グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ) 作:水郷アコホ
──砕けた硝子が、目の前で元通りに戻った。
──団長達は、ドリイを交えて一連の出来事の説明を受けていた。
カタリナ
「つまり、まとめるとこういう事か……?」
──困惑と苦々しさと呆れの混じった顔でカタリナが語る。仲間達も大体同じ様な表情をしている。
カタリナ
「私達が砕いてしまった……その今キレイな形で浮いている魔導グラスは、確かに大切な物ではあった」
「だが、元々それは『簡単に砕ける』ように出来ていて、なおかつ『簡単に元通りになる』ように作られていた」
「しかし屋外で砕けてしまうと、そのまま修復させると砂などの不純物を巻き込んでしまうため、一旦回収して汚れを落とす必要がある」
「修復する前に私達と別れてしまっては、要らぬ後ろめたさを抱かせかねない。だから私達を引き止め屋敷に案内し、何も問題は無いと説明するためだった……と」
「確かに、先程アンナの治療を念入りに行ってくれた事も、微細な破片を回収するためと考えれば合点が行くが……」
ビィ
「でもそれってよぉ、普通に口で説明すれば十分だったんじゃねぇか?」
カレーニャ
「すぉ~~~~んな事は今になったから言える事ですわ。何も知らないまま『割れた硝子は元通りになるんです』なんて言われたって貴方がた、幾らお人好しそうな面構え並べなすってたってそうそう鵜呑みにはなさらな──」
ドリイ
「きっと、皆様の前で修復を実演してみせて感動と安堵の眼差しを集めたかったのではないかと」
カレーニャ
「じゃ、邪推でしてよドリイさん!」
──誰ともなく、「うーん」といった感じの呻きが漏れる。
カタリナ
「つまり、『砕けたのはただの硝子』という一点が嘘である、と……で、そんな作り話をした理由というのが……」
ドリイ
「はい。私が些事を片付け欠片の洗浄を終え、客間に運ぶまでの時間稼ぎかと」
「引き延ばしのために野放図についた嘘で、謂れのない同情を集め進退窮まり──」
「偽証一点」
カレーニャ
「それさっきまとめてカウントなさったでしょうが。サラッと上乗せしてんじゃござあませんことよ!」
ルリア
「あのぉ……最初に会った時から気になってたんですが、その『ぎしょーいってん』とかって何ですか」
「カレーニャちゃんが大人しくなったり……何かの呪文でしょうか?」
ドリイ
「
カタリナ
「ま、待ってくれ。その『保護監査官』というのも耳慣れぬ言葉だ」
「そもそも君達の名前は成り行きで知れたが、君達が何者なのか全く知らないんだ。自己紹介してくれるのなら、いっそ細かく説明を願いたい」
──ドリイが「はて」とでも言いたげに小首を傾げた。よほど予想外だったのか。しかしどこかわざとらしげでもある。
ドリイ
「カレーニャ。まだ我々についての自己紹介は──?」
カレーニャ
「ああ……色々やってる間にすっかり忘れてましたわ」
ドリイ
「その他マナーに
カレーニャ
「ミスですわよ、純然たるミス! 過失! これから話すから取り消しなさい!」
カタリナ
「あー……ドリイ殿。その点数は恐らく何か、お仕置きの類に思われるが、僭越ながら許してやってもらえまいか。言われてみれば私達も翻弄されるばかりで、名乗るのをすっかり忘れていた」
「それと、差し支えなければ先にこちらから貴殿達に自己紹介させてほしい。ここに来てから受け身になってばかりなものでな」
ドリイ
「あら。そういう事でしたら仰せのままに」
──団長達の簡単な自己紹介を受けたカレーニャとドリイ。
カレーニャ
「旅の騎空士の方々……そちらのアンナさんの希望でこの島に初めて降り立った、と。なるほどね──」
──言い終えると、何か小声でドリイに語りかけるカレーニャ。手帳に彼らの自己紹介を
──少し考えるような素振りをした後、何事も無かったようにカレーニャが自己紹介を始めた。
カレーニャ
「では改めまして、先程から通しでお初にお目にかかりますわ皆々様」
「
「そしてこちらが、プラトニア政府から派遣されたドリイ・クレアヴナさん。私の身の回りのお世話をすると同時に、こうして私を逐一監視するのがお仕事ですわ」
ドリイ
「以後、お見知りおきを。──多少の脚色はありましたがカレーニャ、よく出来ました」
カレーニャ
「そりゃあもう誰かさんに毎週みっちりシゴかれてますものねぇ。さて、長らくお引き止めしちゃいましたけ、ど……」
「何ですの? 素っ頓狂なお顔並べなすって」
──団長達は、皆思い思いに驚きやその他諸々の表情を向けている。畳み掛けるように各々問いを発する。
ルリア
「カ、カレーニャちゃんがこの島の魔導グラスを!?」
ビィ
「しかも唯一って事は、一人でこの島のモン全部作ってるって事か!?」
アンナ
「ひ、一人でって……カレーニャ、あの……他に、か、家族の人とかは……?」
カタリナ
「落ち着け皆。そう捲し立てたらカレーニャ達も困ってしまう」
「……まあ、私もドリイ殿の立場についてよく飲み込めなかった所もあるが……」
カレーニャ
「あーはいはい。順番に答えますから。とりあえずまずは……」
ドリイ
「……フフ」
──受け答えするカレーニャに、それを見て何やら笑みを溢すドリイ。しばしの質問タイムが始まり、カレーニャとドリイの関係が明らかになっていく。
──魔導グラスはそもそも、カレーニャの祖母が晩年になって発見した物質で、魔導グラスは祖母の直径の血筋で無ければどうしてもうまく造れないのだという。
──カレーニャはその末裔にあたる。彼女以外の家族は不幸が重なり既に鬼籍に入った。
──しかし魔導グラスが国にとって欠かせない資源となっていたプラトニア政府は、魔導グラスを生み出せる最後の一人となったカレーニャを国を上げて保護する事を決定。
──このため、当初はカレーニャの身の回りの世話、教育、身辺警護を担当する「保護管」が派遣されていたが、カレーニャはある時、魔導グラスの研究中に爆発騒ぎを起こしてしまう。
──元より保護管に協力的でなかった……有り体に言ってかなりのじゃじゃ馬だった事もあり、他者は元よりカレーニャ自身を危険に晒す訳にはいかないと、従来の保護管の職務にカレーニャの逸脱行動を監視し必要に応じて罰則を課す事を加えた「保護監査官」が新たに彼女の元へ送られる事となったそうだ。
カレーニャ
「まあつまり、人間国宝サマが素行を危ぶまれてこのザマという訳でござあますわ」
「私のお世話焼きながら、出過ぎた真似には罰を与え、そのくせ魔導グラス作りもサボるなと来たモンですわ。私ったら可~愛そう」
カタリナ
「大体は解った。ご家族については、知らぬとはいえ失礼した。しかし何というか、その……」
ビィ
「爆発騒ぎって……思った以上にハチャメチャなヤツだな……」
ルリア
「でもあの……罰って、一体どんな……」
アンナ
「……何だか、息苦しそう……」
カレーニャ
「あ、ほぉらドリイさぁん♪ お宅様の方針に皆さんドン引きでしてよ?」
ドリイ
「カレーニャ。嫌味は禁止行為に含まれておりませんが程々に」
──憐れみの声に対して、カレーニャの態度は待ってましたとばかりに軽い。
ドリイ
「──確かに、余り聞こえの良い扱いではありません」
「しかし役職を預かる身として弁解させていただくなら、あくまで職務を文面通りに執り行えているなら、もう少し体裁を繕う事もできたかと」
カタリナ
「ん? というとつまり……」
──持って回る口ぶりだが、カタリナは何となく、言い回しの意味を察した。
──カタリナ本人の意思に反して、心は苦笑の準備を整えていた。
ドリイ
「カレーニャのこの言動と佇まいが、全ての実態と申し上げてしまっても過言ではありません」
「彼女が今日のようにペナルティを何点ももらう事は珍しくありませんし、勉強時間の延長を始めとした罰則も何度も踏み倒されています」
「そして何より、カレーニャが溢すような──私共が彼女に魔導グラス運用を怠るなと訓告等を下したという事実は一切ございません」
「勉強部屋に押し込んだ時も、ベッドに縛り付けた時もです」
アンナ
「そ……それって……」
ドリイ
「はい。籠の中の鳥のようだと思われるかも知れませんが、現場の声を表現するなら、檻の中の星晶獣です」
「カレーニャはあらゆる時間を魔導グラスに費やしています。国中の魔導グラス整備を終えてなおも研究に没頭し、そのためには手段を選びません」
「お恥ずかしながら今現在、彼女を責任持って管理できる人材は私一人限りに──」
カレーニャ
「あぁらひっどーい。年端も行かない乙女の前で何て言い草なんでしょー」
ビィ
「何か、すげぇ納得した……」
カタリナ
「つ、強いのだな。カレーニャは……」
──ドリイの品位を着せた苦言も意に介さず、不敵な笑みのカレーニャは手にとったティーカップの中身を飲み干す。
カレーニャ
「さあて、いい加減に次は貴方がたの番でしてよ」
「長らくお引き止めしちゃいましたけれど貴方がた、元々何か別にご用がお有りなのでしょう? どうせ今日は私もヒマですし、案内して差し上げますわ。ドリイさんが」
ビィ
「あ、そうだすっかり忘れてたぜ! 俺たち図書館に行くためにプラトニアに来たんだった!」
カレーニャ
「あー……図書館」
ドリイ
「ふむ……」
──瞬間、カレーニャの眉がピクリと動く。ドリイのメガネがキラリと光る。
カタリナ
「ああ。これもアンナの希望でな。彼女の役に立つ知識があるんじゃないかと、皆で調べに行く所だったんだ」
アンナ
「と……図書館は凄く目立つから、案内してもらわなくても……た、多分大丈夫だよ」
ビィ
「だったらなるべく涼しい場所通って行く方法とか教えてもらおうぜ。またアンナが倒れちまわないようにな」
アンナ
「ビ、ビ……ビィくん、それは、あの……」
──楽しげに語る一行に割り込むように、カレーニャが聞こえよがしな抑揚で声を上げる。
カレーニャ
「それは重畳でしたわねぇ、私達に出会えたのは実に重畳。ねーえドリイさん?」
ドリイ
「カレーニャ。悪質ですよ」
ビィ
「何だ? オイラたちこのまま図書館行ったら、何かマズかったって事か?」
カレーニャ
「クスクス……マズいも何も、ねぇ?」
「貴方がた、真っ直ぐ図書館の正門潜ろうなんて思ってたら……門前払いされてた所でしてよ?」