グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ)   作:水郷アコホ

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55「VSカレーニャ」

 ──騒然となる一行。

 ──アンナが手にする小さな欠片。それが、今まさに一行が立ち向かっている異界の座だと言う。そしてそれをカレーニャも実質的に認めた。

 

 

 

ビィ

「ど、どういう事だよ? さっきの戦いで破片を盗んだってのか?」

 

カタリナ

「いや、だったらカレーニャの一存で力ずくででも取り返せるはずだ。それに、カレーニャのこの取り乱し様は……」

 

 

 

 ──仲間たちの視線が説明を求めてアンナに集中するが、アンナはカレーニャとの対話を優先している。

 ──カレーニャは下半身を固定した前傾姿勢で器用に項垂れている。

 ──完全に地に転がった異界の座からしても、カレーニャは今、まともに戦える精神状態では無いのだろう。

 ──だが決着が着いた訳ではない。それでもアンナは、警戒を解かない団長やカタリナとは対照的に、ごく自然な調子で話しかけた。

 

 

 

アンナ

「ドリイさんが、ボクにくれたんだ。『絶対に手放さないで』って」

「その時に、カレーニャのお祖母様が亡くなってからの事も、全部一緒に」

 

カレーニャ

「……本当に、好きにしてくれやがりましたのね。ドリイさん……」

 

アンナ

「この魔導グラスがどんな物かは教えてくれなかったけど……でも、さっきカレーニャも言ってたよね。グラスに持ち主を『登録』する時は、その人の血や髪の毛を使うって」

「それで、解ったんだ。ボク達が最初に出会った時、カレーニャのグラスをボクが割っちゃって、その……何が何だか解んなくなっちゃって──」

「あの時、ボクが指を切っちゃって、血で汚しちゃった欠片……それがこれ。……合ってる?」

 

カレーニャ

「……」

 

カタリナ

「ちょ、ちょっと待ってくれ、アンナ」

 

 

 

 ──2人の間の空気を読んで尻込みしていたカタリナが割り込んだ。

 

 

 

カタリナ

「その『登録』について、私もドリイ殿から大まかにだが聞いた事がある。ただ──」

「その時に聞いた話では、グラスが体組織を受け入れたのは、この島でもオブロンスカヤの血筋の者だけだったと記憶している」

「確かにアンナはあの後、怪我した指を手当してもらっていた。割れたグラスに血が付着したかもしれない。だがドリイ殿の話が正しければ、それだけでは……」

 

アンナ

「ううん。それで、充分だったんだよ」

「ボクも、カレーニャと同じ……魔導グラスを造れる人間だったから……そうだよね、カレーニャ」

 

 

 

 ──その場の人数に見合わない程に大きなどよめきを上げる仲間達。

 ──驚いてばかりでは話が進まない。アンナも含めた全員、稲穂のようなカレーニャに目を向け、回答を求めた。

 ──やがて、姿勢通りに意気消沈しきった調子で。それでも僅かにやさぐれた調子でカレーニャが口を開いた。

 

 

 

カレーニャ

「……ハンッ……」

「……別に驚きゃしませんでしたわよ。オブロンスカヤにしかグラスの『登録』が出来ない。当然サンプルも少ないのですから、原理の解明も出来ていない──」

「だったら何かの拍子に、私以外に適性を持つ人間と出会うって事も想定してましたわ。よりによってこんなタイミングとは思いませなんだけどね……」

 

アンナ

「もしかしたらって思ったら、心当たりも幾つかあったんだ。魔導グラスを造れる人は、魔力を満タンにしないとグラスを動かせないって……ボク、この島に来てから殆ど魔導グラスを動かせてないし……」

 

 

 

 ──図書館の昇降機に触れた時の事を思い出す一行。

 ──呼び出し用のグラスにアンナが触れても全く反応が無く、他の仲間達が触ろうとする前に、カレーニャが割り込んでグラスに触れていた。

 

 

 

アンナ

「カレーニャより先に『登録』しちゃったから、この欠片はカレーニャの物に出来ない──」

「だから要らなくなった欠片を、島を出る約束だったドリイさんにあげて、ドリイさんはボク達と戦う時に、この欠片を使った」

「だから、座から作ったグラスを操って、家を覆って……別の世界の力を魔力に変えて、ボク達に負けないくらいの魔法で戦えた」

「……えっと、間違ってない……よね?」

 

カレーニャ

「……いちいちお伺い立ててんじゃござあませんわよ」

 

アンナ

「ぅ……ごめん……」

 

カレーニャ

「……何べんも陳謝ばっかり出てくる会話も大っきらい……!」

 

 

 

 ──巨大な質量が擦れる音がする。カレーニャが自ら叩き割った部分がじわじわと再生を開始していく。

 

 

 

カレーニャ

「……謝罪なんかが何の足しになるってんですのよ……卑屈になって誰が得するんですの……まごついてばかりで、何が変えられるってんですの……」

 

カタリナ

「まさか……まだやる気かカレーニャ!」

 

 

 

 ──武器を構え、距離を取るカタリナ達。

 ──カレーニャも一歩、後ろに退いた。グラスは煙同士が溶け合うようにスルリとカレーニャを受け入れる。

 ──完全にカレーニャがグラスに隔てられ、向こう側へ行くその直前、まだこちら側に残った手をアンナが掴んだ。

 ──睨み返すカレーニャ。苛立ちに満ちて濁った、見下すような目だった。

 

 

 

アンナ

「……変わるよ……沢山、変わったよ……」

 

カレーニャ

「……」

「……離して下さらないとそんなお手々、取り込みもせずに座でペッチャンコにしちゃいましてよ?」

 

アンナ

「それでも良い。だから聞いて」

 

 

 

 ──口調は精一杯に強く、ハッキリと。しかし表情は弱々しく、自分の足で立ったばかりの幼子が、大切な人との別れを惜しんでいるようだった。

 ──取られた手を振りほどこうと力いっぱい引っ張るカレーニャだが、アンナは踏み止まって動じない。座の力が万全なら握り潰す事も難しくなかったが、今はもう躯体の強化に回す余裕はない。

 ──ならば、同じ深窓育ちと言えど、団長たちと旅を続けてきたアンナの方が基礎体力で勝る。

 

 

 

カレーニャ

「……チッ」

 

 

 

 ──暫し睨み返すカレーニャだったが、観念したように視線を外し、抵抗を止めた。

 ──余計な力を使う必要が失せたアンナが続きを語る。

 

 

 

アンナ

「館長さん、言ってたよ。屋根裏部屋は、ドリイさんにもよく言って、カレーニャにだけは秘密にしてたって」

「何で秘密にしてたんだろうって思ってた。けど、あの部屋に入って、思ったんだ」

「もしも屋根裏部屋をカレーニャが知って、もしも一歩でも入ったら……上手く言えないけど、カレーニャは二度とそこから出て来れなくなるって」

 

カレーニャ

「それが?」

 

アンナ

「ずっと、カレーニャの事、心配してたんだよ。歳をとって、すぐに息が切れちゃうようになっても、今でもカレーニャにあの部屋が必要になるかもしれないって、もしもに備えてドリイさんに託したんだ」

「誰にも言えない『ごめんなさい』を重ねて、この島の当たり前を演じて生きて、昔の約束を守り続ける事しか出来なくて……だから、だからそのお陰で、ボク達がここまで来れたんだよ」

 

カレーニャ

「あーそう。もういい加減にしてくださあますこと……」

 

 

 

 ──台詞の平坦さとは裏腹に、カレーニャの顔は威嚇する獣のように引き絞られている。

 ──言葉が届いていないのでは無い。心に届いてしまう前に、懸命に跳ね除けようとしている。

 ──振り払おうとするカレーニャの手を、更に両の手で抱え込むようにしてアンナは離さない。

 

 

 

アンナ

「ねっ……もう、いいんだよ。カレーニャはたくさん……あぅっ!?」

 

 

 

 ──アンナが小さく悲鳴を上げ、その瞬間に繋いだ手が引き剥がされた。座の一部が細い針となってアンナの腕を突いていた。

 ──再び浮上を始める異界の座に、追いすがるようにカタリナが尚も説得を試みる。

 

 

 

カタリナ

「カレーニャ! 君は何のために戦うつもりだ!!」

 

カレーニャ

「……夢のため」

 

カタリナ

「何が夢だ! もう何もかも解っているはずだ。ドリイ殿は何故、アンナに座の欠片を託したと思っている!」

「私の指輪も、アンナ達が見てきた屋根裏部屋も、君を心から案じ続けた人々が、魔導グラスから愛する人を遠ざけるために造られた──」

「その想いの力が、私達をこの場に導いた。これが君の愛する人達の答えだ!」

「もう意地を張る意味なんて残ってないだろう。君は君の愛した、そして君を信じてきた人達の、その望みから最も遠い──」

 

 

 

 ──足元に広がるグラスから、吹雪のようにグラスの飛礫がカタリナに浴びせられた。

 ──ほんの一秒ほど、光がグラスを撥ね付けたが、たちまち光は途切れ、後続のグラス弾にカタリナは滅多打ちとなった。魔力切れだ。

 ──崩れ落ちるカタリナを受け止める団長やルリアの足元で、指輪の光を浴びたグラスが蒸発し、屋根板がむき出しになった。落ち着くべき元の形を持たずに作り出されたグラスは、停止すれば消え去るのみだった。

 

 

 

カレーニャ

「意味が有るとか無いとか、あーた方に決めつけられる謂れなんざコレっぽっちもござあませんわ……」

 

 

 

 ──グラスを介した声が響き渡る。先程までよりもゆっくりとだが、ジワジワと座に虹色の光が根のように浸透していく。

 

 

 

カレーニャ

「私はね……聞いたんですのよ」

「お祖母様の、お父様の、最期の言葉を! この世で唯一人、私だけが!!」

「真のオブロンスカヤの悲願はッ、それを叶えられるのはッ、なれるのはッッ、この私だけなんですのよ!」

「間違ってようが何だろうが、やらなきゃ始まらないでしょうが! 後悔なんざ、やってから、幾らでもすれば良い!!」

 

 

 

 ──眩しいが故に、今は濁ってさえ見える何度めかの光が、図書館を照らした。

 

 

 

 

 

 

 

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