グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ)   作:水郷アコホ

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56「夢はりつめて流れ星」

 ──光が止むと、図書館の屋根に深い溝が形成された。

 ──座が砲撃した瞬間、咄嗟にアンナが炎の防壁を作り、団長はルリア達を庇った。

 ──先の指輪の光で屋根板を覆うグラスが取り払われていたため、光と炎がぶつかり合った部分の建材が吹き飛んだのだ。淵を覗き込めば、屋根構造の根本にまで届いている。

 ──しかし階下へ及ぶ被害には至らず、アンナが防ぎきれなかった光線を捌いた団長にも大きなダメージは無い。迫力の割に乏しい威力は、蔵書を重んじる理性がカレーニャに残っていたためか、はたまた全力を振り絞っても今やそれが限界だったのか。

 

 

 

アンナ

「ハァ……ハァ……うぅ……」

 

 

 

 ──アンナが木の葉のようにその場に崩れ落ちた。

 ──とっくに限界を超えているアンナの、自分の技量すら超えた火力は異界の座によって齎されている。

 ──だが、まだまだ魔導グラスの扱いを心得た訳ではない。ドリイのように魔力のリソースの全てを異界の座に転嫁する技術は無い。

 ──火種となる分の魔力をどうしても消耗してしまう。そしてその魔力も、底を突いては僅かに継ぎ足されるのを待っての繰り返しだった。

 

 

 

カレーニャ

「お話の中だったら、高所から落としただけじゃトドメを刺した事になりませんものねぇ……」

「ここまで私を……オブロンスカヤを愚弄して、もう逃してなどやるもんですか! あーた方だけは、私がこの手できっちり看取って差し上げますわ!」

 

 

 

 ──カレーニャの威勢は充分だったが、異界の座の出力は、屋根から僅かに浮き上がった程度しかない。

 ──座の周囲にグラスの槍が形成されていく。穂先は疲弊したアンナと、先の不意打ちからようやく立ち上がったばかりのカタリナに向いている。

 ──槍が造られていく速度は見る影も無い程に緩やかだが、手負いの2人より先んじて放つには充分だった。

 ──しかしカレーニャの背後で座が大きく削れ、砕けた。団長の攻撃が、ツルハシで坑道を拓くように軽々と座に突き立っていく。

 

 

 

カレーニャ

「なっ、こんなに……チィッ!」

 

 

 

 ──既に破壊力を知った相手の攻撃で、ここまで容易く削られるとは思っていなかったようだ。予想を超えた座の弱体ぶりに愕然としながら、慌ててグラス槍を団長へと向け直し発射するカレーニャ。

 ──しかしこれも容易く空中で叩き折られる。最早、団長との一対一ですら手こずる有様だった。

 ──ことごとく捌かれては的確に反撃を差し込まれ、欠損やヒビの再生もままならず、異界の座からの攻撃は段々と、駄々っ子が八つ当たりで物を投げつけるが如く乱雑さを増していった。

 

 

 

カレーニャ

「どうして……どうしてよ……!」

「グラスは……魔導グラスだけは、(ワタシ)の味方のはずなのに……!」

 

 

 

 ──うわ言のような声が、異界の座を伝って漏れ聞こえてくる。

 ──カレーニャ自身がうわ言に気づいている様子はない。がむしゃらに光線を撒き散らし、最早細かな造形も省かれたグラスの塊を投げつけるばかりだ。

 

 

 

ルリア

「何だか……これ以上戦うのは、カレーニャちゃんが可哀相です……」

 

ビィ

「ンな事言ったって、向こうから襲って来てるんじゃ、大人しくしてるワケにもいかねェしよォ……」

 

 

 

 ──実際、カレーニャは時折、思い出したようにルリア達を狙って攻撃を仕掛けてきている。

 ──残らず団長が回り込んで防いでいるが、砕いたグラス塊の破片が流れ弾となって飛んでくる事もあり、ビィの言う通り、哀れんでばかりも居られない。

 

 

 

カタリナ

「……やりすぎたな」

 

 

 

 ──異界の座の背後では、団長の陽動のお陰で無事に体勢を立て直したカタリナが立ち尽くしていた。

 ──剣を手に、未だ膝を突いたままのアンナを守るように前に立って居るが、その佇まいは力なく、足掻き続ける敵へ踏み出せずに居る。

 

 

 

カタリナ

「確かに成果はあった。あれほどの力を削ぐには、他に手も思いつかなかった──」

「だがあの状態では、カレーニャは意地でも敗北を認めないだろうな」

「寄ってたかって、心折れるまで叩き伏せるしかない。虚しい戦いだ……」

 

 

 

 ──慣れない手管の代償を噛みしめていると、背後のアンナがそれに応えた。

 

 

 

アンナ

「……ううん。まだ、足りない」

 

カタリナ

「まだ……?」

 

 

 

 ──思わず耳を疑って振り向く。

 ──枯渇した魔力を絞り出した反動は収まったようだが、アンナはまだ座り込んで俯いたままだ。

 ──アンナは頭を抱え、深い呼吸を繰り返している。やはり聞き間違いかと思い、カタリナが問い返そうとした所で、アンナが続けた。

 

 

 

アンナ

「カタリナが、指輪の話をしてから、……やっとカレーニャは、ボク達の話を聞いてくれるように……なったんだ」

「だから、まだ……。きっと、カレーニャが無理やり『正しい』って思い込んできた事、全部否定しなくちゃ、ボク達の言葉の全部は届かない」

「館長さんやドリイさんの想いを託されたボク達は、カレーニャをやっつけるだけじゃ、ダメだから……!」

 

 

 

 ──ゆっくりと立ち上がったアンナだが、途端に立ちくらみを起こして2,3歩踏み直す。

 ──咄嗟に支えるカタリナ。アンナがすぐに持ち直した様子なのを見て、話を続けた。

 

 

 

カタリナ

「確かに、私だって力ずくで決着を付けるような形は望んでいない。しかし──」

「異界の座がカレーニャの想いを──心を現しているとすれば、あの痛々しい姿は……今の彼女は見るに堪えない」

「泣きじゃくる子に足蹴をくれるような気分だ。それに……仮にアンナの言う通り、それでカレーニャが己の間違いを受け入れたとして……後悔しないか」

 

アンナ

「後悔なんて……もう、とっくにだよ」

 

 

 

 ──顔を上げたアンナは、悲しげに自嘲していた。

 

 

 

アンナ

「カレーニャの夢を壊して、怒らせて……きっともう、許してなんてくれないよ。カタリナ達まで巻き込んじゃって……」

「もっと早く出会えてたら……カレーニャの事を知っていたら、こんな事しなくても良かったんじゃないかなって、そんな事ばっかり……」

「でも……そうじゃなかったから……」

「ボク達は一昨日会ったばかりで。ちょっと特別ではあったかもしれないけど……それだけで──」

「だから、よそ者のボクには、これしか無いんだ。どんなに嫌な事でも、どんなに恨まれても……」

「それでもカレーニャと、この空で、一緒に居たいから」

 

 

 

 ──グラスが島を襲った直後のアンナはまだ、その凶行を止める事が先立っていた。その半生を知った以上、復讐に生きるとて無理からぬと思えた。

 ──復讐は許されぬと、書物も人も口を揃えて言い伝える。ならば一も二もなく引き止めねばと。

 ──しかし、その最終目的と、歪み(こご)った心を知った今は違う。

 ──カレーニャを止めるとは即ち、ただ勝利するだけでなく、夢を諦めさせて、外の世界で生きるよう仕向ける事。否、アンナにとっては、それが第一でなければ成り立たないのだとさえ言えた。

 

 

 

カタリナ

「……──」

 

 

 

 ──やりきれない表情を隠すように、ゆっくりとアンナから顔を背け、思案するカタリナ

 ──カレーニャの口から「逃さない」と殺意の表明があった以上、仲間たちを守るためにもどの道、カレーニャを倒す他にない。

 ──それに、冷徹に考えるなら、やる事は変わらない。アンナが多少言い繕った所で、それはつまりカレーニャが音を上げるまで追い込むだけだ。その後でどうするかの違いでしか無い。

 ──徹底的に否定して、無防備になった心につけ込む。有り体に言って洗脳の手口だ。だが、何重にも固められたカレーニャの心に隙間を空ける手は、少なくともカタリナ達にはそれしか無い。他に残る選択肢は、殺すか殺されるかだけ。

 ──アンナの言う通り、彼らは偶然に事情を知った一介の旅人である。彼らはこの場において只々、力の化身であり、一方的に正しい敵でしかない。

 

 

 

カタリナ

「……解った」

 

 

 

 ──短く告げると、アンナに背を向けた。

 ──次の瞬間には一瞬で間合いを詰め、カタリナの突剣は座へと深々と挿し込まれ、四方に巨大なヒビを作り上げた。

 

 

 

カレーニャ

「なっ!? あ、う、あぅぅぅ……」

 

 

 

 ──予感していた挟み撃ちがついにやって来た。カレーニャは言葉にならない声を漏らしながら、団長とカタリナとの間で視線を忙しなく行き来させている。

 ──団長に翻弄された前面では既に相次ぐ攻撃でトンネルが形成され始め、背後のヒビは座の半分ほどを覆うまでに伸びている。

 

 

 

カレーニャ

「う……嘘よ……こんなの、夢よ……!」

 

 

 

 ──弱音が口を突くカレーニャだが、まだ折れてはいない。

 ──どちらを優先的に相手取るか決めあぐね首をしきりに振りながらも、異界の座全体を眩い光で包み、全方位攻撃の準備に入る。

 

 

 

カタリナ

「ああそうだ。これは夢だ」

「何の罪もない少女が、人々の悪意に晒され、貶められ、とうとう本物の悪魔を求めた──。これはそんな救いのない、ただの悪夢だ!」

 

カレーニャ

「ッ……!!」

 

 

 

 ──険しく眉根を寄せながら、拭い捨てるように言い放つカタリナ。

 ──カレーニャが直ちにカタリナへ目を剥く。指先を獣の爪のように曲げて見せた手を突き出すと、座が変形してカタリナの剣の柄部分を飲み込み、逃さぬよう固定した。

 

 

 

カレーニャ

「何が……何が悪夢よ!」

「ええ良いですとも、何とでもおっしゃいなさい! この島全て! (ワタクシ)という悪夢で包んで! 決して終わらせてなどなるものですか!」

 

カタリナ

「夢を見ているのは君の方だと言ってるんだ、カレーニャ!」

 

 

 

 ──カタリナは決して剣を離さない。至近距離に迫る危機を恐れもしない。

 ──カタリナには解っていた。こうしてカレーニャの注意を自分に向けた今、座の抵抗が止んだ向こう側で何が起こるかを。

 

 ──異界の座から光が溢れ、カタリナの肌に産毛を焼くような熱を感じた瞬間、一際に大きな音が駆け巡った。

 ──防御も、ルリア達の防衛も、隙を探る必要も無くなった団長が、狙いたい箇所に打ち込みたいように武器を振るった。

 ──カタリナが広げたヒビで強度を損なった座とあっては、満を持しての団長の大技を受け止めきれ無かった。

 ──形成不全のエネルギー達は空中に拡散し、座はヒビに沿って盛大に打ち砕かれた。

 ──攻撃の勢いに押されて座の破片が方々へ散っていく。落とした溶けかけの氷のように呆気なく、その大小に関係なく、メートル単位のそれまで一様に。

 ──アンナの魔法然り、この空で戦士の外見と破壊力とは必ずしも一致しない。

 

 ──自らを包んでいた座の全てが散り、残され立ち尽くすカレーニャの眼前では、何事もなかったようにカタリナが剣先を突きつけている。

 ──カレーニャが茫然自失のまま膝から崩れれば、それを剣で追う。そんなカタリナの背後から、真っ赤な光が押し寄せた。

 ──アンナが放った炎が、人と屋根とを避けながら異界の座の破片を包み、蒸発させていく。

 

 

 

カレーニャ

「あ……グラス……私のっ……!」

 

 

 

 ──我に返って座の復元を試みるカレーニャだが、既に心は屈しかけていた。

 ──辛うじて引きずるように破片を動かせる程度。消火もままならない。

 

 

 

カレーニャ

「あ……あ……」

 

 

 

 ──異界の座が失われていくのを見守る事しかできないでいる。

 

 

 

カタリナ

「……まだやるか。カレーニャ」

 

 

 

 ──返事はない。カレーニャは、熱湯に放った氷の如く縮んでいく破片を、人形のように眺めていた。

 ──僅かに火力を管理しきれず、破片の周囲の屋根板が若干焦げたりしているが、引火の恐れはなさそうだ。

 ──駆け付けた一行は、これ以上、何と声をかけたものか言葉を探しあぐねている。

 

 ──おぼつかない足取りで、アンナがカタリナの脇から前に出た。

 ──思わずカタリナが肩を貸そうとするが、それに気付く様子もなく、アンナはカレーニャの前に座り込んで、その手を取った。

 

 

 

アンナ

「ハッ……ハァッ……カ、レーニャ……もう、やめよう?」

 

カレーニャ

「……──」

 

アンナ

「辛い、思い出だけ……背負って生きていく、なんて……哀しいよ……魔導グラスと心中するのと……一緒だよ……」

「全部、諦めてなんて言わないから……お願い。少しだけ、考え直して……」

「その……カレーニャさえ良ければ……ボクたちと一緒に、色んな島を見たり、色んな人に会ったり……それから決めても、きっと遅くないよ……」

 

 

 

 ──鶴のような細い両手が、更に透き通る白い片手を握りしめている。疲労に潤む瞳で訴えるアンナ。

 ──カレーニャは目線だけアンナに向けた。

 ──その瞳を見た瞬間、カタリナは既に、胸に嫌な予感が滲むのをはっきりと感じ取っていた。

 ──ガラス細工か陶磁人形(ビスク・ドール)を思わせる装いとは余りにかけ離れていた。足元一歩前で腹の裂けた猫が腐りきって、蛆の塊と化しているのを見つけたような、この世の[[rb:汚穢 > おわい]]を見る目だった。

 ──カレーニャが本当に全てを投げ出していない限り、届くはずもない。アンナの言葉は文章だけを見れば、既にルリアが呼びかけたそれと、似たりよったりだ。

 ──カタリナの予感が正しければ、アンナの言葉は、カレーニャの心のどす黒いものを膨れ上がらせているだけだ。

 

 

 

カタリナ

「カレーニャ。冷静に考えてくれ。異界の座も君も死に体だ。これ以上の戦いは、お互いに何の利益にもならない」

 

カレーニャ

……シ……

 

カタリナ

「……頼む。解ってくれ」

 

カレーニャ

「…………フッ……フフ……」

「ッハッハハハハ……アハ、ハハハ、ハ……!」

 

 

 

 ──目を伏せたカレーニャが、乾いた笑いを溢す。正気の沙汰の声色ではない。

 ──団長やルリアは、成り行きと言えどカレーニャをここまで追い詰めてしまった事への自責の念に駆られた。

 ──カタリナは、積み上がる胸騒ぎに、剣を持つ手に一層の力を込めた。

 

 

 

カレーニャ

「ハハハ、ハハ……ハァ。どうして、もっと早く気付かなかったのかしらね」

「そうよね。今からだって、ねぇ……」

 

アンナ

「カレーニャ……」

 

 

 

 ──言葉の意味を好意的に解釈したアンナの表情が明るくなると同時、周囲が虹色の光に包まれた。

 

 

 

ビィ

「ウォァッ、ま、眩しい!?」

 

ルリア

「この光、異界の座の……?」

 

 

 

 ──困惑の理由は、その光が未だ燃え盛る座の破片からもたらされた物で無いからだ。

 ──光はカレーニャの、ドレスを含めた全身から万遍なく放たれている。

 ──間近で飛び込んでくる光に目を細めたアンナだったが、輝くカレーニャを改めて見るや、血相を変えた。

 

 

 

アンナ

「カ……カレーニャ! そ、そ……”ソレ”って……!」

「そ、そんな事して、大丈夫なの!? 何で今、そんな事……ねえ、カレーニャ!!」

 

カタリナ

「くっ……離れろ、アンナ!」

 

 

 

 ──からくりはどうあれ、それは異界の座が攻撃を行う前動作に酷似していた。何より、カレーニャの髑髏のような歪な笑みがその目的を高らかに物語っている。

 ──この期に及んで妙な真似に出る理由など、大体はロクなものではない。すかさず剣を突き立てにかかるカタリナ。

 ──相手は銃弾を頭に受けても平然と立ち上がる。何らダメージは及ぼすまいが、何もしないよりはマシだった。しかし……。

 

 

 

アンナ

「ダ……ダメェッ!!」

 

 

 

 ──アンナがカレーニャに抱きついた。

 ──意表を突かれたカタリナだったが、その剣先は辛うじてアンナのうなじ数ミリ手前で停止した。

 ──安堵の息を吐く間も惜しんで、庇い立てしたアンナを問い詰める。

 

 

 

カタリナ

「何をしているんだアンナ! 余り言いたくは無いが、彼女は最早普通の人間とは──」

 

アンナ

「ダメなの! 今のカレーニャにそんな事したら──キャアッ!?」

 

 

 

 ──満足に言い争う間もなく、アンナとカタリナの間に真っ赤な炎が飛び込んできた。

 ──転がったままカレーニャにも操作しきれず、炎上し続けていたはずの座の破片、その溶け残りだった。

 ──不意を突かれて力の抜けたアンナをカレーニャが突き放した。全く同時にカタリナがアンナを背中から抱え上げ、座り込むカレーニャを飛び越え団長達の方へと転がり、破片の直撃を回避した。

 ──カタリナとアンナに大事無い事を確認した一行は、先程までカタリナ達が立っていた地点を見据える。

 ──虹色に光るカレーニャを中心に、砕けた破片が衛星の如く漂い、未だ燃え盛るその体積を見る見る増やしていった。

 

 

 

カタリナ

「力を……取り戻している?」

 

ビィ

「どういう事だよ、さっきまでボロボロだったのによぉ!?」

 

 

 

 ──破片がその一部から虹色の粘性を伴った液体を噴き出し、炎の上から自らを包み込んで消火した。

 ──そのまま液体は固化し、大小のグラス球となった破片がそれぞれにぶつかり合い、粘土のように一塊のグラスに変じて行く。

 

 

 

カレーニャ

「やっぱり……」

「ほんのちょっぴり溢しただけで屋敷の部屋1つ吹き飛ばしたエネルギーが、全部使ってようやくドリイさん一人分なんですもの……」

「命を模倣するリソースは、私の想像を遥かに超えていましたのね」

 

 

 

 ──異常な高揚感を滲ませるカレーニャの顔は、しかし自ら放つ光を差し引いても明らかに血の気を失っている。

 

 

 

アンナ

「カレーニャの体……光ってから、魔導グラスも、『よく解らないモノ』も殆ど無くなって……」

 

ルリア

「そういえば、カレーニャちゃんは生きていくために、異界の座を幾つか体の中に……って、それじゃまさか……!」

 

カタリナ

「体を維持するためのエネルギーを、兵器としての異界の座に明け渡したのか!?」

「魔導グラスが肉体の再生を司っているとするなら、もしあのまま刺し貫いてしまっていたら……」

 

アンナ

「カレーニャ! それ……大丈夫なんだよね!? 怪我とかしなければ大丈夫だから、そんな無茶な事……」

 

カレーニャ

「……ハンッ」

「何で気付かなかったんでしょうね。あなた方もこの島の連中と同じ……正義のために死んで欲しいだけで、人殺しなんてまっぴら御免な手合ですものねぇ」

 

アンナ

「……ッ!?」

 

カタリナ

「自分の命を盾にしようと言うのか……!」

「そうまで……そうまでして、抗うべき相手だと言うのか。私達は……?」

 

 

 

 

 

 ──空中に水晶玉ほどのグラス球が生み出され、その上にカレーニャが寄りかかると、すかさずグラス球はグラスチェアーの形を取り、宙に浮かんだ。

 ──巨大な1つの球となった異界の座が、カレーニャとグラスチェアーを取り込み変形する。

 ──数秒と立たぬ内に、カタリナに引きずり降ろされた直後に見せた、あの全力の異界の座と寸分違わぬ姿がそこにあった。

 

 

 

アンナ

「だ……ダメ、だよ……」

「そんなの……カレーニャ、死んじゃうよ……お父さん達、悲しむよ……」

 

 

 

 ──座り込み、そのまま土下座でもし始めそうな心許ない有様で、懇願するようにアンナが訴えかけた。

 ──見開かれた目には、今しがたカタリナに覚悟の丈を説いた意志の光は無く、焦点が定まっていない。

 

 

 

カレーニャ

「……──」

「知ったような口はもう沢山ですのよ……!」

「じゃあ何? 私の愛する人達は私に、死んだように、無為に、虚しく寿命を貪る生活をお望みだと仰いますの?」

 

 

 

 ──口を開くまでに、僅かに間が空いたカレーニャ。捉えようによっては答えに迷ったようにも受け取れるが、返ってきたのは結局、恨み骨髄に徹さんばかりの極論だった。

 

 

 

カレーニャ

「ねえアンナさん。私、早速指先から痺れて感覚無くなって来てますの」

「魔導グラスは形が8割。あなた方が私を手こずらせて有機体を傷ませでもしたら即刻オダブツ腐るだけ……」

「だから……とっとと諦めてちょうだいな。あなた方から見えるお空がどんなに美しくて、どんなに立派で、どんなに”当たり前”なのか、偉そうに語るくらいは止めやしませんから──」

「だから、二度と動かないで。私のために体ァ張ってるつもりなら……!」

 

 

 

 ──カレーニャの言葉には、底知れぬ否定と嫌悪があった。

 ──先だってのアンナの決意は、カレーニャがこの戦いの後、この空で一人の人間として生きていくという希望を諦めないからこそ持てたものだった。

 ──カレーニャの命あってこそ、許されないやり方さえ受け入れられた。しかしカレーニャの方から死に向かわれたのでは、全てが無駄になる。

 ──このままなら結果は三通り。傷つけて死なせるか、腐らせて死なせるか、そして大人しく討ち取られるかだ。

 ──どう転んでも希望は遠く、失意と罪悪感だけが早くも胸を埋め尽くしていく。

 

 

 

アンナ

「だっ、……だって……だっで……ボ……ボク、は……だ……ただ……っ!」

 

 

 

 ──言い返したくて堪らなかったが、もう言葉を紡げる状態ではなかった。

 ──意思とは無関係に涙が溢れ、喉が痙攣し、なけなしの文句もしゃくりあげて形にならない。

 ──只々、目の前の座が、持ち主ごと虹色の光の塊と化すのを、まるで言われた通りにするようにへたり込んだまま、滲んだ視界で見届けているだけだった。

 

 

 

アンナ

ボク……カレ、ニャ、と……

 

ルリア

「アンナちゃん、逃げて!」

 

ビィ

「いやこれ、オイラ達もヤベェぞ!」

 

 

 

 ──団長とカタリナがアンナの元へと飛び出した直後、虹色の光が白に溶け合い生き生きと、一行の影一つ残さず解き放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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