グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ) 作:水郷アコホ
──しばし時間を置いて、動揺が治まってきた団長達だったが、入館に立ちはだかる壁に頭を抱えていた。
カタリナ
「……ひとまず、こうするのはどうだろう」
「問題があるのは、私とアンナだ。となれば一旦船に戻って、アンナに替えの衣装を見繕い、
ルリア
「そんな……それじゃあカタリナはどうするんですか?」
カタリナ
「主役はアンナだ。私は外で待っているよ。それにそうすれば、ついでに宿を探したり後々巡りたい店の目星をつける事だってできるじゃないか?」
──あくまで気丈に振る舞って見せるカタリナだが、そんな態度で納得できる一行ではない。
ビィ
「でもよぉ。それ、何だかオイラ寂しいぜ……やっぱり姐さんも着替えるって事は……」
カタリナ
「済まないが、鎧を着けていないと落ち着かないんだ。ハハ、もう職業病だな」
「かと言って今から防具を見繕っていたのでは、とてもじゃないが図書館に行く時間もない」
──拙い自虐ネタを交えながらも、自分の扱いについて譲らないカタリナ。
──そしてアンナもおずおずと口を開く。
アンナ
「そ、それに……ボク……ほ、他の服も大体同じのばっかりで……」
ルリア
「で、でもアンナちゃん、お婆さんが遺してくれたあの服なら大丈夫かもですよ!」
ビィ
「いやぁ……あれもでっかい帽子付いてたしなぁ」
ルリア
「じゃ、じゃあ、帽子だけ置いていけば……!」
アンナ
「ご……ごめんルリア。帽子が無いと、ボク……は、恥ずかしくて……」
ルリア
「あうぅ……」
──難航する会議を蚊帳の外から、カレーニャは不思議げに眺めていた。
カレーニャ
「観光一つで随分深刻なお顔ぶら下げなさるのね、あの方々」
ドリイ
「それだけ深い繋がりがあるという事ですよ、カレーニャ」
「……もういい加減、汚名返上には十分なタイミングなのでは?」
カレーニャ
「ホント、余計な所までお見通しですのねえ、ドリイさんたら……」
「──それじゃあその前に、私に赤っ恥かかせてまでじ~っくり確かめた結果、聞かせてもらいましょうか」
──先程までより音量を落としてカレーニャがドリイに問う。その顔も無意識にか、少し冷たい雰囲気を漂わせている。
ドリイ
「はい。やはり、カレーニャの予想通りです」
──ドリイが懐からなにか取り出しカレーニャに見せた。先程も別室で眺めていた、赤く輝く小さな物体である。
カレーニャ
「……はぁ~。可能性はゼロじゃないとは思っていましたけど、まさかこんな日になって……ねえ」
ドリイ
「いっそ、しばし延期なされて様子を見てみるというのは?」
カレーニャ
「冗談おっしゃい。だからって何の足しにもなりゃせんでござあましょうが」
ドリイ
「……左様ですか」
──カレーニャが手を叩いて一行の注意を向ける。振り向く団長達。先程の二人の会話に気づいていなかった一行には、見据えた先のカレーニャは、ただずっと自分達を眺めていただけのように何の変哲もない雰囲気だった。
カレーニャ
「はーいはいはい。お取り込み中のトコすいませんけれど、ちょっと聞いていただけますこと?」
「ほいじゃドリイさん、説明お願いしますわ」
ドリイ
「畏まりました」
──ドリイが一歩前に出て、まず一行にお辞儀をする。
ドリイ
「カレーニャから、一つ提案がございます」
「先程にも申し上げました通り
「皆様にもし差し支えなければ。そして私とカレーニャにお任せいただけるなら、皆様を受付にて最低限のやり取りでご入館させる準備がございます」
ルリア
「えーっと……つまり……?」
カタリナ
「何か、入館規定をやり過ごす裏技のようなものを紹介する……という事か?」
ドリイ
「簡潔に申し上げればそのように」
ビィ
「お、おいおい、良いのかよそんな事して?」
ドリイ
「我々としましても、折角のご旅行に水を差したままでは立つ瀬がございませんので」
「加えて、皆様のお人柄についても先程から私なりに伺って参りました。悪用される恐れは無いと判断致します」
カレーニャ
「ま、これは私からの──」
ドリイ
「カレーニャの諸々の無礼に対するせめてものお詫びと失態の穴埋めも兼ねて、どうぞお任せ頂きたく存じます」
カレーニャ
「ちょ、お詫びとか穴埋めとか余計ですわよ! そんな文言付けろと言ったつもりござあませんわ!」
ドリイ
「あら。失礼しました、カレーニャ」
──二人の提案にルリア、ビィ、団長がまず食いついた。
ルリア
「カタリナ! ドリイさん達が、何とかなるって……!」
カタリナ
「お、落ち着けルリア。そうは言っても私の事情はそう簡単には……」
「それに理由はどうあれルールを破る事には変わりないんだ。おいそれと甘んじる訳にはいかない」
ビィ
「まぁ良いじゃねぇか姐さん。マズそうだったらその時考えようぜ」
団長(選択)
・「カタリナと一緒が良い!」
・「アンナのためにも!」
→「アンナのためにも!」
アンナ
「だ、団長さん……!」
「団長さんがそう言ってくれるなら……は、話だけでも……」
カタリナ
「……やれやれ、仕方ないな」
「ドリイ殿。こちらの考えはまとまった」
ドリイ
「畏まりました。では準備を要しますので、皆様外出のご用意をお願い致します」
ルリア
「あ、あのぉ……ドリイさん」
「カタリナが図書館に入れないのは……む、難しい理由だからってさっき聞きました。それで、その……」
ドリイ
「どうかご安心ください。ご尽力次第という面はどうしてもございますが、カタリナ様については、今のお召し物のまま入館いただくプランを用意致しております」
ルリア
「……!」
──いつものルリアらしい、パッと開くような笑顔が溢れた。
ルリア
「わーい! カタリナ、大丈夫だって!」
カタリナ
「あ、ああ……」
「(どうも不安が残るが……まあ、ルリアもこんなに喜んでいる事だし……)」
──カタリナの拭いきれぬ不安の訳は、その視線の先にあった。
──カレーニャが、先程の茶会で度々見せた、含みのあるニヤついた笑みを浮かべているのだ。
──少し時間を飛ばして、カレーニャ達に促されるまま屋敷の外へ出た一行。その行き着いた先は……
ルリア
「ここって……」
ビィ
「服屋……だよな? 見た事ねぇほどデッケェけど……」
アンナ
「ボ、ボボボボク……場違いじゃないかなあ……」
カレーニャ
「場違いで無くするために来たんでござあましょうがよ。折角ですから好きに見ておきなさいな」
──アンナのドレスコードを回避するための策とは、新しく服を仕立てる正攻法だった。
──アンナが気づいた時には抵抗するには既に遅し。ブティックと言う巣に担ぎ込まれた後だった。
──団長達はズラリ並んだ礼服や流行りの衣装と小物達に囲まれ、目が泳ぎきっていた。
──服、服、服、時々バッグ。その他諸々がどこを向いても飛び込んで来るというのに、なお悠々と歩き回れるスペース。天井も一見して無駄と思えるほどに高い。
──客層も、今しがた視界の端を軽やかに駆け抜けた幼い女の子のそれさえ、団長達とは明らかに格が違う。
──団長達がこういった場に足を踏み入れるとしたら、レ・フィーエやセルエルを伴っていなければ道理に合わないとさえ思える別世界だった。
──遠くに居た、ベテランと言った風の年配の女性店員が、カレーニャを見つけるなり他の店員に一言二言告げている。申し付けられた店員は早足でどこかへ去り、女性店員がカレーニャの元へ歩み寄る。
女性店員
「まあ、カレーニャ様。申し訳ありません、先程ニコラを別の仕事に回したばかりでして……」
カレーニャ
「
女性店員
「恐れ入ります。たった今、呼びに行かせた所ですので。少々お待ち下さい」
──女性店員は近くの休憩用の椅子に皆を案内すると、先の店員同様、足早にその場を離れていった。
──最初に出会った時の浮遊する硝子の椅子に座るカレーニャと、普段からカレーニャと通い慣れているであろうドリイ以外、落ち着かぬ様子で椅子に腰掛けた。
──間もなくして、別の女性店員がカレーニャの元へと歩み寄ってきた。カレーニャより少し年上程度で、こういった店の店員にしては随分若く見える。
──左手の小指に控えめなピンキーリングが光る以外に化粧っ気のかけらもない。
──従業員として節制を心がけるにしても、この様な店では流石に多少は着飾るべきで無かろうか。あるいは、化粧に縁遠いルリア達女性陣には見分けの付かないナチュラルメイクか。
──ともあれ、若さと溢れる快活な雰囲気で全てを補えているような女性だった。
──彼女は先程の年配の店員より随分と気安い口調でカレーニャに語りかける。
若い店員
「お待たせしました、カレーニャ。何か忘れ物でも?」
カレーニャ
「お早い到着何よりですわ、ニコラさん」
「ご心配なく。新しく買い付けに来たんですの」
ニコラ(若い店員)
「ご購入ですね。となると……そちらのお連れ様にですね?」
カレーニャ
「そういう事。図書館へ行くつもりの旅行者と言えば、
ドリイ
「カレーニャ。悪質な表現ですよ」
ニコラ
「あはは……えーとでは、すみません。そちらの赤い髪のお美しいお客様」
──カレーニャの言い方のせいで、やや申し訳なさげにニコラがアンナに語りかける。
──この場で見るからにドレスコードに引っかかる同行者は彼女しか居ないのだ。アンナもすっかり消え入りたくなっている。
アンナ
「や、やっぱりボクってわかっちゃうんだ……って、あ、あの、う、うう、うつ……く……!?」
ニコラ
「はい。とても素敵ですよ。失礼ですが、ご職業は魔導士さんでしょうか」
アンナ
「あ……えと……その……えっと……」
ルリア
「そそ、そうなんですよ。アンナちゃん、ちょっと人見知りさんですけど、とっても頑張り屋さんで……」
ビィ
「アンナのやつ、まだ初対面の人間だとアガっちまうかぁ……」
──ルリアが精一杯フォローを入れるも気まずい空気を覚悟する一行。だが……
ニコラ
「わ、当たりですか? 良かった~」
「お客様、とってもお似合いですよ。プラトニアの魔法使いの方って大体学者や先生と兼業だからお硬い服装の人ばっかりで──」
「こんな雰囲気あって格好良い魔導士さんに会えるの初めてなんです! 今回は私が責任持ってコーデさせていただいて、もう一生自慢して、それから……」
アンナ
「うぇえ!? あ、あの……あのぉ……!?」
カレーニャ
「こらこらこらニこらさん。だぁれがお任せすると言いまして?」
ニコラ
「えぇ!? そんなあんまりですカレーニャ!」
「こんな綺麗なお
カレーニャ
「よぉ~しよしよしよしよし。もーぉ絶対譲らない。第一、何のために私自らここまで案内してきたと思ってますのよ」
──いかにも「しまった」と言った仕草で口に手をやるニコラ。
──顎と眉間に力の入った笑顔のカレーニャ。
──ラインの出ない豪奢な服装だが、どうやらカレーニャに体型の話は禁句のようだ。
ニコラ
「ち、違うんですカレーニャ、そういうつもりじゃ……うぅぅ~……」
「お、お客様。今度……今度ご来店くださる時は、是非私を呼んで下さい……是非ともぉぉぉ……」
アンナ
「は、はあ……」
──ヨロヨロとアンナの手を取るニコラ。その目には涙さえ滲んでいる。
ビィ
「なぁなぁ。店員の姉ちゃんが楽しいやつなのは解ったけど、さっきから話が全然見えねぇぞ」
「この姉ちゃんがアンナの服選んでくれるんじゃねぇのか?」
カレーニャ
「すぐわかりますわよ。ニコラさん、とっとと案内してくださる?」
ニコラ
「はいぃ……ん?」
「あっ。あちらの『研修の方』は、ドリイさんの?」
ドリイ
「はい。リーナ、行きますよ。ついて来なさい」
リーナ?
「う、うむ……」
──団長達と少し距離を置いて立っている、「リーナ」と呼ばれた、緑色のローブで顔を隠した女性が短く応える。
──ニコラ、カレーニャ、ドリイが先頭に立つ形で店の奥へと連れ立って歩いていく。
ニコラ
「そっかあ。新しい保護監査官さんかあ。ずうっとドリイさん一人でしたから、少しは楽になりますね?」
ドリイ
「ええ。まだまだ研修ですので、確定したわけではありませんが」
「良い機会ですのでご紹介します。彼女はリーナ・カーター」
「かつてはとある島で騎士を務めた事もあるそうで、とても期待できる方です」
ニコラ
「騎士様! わあ格好良いなぁ~。よろしくお願いしますね、リーナさん!」
リーナ
「あ、ああ……こちらこそ」
ニコラ
「わあ! 喋り方もお声もとってもクールです! フードから覗くお髪もセクシーで──」」
ドリイ
「前職の癖が抜けきらないのが玉に瑕です」
──ドリイ達や団長達の歓談を見届けながら、リーナ・カーターことカタリナ・アリゼは、カレーニャの屋敷を出る直前の事を思い出していた。
※回想
──屋敷を出る直前、カタリナはドリイにある物を手渡された。
──萌葱色より若干暗い布地。面積はほぼ全身を覆えるだろうか。
──厚手に見えるが、手触りと言い重さと言い、真夏の炎天下でも無ければ纏っても殆ど不便は無さそうだ。
カタリナ
「これは……ローブ?」
ドリイ
「はい。まずは屋敷を出てから目的地へ向かう間、カタリナ様にはこのローブを纏っていただきます。なるべく、鎧の誂えが見えぬようしっかりと」
カタリナ
「これで姿を隠せと言うのはわかるが……却って怪しまれるのではないか?」
ドリイ
「どうかご心配なく。そのローブはかつて私が使っていた、保護監査官を始めとした一部の役職に支給される研修生用のローブですので」
カタリナ
「研修生用……つまり、このローブが身分の証明になると?」
ドリイ
「はい。保護監査官を含め、このローブを纏う仕事は国家を担うに足る役職が期待され、市民にも広く認知されています」
「容貌にも勝る評価を集める故に、研修中は自分の顔も隠れる程にローブを纏う者が珍しくありません」
「私が傍らに立てば、まず殆どの者はカタリナ様の身分を疑う事は無いでしょう。例えそれが図書館の職員であろうと」
カタリナ
「なるほど。エリートの証という事か」
「しかし、それでも些か不安は残るな。物にぶつかったり、何かの拍子に鎧が見られてしまう可能性も……」
ドリイ
「申し訳ございませんが、その点についてはカタリナ様のご配慮次第となります」
「しかし国民の大半はエルステの鎧を大まかなシルエットでしか認知しておりません。篭手や脛当てのようなごく一部程度ならばまず気付かれる事は無いでしょう」
「また、人混みや図らずも訝しむ声があった場合には、私が全力でフォローさせていただきます」
「まずは目的地までその姿で移動していただいて、問題があるようでしたら、別のプランを用意致します」
カタリナ
「……そうだな。解った」
「勝手ですまないが、先程の弱音は忘れて欲しい。厚意に
ドリイ
「誠心誠意、カタリナ様の決意に報いて見せる所存です」
「では、屋敷を出てからのカタリナ様は、元・他国の騎士だった研修生、『リーナ・カーター』として振る舞っていただきます」
「不意に本名で呼ばれては疑惑を招いてしまいますので、略歴についてはルリア様達にも周知し、共有していただきます」
カタリナ
「り……リーナ……カーター……わ、わかった」
──この際、取って付けたようなネーミングセンスは考えない事にした。
※回想終わり
──リーナことカタリナが自らの「設定」を再確認している内に、一行は目的地に到着していた。
──別の部屋への入口前のようだ。観音開きの扉が目の前に鎮座している。かなり店の奥まで歩いたようで、振り返っても玄関は見えない。
ニコラ
「では、すぐに『候補』を運び入れますので、アンナ様達は中でお待ちを」
ルリア
「あ、はい。ここ、何の部屋なんでしょう?」
ビィ
「この中でどんな服買うか決めるんじゃねぇか? 何かそういうの金持ちっぽいしよ。とりあえず入って見ようぜ!」
カレーニャ
「ちょい待ち!」
──すぐさまニコラはどこかへ去っていった。言われた通りにドアノブに手をかけようとするルリア達をカレーニャが呼び止める。
ビィ
「何だよ。部屋の中で待つんじゃねぇのか?」
カレーニャ
「説明する前に……アンナさん、”フラジール”を誰か──とりあえずビィさんにでも持たせて見て下さる?」
アンナ
「え? う、うん」
カシマール
「イヤマテ”カシマール”ダッテノ! ワザトヤッテルダロ!」
──カシマールの抗議を完全にスルーしているカレーニャ。カシマールがビィの手に渡るのを確認すると、おもむろに自らが腰掛ける椅子から降りた。
カレーニャ
「んでは……ちょっとアンナさん、私の”魔導グラスチェアー”に腰掛けてみて下さる?」
アンナ
「う、うん」
ビィ
「そのまんまな名前だったんだな……」
──「立つ」と「座る」の中間のような、絶妙な角度の椅子にアンナが腰を降ろした所で、ニコラが大量に服のかかった大きなラックを引いて戻ってきた。
──キャスター付きとは言え、服込みで重さ10キロ単位は確実だろう大物をスイスイと運ぶ姿は流石は店員と言ったところか。
ニコラ
「第一弾、お待たせしました」
「カレーニャ。完成の暁には、一筆スケッチをお願いしても!?」
カレーニャ
「時間が余れば、ね。あなたのスピード次第ですわ」
ニコラ
「かっしこまりました!」
「それでは私は次のお衣装ご用意致しますので、アンナ様、カレーニャ、ごゆっくりどうぞ!」
アンナ
「え……え?」
──何が「ごゆっくり」なのか、考える間もなくニコラは去ってゆく。
──ところで、ここに来るまで、カレーニャの傍らには例の「割れても戻る」魔導グラス球が浮いていた。それをカレーニャが軽く撫でると……
ガシャン! ガシャン!
──椅子の座面や手摺部分から、捏ねたパン生地を引っ張るように細く硝子が伸び、アンナの両手足首を拘束した。
アンナ
「あ、あれ……か、体が?」
カシマール
「ヤイテメー! アンナニナニスルキダ!」
カレーニャ
「何ってコーディネートですわよ”タルワール”。この部屋、試着室ですもの。オトモダチとてのぞき見厳禁」
カシマール
「”カシマール”ダ!!」
──慌てふためいている間にドリイが扉を開けていた。中には応接間のようにソファとデスクがあり、そして入り口から見える奥の壁一面が鏡になっている。
ルリア
「はわ……こんなに広いのに、まるまる試着室……」
カレーニャ
「上客用の一等個室ですわ」
「思う様商品を運び入れ、気に入るまで取っ替え引っ替えして、気に入る服だけ持って出て、お片付けはお店任せ! 至れり尽くせりですわねえ」
アンナ
「と、とととっかえ、ひっ、かえ……って、ああの……ま、まさか……」
ドリイ
「カレーニャ。図書館の規定に沿う程度の衣服の選定でしたら、
カレーニャ
「万年礼服の干物が
ドリイ
「……極めて不服ですが、反論の余地がありません」
──ドリイのせめてもの助け舟だったのだろうが、瞬く間に沈んだ。
──通路の向こうからニコラが大声で呼びかける。
ニコラ
「それと、センスについてはご心配なくー! 日頃からカレーニャオリジナルのファッションスケッチを見立てている当店が保証しまーす!」
カレーニャ
「さあドリイさん服を運び入れて! 久々に腕が鳴りますわ!」
ドリイ
「アンナ様。なるべくカレーニャにはブレーキをかけるよう努めますので……」
アンナ
「え、あの、あの……カ、カシマ~~ル~~~~……」
カシマール
「アンナーーーーーッ!!」
──当事者以外全員を置いてけぼりにして、カレーニャ、ドリイ、アンナwith椅子が試着室へと駆け抜け、扉が閉じられた。
主人公(選択)
・「……何だったんだろう」
・「すごく不安だ……」
→「……何だったんだろう」
──答える者は居なかった。唯一答えられそうな店員ニコラは、異常なペースの早歩きで店の更に奥へと消えていった。
※ここからあとがき
アンナさんについて更にオリジナル設定を出してしまっています。
「帽子がないと外を歩けない」とハッキリ描写された事はありません。
そもそも水着の時は帽子を被っていません。
しかし普段は帽子、水着では日傘と、頭周りを大きく覆い隠す物を常に携えているとも解釈できます。
つまり、この場では「帽子」と表現していますが、アンナさんは「視線を遮る物」あるいは穿って考えれば「自分が視線を受けていると感じなくなる物」が、人通りで欠かせないと考えられないかと思い至りました。
そこから、このような描写も無理は無いかもと盛り込みました。
余談ですが、こういった高級服飾店を、今はなんと呼べば良いのでしょうね。
「ブティック」と呼ぶと学んだ世代ですが、ちょっと調べた限りでは、今どきはブティックと言っても「格」の幅は結構広いようで……。