グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ)   作:水郷アコホ

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05「落とした物は?」

 ──茶会の賑わいも一段落し、茶菓子も交えて気分も落ち着いた団長達一行。

 ──当初よりも大分余裕をもって、改めて砕けた硝子の件を切り出した。

 

 

 

カタリナ

「──さて、カレーニャ殿。私達が出会った時の事なのだが……」

 

カレーニャ

「敬称は結構ですわ。体裁気にするような相手はこの屋敷にゃおりませんので」

 

カタリナ

「そうか。では、カレーニャ」

「都合が良いように聞こえるかもしれないが、これだけの待遇を受けた後という事も踏まえると、我々は穏便に話し合う事ができる。そう期待しているのだが、如何だろうか」

 

 

 

 ──カタリナの問いに、何故か可笑しさを堪えるような態度でカレーニャが答える。

 

 

 

カレーニャ

「穏便も何も……ねぇ」

「そうですわねぇ。さっきも言いましたが、訳あってドリイさんが戻らない事には……あ、そうだ♪」

「ねえアンナさん。そもそも貴方がた、何をそんなに畏まってらっしゃいますの?」

 

アンナ

「え……ボ、ボボ、ボク?」

 

カタリナ

「カレーニャ? 何故も何も我々は君の……」

 

 

 

 ──ニタニタした笑顔を隠しもせず、手を突き出してカタリナの言葉を遮るカレーニャ。

 

 

 

カレーニャ

「ストォーップ。ダメですわカタリナさん。(わたくし)はアンナさんに尋ねていますの」

「それでアンナさん、お聞かせ願えるかしら?」

 

カシマール

「オイテメー、ヤッパリアンナヲイジメルキカ!」

 

カレーニャ

「お黙り”パリカール”。私はただ、誰が話しても同じになる話を聞こうとしているだけですのよ」

 

カシマール

「”カシマール”ダ!!」

 

アンナ

「だ、大丈夫だよカシマール……えっと、ね。その……」

「そ、そその、そ、それ、それは、わ、あの……」

 

ビィ

「本当に大丈夫かぁ……?」

 

アンナ

「だ、だだ、だ大丈夫…!」

「あ、あの、ボ、ボクが、その……カレーニャの、も、持ってた硝子……わ……割っ、ちゃった、から……です……」

 

カレーニャ

「あら、そうなんですの?」

 

カタリナ

「そうなんですのって……カレーニャ、ふざけないでもらいたい!」

 

カレーニャ

「クスクス……お気持ちはご(もっと)も。自分が何言ってるかは理解してるつもりですわ」

「でも、断じてオふざけてはござあませんわ。馬鹿げているとはお思いでしょうが、どうぞお付き合い下さいな」

「アンナさん。重ねてお聞きしますけれど、私の持ってた硝子とやらが割れた所、はっきりご覧にでもなりましたの?」

 

アンナ

「う、後ろ向いてたから……は、はっきりとは、見て、ない……です……」

「け、けど……割れた音は、ちゃ、ちゃんと聞こえたし、それに……それ、に……足、元に……欠片が……沢山……」

 

カタリナ

「……ッ、カレーニャ、これ以上は……」

 

 

 

 ──アンナの声色がどんどん沈んでいく。先程の光景がどれほど心に刺さっているかは明白だった。

 ──見かねてカタリナが割って入ろうとするが、カレーニャはまるで意に介さず上機嫌で答える。

 

 

 

カレーニャ

「あぁらやっぱり見てらっしゃらなかったのですわね」

「ご心配なく。上辺が御綺麗(おきれい)だからって見かけ通りの物とは限りませんのよ」

「あれは不良品のただのガラス細工。ほら、プラトニアは魔導グラスが有名でしょう? だからお土産物として普通の硝子細工も結構流通してますの」

「ご存知かしら。工場とか大量生産してる所だと、お店に出せない不良品のサンプルを取っといて、従業員に周知させるんですってよ」

「『こういうのを見つけたらすぐさま放り捨てるように』って。あれはそんなサンプルとしての役目も終わった『不良品の不要品』ですの」

「一周回って芸術的なくらい歪んでましたから、私懇意にしてるそのお店から面白半分で譲り受けただけ。だから思い入れはもとより資産価値だって……」

 

カシマール

「ナンダヨソレ! ダッタラアンナガブタレタノハナンダッタンダヨ!」

 

カレーニャ

「お黙りと言ってますわよ”カリバール”。あれはもう謝罪しましたでしょう」

 

カシマール

「”カシマール”ダッテノ!!」

 

カレーニャ

「いいことアンナさん? あの件については……まあ、確かにちょ~っぴり、やり過ぎました。けど、これだけは言っときますわよ」

「幾らあの場で精一杯頑張ったつもりでもねえ、傷だらけの手で血に薄汚れた欠片を『ハイどうぞ』なんて差し出されて御覧なさいな。私どういう顔で受け取れっつう話ですのよ」

 

アンナ

「う……ごめんなさい」

 

カレーニャ

「敬語は結構!」

 

アンナ

「うぐ……ご、ごめん…ね、カレーニャ」

 

ビィ

「うへぇ……じゃあオイラ達、取り越し苦労だったって事か?」

 

カタリナ

「手に入れたばかりの品を損なわせてしまった点については、申し訳ないのは事実だが……値が付くような物でなく、当人の様子からして特段気に入ってたという風でも……」

 

カレーニャ

「そーいうこと。だのに、そーんなガラクタを必死に手ずからすくい上げて自分から痛い目見ようだなんてなったら、そりゃあ──」

 

アンナ

「で、でも……嘘、だよね……」

 

カレーニャ

「……?」

 

ルリア

「アンナちゃん……?」

 

 

 

 ──アンナの声は、カレーニャの質疑に答え始めた時より輪をかけて弱々しい。

 ──だがそれは硝子が割れた瞬間を思い出したからではない。

 ──むしろその抑揚は落ち着き払っている。視線は下を向いているが泳ぐ様子はなく、何かしらの意志を感じさせる。

 ──その顔は本日何度目かの翳りが差しているが、焦りや恐れによるものではなく、哀しみを孕んでいる。

 

 

 

カレーニャ

「嘘なものですか。何ならお見せしましょうか? 私の珍品コレクショ……」

 

アンナ

「嘘だよ……だ……だって、あれ……」

「ま……魔導グラス……でしょ?」

 

カレーニャ

「……!?」

 

 

 

 ──カレーニャの意地の悪そうな笑顔が一瞬、スッと消えた。その喉から溢れた文字にならない声のニュアンスは、What。即ち「何を言っているんだ」ではなく、Why。即ち「何故言っているんだ」とでも表現する方が近かった。

 ──しかしそれらは本当に一瞬の事で、カレーニャはすぐさま元の顔を取り繕った。

 

 

 

カレーニャ

「あ、あらまあ。ただの硝子細工が、今際の際に随分お高く見積もってもらえました事……」

 

カタリナ

「いや。私は……もとい、私達はアンナの言い分を信じる」

 

カレーニャ

「な……根拠は?」

 

カタリナ

「根拠と言えるほど、確かなものはない」

「ただ、アンナは君達と出会う前、町中に溢れる品々から建物の一軒一軒に至るまで、それらが魔力で出来ていると言っていた。その組成から、魔力がどの程度含まれているかまで事細かに見分けていた」

 

カレーニャ

「んな……!?」

「つ、つまり貴方がた、そのお話を信じると……?」

 

ビィ

「あったり前よ! アンナは知ったかぶりするようなヤツじゃないぜ!」

 

ルリア

「アンナちゃん言ってました。魔導グラスやアクセサリーは全部魔力から出来てて、確か……お家とかが、半分くらい石や木が使われてるって」

「合ってますか、カレーニャちゃん!」

 

カレーニャ

「ちゃ、”ちゃん”……!?」

「ン、ンォッホン……ハァ。驚いた」

「旅行者がそこまでお目が高いなんて、思いつく訳ありませんわ……」

 

ルリア

「じゃ、じゃあ、やっぱり……でも、何で急に嘘なんて?」

 

 

 

 ──ルリアの言葉を聞くや益々顔を俯けるアンナ。その様子を見たカタリナが何かを察する。

 ──カタリナもまた、申し訳なさそうな面持ちになり、カレーニャに語る。

 

 

 

カタリナ

「なあ、カレーニャ。もしかして私達が砕いてしまった物、本当に貴重な物だったのではないか?」

「君の言う思い入れにせよ、値打ちにせよ……恐らく、普通の魔導グラスとでは比べ物にならないような」

 

カレーニャ

「え゛……?」

 

アンナ

「……」

 

カタリナ

「理由は……まさか割り込んで来た暴漢から助けた、という事では無いな。元々、ドリイ殿一人で対処する自信があったようだし」

「だがどんな理由にしろ、君は魔導グラスを駄目にした私達を不問とする事にした」

「しかしそのまま事実を伝えて放免したのでは私達に多大な罪悪感を残してしまう。特に、図らずも原因となってしまったアンナはあの有様だった」

「だから、お茶会で緊張を解し、悪ふざけを交えて、『あれはただのガラクタだった』と」

「多少の疑問は残っても押し通してしまえば、私達は誰も実物をハッキリと見ていないし、見ていたとしても──予定通りなら──その価値を確かめようもなかった」

「そうして私達をただ些細なトラブルに巻き込まれただけと思い込ませるため、こうして一芝居打ってくれた。……と言うのは、考えすぎだろうか」

 

 

 

 ──しんみりとした空気が緞帳のように辺りを覆う。全員の目が複雑そうにカレーニャに集中する。

 ──カレーニャは返す言葉に迷っているようだ。ただし、何とも言えないやや引きつった顔をしている。なんなら、こめかみから頬の辺りに冷や汗でも伝っているかもしれない。

 

 

 

カレーニャ

あ……あれぇ……?

「あ゛……あぁ~~~っと……その……ですわねぇ」

 

ビィ

「お、おい……じゃあ今までのって……」

 

カレーニャ

「い、いや、そうでは無いんですのよ! ホント……」

 

ルリア

「カレーニャちゃん! 本当の事、教えてください!」

 

カレーニャ

「ああのですから、本当の事であってそんな嘘なんてそれほど……」

 

アンナ

「ご……ごめんなさい。カレーニャ……」

 

主人公(選択)

・「カレーニャ……」

・「何か様子がおかしいような……?」

 

→「カレーニャ……」

 

カレーニャ

「んっだぁ~~~~もう! ちょっとお待ちなさい貴方がた!」

「もぉ~……ドリイさんは何してますのよ!?」

 

ドリイ

「お待たせしました」

 

 

 

 ──カレーニャの絶叫が終わるか終わらないかの内に、客間の出入り口から声が届いた。

 ──路地で出会った(たお)やかな黒髪の女がそこに立っている。紳士が着けるような気品漂う純白の手袋。そしてその手には刃物も通さなそうな武骨な麻袋が握られ、恐らくその中に件のガラス片が治まっている。

 ──お互いへ視線が釘付けだったカレーニャと騎空団一行から、客間の扉は完全に視界の外であった。

 

 

 

カレーニャ

「ドリイさん……あなた、いつからそこに?」

 

ドリイ

「丁度、『カシマールダ』というお声が扉の外まで届いておりました」

「どうやらお取り込み中のようでしたので、お邪魔にならぬようそっと扉を開けて、それからはずっとここに」

 

カレーニャ

「と、言う事は……」

 

ドリイ

「ええ、カレーニャ」

 

 

 

 ──ドリイは嬉しそうに優しそうに、ニッコリと顔を綻ばせた。

 

 

 

ドリイ

「虚言並びに偽証、不当な圧力、その他淑女に相応しからぬ行為言動、各一点。いずれも初の科目ですよ」

 

カレーニャ

「不当ですわ! 誰のせいでここまで腹芸引き延ばしたと思ってますの!」

 

ドリイ

「明らかに個人的な利益を企図しており、極めて悪質です」

 

カタリナ

「ちょちょ、ちょっと待った。何やら取り込み中の所すまぬが、二人はさっきから何の話をしてるんだ?」

 

ドリイ

「~~~~~ッ……! もう、ッグダグダですわ!!」

 

 

 

 ──カタリナが口を挟み、ようやく一行の存在を思い出した様子のカレーニャが、明らかに機嫌を損ねた様子でドスドスとドリイへ歩み寄り、その手から袋をふんだくる。

 ──そしてそのまま、茶会をしていた席へドッカと腰を下ろし一行を呼び寄せ、テーブルに置いた袋の口を開く。中にはやはりあの大量の欠片が納まっている。

 ──促されるまま対面の長椅子に一同がかけると、カレーニャが憂さ晴らしか空気を無理やり切り替えたいのか、盛大に咳払いをしてから……

 

 

 

カレーニャ

「とにかくッ、今までの話一旦置いといて!」

「アンナさん。そもそも私、貴方に何されたんでしたかしら!?」

 

アンナ

「え…? だ、だから……ボクが、カレーニャのも、持ってた硝子……割っちゃって……」

 

カレーニャ

「あぁらそうなんですの。なら教えてくださいますこと? その割れたガラスとやらが──『どこにあるのか』!」

 

 

 

 ──カレーニャが言い終わる前に、「ガチャリ」と音が響いた。

 ──言葉を理解する前に事実が目の前に現れていた。カレーニャの手の上数センチの空間。人の頭程の大きさの透明な球体が、内部に虹色の光を波打たせながら、打ち付けたように宙で静止している。

 ──膨らみのあったテーブルの上の袋は中身を失い、今丁度しぼみ始めた所だった。

 

 

 

アンナ

「だ、だから、硝子……は……え?」

 

ルリア

「い……今、何が……?」

 

カタリナ

「袋の中の破片が消えて、カレーニャの手元に硝子のような……という事は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一行

えぇーーーーーッ!?

 

 




※ここからあとがき

 念の為に捕捉しますと、アンナの「魔力で出来たアイテムを解析できる」と言った能力は完全に本作でのオリジナル設定です。

 話を進めるために付け足したもので、原作にそのような描写は(筆者の知る限り)一切ありません。
 ただ、水着フェイトにてアンナだけに見える何かを知覚し会話していた描写があり、そこからあれこれ添加したもので、あくまでも二次創作ですので何卒大目に。

 せめてもの言い訳として、「まともな勉強した魔法使いなら誰でも出来る」のか「アンナだけに備わった能力」なのか、その辺は曖昧なまま描写する予定です。
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