漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! (通称:モモです!)   作:疑似ほにょぺにょこ

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朝から投稿するとは誰も思うまい──




5章 ナザリック 善意の会談編-5

「よく来た、リ・エスティーゼ王国の使者よ!」

 

 目的地へと到着した私たちを待っていたのはあまりにもあまりなものだった。

 一般とはかけ離れた外観。それだけならばまだ良かった。そこからは怒涛の驚きの連続だ。

 ナザリック地下大墳墓。その入り口の横に作られた簡素な建屋。ダンジョンに入らずにそこに招かれれば、もしやと思うだろう。もしや、ダンジョンの中ではなくこの建屋にアインズ・ウール・ゴウンは住んでいるのではないか、と。しかし違う。入った中にあったのは小さなテーブルと椅子が少し。そして不釣り合いなほどに大きい鏡が添えつけられただけ。間仕切りすらない一間の建屋である。そしてあろうことかその鏡の中に入れというのだ。促されるままに鏡──実はただの鏡などではなく、転送用の魔道具だったらしい──に入って目に飛び込んできたのは、古さは感じるものの明らかに金をかけたと言わんばかりの調度品の数々の並んだ広間。息つく間もなく通路へと案内されると、その廊下にも見たことのないような絵画の数々がかけられており、その一つ一つが屋敷一つは買えるだろうほどに高価そうなものばかり。

 ここは王宮か、宮殿か。実はダンジョンというのは名ばかりで、地下王国だったりするのだろうか。実はダンジョンの中と見せかけて、はるか遠くの国へと転移したのではないか。そう思わせるほどの豪奢な作りだった。

 その妄想ともいうべき思いを一歩留まらせたのが、当のアインズ・ウール・ゴウン──いや、アインズ・ウール・ゴウン達だったのである。

 扉だけで城が立つのではないかと思うほどのふんだんな装飾にあっけに取られた私たちを待っていたのは、凄まじい数の異形者<モンスター>だったのだ。

 我らが国をひっくり返しても決して足りないだろう財宝の数々。たった一体で国を亡ぼすことができるのではないかと思えるほどの強大な異形者<モンスター>。何より圧倒的多数で居た──間違いなく末端であろう──スケルトンですら全身をマジックアイテムで包んでいたという金の掛けぶりである。国に勝ち負けなどないとは思っているが、個人的な意見として言うなら『格が違う』と言うほかなかった。

 結局何をしゃべったのかは分からない。ただラナーが何かを二・三事喋った気がする。そんな程度の記憶しか残っていない。しかしそれは私だけではなかったようだ。

 時間にしてほんの数分程度の謁見──そう、まさしく王との謁見が終わって通された客間。私たちが相当緊張しているだろう事を予測してだろう、非常に人間に似通った──とはいっても頭から動物らしき耳が生えて居たりはするが──メイドたちがお茶を入れてくれて、それを飲み干したあたりだったろうか。

 

「はぁぁ──」

 

 一体誰のため息だ、なんて言うつもりはない。誰の、ではなく誰も息をやっと付けたのだ。力抜け、思わず椅子からずり落ちそうになるのを必死にこらえていると、くすくすと笑う声が横から聞こえてくる。彼女だけは相変わらずなのか。と少し憮然とした顔で睨むと、彼女──ラナーはさらに笑みを深めた。

 

「百戦錬磨たるラキュースでも相当疲れたみたいね。あんなに大きなため息をつくくらいなんですもの」

「え──あれ私だったの」

 

 他の誰かだと思っていたため息が、実は私だったとは。思わず恥ずかしくなるが、そこは慣れたもの。驚きはしたが、素知らぬ顔で再びお茶に口を付けた。本当に美味しいお茶である。もしかするとここのオリジナルの茶葉なのだろうか。

 飲みながら周囲をちらりと見ると、誰もが視線を逸らしていく。巻き込まれまいと。そう、やはりラナーだけだったのだ。『あれ』に耐えたのは。

 

「流石はお姫様ってところかしら。私なんてほぼ話の内容が頭に入ってこなかったわよ」

「そうなの?クライムもずっと顔を青くしていたわね」

 

 そう言いながらラナーはお気に入りの騎士に笑みを向けた。相変わらずクライムが大好きのようだ。真後ろにいたであろう彼の表情すら読んでいたとは。

 

「面目もありません、ラナー様」

「ううん、どうせ今回のはただの挨拶だもの。会談は明日よ」

「うぇ──そうなの」

 

 脳裏に先ほどの謁見が浮かび、思わず顔をしかめてしまう。それを見たラナーは再びくすくすと笑いながら首を振った。『私だけだ』と。

 どうやらいろいろ面倒な公式会談ではなく、個人的な会談にしてくれるらしい。それは暗に様々な便宜を図ってくれると言ってくれているようなものである。

 これほどの強大な力を持ちながら便宜を図ってくれる。それはやはり彼──漆黒の英雄モモンさんの──

 

「そういえば、モモンさんはどこへ行ったのかしら」

「メイドたちと一緒に出て行ったぞ」

 

 周囲を見回しても彼の姿がない。そのまま疑問を口に出せば、返ってきたのはイビルアイの苛立ちを含んだ声だった。視線を移せば、壁によりかかったまま腕を組み、苛立しそうな雰囲気を纏ったまま隠そうともしない。メイドと一緒に出て行ったということは、あのアインズ・ウール・ゴウンにでも呼ばれたのだろうか。一言御礼くらいは言っておきたかったのだけれど。

 

「モモンはなー。愛しのアルベド様に会いに行ったんだとさー」

「ちょっと嬉しそうだった」

「うきうきしてた」

 

 苛立つイビルアイを見て楽しいのか、ニヤつく顔でガガーランが教えてくれる。そうか、愛しの──

 

「え、愛しの?」

「そうだぜ。リーダーもイビルアイから聞ただろ。アルベド様──アルベディア・デラ・レエブン様だよ」

「あっ──ちょ!?」

 

 なにを暴露しているのか分かっているのだろうか。ここには私たち蒼の薔薇の面々しかいないわけではない。ラナーにクライム。そして──

 

「心配するな。何も聞いていない」

「そうそう、別にレエブン公の祖先とか全然知らねえよ」

「は、はぁ──」

 

 驚く私の肩に手を置いたのはガゼフ・ストロノーフさん。どうやら既に知っているが知らないということにしてくれているらしい。では誰が情報源なのか。そんなのは分かりきっている。

 

「相手の事を知るのは基本ですよ、ラキュース」

「時々、あなたの耳って実は世界中の声が聞こえるのかって思ってしまうわね──」

 

 私たちはこれでもアダマンタイト級の冒険者である。間諜等はしっかりと排除していたはずなのだが──そう思った時だった。一瞬、私から目を逸らした人が居たのだ。

 

「ティ~ナ~?」

「姫様は──す、既に知っていた──から、大丈夫。それに、何もしゃべってない」

「そうですよ、ラキュース。ティナさんが裏切るわけないじゃないですか。単に裏付けを取っただけですよ」

 

 つまり、ラナーは確定するほどではないにしてもモモンさんの情報を得ていた。だが裏付けが欲しかったからティナを利用したわけだ。お得意の誘導尋問で。元とはいえ暗殺者から情報を抜き取るなど、一国の姫の技術<スキル>ではないだろうに。

 

「まったくあなたは──あら?」

「遅くなりました、皆さん」

 

 カチャリと音がした方を見ると、ゆっくりとドアが開いていくのが見えた。入ってきたのは見慣れた黒鎧。モモンさんだ。少しだけ申し訳なさそうにする彼に笑みを向けようとしたその時だった。

 突然の爆発音。一瞬何が起きたのか理解できなかった。いや、理解しようとしなったのだ。何しろ、モモンさんが魔法攻撃を受けたのだ。放ったのは──

 

「誰だ貴様は!なぜモモンさんの姿をしている!!」

 

 ──イビルアイだったのだ。

 彼女の言葉をそのまま受け取るのならば、彼はモモンさんではないということになる。

 いやそもそも彼は常時フルプレートを着ているため、変装するには非常に簡単な相手である。しかし声は彼そのものだった。幾ら姿かたちは似せられても声を似せられるものなのだろうか。

 

「ふむ、偽物だと気づいたのは二人だけですか」

「っ!?」

 

 ぐずりと溶けた。モモンさんだと思っていたモノが。フルプレートごと。ぐちゃぐちゃと音を立てながらナニカに変わっていく。否、戻っていく。

 これはスライム?違う。一度──そうだ。一度だけ見たことがある。相手の姿をコピーするモンスターを。

 

「ドッペル──ゲンガー──」

「おや、看破は出来ずとも私の種族を知る人間は居ましたか」

 

 そういいながら『それ』の形が整っていく。ひょろりと高い身長。『それ』が纏う黄色い軍服から延びるのはまるで、白樺を彷彿とさせるほどに白いもの。手らしきものはまるで枝の様に細く長い。顔に当たる部分にあるのは、まるで卵の様につるつるしたものに、目と口に当たる部分に穴が三つ。

 

「私は──おっと」

 

 止める間もなかった。激情に駆られたイビルアイがドッペルゲンガーに特攻したのだ。気持ちは分かる。だが思い出してほしかった。ここは異業者<モンスター>の巣だということを。あのアインズ・ウール・ゴウンですら人間ではなかったことを。恐らく『それ』はアインズ・ウール・ゴウンの配下だろうということを。

 しかし激情に身を任せる彼女は止まらない。彼女の渾身の一撃。城壁すらも簡単に吹き飛ばすであろう力の籠った一撃を、『それ』は難なく受け止め──

 

「あああああああ!!!!」

 

 砕いた。

 その細く長い指で絡め捕られたかと思った瞬間には、まるで綿を握るかのように握り潰したのだ。

 それでもなお止まらぬイビルアイの反対の腕を掴む。潰す。蹴り上げようとする足を蹴り砕き、倒れる背を踏み抜いた。──そう、『抜いた』

 

「カ──」

「まったく──会話すらできないとは。これは血の狂乱状態のシャルティア嬢より酷いですね」

 

 まるで纏わり着く蚊を叩き落としたかのように軽い言葉をため息交じりに吐きながら、血塗れになった足を彼女から抜いた。普通の人間なら即死だ。吸血鬼である彼女だからかろうじて生きている──いや、死にかけているだけ。

 誰も動けはしない。動きが違いすぎるのだ。そもそも私たちの中でイビルアイは群を抜いて強い。正直な話イビルアイとその他、私たちが全員で戦っても負けるだろうと思う程度の差がある。そのイビルアイが成す術もなく殺されかけたのだ。──いや、はっきり言おう。『それ』は殺す気などなかったのだ。ただ、纏わりつく羽虫が邪魔だから叩き落した。その程度の感覚だった。イビルアイが生きているのは単に運がよかった。ただそれだけなのだ。

 

「おっと、忘れていました」

 

 ぽん、と『それ』が手をたたく。ここに来た本来の目的を思い出したかのように。いや、実際そうなのだろう。だから、あまりにも非現実的な言葉であるにも関わらず、『それ』は大した感情も含ませないままに喋ったのだ。

 

「晩餐会の準備が整いましたよ。私がモモンさんの姿で連れていく予定でしたが──ふむ、メイドを呼びましょう。二人だけとはいえ、看破されるとは思いませんでしたから。では、またお会いしましょう」

 

 帽子の被りを直しつつ、出ていく。『おまけで3点。サービスですよ』と、少しだけ嬉しそうに言いながら。

 それがどういう意味なのか、その答えは足元にあった。

 

「あれ──私は──」

 

 いつ死んでもおかしくないほどの瀕死にあったイビルアイが、まるで夢でも見て居たかのように元に戻っているのだ。同じなのは床に倒れていたということだけ。豪奢な毛深い絨毯には血一つすら付いていない。

 

「幻覚かなんかだったってのか──?」

「痛みを伴う幻覚とか勘弁してほしいな、全く」

 

 『よっ』とかるい声と共に彼女は起き上がった。本当に幻覚だったかのように傷一つなさそうだ。

 本当に幻覚だったのだろうか。3点とは恐らく『それ』を看破したイビルアイと恐らくはラナー。そしてドッペルゲンガーだと気づいた私のことだろう。もしその3点を取らなかったらイビルアイは一体どうなったのだろうか。

 

「時を操る魔法──」

 

 ラナーがぽつりと呟いた一言に、私はぶるりと身体を震わせた。

 私たちは──いや、リ・エスティーゼ王国は本当にアインズ・ウール・ゴウンと手を結んでいいのか。それを決めるのはラナー達だ。私などではない。それは理解しているが──理解の範疇にない存在と結ぶ契約。それがどれほど恐ろしいものになるのか。私には想像もつかなかった。

 

 

 

 

 

「あなたほどの変身能力を見抜く存在。生かしておいて良いの?」

 

 嬉しそうに歩くパンドラズ・アクターに声をかけると、いつものように大仰にポーズを決めながらこちらを振り向く。ポーズを取らないと動けない呪いでもかけられているのだろうかと思うほどに変としか言いようのない行動なのだが、私には理解できない何か意味があるのだろう。何しろ彼は妬ましくもアインズ様に直接作って頂いた存在なのだから。

 

「問題ありませんとも、お嬢さん<ミストレス>」

「──前にも言いましたが、私は階層守護者統括という重要な地位を任されているのです。お嬢さんというのは不適切ですよ」

「しかし、麗しき乙女を呼ぶ正式な言葉であると、アインズ様より──」

「あ、アインズ様がそのようなことを!?で、でしたら不問といたします。むしろ以後そのように呼んでくださいね」

「勿論ですとも、お嬢さん<ミストレス>」

 

 本来お嬢さんというのはそれなりに庇護者──特に少女という無力な存在に使う言葉のはずだ。しかしまさかそのような意味があったとは。つまりアインズ様は私のことを麗しき乙女であると思われているという事。それならば全く問題ない。むしろ推奨すべき事柄だろう。

 

「さて、話を戻しましょう。なぜ問題ないのですか?」

「アインズ様がおっしゃったからですよ。『あれは強き弱者である』と」

「強き──弱者──ですか?」

「えぇ。本来の弱者はその名の通り、何も出来ぬ存在です。ですが、あれらは違います。無論殺すことは簡単です。ですが、弱いながらも看破する能力、そして私をドッペルゲンガーであると認識した知力は持っています。それは即ち、己が死した後の事も十分に対策を行っているという証左!ウルベルト・アレイン・オードル様もおっしゃっていました。『力だけが強さではない』と!」

「単に殺すだけでは終わらない。そういう力とは関係ない部分の強さを持つという事ですか。厄介ですね──」

「えぇ。流石にアインズ様の過大評価ではないかと思っていましたが──ハハッ!──私の変身を見抜ける者が二人も居たのですよ!素晴らしい!実に素晴らしい!あぁ、やはりアインズ様のお言葉は間違っていなかったのです!!特にあのラナーという姫が良いですね。アインズ様があの姫をリ・エスティーゼの王としようとなされているのも納得というものです──フフ──おっといけません、明日の準備をしませんと」

 

 余程気が乗ったのだろう口早に喋ったパンドラズ・アクターは、本当に楽しそうに去っていく。

 己の能力を看破する存在に会えてうれしかったのか、アインズ様の予想が的中し続けることがうれしかったのか。

 

「『強き弱者』──本当に厄介ね。アインズ様がバハルス帝国にあの双子を送ったのも同じ理由なのかしら」

 

 ゆっくりと天井を仰ぎ見る。瞳に映るは天井、否、敬愛すべきアインズ様のお姿。

 ゆっくりと、ゆっくりと深呼吸をする。本当に、本当に──

 

「本当に、アインズ様は全てが見えてらっしゃるのかもしれないわね──」

 

 それほどに全知でいらっしゃる御方に仕える。それがどれほど辛く、苦しく、恐ろしいものか。それがどれほど嬉しく、楽しく、尊いものか。

 

「アインズ様──っ!」

 

 震える身体を抱きしめ、本能のままに叫ぶ。

 尊き御方の──愛する御方の名を。




くっ──長くなってしまいました。
大事な部分だったので削れなかった!悔しい!
最初削りすぎですが、そこ普通に書くとそこだけで1話食いますから…

最初はイビルアイにくっころさせる予定でしたが、1000字くらい超えそうだったので已む無くカット!しました。
いつかイビルアイにくっころさせたい。

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