グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ) 作:水郷アコホ
──仲間たちがこれまで戦ってきた根拠を否定しだしたアンナ。
──当然、困惑の声が上がり、聞こえていたカレーニャも呆気に取られた。
カレーニャ
「な……ハ?」
「だ、だったら、この大立ち回りは何だってんですのよ?」
「私にケチ付けないってんでしたら、とっととお仲間共々地べたに這いつくばって見せなさいよ。デタラメも休み休みおっしゃって!」
アンナ
「イヤだ。カレーニャの思い通りにはさせない……!」
カレーニャ
「全ッ然わかりませんわ。他に何の謂れがあればこんな真似に出られるってんですの」
アンナ
「カレーニャ、覚えてる? 最初に皆で図書館に行く前……」
「カレーニャが、ボクの服の事、良くないって」
「館長さんと初めて会った時も言ってたよ」
カレーニャ
「は……? ふ、服……?」
※回想
ドリイ
「まず、図書館には服装についても何点か規則がございます。アンナ様を例とするなら──」
カレーニャ
「ズバリ!!」
アンナ
「!?」
ドリイ
「──カレーニャ、ここは私がせつ……」
カレーニャ
「『本が幾らでも仕込めます』と言わんばかりのババ臭いダボダボの服!」
「頭以外にも容量タップリ見せつけてる無駄にデカい帽子!」
「直接の武器でも無いクセにやたら嵩張る長もの!」
「極めつけに、これから本読みに行くってのにローソク生やす人間があるかってーモンでえ、ござあますわ!!」
──図書館、地下二階にて。
館長
「……いや何でもない。それよりその客ってのは……ああ、そこの赤髪の?」
「あ~失礼、お嬢さん。年をとると物覚えが悪くってな。どちらの家の方だったかな」
カレーニャ
「
「入館規定に引っかかるイモいおべべでしたから、この私手ずから仕立て直して差し上げましたの」
※回想終わり
アンナ
「本当は、あんな事言われて、凄く嫌だった」
「大好きなお婆様がくれた服だった。お婆様が、な、亡くなってからも、お婆様を思って、ボク一人で同じ服を縫い続けたんだ。図書館の決まりに合わないのは仕方ないけど、バカにしたみたいに言われるのは、許せなかった」
「だから、これはその仕返し。ボ……ボクは、怒った。から……カレーニャのやりたい事を邪魔してやるんだ!」
──言い淀むのは、疲労で舌も呼吸もままならないからだけではない。
──隠しきれない建前の色をカレーニャは見逃さなかった。
カレーニャ
「あぁ~らそう? アレやコレやちゃぶ台ぶちかましといて、それは御大層なお題目ですことねぇ──」
「問答で勝ち目が無いからって、お子ちゃまじみた好き嫌いで開き直ってでもブチのめすアテが欲しいってワケ!」
「そんな言い分でよくもまあ猫背を突っ張れたモンですわねぇ。化けの皮ァ丸剥げツンツルテンのバカ丸出しで!」
アンナ
「バカだって何だってなるよ! 友達だもんッ!」
カレーニャ
「とォも……ん? と……あン?」
──素で「何か聞き間違えた」と解釈したカレーニャの気の抜けた声が返される。
──アンナはそれ以上答えず、霞む意識と視界に耐えるために歯を食いしばり、強く異界の座を見つめ返している。
──カレーニャが何と聞き取ったか。そしてその聞こえたまま、全て相違ない事を、アンナは訳もなく確信できた。
カレーニャ
「いや、黙らないでくださあます? 今なんて?」
「トモダチとか聞こえて……あっ」
──自分から口にして、カレーニャはようやく思い出した。
──先日の夕食会、宴も
※回想
カレーニャ
「ほら、腹ぁ
アンナ
「あ、あの、ボ、ボク……こ、こ、こんな事、しな、く、ても……」
カレーニャ
「”オトモダチニナッテクダサイナ”! ハイ返事ィ!!」
アンナ
「ひっ、は、は、はい!」
※回想終わり
カレーニャ
「いや、え、まさ……ハ、ハァァァあ!?」
「あの茶番いつまで真に受ける気ですの? ここまで何やってきて、今どんな状況か解ってますの? 流石にドン引きでしてよ!?」
──心底から予想外だったようで、驚愕と呆れを隠そうともしないカレーニャ。
──同時にカレーニャにとっての「友人」という関係の定義が垣間見られた。
──仮に”茶番”を交わしたあの時点では互いに友人であると認められたとしても、一連の事件の間にソレは無効となったはずだった。そしてその機会も十分に用意されていた。
──団長達にとっての無辜の民を襲撃した時。その牙が団長達にも向いた時。その犯人がカレーニャだと自ら認めた時。図書館職員に存分に恐怖を味わわせてから取り込んだ時。お互いの価値観は相容れないと痛感した時。
──そして、どちらかの敗北無くして決して譲らない事を示した時。
──これが「友達だと思っていたのに残念だ」なら、カレーニャもまだ合点が行っただろう。
──団長やカタリナが剣を取る事を決意した時、そういった感情が無かったとは言えない。
──だが、アンナはそれでも言い切った。まだ「友達」だと信じている。しかも、それ故に戦うと言う。子供じみた理屈を堂々と掲げて。
──それがカレーニャには全くもって理解できない。
アンナ
「……った……」
「嬉しかった。カレーニャは、魔女としてのボクを見てくれた。女の子としてでも、仲間としてでもない。お婆様の遺した功績も、何も関係なく、ボクを──」
「そして理解して、認めてくれたんだ。ボクのなりたいボクより、今のボクを。立派な魔女になりたくて、それでも自分の事を認められないボクを」
「茶番でも嘘でも、本当に嬉しかったんだ。ずっと……団長さん達が仲間に誘ってくれた時より、悔しいくらいにずっと……!」
カレーニャ
「黙ッ……ぐ……ゼェ~……ハァ……」
「……もういい、お黙んなさい! 痒いのよいちいちセリフが!」
──怒鳴ろうとした息が、殆ど肺に残ってない事に気づいたカレーニャが一呼吸挟む。怒鳴り返した後も肺病を患った老人のように細く乾いた咳を漏らしながら続ける。
カレーニャ
「大体黙って聞いてりゃ、バカがハジケるばっかで全然説明になってないじゃないの!」
「
「アナタの言うオトモダチってのは、命削り合ってまで自分の正義で叩き潰したい人間の事を言いますの?」
アンナ
「”いつか魔法”、を──」
──答えかけたアンナがそのまま停止した。
──その顔は完全に力を失って目は虚空を向いて静止している。
──口元は放っておけば十中八九、唾液を滴らせる形に開かれている。一瞬の油断で睡魔に囚われたようだ。
──団長が慌てて揺すって呼び起こした。
カレーニャ
「あ゛んですって? 続きは?」
──その様子を知ってか知らずかカレーニャが急かす。
──意識を取り戻したアンナが団長へのお礼もそこそこにカレーニャに向き直った。
アンナ
「……カレーニャが言ってた事だよ。ボクと図書館で一緒に勉強した時。『今度、暇が出来たら魔法の勉強をしてみたい』って」
※回想
カレーニャ
「──ん~、実に有意義な時間でしたわ」
「もうすぐ大きな暇が取れますし、その時にでももうちょっと魔法を齧って見ようかしらね」
「なんたって……こーんな素敵なセンスのカタマリ見せつけられたら黙っていられませんもの♪」
※回想終わり
アンナ
「ボクも、もっともっと、魔法を学びたいんだ。カレーニャと一緒に」
「ううん。今度はボクが教えてあげたい。この図書館で
「カレーニャをやっつけたいんじゃない。戦いたくなんかない。でも、カレーニャが夢を叶えたら、カレーニャは独りになっちゃう……それじゃあ、一緒に魔法を勉強できなくなる」
「ボクの本音は、最初からずっと変わってない。出任せなんて1つもないよ。カレーニャに、この空で生きていて欲しいんだ。ボク達と一緒に」
カレーニャ
「……あぁもう……も~う沢山……」
「魔法が何よ。そんなモン、こんな空で無くても1人で十分学べるわよ!」
「あんなムチャクチャなノリで言わされた御為ごかしで、私の10年が不意にされてたまるもんか。アンタなんか友達でも何でも無い!」
アンナ
「何でも無いなら、これから何かになる。あの時のカレーニャが全部ウソだって言うなら、これから本当にする。今度はボクの方から、カレーニャの友達になって見せるから」
カレーニャ
「そもそも友達なんかじゃ無いんだから意地突っ張るだけ無駄だっつってんのが解らないのこのバカ!?」
「アンタに私の友達が務まるもんか。私がアンタを良い気にさせるのは簡単でも、アンタの何一つだって私の得になんてなれないのよ!」
「失ったモノまで満たされてるオマエに、私なんかの必要な物は永久に理解できない!」
アンナ
「解ってあげられなくても、何もしてあげられなくても……ボクをあげる事ならできる!」
「カレーニャの救いが見つかるまで、どこに行ったって、どんな辛い時だって、それでも絶対に離さない!」
「だからカレーニャ。このケンカが終わったら──ボクと、友達になろう!」
カレーニャ
「ケンカから入る友達があるかこの特大バカ!!」
──カレーニャの怒号と共に、図書館を覆う流氷の如きグラスが被覆面積を増し、周辺の路上や建物をもグラスで包んでいく。
──グラスの侵食は見る間に広がり、イフリートの足元へも迫ってくる。
ビィ
「オイオイ……このまま進んだら、イフリートも魔導グラスに飲み込まれちまうんじゃァ……?」
ルリア
「ア、アンナちゃん。どど、どうしましょう!?」
──イフリートの後退で築かれた更地を埋め立て、グラスは洪水のように、早回し映像の氷の結晶のように押し寄せてくる。
──アンナの答えは既に現れていた。アンナの想いの丈に応える座の欠片は虹色の光彩を保ち、包まれた手をも透かさんばかりだった。
アンナ
「進んで……ううん、飛び込んで!」
「ボクの残り全部、どこまで保つか解らないから。少しでも届くように……一歩でも指一本でも、カレーニャの近くへ!」
──アンナの声に迷いは無かった。
──返答の間も惜しむようにルリアはイフリートを全速力で走らせる事で応じた。
──辛うじて倒壊を免れた家屋が全霊の熱気に溶け落ち、路面に灼熱の足跡が穿たれる。
──仲間が覚悟を決めたなら、遠慮も恐れも拭い捨てて全てを託す。これまで何度だってそうしてきた。そして解決してきた。
ルリア
「飛びます! 掴ま……気をつけて!」
──信じて踏み出す炎の一歩が虹色の氷河に触れるその直前、イフリートの巨体が陸上選手さながらに宙に舞った。
──掴まる所もそう多くないイフリートの上で、振り落とされぬよう各々苦心する中、やがて巨人の足がグラスを踏み砕いた。
──着地の衝撃、全力疾走の慣性、そして吹き上がる熱波がグラスを押し分け、滑るようにグラスの河を遡上していく。
カレーニャ
「だから何よ。この期に及んで……!」
──しかし、既に魔導グラスは星晶獣の炎にさえ押し勝っている。僅かばかりの前進の後、イフリートは足首をグラスに固められ、急ブレーキの反動に煽られながら前方へと大きく傾いた。
──同じく反動を受けながらも、どうにか落下を免れた一行が進路を見やると、それでも異界の座とはまだ大分距離があった。
ルリア
「もっと……もっと近くへ!」
──アンナの求めに愚直に応じんと、ルリアはイフリートを立たせる事無く、むしろ自ら倒れ込ませる。
──星空に伸ばすように両腕を掲げさせ、イフリート全体を架け橋に仕立てようとしている。
──しかしこれも中途半端に終わった。
──空中に待機する小型の黒いグラス達が一斉にイフリートの下半身に突撃を仕掛けた。
──黒いグラスはイフリートに激突するや否や弾け、路面を覆うそれと同室の透明なグラスに変質し、巨体を瞬く間に覆っていく。
──イフリートの凍結は胸の下まで一気に進行し、中途半端に傾いた姿勢のまま完全に固定されてしまった。
──残った黒いグラス達も後に続き、イフリートを一変の隙間なく閉じ込めていく。団長達さえ飲み込むのに、もう何秒も要さないだろう。
アンナ
「諦め……ない!」
──アンナが団長を押しのけるようにして駆け出す。
──イフリートの腕はまだ健在だ。これを渡ろうと言うのだろう。
──しかし、その一歩目から、アンナの体が崩れ落ちる。
アンナ
「あ、れ……──?」
──アンナの足が、始めから飾り物だったかのように膝を折った。
──団長に支えられながらも、辛うじて自力で立っていたつもりのアンナだったが、その足腰は既に使い物にならなくなっていた。
──足だけでは無い。座の欠片を握っているつもりのその手も、アンナが期待するような握力は残っておらず、ただ形を保っているだけだった。
──地に付けた足を踏ん張ったはずが、糸の切れた人形のように抵抗もなく膝が折れ、腕を走るどころか転落確実だった。
──海原に揉まれるアンナの意識が、いやに冷静に事態を理解し、存外に小さな無力感を味わいながら眼下に広がる虹色の夢に落ちていく……。
団長(一択)
・「もっと近くへ!」
──団長の両腕がアンナを掬い上げ、我こそはとばかりアンナの足となって、血潮そのものの如き星の豪腕を駆け上がった。
アンナ
「だ……団長さん……!」
──アンナの意識もまた繋ぎ止められた。
──仲間として、これ以上も無く信頼を置くその人の全てが、現実とはどこにあるかを再認識させる。
カレーニャ
「しぶ……っといのよ……いつまでも、フラフラしてる……くせに……!」
「……フッ……お互い様、だけどね……」
──怒鳴り散らした反動で益々呼吸を弱めながらも、カレーニャは眉間にシワを刻みながらアンナを睨みつけている。
──もう本人にも何故いらぬ力を費やして眉根を寄せているかも解らないでいる。
──ただ、尚も諦めないあの魔女が、先に意識の限界に沈むまで、少しでも気を抜くような真似はするなと、心のどこかが吠えていた。
──カレーニャが、老い先短いように震える手を弱々しく握ると、突撃待ちのグラスの内2つが、他のグラス達とは全く別の軌道へと飛んだ。
ビィ
「オッシャー、こうなりゃ行けるとこまで行っちまえー!」
ルリア
「……アッ! ビ、ビィさん危ないッ!」
──1つはビィとルリアの立つイフリートの肩口へ。
──咄嗟に気付いたルリアがビィを引き寄せると、グラスはビィの飛んでいた座標を通り過ぎイフリートの体表へ激突する。
──しかし弾けたグラスはたちまちに広がり、直撃を免れたはずのビィとルリアをまとめて飲み込んでしまった。
──図書館に並び立つイフリートの表面積を覆い尽くすには数を要するとしても、人1人と小動物1匹が相手なら造作もなかった。
──事態を理解した時、ビィとルリアは己がプラトニア市民のように取り込まれる事に恐怖するより、先へと進む団長とアンナを案じた。
──グラスの中はまるで水中のように体の自由が効いた。取り込む準備は既に万端なのかもしれない。しかしそれはまだ後回しのようだ。グラス越しにイフリートの残る腕を見やる。
──団長たちはイフリートの手首の上。今や力なく垂れ下がった手の甲に到達しようかと言うその直前で……団長が魔導グラスに足を掬われていた。
アンナ
「だ、団長さん! だん……」
「ウッ……くぅ……」
──足首から先がグラスに埋まった団長は、倒れ伏しながらも両腕を差し出し、アンナを少しでも前方へと押し出していた。
──団長を案じるアンナだが、手足は震えて自分の身一つ起こせず、平衡感覚まで失い体があらぬ方向へ転げようとする。
──黒いグラスがルリア達を狙った時、同じくカレーニャの指令を受けた残り一方は、団長とアンナを狙っていた。
──そして団長の脚力は、僅かにこれを回避するに至らなかった。
──団長はグラスを砕こうと足掻くが、傷一つ付かない。
──そして未だなお、アンナ達から異界の座まではイフリートが直立で一体分の距離が開いている。
──アンナがここで団長を救助するために力を使えば、最早次に転じる余力はない。
──それでも一か八か、最期の力を振り絞るべきか。アンナは異界の座を見上げるが……。
アンナ
「(だ……ダメだ……ここからじゃ、まだ……)」
「(……違う……ボクが……ボクが、弱すぎたんだ……!)」
──目が霞むだけでなく、視界の隅が暗くてよく見えない。。
──倒れた拍子に投げ出され、横たわった体が、意思と無関係に代謝を落とす。力だけでなく体温まで失われていくのが感じ取れる。
──力を開放するどころではない。ただ祈り、想いの力を繋ぎ止めるのが精一杯だった。
──ここまで奮闘し続けて、アンナの身が真に脆弱であったとは、少なくとも仲間は誰一人として思いはすまい。
──それでも、アンナがアンナ自身を許せなかった。最後の誤算を覆す、もう一押しだけの力を持ち合わせていれば……。
──しかしもう、全力振り絞ったとて、せいぜい手足を2、3度振り回して見せるのがやっとだった。
──どこかで巨大な物体が落下し、地響きを立てた。
──イフリートの反対側の腕がグラスによる凍結で損傷し、肩口からまるごと地に落ちたのだが、そんな事を確かめる事もままならない。
アンナ
「(あ……グラスが……ボクの足まで来てる……)」
「(団長さん……みんな…………カレーニャ……)」
「(ごめんね……)」
???
「マダオワッテネーダロ!!」