漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! (通称:モモです!)   作:疑似ほにょぺにょこ

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4章 王都 罪人の武器編ー2

 ふとした気配にゆっくりと目を開ける。視界に入ってくるのはいつもの景色。武骨な石の柱。装飾された石の壁。そして私が鎮座している石の床。そして──

 

「相変わらずアンタは寝坊助だね、ツアー」

「相変わらず君は気配が読めないね、我が友よ」

 

 相変わらず、いつの間に入って来たのか分からない我が友──リグリットの姿だった。

 

 

 

 

 

「今日も一日が始まる、か。陰鬱とは言わないが、面倒な一日が」

 

 夜が更けて来たので書類を片付けていたら夜が明けていた。アンデッドとなったこの身ではよくある話だ。夜通しやって疲れてはいないはずだが、ぐっと伸びをすると思わず息が漏れる。身体は疲れずとも心はそうもいかないということなのだろう。

 昨日は本当に疲れた。あのリグリットとかいう英雄。一体どこからギルド武器の事を知ったのだろうか。とはいえ詳しくは知らなかったようなので本当の事を交えながら嘘を教えてたら見事に嵌ってくれていたようだ。これもまた、俺が漆黒の英雄という姿を作り上げたお蔭と言えるだろう。

 

(しかし──あの悲惨な夜<クリスマス>に配布された罪人武器<ギルティ・ウェポン>があそこまで役に立つとは思わなかったなぁ)

 

 罪人武器<ギルティ・ウェポン>──それはユグドラシルであったイベントで配布されたものだった。クリスマスに一人で居た者に強制的に送り付けられた嫉妬する者達のマスクとは一味違うアイテムだ。その取得方法は悲惨としか言いようがない。

 

(まず嫉妬マスクを手に入れて、次の年に嫉妬マスクを装備した状態でクリスマス以降一週間以内に、ゲーム内で結婚している者とクリスマスにログインしなかった者を合計十人倒す。そしてその次の年にまたクリスマスにログインする)

 

 要するに、取得に3年かかるという神器級<ゴッズ>すらをも凌駕する凄まじい取得制限のあるそれは、嫉妬に狂った者達による狂乱が生み出した罪深き武器ということで罪人武器<ギルティ・ウェポン>と名づけられているのだ。

 その作りたるや凄まじいの一言である。作成者の狂気が透けて見える程の拘り過ぎたディテール。通常武器とは違ってプレイヤーの魂に植えつけられたものという設定を如何なく発揮した専用の特殊エフェクトの数々。そして全職業装備可能であり、装備時のみ発動可能な特殊スキル。何よりイベントで配布される武器の中では最強の威力を持っている。それこそ世界級<ワールドアイテム>に匹敵するほどである。だが単純に強い訳ではないのは当然だ。まず一つに、この武器は基本的にモンスターにダメージを与えられないという制限がある。これは余りにも強すぎる武器であるため、これを量産したプレイヤーたちが高難易度モンスターを殺戮してしまわない様にするためである。ではどこで使うのか、それは対人だ。つまりこの罪人武器<ギルティ・ウェポン>は対人専用の武器というわけである。

 だがここでもう一つの制限──ギミックがある。この武器で殺されたプレイヤーは『リア充』というデバフが付与された状態になり、『何の制限もなく』生き返るのだ。

 通常殺されれば金なり、アイテムなり、経験なりを代償に生き返ることになるが、この武器で殺された場合に限り何も代償にすることなく生き返ることが出来る。

 それが分かったプレイヤー同士で罪人武器<ギルティ・ウェポン>を使った気軽なPKが横行するようになったのだが──

 

(あの『リア充』のデバフが異様過ぎるんだよなぁ──運営狂ってると言われてたっけ)

 

 そう、『リア充』のデバフである。状態異常である。

 その状態異常とは、『ゲーム内で結婚した相手以外の異性──しかもこの『リア充』のデバフを受けていない──プレイヤーと組まないと全ステータスがダウンし続ける』という恐ろしいものである。

 効果時間は状態異常系の中では最も長く、3日である。しかも合計ログイン時間換算で3日──72時間──である。通常のライトプレイヤーならば1日2-3時間程度なので凡そ24日。つまり一か月弱も碌に行動することもできなくなるのだ。しかも復活系魔法の時に付く衰弱などと違って時間経過以外にこれを消す方法はない。

 それにプレイヤーが気付いた時には後の祭りである。主戦力プレイヤーの凡そ3割が一切の行動を制限されたと言えばどれ程凄まじかったのか分かるだろう。

 俺達アインズ・ウール・ゴウンは返り討ちにあったペロロンチーノさんを除いた全員がこのデバフを受けていなかったので一気に攻勢に移ることが出来たのだ。

 

(ペロロンチーノさん。その3日間ずっと姉のぶくぶく茶釜さんとパーティ組み続けてたっけ──)

 

 輝かしくも微笑ましい話である。

 それをギルド武器から上手く話を逸らせたのはとても大きかった。

 

(これでスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを狙われることもないだろう。そうだ。まだ数本あったし、アルベド達にも持たせれば色々と使えるかもしれないな)

 

 リグリットさんに見せたのは大剣型。後鎌型と弓型と大斧型と杖型がある。アルベドに斧を、マーレに杖を持たせるのも良いかもしれない。この罪人武器<ギルティ・ウェポン>を装備した状態ならどんな魔法を使おうとも武器の効果と見做されるから、デバフさえ気を付ければフレンドリーファイアも怖くない。

 

(そうか、この武器を装備したままデミウルゴス──ヤルダバオトを倒せばいいのか)

 

 そうすればデミウルゴスを殺すことなく、公的にヤルダバオトを倒したことに出来る。これは大きい利点だ。

 リグリットさんにはこの武器でヤルダバオトを──と咄嗟に言ってしまったけれど、上手く事態が転んでくれそうだ。

 

(そうと決まれば──)

 

 

 

 

 

 今は一番忙しい時期である。アベリオン丘陵の羊たちを含めた獣人と、ローブル聖王国の人間達を上手く操作している時である。少しの誤差が大きくずれていく可能性も高い。だが、それでもなお離れなければならぬ事態はある。

 

「そういうわけで、私は暫くナザリックに戻ります。奈落の支配者<アビサル・ロード>、貴方が私の代わりとなり、指揮を行いなさい。何をすればよいかは──分かっていますね?」

「ハッ!」

 

 私の配下の中でも特にバランスの良い悪魔をチョイスし、その者に指揮を任せるのは当然だ。嫉妬や強欲では堕落させられても持ち直す事はできない。憤怒は殺しすぎる懸念が消えず、暴食と怠惰では指揮は無理だろう。そういう意味では、レベルは一つ落ちるものの奈落の支配者<アビサル・ロード>は適任と言えた。

 

「嫉妬<エンヴィー>と憤怒<ラース>は勝手に動かぬように。強欲<グリード>、貴方もですよ。怠惰<スロウス>と暴食<グラトニー>は私に付いてきなさい」

 

 魔将達は強いのだが我が強すぎる。能力至上たる悪魔族ならではと言えるものの使い辛い感は否めない。帰ってくるまでに奈落の支配者<アビサル・ロード>の精神が持てば良いのだが。

 

「出来るだけ早く戻ってくるつもりですが、計画は進めておきなさい。遅延は許されませんよ」

 

 手早く《ゲート/転移門》を展開し、身体を滑り込ませていく。ちらりと皆に視線を送ると、早速奈落の支配者<アビサル・ロード>が周囲から無言の威圧を受けているようだ。軽くため息を吐きながらナザリックへと転移する。これは、あまり長く居れそうもないな、と思いながら。

 

 さて、急がねばと視線を前に向けた瞬間、一瞬だけ戸惑ってしまう。ここはナザリック地下大墳墓である。ナザリックは転移系の阻害のために基本的に内部では転移系魔法は使えないようにしてあり、基本的に転移してきた時は自動的に入り口に転移『させられる』。だが今いる場所は玉座の間の入り口──巨大なドアの目の前──だった。

 

(恐らくオーレオール・オメガが気を効かせてくれたのでしょう)

 

 私の転移に干渉できるのは世界広しといえど、至高の御方のまとめ役であり、私達のために残って下さった慈悲深き御方。アインズ・ウール・ゴウン様と、このナザリックの全ての転移の管理を行っているオーレオール・オメガくらいなものなのだから。

 私を呼ばれたのはアインズ様。であれば、それだけ時間が惜しいということなのだろう。こちらとしても願ったり叶ったりである。

 

「第七階層守護者デミウルゴスです」

 

 私の言葉に反応するかのようにひとりでにドアが開く。奥には既にアインズ様達が待機されているようだった。

 

「遅れて申し訳ありません、アインズ様」

「いや、忙しい中態々来てくれて感謝するぞ、デミウルゴス」

 

 足早に近づきながら陳謝すれば、私以上に忙しいであろうアインズ様から優しき言葉がかけられる。なんと慈悲深き御方だろうか。今いるのはアインズ様、アルベド、コキュートス、アウラにマーレ、シャルティア、そしてセバスに──

 

「おや、ナーベラル・ガンマだけ居るのですね」

 

 そう、プレアデスが一人であるナーベラル・ガンマだけが場違いにここに居たのだ。

 

「うむ、お前たちに見せたいものがあってな」

「見せたいもの、ですか」

 

 そうおっしゃいながらアインズ様はゆっくりと玉座から立ち上がられると、ゆっくりとした動作でアインズ様が身に着けておられる──腹部辺りにある神器級<ゴッズ>アイテムに手を伸ばすと──

 

「なんと──禍々しい──」

 

 身体が震えた。なんと黒々しく禍々しいオーラを纏った武器だろうか。軽く見積もっただけでも神器級<ゴッズ>を超えるのではないかと思える程のもの。あの装備にはこのような効果があったのか。ではこの効果を今見せる理由は何か。幾つか想像はつくが、アインズ様の行動はさらにその上を行くものだった。

 ゆっくりと階段を降り、ナーベラル・ガンマの前まで歩き、止まる。まさか──

 

「ナーベラル・ガンマよ──」

「お、お待ちください!アイ──」

 

 私は何をしているのだろうか。アインズ様を止めようとするなど。しかしなぜプレアデスの一人であるナーベラル・ガンマを殺さねばならないのか。何かの失態のためなのか。何があったのか。混乱する私など最初から居なかったかのように、私の声など最初から聞こえていないかのように、無造作にアインズ様は──

 

「──死ね」

「はっ!」

 

 その禍々しい剣を無造作に振り降ろされたのだ。

 

 

 

 

 

 

「──と、まぁこういう効果のある武器で──どうしたのだ、皆」

 

 軽いドッキリの気持ちで──当然ナーベラルには話していたが──やったら約半数の顔が真っ青なのである。やはり無条件で生き返るという特性のある武器を使ったとはいえ、ブラックジョーク過ぎたのだろうか。

 声がする方に視線を向ければマーレが大粒の涙を流して未だに泣き続けている。あやしているアウラも血の気が未だに戻っていない様だ。

 

 生き返ったナーベラルによれば、どうやら『死亡』の状態ではなく、あくまで偽装状態らしい。どうも死んだように見えるが視界も問題なくあり、耳も問題なく聞こえるらしい。皆の慌てふためく姿が見えていたようだ。また生き返るのも任意で行えるらしい。これは使える。

 

「し、少々冗談にしては辛いものがありました。一応聞いておきますが、ナーベラル・ガンマ、貴方は先にアインズ様よりこの効果を聞いて居たのですね?」

「はい、デミウルゴス様」

 

 デミウルゴスも相当堪えたようで、平然を装いつつも口元がひくついている。堂々としているのはアルベドとシャルティアくらいか。

 

「皆だらしないでありんすね。我らは皆、アインズ様に命を捧げているもの。生殺与奪は元よりアインズ様のものでありんすえ」

「そうね、シャルティア。アウラとマーレは仕方ないにしても、デミウルゴス。貴方は少々取り乱し過ぎではないかしら」

「──返す言葉もありませんね」

 

 平然とドヤ顔で居る二人。凄い胆力と言って良いのかもしれない。が──

 

(そういえばペロロンチーノさんとタブラさんも罪人武器<ギルティ・ウェポン>持ってたっけ)

 

 恐らく本人から聞いたのだろうな、と。そういえばウルベルトさんはそういったものに一切興味なさそうだったから、デミウルゴスは聞いて居なかったのか。

 

(そういう意味ではコキュートスが一番胆力があるということか。建御雷さんもウルベルトさんと同じくイベント武器には興味持ってなかったしなぁ)

 

 あらゆることに精通しており、いつもクールに決めているデミウルゴス。しかし強い想定外の事には実は弱いのかもしれない。そういうところはウルベルトさんに似ているといえるのか。やはり製作者の意思が強く反映されているのだろう。

 

(俺が──守らないとな──)

 

 ドヤ顔でポーズを決めている黒歴史<パンドラズ・アクター>が脳裏に浮かんだのを無視しながら、談笑する皆を眺める。そして強く心に刻む。皆を守る為ならば、悪鬼と呼ばれようとも、付き進めなければならないと。


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