漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! (通称:モモです!)   作:疑似ほにょぺにょこ

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4章 罪人の武器編
4章 王都 罪人の武器編ー1


 いつもの平和な日常。いつもの平和な時。いつもの平和を謳歌する我らが民。それがいつまでも続くものではない事は理解している。すぐ隣に居る強大な獣人たちは常に虎視眈々と我らが国を蹂躙しようと手を拱いている。いや、外ばかりではない。聡明な兄たちを差し置いて就任した私を由としない南部の貴族たちの謂れ無き中傷。その為に一つにまとめ上げなければならないのに湖を中心として王都側を北部、強力な貴族たちが居る側を南部と揶揄するものも少なくない。表面上の平和に囚われた国。それがこのローブル聖王国だった。

 ではそれらを駆逐するにはどうすればいい。出来ない。出来るはずもない。そもそも我らの力ではアベリオン丘陵に座する獣人たちから守れても退ける程の力は無いようだ。貴族の方だってどのようにすれば認めてもらえるのか分からない。話を聞いて居る限りでは直接的ではないにしろ辞めろとしか言わないのだ。何が悪いと言われているわけではないので改善の仕様もない。ただただ何も言えず黙る他なかった。私の一存ではなく前聖王様と神殿の後押しでなって聖王となってしまったが故に、今更『辞めます』等と言えるはずもない。

 そう、どうしようもない現状を薄っぺらい平和という日常がそっと覆いかぶさっているだけ。それを打破できる機知もない。ほとほと自分の無能ぶりに嫌気が差す。

 

「それをどうにかして差し上げようと言っているのですよ。ローブル聖王国国王にしてローブルの至宝。清廉の聖王女、カルカ・ベサーレス」

 

 あぁ、なんという甘美な言葉か。差し出された手は悪魔の手。紡がれる言葉は悪魔の言葉。だがこの差し出された手を掴む以外に私に残された選択肢はない。この言葉に喜び頷く以外に、私に残された選択肢はない。

 彼の足元に傅く。優しく、慈悲深き笑みを携える悪魔──否、魔王ヤルダバオト様。敬虔な神の使途である私が傅く相手に相応しくないと言う者も居るだろう。だが、私にはこの方が神にも等しき存在であると理解してしまった。だから、傅く事に何ら躊躇など存在しない。

 ただ──そう、ただそこにあるのは敬虔なる忠誠のみだった。

 

「どうぞ──どうぞ、この国の未来を──宜しくお願いいたします、ヤルダバオト様」

 

 

 

 

 あれから──ラナー姫からナザリックに直接行くという手紙をもらってから早数日。俺と蒼の薔薇チームは足早にリ・エスティーゼ王国へと戻っていた。彼女たちは──というよりも蒼の薔薇のリーダーであり貴族でもあるラキュースさん等が──王城へと向かう予定だ。俺も行きたかったのだが、そもそも面識がない。一度でも会っていればとも思ったが──

 

(そもそも姫様に会うなどそうそう出来ることじゃない、か。言葉通り住む世界が違う存在なわけだしなぁ)

 

 一応俺こと冒険者モモンが道案内兼、アインズ・ウール・ゴウンとの仲介役とはなっている。なのでナザリックに行く前までに一度くらいは王女様と面通りくらいは許されるだろうが、恐らくその程度だ。やはり冒険者モモンとしてではなく、ナザリックの主たるアインズ・ウール・ゴウンとして友好を築いた方が何かと良いだろう。上手くすれば色々と便宜を図ってもらえるかもしれない。

 

(そうだよ、良い──かは別にしても、アインズ・ウール・ゴウンと友好関係になれば利点が多いと思えるようにすれば、上手くすれば貴族の末席位にはしてもらえるかもしれない。そうなれば国の後ろ盾が出来るから、『モンスターだから』とかいう理不尽な理由で攻撃されることもなくなるだろうし、情報だって今よりも手に入れ易くなるはずだ)

 

 先日パンドラズ・アクターにシャルティアを洗脳したワールドアイテムについて相談したら、どうやら傾城傾国<けいせいけいこく>である可能性が高いと出ていた。もしかするとスレイン法国にあるかもしれないらしいから、それについての情報も欲しい所だ。

 

「ん、あれは──」

 

 王都の城門が見えてくると、なにやらゾロゾロと兵士が入り口に屯──いや、整列している。どうやらリ・エスティーゼ王国の旗まで持ちだしているようだ。

 

「私達の出迎えですよ、モモンさん」

「──なんと」

 

 俺たちが見えて来たからだろうか、兵士たちは整然と──だが素早く街道沿いに整列を始めていた。

 

「漆黒の英雄モモン様とぉー!蒼の薔薇の皆さまにぃーーー敬礼!!!」

 

 『ずぁっ!!』という聞きなれない快音と共に街道に並んだ──恐らく100名以上の兵士たちが一斉に最敬礼を行った。

 

「────」

 

 言葉が出ない、とはこの事だろう。彼らのあまりの圧巻に、思わず足取りがふらつきそうになるのを止めるのに必死になってしまった。だが隣を歩いているイビルアイにはそれが分かったのだろう、『クスリ』と小さな笑みをこぼしたのが視界の端に映る。そのためか、少しだけ憮然とした歩き方に、足早になってしまっても仕方のない事だ。

 

(俺は英雄──漆黒の英雄、モモンだ。そして、これが俺がこの国に行ったことへの結果。正しく真正面から受け止めないでどうする)

 

 アンデッドとしての精神抑制が無ければ今頃舞い上がってあたふたしたかもしれない。まるでレッドカーペットを歩いている有名人の様な──いや、レッドカーペットでないにしても有名人なのか。まるで夢のような一時だった。

 

 

 

 

 

「流石のモモンさんも、善意100%を受けての歓迎は久しぶりだったみたいですね」

 

 王都に入るまで、ガチガチに緊張していたモモンさんに満面の笑みを浮かべならが話掛ければ、少しだけ顔を背けられる。あぁ、照れて拗ねて居るのだなと──フルフェイスで覆っていても、例え表情の作れぬ骨の姿であってもそう感情が読み取れるのが何よりも嬉しい。

 

「あそこまで歓迎されているとは思わなかったからな」

「何を言うんです。モモンさんはこの王国の窮地を救った──まさしく英雄なんですよ。先触れを出していたら国を上げてのパレードすら開催されたはずですよ」

 

 本当に、小さな子供の様に拗ねられる。それが彼の──亡国の王子モモンガさんの本質をほんの少しだけ垣間見えた気がする。

 

「モモンさんを揶揄うのはその辺りにしなさい。──じゃあ私とティナが王城に行ってラナーと話してくるわ。モモンさんは──言えば恐らく王城に入れると思うけれど──今回は時間も差し迫っているし、止めておきましょう。ギリギリだけど王都を出発する前に面通りしてもらう事になるけれど、良いかしら」

「えぇ、構いませんよ」

 

 話をすり替えられてほっとしたのだろう。モモンさんはラキュースの方を向いてしまった。モモンさんの影から『べーっ』と舌を出すと、ラキュースは少し驚いたように私の顔を見ている。なんだ、私が女童みたいな行動をするのがそんなにおかしいか。私だって乙女なんだぞ。

 

「ならば私とティアは道具の買い出しに行ってくる」

「荷物持ち<ガガーラン>も連れて行く」

「へいへい──モモンはどうすんだ?」

「私は──ちょっと失礼します。夜にはいつもの酒場に向かいますので」

 

 誰かに気付いたのだろうか。モモンさんはそう言うとどこかへと足早に行ってしまった。

 ガガーランが『女か?』とかボケた事を言っているがそんなことはありえない。当然私が居るからだ。そういえば、モモンさんの交友関係は余り知らなかった。誰と会うのだろうか。

 

「付いてく?」

「まさか。私達にはやることがあり、時間もないんだぞ」

 

 それに夜には戻ってくると言っていたのだから何も問題はない。問題はないのだ。

 無いのだが──

 

「──行く?」

 

 少しだけ笑みを浮かべて再度聞かれる。まるで心の葛藤を見透かされているような気分だった。

 

 

 

 

 

 

「わしの視線に気づくとは。なるほど噂通り──いや、噂以上かねぇ、漆黒の英雄殿」

「あれだけ熱烈な視線を送られれば誰でも気付くと思いますよ、英雄殿」

 

 彼奴だけが気づく様にと試しに意識を向けてやったら、物の見事に釣れよった。泣き虫には向けてはいないとはいえ欠片ほども気付きもしなかったというのに。それを事もな気に、当たり前の様に返されるとは。これは予想以上。わしどころか下手をすればツアーに匹敵する存在かもしれないということ。つまりは──

 

「おぬし、ぷれいやーか?」

「ぷれいやー──ですか?」

 

 人の少ない路地を右へ左へ。嬢ちゃん達が追ってきていた感じがしたのでさっさと巻いてやると、諦めたのか気配が遠くなっていく。

 こやつ──違うのか?ぷれいやーではない?ツアーの話では揺り返しが来たかもしれない、と言っていたから『こちら側』として来たのではないかと思ったのだが。嘘をついている感じもしない。感情の揺れも感じない。もしこれで嘘をついていたとするならば相当な胆力だと言えるだろう。

 

「ふむ、違うのか。では、ギルド武器というものを知っているか」

「え?えぇ。それが?」

 

 思わず足音が出てしまう。『ザリッ』という意思を噛む音は、静かなこの辺りでは必要以上に大きく聞こえた。思いの他動揺が走ってしまったようだ。

 ツアーから探すように頼まれた武器。ギルド武器。それがどういうものなのかは知らないが、ツアーが探そうとするものなのだから相当な物に──下手をすれば世界がひっくり返るようなものに違いないはずなのだが。だが、奴から出た言葉はわしの予想を遥かに上回っていた。

 

「何のためにあんなものを探しているのですか?精々祭典等にしか使えないようなものを」

「──はぁ?」

 

 なんだそれは。祭典にしか使えない?あまりに間の抜けた声が出てしまったからだろう、奴が『クスリ』と笑う音が小さく聞こえた。

 

「それは本当なんだね?」

「えぇ、勿論。かつての友に見せてもらいましたので。何の事もないただの剣でしたよ。見栄えは凄かったですが、ちょっと切れ味が良い程度の──いや、もしかすると──」

 

 ただちょっと切れ味が良いだけの剣?そんなものをツアーが探し求めている?まさか?

 わしの中に予想以上の動揺が縦横無尽に走り回っていた。実はツアーがただのコレクションのために集めているのか?確かにドラゴンたちは珍しい物を集める習性があるとはいうが──ボケたのか?

 

「恐らくですが──罪人<ギルティ>武器と間違ってませんか?」

「なんじゃと──」

 

 奴が言う罪人<ギルティ>武器とギルド武器。似ている。が、非なる物であるのは分かる。ギルド武器なるものがどんなものかは想像も付かないが、罪人<ギルティ>武器ならば何となくは想像が付く。それが恐ろしい武器である事くらいは。

 

「し、知っているのか!その──罪人<ギルティ>武器がどこにあるのかを!!」

「えぇ、もちろん──」

 

 興奮冷めやらぬわしは思わず奴に掴みかかってしまった。200年を優に越す歳を重ねてなお、わしにはまだここまで心をかき乱す事があったのだと──そう、まるで他人事の様に自分が見えてしまう。しかし見た目よりも彼の身体はしっかりしているようで、わしの揺さぶりにもほとんど揺り動かない。その揺り動きすら止めようと思えば止められるだろうと思う程に小さいもの。まるで大人と子供だ。

 止め様にも、止まらない。止まるはずもない。様々な国を渡り歩いてなお情報は見つからず、もういっそスレイン法国に突撃してやろうかとちらちら思ってしまうほどに切羽詰っていたのだ。それが降って湧いた様に、ピンポイントで知る人物に会えたのは僥倖としか言いようがない。これを逃せばあとどれくらいかかるのか見当もつかないのだから。

 だが、彼から出た言葉は──わしの予想を遥かに越す──想像し難いものだったのだ。

 

「ど、どこにある!それは──」

「──ここですよ」

 

 奴は──自分の胸を指したのだから。


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