姿を変え、衛星のように異界の座を取り巻いて漂い始めた。これで完全に仕切り直しだ。

 ──カタリナがカレーニャに聞き取られない程度の小声で仲間たちに指示する。

 

 

 

カタリナ

「皆、聞いてほしい」

「私達が勝利する──その意志に嘘は無いが、バカ正直に飛び込んでも勝ち目は薄い」

「だが策はある。余り使いたくない手だが……とにかく、全員でカレーニャの隙を誘う事に専念してくれ」

「タイミングを見計らったら──」

 

 

 

 ──そこで口を噤み、ジッと団長を見つめる。

 ──その瞳の意図を理解した団長が強く頷いた。

 

 

 

カタリナ

「よおし、各自散開だ!」

 

ビィ、ルリア、アンナ

「おう!

 はい!

 うん!」

 

 

 

 ──各自、走り出す団長達。

 ──ルリアとビィは屋根の中心、それでいてなるべくカレーニャから距離を取れる位置へ。

 ──継続して戦況全体の見張り役と同時に、万一の際の転落防止だ。

 ──カタリナは真正面から飛び込み、団長とアンナが左右に展開する。

 

 

 

カレーニャ

「大口叩いた割には大して変わり映えしませんのねぇ」

 

 

 

 ──拍子抜けした顔でまずカタリナの迎撃に動くカレーニャ。

 ──グラスの柱から赤と青の光線が放たれ、数個のグラス球が前に出てその身を棘槍に変えてカタリナに襲いかかる。

 ──それら全て一瞬の出来事のはずだったが、カタリナはこれを難なくヒラリとかわした。

 

 

 

カレーニャ

「んなっ……あらら?」

 

 

 

 ──思わず目の錯覚を疑い目を凝らすカレーニャ。しかし何度見直しても、カタリナはマントの端すら傷ついていない。

 ──カレーニャの想定では光線がカタリナの動きを鈍らせ、グラスの槍がその全身を余す所なく貫けるはすだった。一発も掠りもしない等とは全くありえないと言ってよかった。

 

 

 

カレーニャ

「くンの……そんな鎧来て一体どんなイリュージョンですの!」

 

 

 

 ──更に広範囲へ向けてカラフルな光と槍の雨が降り注ぐ。左右に全力で飛び退いてもまだ射程範囲を脱せないだろう程だった。当たればひとたまりも無い。

 ──だがそれでもカタリナの髪一本にすら届かなかった。

 

 

 

カレーニャ

「またぁ!?」

 

カタリナ

「下だカレーニャ!」

 

 

 

 ──カレーニャが目線を着弾地点より下……もとい手前に向けると、グラスに張り付くようにして、高速で座へと迫るカタリナの姿があった。

 ──カタリナは攻撃の瞬間に合わせ、足元のガラス面に自らを平行に倒しスライディングの姿勢に移行していた。

 ──金属鎧と硝子面とは、布や人肌よりも安全かつ素早く滑れる。先の団長と同じ、それでいて更に効率的な対処法だった。

 

 

 

カタリナ

「槍だの銃だの当たり前の時世に、伊達に剣一本を磨き続けてはいないぞ!」

 

 

 

 ──蓋を開けてみれば、カレーニャの困惑を裏切るほど、全ては単純すぎる成り行きだった。

 ──カレーニャの力が増そうと、基本的な対処法は変わらない。相手は、敵の腕前を推し量る尺度さえ持たない素人なのだ。

 ──ただただ単純に、団長よりも場数の分で勝るセンスで以って初激の飛び道具をかわし、カレーニャの意識をカタリナへ集中させる。

 ──力量差も判断できず、しかも冷静さを失った相手なら、もう一度くらいは同じ手だって通用する。トリックのトの字も無いゴリ押しが全弾回避の実態だった。

 ──加速し続けるカタリナは剣の間合いへ到達すると同時に、軽々と身を起こして勢いそのままに飛び上がり、カレーニャへ刺突を放った。

 

 

 

カレーニャ

「あぶな……!」

 

 

 

 ──カレーニャの言葉が終わる前に、刃の切っ先が埋まった。ただし、相手はカレーニャではない。

 ──複数のグラス柱から放たれた光がカレーニャとカタリナの間で交差すると、交点の空間から泥の塊が湧き出した。

 ──カタリナの剣はその切っ先10数cm程が泥に差し込まれた所で止まってしまった。

 ──この手応えには覚えがあった。カレーニャ邸でドリイとの戦闘で、高質量の水に阻まれた時とよく似ている。

 ──攻撃は失敗に終わったが、カタリナに動じる様子は無い。それどころかカレーニャに語りかけた。

 

 

 

カタリナ

「カレーニャ! 聞き飽きたろうが今一度問う。考え直す気は無いか!」

 

カレーニャ

「本当に聞き飽きた話ですのねぇ。つまり……そういうこと!」

 

 

 

 ──律儀に返答しつつ払いのけるように腕を横に振るカレーニャ。

 ──途端にカタリナの剣を捉えた泥塊が、大砲で放たれたように飛んでいく。カタリナも道連れだ。

 ──その軌道上には高温の火球を蓄えたアンナが居る。しかし、カタリナの体は剣を起点に上下逆さまに投げ出されていて着地もままならない。このままではぶつかった挙げ句に、最悪二人とも屋根から真っ逆さまだ。

 ──そして異界の座はその行く末を見守る事無く、ゆっくりと旋回し背を向け始める。

 

 

 

カレーニャ

「作戦会議は──丸見え丸聞こえでしてよ!!」

 

 

 

 ──視認するのも待ち遠しいとばかり、見もせずに、そこに居るはずの団長へ光線とグラス球が殺到する。

 ──カレーニャとカタリナ達との距離は充分にあったが、そのすぐ足元は魔導グラスである。

 ──足元から彼らの会話を拾い、そして一部始終を見通していたのだ。

 ──隙だらけにする方針。カタリナが陽動を買って出た。そして、作戦タイムの最後にカタリナは団長を見た。即ち、本命は団長だ。

 ──アンナ側から見える、異界の座を挟んだ屋根の対岸。その視界の限り全てを目が痛む程の光の柱と、棘の塊と化したグラス球が蹂躙していく。

 ──その最中に、未だ宙を奔らされ始めたばかりのカタリナがアンナへ叫んだ。

 

 

 

カタリナ

「構うな! まずは撃て!!」

 

アンナ

「わ……解った!」

 

カレーニャ

「ハンッ! 今ならアンナさんの火ぃくら──」

 

 

 

 ──何か仕掛けるのだろうが、何するものぞと見向きもしないカレーニャ。堂々とアンナの一発を受け、戦場に似つかわしくない肌とドレスとに火の手が上がる。

 ──それだけではない。

 

 

 

カレーニャ

「ぶほぅ!?」

 

 

 

 ──炎上と同時に愉快な声を上げてカレーニャが軽く宙に飛び上がり、グラスチェアーから転げ落ちた。連結された座に、倒れる勢いそのまま燃える額を強かに打ち付けた。

 ──燃えているのはカレーニャだけで、座には全く影響がない。

 ──アンナが放ったのは、野球ボールほどに凝縮した火球1発。それをカレーニャが旋回しきる前に、その頬骨に叩き込んだ。

 ──高温の炎は燃え上がるだけで風を起こす。熱量の塊と運動エネルギーのみがカレーニャを殴り飛ばしたのだ。

 ──その瞬間、カタリナの剣先から統制を失った泥が霧散。持ち主は体を捩って、空中で半回転し着地した。

 ──自らの足腰とグラスに突き立てた剣先とが足元のグラス面を削りながら、アンナに受け止められながら数十cmほど滑って、何とかカタリナは慣性に勝利した。

 

 

 

アンナ

「だ、だだ、大丈夫、カタリナ?」

 

カタリナ

「ああ。アンナこそ、怪我はないか」

 

アンナ

「うん。ボクは──あれ? これは……?」

 

 

 

 ──カタリナの肩口に『何か』が乗っているのに気づき、手に取るアンナ。

 ──小さく、硬く、鈍く光る何かであるとしか解らぬ内に、半ば引ったくるようにカタリナがその手から『何か』を取り上げた。

 

 

 

カタリナ

「ああ、これは、まだダメだ」

「必要な物だが、今は何というか……少し印象が悪いだろうからな」

 

 

 

 ──慣れない隠し事に歯切れが悪いカタリナ。

 ──アンナから回収したそれは、糸で繋がって首から提げていたようだ。

 ──何かをアンナは察したらしい。そんな『何か』の話題は切り上げる事にした。

 

 

 

アンナ

「解った。次は、どうしたら良い?」

 

カタリナ

「そうだな。今のは実に良かった。次のタイミングでも頼む」

 

アンナ

「うん……!」

 

カタリナ

「では、気を付けてくれ」

「──カレーニャ、こっちを見ろぉ!」

 

 

 

 ──アンナに背を向け、カレーニャへ再び突撃しながら呼びかけるカタリナ。

 ──しかしカレーニャは応じること無く、座に寝っ転がったまま燃え盛る自らを消火し、討ち取ったであろう団長の所在を確認している。

 

 

 

カレーニャ

「こ……んどは、騙されるモンですか。(たく)らの団長さんさえ黙らせれば……」

「あ~……見当たりませんわね。やっぱりちょっとやりす──」

 

 

 

 ──前方に人影は無く、グラスで屋根板への被害を防いだ整然とした景色が広がっている。

 ──跡形もなく消し飛んだか、今頃地べたでぺっちゃんこになっているかと思い巡らした矢先、異界の座が大きく揺れた。

 

 

 

カレーニャ

「はぎぇぅ!?」

 

 

 

 ──うつ伏せで前方のテレビを眺めるような姿勢だったカレーニャは、押し上げられた異界の座に今度は顎先を強打した。

 

 

 

カレーニャ

「あぎぎ……一体何が……」

 

 

 

 ──グラス体となった今では大して痛くもない顎と、ついでに噛んだ舌を、ついつい気遣いながら座を通して足元を観測するカレーニャ。

 ──カレーニャの脳内に投影されたその映像には、残心の構えを取る団長の姿が映し出された。先程の攻撃を受けた様子は無い。

 ──団長は、カレーニャがカタリナと応酬を繰り広げて注意から外れている間に、最初から座の真下目掛けて直進していたのだ。

 ──そして今、今度はより強力な一撃を座の底部に叩き込み、座を揺るがした。

 

 ──耳と目だけでは、以心伝心までは読み取れない。カタリナが団長に向けたアイコンタクトの意味は、「私がやる」。

 ──カタリナの策の全容など与り知らぬまま、皆、カタリナへの信頼と培ったチームワークだけで、ただ不意打ち第一で動いていた。常識はずれのダメージを与えていながら、それでも本命は団長では無いのだ。

 ──しかし、カレーニャにそれを知る由も無い。ただ、今こうして団長が無事で、至近距離に相対している。それが今、対処すべき全てだった。

 ──ゆっくりと立ち上がりながら、グラスに攻撃を指示するために片手を振り上げるカレーニャ。

 

 

 

カレーニャ

「どなたもこなたも……レディーの足元を何だと──!」

 

 

 

 ──その背後で爆走するカタリナが尚も声を張り上げる。

 

 

 

カタリナ

「カレーニャ! 君の夢には、大きな勘違いがある!」

 

カレーニャ

「っ──!」

 

 

 

 ──僅かに。ほんの僅かだけ、カレーニャの体が硬直した。

 ──誤差の範疇に収まる程の、ほんの一瞬。

 ──これまでに未だ見せた事のない激情に染まった瞳がカタリナを射抜く。それでも攻撃の矛先は変えない。

 

 

 

カレーニャ

「これ以上は惑わされませんことよ!」

 

 

 

 ──団長が第二撃を構える直上、異界の座の底面が輝き出す。攻撃の予兆と見て間違いない。

 ──カレーニャは未だ、団長を一行の勝負の要と思い込んでいる。

 ──カタリナを睨みつけ、吐き捨てるような言葉と共にカレーニャが腕を振り下ろしたのと、カタリナが「撃て」と号令をかけたのは同時だった。

 ──アンナの第二の火球が、今度はカレーニャの足に直撃した。炎上と共に、着弾の風圧で思わずバランスを崩すカレーニャ。

 

 

 

カレーニャ

「なっ、しまっ──!?」

 

 

 

 ──収束しかけた底面の光がプリズムを介したようにあらぬ方角へと、まばらな光条となって散った。その瞬間、畳み掛けるようにカタリナが号令を放つ。

 

 

 

カタリナ

今だ、全力で行けぇ!

 

 

 

 ──団長へ向けてのものだ。全身全霊の奥義が、迎撃に集中して再生しきっていない、底部の僅かな傷を穿つ。

 ──轟音を上げて、再び異界の座が砕け散った。今度は一つ一つが更に小さく、座の下側半分ほどがボロボロと砂利のように崩れていく。

 ──吸収しきれない衝撃が残りの座の表面を伝い、あちこちにヒビを入れ、座から伸びるグラス柱も幾つかは深い亀裂が刻まれ、また幾つかは中程でへし折れた。

 

 

 

ビィ

「効いてるじゃねぇか! 強くなっても割れやすいのは変わんねぇみてぇだな!」

 

ルリア

「でも、さっきまでとちょっと違うような……?」

 

ビィ

「ちょっとって──あっ!」

「おーい、気をつけろ。カレーニャのやつ、まだ何かやる気だぞ!」

 

 

 

 ──ビィの警告に、座の底部から飛び出す団長。

 ──見上げると、異界の座の上部では、ヒビの入ったグラス柱がその傷を埋め立てて再生している。

 ──団長の一撃をもってしても、今の座が相手では半壊程度に追い込むのが限度だったようだ。

 ──そして、そこに立つカレーニャと目が会った。疲れ切った日に限って夜通し踊らせてくれた蚊が、壁に止まって寛いでいるのを見つけた時の顔だった。

 ──とっくにアンナの炎を鎮火し、両腕を振り上げている。同時にグラス柱に虹色の光が充填される。じわじわと再生を始める座本体にも光が泳ぎ、全方位への攻撃準備を整えた。

 

 

 

カレーニャ

「手玉に取られてばかりで癪に障りますけれど……魔導グラスの圧倒的完成度の前にはてんで不足ですわ!」

 

 

 

 ──カレーニャの表情には、それでも確かな余裕が感じ取れる。回避する場所が無いと本能的に察知した団長が防御の姿勢を取る。

 ──だが、すぐに気付いた。

 ──今まさに攻撃の指示を出すのであろう、掲げた両腕をもう一段ぐっと反らして見せたカレーニャの背後に、いつの間に回り込んだのかカタリナが立っている。

 ──驚く団長の表情を見て、カレーニャも何か妙な事が起きていると察する。そしてその耳が、全力疾走で若干上がったカタリナの呼吸を拾った。

 

 

 

カタリナ

「ハァ、ハァ……聞けと言っただろう? カレーニャ……」

 

カレーニャ

「い、いつか、ら……?」

 

 

 

 ──カタリナの声色は、若干の冗談を含んでいた。

 ──カレーニャが振り向こうとするのと同時、カタリナがカレーニャの頭を鷲掴み、前方に向き直らせながら座から飛び降り、ダンクシュートの要領で屋根に叩きつけた。

 

 

 

 

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