どうも皆さん初めまして。私の名前は白菊ほたると言います。13歳、アイドルをしています。私の特徴は華奢だとか色白だとかいろんな人に言われますが、それは外見の話。1番の特徴を聞かれれば、私のことを知っている人なら全員が「不幸体質」だと答えるでしょう。雨の日にトラックに水溜まりの水をかけられたり、靴紐やブレスレットが突然切れるなんて日常茶飯事。ライブ中に雷が落ちて停電したりなんかもありましたが、やっぱり一番の不幸は所属事務所の倒産でしょうか。私が所属した事務所はみんな倒産してしまいました。今の事務所…346プロダクションはとても大きな事務所だったのでその心配はしていなかったのですが……
『「週刊○代」346プロ上層部の汚職!所属アイドルの薬物使用!?株価急落!346プロ倒産の危機?アイドルたちの今後は?』
あぁ……やっぱり私は不幸です……
「プロデューサー、それに白菊さん、美城専務がお呼びです」
私はプロデューサーさんと一緒に専務に呼ばれ、専務のいる部屋へ向かいました。
「失礼します。白菊さんとプロデューサーを連れてきました」
「ご苦労。下がってくれ」
「はい」
そう言われると私たちを呼びにきたスタッフはそそくさと去って行きました。横を通る際に彼が私に向けた視線はとても冷たいもののように感じました。
「今回の346プロダクションにおけるスキャンダルは君たちも知っているか?」
「はい。私の上司の汚職問題や、所属タレントの薬物使用によるものだと世間では取り沙汰されていますね」
「私もニュースで見ました……」
「なら話は早いだろう。プロデューサー、君は346プロダクション程度かそれ以上の規模のアイドル事務所が社員の不祥事やアイドルのスキャンダル程度で倒産となった話など聞いたことはあるか?」
「……いえ、ありません」
「あぁ。今回346も多少の損害は被ったが倒産するまでではない」
「じゃあ……なんで今回346プロダクションが倒産する可能性があると報道されたんですか……?」
私は専務に問いかけた。
押し黙っていた私が急に問いかけたことに驚きながらも専務は言う。
「それは私にもわからない。だが今回の騒動……原因は白菊ほたる、君の不幸体質が運んだものではないかと一部のスタッフの間で噂されているんだ」
「……!」
「もちろん私はそんなことはないと考えている。しかしスタッフの間にそういった噂が流れているのも事実だ」
「なぜそんな噂が……」
「それは私の今まで所属していた事務所が全て倒産して来たからだと思います……」
「だったらなんだって言うんだ! 今まで潰れた事務所は全部ほたるが悪いって言うのかよ!」
「プロデューサーさん……」
「プロデューサー、声を荒げるんじゃない。白菊が怯えているだろう」
「専務……。ほたる……すまない」
「いえ……」
「だが、確かにそれが噂の原因であることは間違いないようだ。」
「……」
「……」
「白菊、急で悪いが君には次のライブでトップバッターとしてステージに立ってもらう」
「……え? 次のライブから降りろ、じゃ無いんですか?」
「ああ違う。君には次のライブでメンバー達を引っ張っていってもらいたい」
「そんな……どうして……」
「それは、そこのプロデューサーに君が強いアイドルだと聞いているからだ」
「専務……プロデューサー……」
「君が本当に強いアイドルだというのであれば、次のライブでスタッフ達の抱く疑念、不安を払拭してもらいたい」
「わ……たし……」
「何か言ったか?」
「私……私そんなに強くありません!」
そう言って私は部屋を飛び出してしまった。
「ほたる!」
「ほたる!どこだ!」
部屋の外からプロデューサーの声が聞こえる。私はプロデューサーの机の下で膝を抱えて座り込んでいた。
専務は私が不幸を運んでいるなんていう噂に負けないアイドルだと言ってくれた。でもそれは私が立ち向かう事を諦めたからだ。立ち向かう事をしなければ勝敗もなにもない。負けることもない。私は早々に不幸に立ち向かう事を諦めたんだ。
私が初めて所属していた事務所……最初は私の不幸を引きつける体質を笑って受け入れてくれました……。でも機材搬入の応援で駆けつけたライブで、私が触った機材が全て壊れた辺りからスタッフ達の私に向ける視線は冷たいものへと変わっていきました。先輩たちの収録に下積みの見学として私が同行すると渋滞に巻き込まれ遅刻する、私がレッスンを受けるとかなりの頻度でその部屋のスピーカーが壊れる、なんて噂も流れました。どちらも事実だったので否定もできませんでしたが……。そんな噂が流れて落ち込んでいる私に前のプロデューサーは
「確かにほたるは不幸体質かもしれない。でもこう考えられないか? これから先、あるはずだった不幸を前借りしてるってさ。だからその不幸な体質はいずれ改善されて、それから先は幸運だと思えることしか起こらないって考えれば、今の不幸も我慢できるんじゃないか?」
そう言って向ける彼の顔はいつも笑ってくれていました。ですがその事務所の資金繰りが上手くいかず倒産すると決まった時、彼が黙って私に向けた怒りとも悲しみとも言えない感情を含んだあの表情は忘れることができません。それが私が彼を見た最後です。その数日後、彼が事故にあったという連絡が私の元に入りました。横断歩道を渡っている際にトラックにはねられたそうです。一命は取り留めましたが、今も昏睡状態にあり入院生活を余儀なくされています。でも私はそんな彼のお見舞いに行くことができませんでした。彼に合わせる顔がなくて。また私のせいで彼に迷惑をかけてしまいそうで。それからです。不幸であることに、私の体質と向き合う事をやめたのは。「私は不幸だ」と言ってしまう事に、もう慣れてしまったのかもしれません。いえ、そもそも向き合ってなんていなかったのかもしれません。自分の体質に向き合う勇気を彼から受け取る前に、その不幸に負けたんです。私は……私は……
「あ、あのぅ……」
「え?」
そこには乃々ちゃんが困った顔をしてこちらを覗き込んでいました。
「こ……ここはもりくぼのサンクチュアリなんですけど……」
よく考えたらここに置いてある私物は乃々ちゃんのだったんだと思い出したながら話します。
「あ、乃々ちゃん……。ごめんね」
「ど、どうしたんですか?そんなに暗い顔して……というかなぜプロデューサーさんの机の下に……?」
「……」
「……あ、あのぅ……もりくぼでよければ…その…お話…聞きますけど……」
「……実は……」
気がついたら私は今回の一件のこと、それに以前の事務所のことを乃々ちゃんに打ち明けていました。今まで話せなかったことをずっと誰かに話したかったのかもしれません。乃々ちゃんは黙ってその全てを聞いてくれました。
「私は……逃げてしまったんです。プロデューサーの事故は本当は私のせいなんじゃないかって……彼が私に関わりさえしなければって……なのに専務は……プロデューサーは私を強いって……だから次のライブでトップバッターにって……でも私……私は強くなんて……」
「……それで弱いというなら……みんな弱いと思うんですけど……」
「……え?」
「大切な人の事故の原因が自分だったとして……心が強い人だからといってそのお見舞いに行けるとは限らないと思うんです……それにもりくぼ、思うんです……。ほたるちゃんって……本当は不幸じゃないんじゃないかって……」
それは意外な発言だった。私が不幸じゃない……そんなことを考えたことなんて一度もなかった。乃々ちゃんは続ける。
「もりくぼ……親戚のおじさんに無理やりアイドルにさせられた時、不幸だと思ってたんです……。人と目を合わせることもできないもりくぼがアイドルなんてって……。でも……活動を続けていって、いろんな仲間ができて……裕美ちゃん、それにほたるちゃんとワンステップスを組むことが出来て……あぁ、アイドルになってよかったって……。物事って見方を変えれば、幸せなことにも不幸せなことにも変わるんだって……。だからほたるちゃんにも視点を変えて見て欲しいんです」
「視点を……?」
「はい。乗るつもりだった電車が行ってしまったとしても次の電車は混雑していないかもと考えてみたり、靴紐が切れてしまったとしても、かわいい靴を見つけることができるかもしれないと考えて見たり……そうすれば不幸だと思うことは減るんじゃないでしょうか……?」
「……ふふっ、楽しそうですね」
「あ、笑った……」
「え?」
「さっきみたいな悲しい顔をしてたら……幸せなことなんて起きません……笑った顔が一番だと思うんですけど……」
「乃々ちゃん……」
「ほたるちゃん。専務の言っていたライブ……ワンステップスでトップバッターに立ちませんか?ほたるちゃんを2人で支えたいんですけど……」
「でも私とステージに立ったら…」
「不幸になる……ですか?森久保、ほたるちゃんと裕美ちゃんとステージに立つようになってから不幸だと思った事は無いんですけど……。ほたるちゃんは自分が周りを不幸にすると思ってるみたいですけど……そんなことないと思います……」
「乃々ちゃん……わかった。でも少しだけ待ってくれないかな」
「どうしてですか?」
「自分のせいかもしれないって今まで逃げてきた前のプロデューサーさんのお見舞いに行きたいの」
「えっ?」
「あの事故が自分のせいだったのか、それとも偶然だったのかなんてお見舞いに行ってもわからないかもしれない……でもずっと目を背けてるのはダメだと思ったんです」
「ほたるちゃん……」
「前のプロデューサーさんに会ってみて気持ちが落ち着いたら、そのお返事をさせてもらえませんか?」
「…はい!」
この後、プロデューサーさんに謝りに行きました。乃々ちゃんも付いてきてくれている状況を理解できていないようでしたが、乃々ちゃんに説得された事を話すと、プロデューサーさんは乃々ちゃんの頭をわしゃわしゃとしながら褒めていました。乃々ちゃんはすごい表情でこちらに助けを求めてきていましたが、面白かったので見て見ぬ振りをしていました。それがひと段落してから、以前お世話になったプロデューサーに会って話をしてから今回のライブの件は考えたい、と昏睡状態の彼のお見舞いに行く事を伏せてプロデューサーさんに伝えるとプロデューサーさんは
「あぁ、ゆっくり話して決めてきなさい」
とやさしく送り出してくれました。プロデューサーはもしかしたら何か気づいていたのかもしれません。しかし、それでもそれ以上何も聞かなかったのはプロデューサーなりの優しさだったのでしょう。このプロデューサーに出会えた幸せに気づくことが出来たのは乃々ちゃんのおかげかもしれません。そんな幸せを噛み締めながら家路に着きました。
次の日の朝。顔を洗って鏡を見ました。そこには昨日までの私はいません。今まで逃げていた過去と向き合う覚悟なら出来ました。私は身支度を済ませ、病院へ向かうため力強く一歩を踏み出しました。
病院へ向かうバスに乗るため、バス停に向かっているとお花屋さんを見かけました。そうだ、お見舞いに行くんだからお花を買っていこう。ふとそう思いその店に立ち寄ると意外な人物がいました。
「いらっしゃい……あれ、ほたる?」
「凛さん?どうしてここに?」
「今日は店番。ここ、私のうちなんだ」
「お花屋さんだったんですね……」
「そう。で、何買いにきたの?」
「お見舞いに持って行くお花なんです。あと、その人に感謝の気持ちも伝えたいんですけどどんなのがいいんですか?」
「そう……。だったらこのピンクのガーベラなんてどうかな?」
「ガーベラですか?」
「そう。ガーベラの花言葉は『希望』。それにピンクのガーベラにはもう一つ、『感謝』っていう花言葉もあるんだ」
「へぇ……」
「ガーベラはお見舞いに持って行くにはいい花だって言われてるし、これにする?」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあちょっと待ってて」
そう言うと凛さんはお花を持って中に入って行きました。ふと横を見るとある花が目につきました。
「凛さん」
「うん?なに?」
「あの…これも一輪いただいてもいいですか?」
「いいけどそれはお見舞いには……」
「いえ、いいんです。ください」
「……まぁいいか。じゃあそれも包んでおくね」
「ありがとうございます」
「それじゃあ行ってらっしゃい」
凛さんは包み終えた花をそっと手渡し、わたしを送り出してくれました。
バスに乗ってしばらくすると病院が見えてきます。今まで避けていた現実に目を向ける時がきました。しかし私は尻込みをしてしまい、受付のソファに座り込んでしまいました。本当に来てもよかったのか、彼に会いに来るべきではなかったんじゃないのか、そんなことを考えていると目の前が真っ暗になって行くような感じがしました。
「あら?あなたは……白菊さん?」
そう聞かれ、俯いていた顔を上げるとそこには知らない女性が心配そうな顔でこちらを見ていました。
「白菊ほたるさんよね?あの……大丈夫かしら?体調が悪いの?」
「いえ……あなたは?」
「あなたに会うのは初めてでしたね。はじめまして。わたしはここに入院してる、あなたのプロデュースをしていたプロデューサーの妻です」
「……!」
「その様子だと彼のお見舞いに来てくれたのかしら?」
「……あの」
「なにかしら?」
「す、すみません!このお花だけ置いて帰りますから!」
そう言って持ってきた花を彼女に押しつけるように渡して逃げるようにその場を立ち去ろうとしました。
「ま、待って!彼の顔……見てあげてくれないかしら……」
「でも……でも……」
「あなたに見て欲しいものもあるの。お願い……できないかしら?」
逃げちゃダメ。ここで逃げたらきっとこれから先、何を決断するにも決意が鈍る。逃げちゃダメなんだ。そう自分に言い聞かせるようにして
「……はい」
この二文字を振り絞りました。
彼女に案内されてエレベーターに乗りました。こんなにもエレベーターに閉塞感を感じたのは初めてです。
「最近は活躍しているようでよかったわ」
この閉塞感を彼女も嫌ったのか、その口を開きました。
「彼……あなたのこと、本当に心配してたのよ」
「プロデューサーさんが?」
「ええ。『ほたるは根は強い子だけど、運が悪いと思い込むことで自分の可能性を潰してしまっているからなんとかしてあげたい』って……」
「プロデューサーさん……」
エレベーターの扉がゆっくりと開いた。
「さ、こっちよ」
病室に連れられると彼は人工呼吸器をつけられた状態で眠っていました。
「プロデューサーさん……私です……白菊ほたるです。……プロデューサーさん……プロデューサーさぁん……ううぅ……」
彼の顔を見て、今まで吐き出すことのできなかった想いが頬を流れました。
「ごめんなさい……私に関わってしまったばっかりに……本当に……」
「白菊さん、そんなことはないわ」
「え……?」
「あなたをここに案内したのは、これをあなたに読んで欲しかったからよ」
そう言って彼女は一冊のノートを手渡してくれました。
「これは……?」
「それは彼がつけていたプロデュースノート。あなたについてのことが書かれているわ」
「私の……」
『○月△日 今日は新しいアイドルとの顔合わせだ。名前は白菊ほたる。華奢な女の子だがやる気は人一倍ある可愛らしい女の子だ。レッスンの様子を見せてもらったが、あの鬼コーチと名高いトレーナーのレッスンに必死に食らいついている。彼女は芯の強い子なのだろう。こちらも気を引き締めなければ。』
『○月☆日 ほたると一緒に話していると心が休まるような気がする。話を聞くと彼女はみんなを笑顔にできるようなアイドルになりたいのだと言う。俺がそのファン1号になって応援することにしよう。』
『○月×日 今日は先輩アイドルのライブを見学するため、また作業員も足りないとのことなのでライブの設営の手伝いをほたると共に行う。しかしほたるが運んだ機材が壊れてしまっていたようだ。本人曰く自分は運が悪いから物をよく壊してしまうのだそうだ。先輩方には迷惑をかけることになってしまったが今回は仕方がないだろう。次から気をつけることとしよう。』
『△月○日 先日のライブ以降ほたるが不幸を呼ぶと噂になっているようだ。ほたるは気丈に振る舞ってはいるがやはり辛いだろう。なんとかしてやれないものか。』
『△月×日 今日もほたるは落ち込んでいた。励ましてはみたものの口下手な俺の言葉では効果はなかった。ほたるのプロデューサーとして俺は何ができるんだろうか。』
「プロデューサーさん…」
そしてノートは事務所の倒産の日付を迎えます。
『×月☆日 社長の急な発表で混乱している。こんなにも唐突に今まで築き上げてきたものが崩れるものなのか。アイドル達と築き上げてきた関係は、いや、それよりほたるはこれから先どうなるのだろうか。他の事務所に移籍するのか、それともこのままアイドルを辞めてしまうのか。せめてほたるには、自身の不幸体質以上に周りを幸せにする力があることを知って欲しかった。妻が妊娠できない身体だとわかって絶望していた俺の前に現れたほたるのおかげで、それから先の数ヶ月ではあったが本当に幸せな時間だった。いつかほたるが「みんなを笑顔にできるようなアイドルになりたい」と言っていた。ほたるなら不幸体質であると考える事をやめることができれば、必ずそんなアイドルになることができるだろう。その姿をずっとそばで見ていたかった。これは親心にも似たようなものだろうか?知らず知らずのうちに自分の娘のように思っていたのかもしれない。
よし、ほたるにも言ったがこれは不幸の前借りだと考えることにしよう。もしかしたらこの事務所の倒産がほたるの未来につながる一歩なのかもしれない。俺がプロデュースすることはできなくなったが次のプロデューサーがほたるを導いていってくれることだろう。陰ながらファン1号としての応援を続けていこう。』
「……」
「白菊さん。彼は倒産が決まってから、いろんな事務所を回ってあなたの売り込みをしてたのよ」
「プロデューサーさんが……?」
「えぇ。あなたにはアイドルを続けていってほしかったみたい」
「……ありがとうございました。プロデューサーさん……」
眠るプロデューサーの手をそっと握り、わたしはお礼を言う。彼の手は暖かかった。
「奥さん、本当にありがとうございました。それと今までお見舞いに来なくてすみませんでした……」
「いいのよ。あなた、自分の不幸体質が旦那を巻き込んだのかもしれないって悩んでたんでしょう?」
「どうしてそれを……」
「彼から聞いてたのよ。『ほたるは自分の不幸体質を気にしすぎてる。そんなことはないのに』って」
「……」
「だからもしかしたらって思ってたの。あなた、本当にいい子ね」
「いえ……ただ臆病なだけです……自分のせいかもしれないと思ってここに来ることができなかっただけで……」
「でも来てくれた」
「え?」
「それを乗り越えてここに来てくれたじゃない。やっぱりあなたは強い子ね。彼の見立て通りじゃない。ふふっ」
そう言って彼女は微笑んだ。
「実は私、次のライブのことで悩んでたんです。でもその悩みも解決しました。このノートを読んで彼の気持ちを知ることができたから……」
「そう。よかったわ」
「また来てもいいですか?」
「ええ、もちろん。彼が自分の娘みたいに思っていた子なんだからわたしの娘みたいなものよ。いつでもいらっしゃい」
「はい!それじゃあもうそろそろ行くのでこのお花飾ってあげてください」
「ガーベラと……これは?」
「変な意味じゃないんですけど、私が来たことがプロデューサーさんにわかるかなって……やっぱりダメですか?」
「いえ、いいわよ」
「ありがとうございます!それじゃあ失礼します!」
「ふっ、帰る頃には別人みたいになっちゃって……」
「綺麗な子でしたね。娘さんですか?」
「いえ……彼女、彼が昔プロデュースしていたアイドルなんですよ」
「アイドルですか!だからあんなに綺麗なんですね。あれ、その花は?」
「あぁ、彼女が持って来てくれたんですよ」
「でもその花は不吉じゃ……」
「いえ、きっと幸運を運んでくれる花になるわ」
そう言う彼女が花の手入れを終える。力強く咲くガーベラ。その隣で、白い菊の花が一輪、儚くも美しく咲いていた。
「よし、2人とも大丈夫!?」
ステージの袖で裕美ちゃんがわたしたちに声をかける。
「裕美ちゃん……森久保が言うのもなんですが……一番緊張してるのは裕美ちゃんじゃ……」
「そ、そんなことないよ!」
「ほら2人とも、リラックスリラックス」
「ほたるちゃん…….おとなぁ……」
「ふふっ、乃々ちゃん、裕美ちゃん、今日はわたしのためにありがとう。トップバッター、頑張って会場を盛り上げよう!」
「うん!」
「はいぃ……」
この間までの私はもういない。
不幸だって乗り越えられるってわかったから。うつむかず、前を向いて歌い続けよう。
支えてくれるこの2人のために。
私を信じてくれたプロデューサーのために。そして、今も眠り続けるファンのために。