漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! (通称:モモです!)   作:疑似ほにょぺにょこ

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同日二話目投稿! たまにあります、こういうこと


5章 ナザリック 善意の会談編-6

「どうでしたか、先日の食事は。うちの者が随分と張り切って作っていたようでしたが──口に合いましたか?」

「えぇ、それはもう。私はリ・エスティーゼ王国から出たことがない身でしたので、バハルスの味はとても新鮮でした」

 

 ラナー姫一行がナザリックを訪れた次の日。アインズ・ウール・ゴウンとしての俺とラナー姫は、謁見の間ではなく来客用の応接間で会談していた。一番の懸念だった晩餐会の評判は上々だったようである。何よりも、表情にこそださなかったものの不満そうだったあのアルベドが率先して行動してくれたのは非常に助かった。

 俺はアンデッド──スケルトン種であるために食事することそのものが出来ないため、そういう場に居ても間が持たないためどうしようかと悩んでいたのだ。

 上手く歓待できたようで非常に良かった。もしかするとパンドラズ・アクターからの評判が効いたのかもしれないな、と思っている。何しろ今目の前ににこやかに座っているラナー姫を最も評価したのが、誰でもないパンドラズ・アクターだったのだ。同時にイビルアイを危険視する辺り、やはり俺の作った子であるというところだろう。

 

(まさか『是非彼女を王に!』とか言うなんてなぁ)

 

 確かにそういう考えがなかったわけではない。王家とはいえ末席に居る彼女の発言力は無いに等しいだろう。かつての時代ドラマに『冷や飯食らいの三男坊』などという言葉がよく使われていたらしい。かつての俺の世界でもそれくらい年長者が重用されていた時代があったわけである。王政国家たるリ・エスティーゼでは比べるべくもないだろう。

 生まれてこの方出たことなく、隣の国であるはずのバハルス帝国の味ですら新鮮だと笑顔を向ける健気な彼女には本当に涙が出そうになってしまう。

 

「しかし──よろしかったのですか?このような場を設けて頂けるなんて」

「当然です。ナザリックとしてリ・エスティーゼ王国と長く付き合っていきたいと思うと同時に──」

「──なんでしょう?」

 

 少しだけ、ほんの少しだけ彼女の形の良い眉が寄った。はて、何か間違えたのだろうか。いや、ここで止めるわけにはいかない。恐らくこの世界で俺たちの事を最も多く理解してくれるだろう人なのだから。ここで引いてはいけない。

 

「この私、アインズ・ウール・ゴウンとして貴女と仲良くしていきたいと思っているのですよ」

「それは──」

 

 ほんの少しだけ彼女が言い淀む。確かに異形の者と仲良くしていくのは非常に難しいだろう。たかがゲームの世界ですら『異形の者死すべし!』と声高らかに叫ぶ奴もいたくらいだ。こんな世界では言わずもがなという──

 

「アインズ・ウール・ゴウン様は、私との子をお求めになっている──ということなのでしょうか?」

「は──はぁ!?」

 

 あまりにも突拍子もない言葉に下顎が『かくん』と落ちそうになってしまう。俯くラナー姫。少し震えるラナー姫。俺は一体何を間違えたのか、と思って自分の言葉を反芻して気付く。

 

「あ、あぁ!仲良くというのは、人と異形の者との確執を持たぬ友好的な関係という意味でして!」

「まぁ!そうだったのですか!」

 

 慌てて訂正すれば、まるで謀ったかのように満面の笑みを浮かべてくれた。いや、謀ったはおかしい。彼女は純真なのだ。ただ他の人よりも頭が回り、ほかの人よりも理解できるというだけだ。そのため俺の言葉を深読みしてしまったのだ。今のは俺が悪かった。彼女は悪くない。

 

「でしたら、アインズ・ウール・ゴウン様──私と──お友達になってくれませんか?」

「ともだち──それはいいですね。では、まず私の事はアインズと呼んでください」

「はい。では私の事もラナーと。姫は要りません」

 

 私と友達になれたことがそんなに嬉しいのか、喜色満面で応えてくれる。良いことである。

 

「では、ラナーと呼びましょう──いや、呼ぼう。構わないな、ラナー」

「はい、アインズ様」

 

 本当に笑顔が可愛いなラナー姫、改めラナー。こんな可愛い子を嫁に貰える男は幸せ者だろう。そういえば、彼女はクライム君の事を執心していたはずだ。姫と騎士。まるで物語のような関係である。しかしこれは物語ではなく現実だ。彼女が彼と結婚できるとするなら、次に起こるであろうバハルス帝国との大戦で多大な功績を立ててもらうか──

 

「──?」

 

 彼女に王と──女王となってもらうか、その二択だろう。

 しかし彼女に女王が務まるのだろうか。見つめる俺を不思議そうに見つめて首をかしげる彼女は、まさしく世間知らずなお嬢様のそれである。

 だがしかし。だがしかし!彼女には愛する相手がいる。愛するものと一緒になるためならば、多少の困難くらい歯を食いしばり頑張ってくれるだろう。彼と支え合いながら。ならば俺はそれを最大限サポートするだけだ。俺を──異形種を──理解してくれる彼女のために。

 

「ラナー。君は愛する者と共に歩むために、茨の道を進む覚悟はあるか?」

 

 

 

 

 

「おや、おんしは──あのラナーとかいう姫のつきそいで来た男でありんすね」

 

 アインズ様がラナー姫とやらとの会談──というよりもむしろ対談を始められて早数時間。途中に昼食休憩を挟まれてなお続けられているため、私としては現状何もすることがない。その手持無沙汰を解消するためにと軽くナザリックを散歩している時だった。突然傅いている男が居たのだ。私は階層守護者であり、あの人間たち一行からすれば私はアインズ様の妻たる立場ということにならせて頂いている。つまり私に人間が傅くのは当然ともいえるのだが、流石に廊下に傅いたまま待つというのは普通でも当然でもないだろう。

 

「私の事は、お忘れでしょうか──シャルティア・ブラッドフォールン様」

「ふむ──」

 

 顎に指をあてて思案する。さて、と。記憶力は悪い方ではない。流石に通り過ぎただけの者を覚えている程ではないが、この男の口ぶりからして言葉を交わしている程度以上は相対している筈だ、と。

 

「その口ぶりからして、間違いないのでありんしょうが──残念ながら覚えておりんせん」

「これでも──でしょうか」

 

 ゆっくりと男が立ち上がり、構える。構えている──のだろう。恐らく。私が見るに隙だらけなのだが、この男にとって『これ』は隙のない姿をとっているつもりなのだろう。

 ふわりと浮かぶ力の空間。薄く儚いそれは、指で突けば簡単に割れてしまいそうなほどだ。さて、これが何をしてくれるのだろうか。

 

「本当に、覚えていらっしゃらないようですね」

「えぇ、このような面白そうなもの──一度見れば忘れないはずでありんす」

 

 全く記憶にない。まさかこの変わったふわふわしたものを周囲に展開するだけの技なわけではないだろう。そういう大道芸も面白そうだが、立ち居振る舞いからしてこの男が戦士であることは容易に想像がつく。ならば、これは武技なのだろうか。そう思うと妙に興味が湧いてきた。

 

「入るでありんすえ」

「──どうぞ」

 

 その空間に入ったそのときだった。男がゆっくりと刀を抜き始めた。あくびが出そうなほどに緩慢だが、単純な速度のみで考えるならばそこそこと言えるのだろうか。コキュートスが蹴散らしたあのリザードマンと比べるなら、比べるべくもなく早い。が、それはリザードマンを1としたら、2か3位の差である。こちらが1万として。

 そう益体なく考えていたらようやくこちらに刃が近付いてきた。どうやら私の首を狙っているようだ。

 剣の軌道上に小指の爪をそっと添える。あまり力を籠めるとその剣そのものを折ってしまいそうだったから。そう思った時だった。

 

「おぉ──」

 

 『キンッ』という音を立てて小指の爪が切れたのだ。当然一度で切れるほどやわな爪ではない。オリハルコン程度なら簡単に両断する爪なのだ。ミスリル程度の剣で傷などつけられるはずもない。この男の力量からして、欠けさせれば上等と思っていた。そうすればどうだ。突然刃が四つに分かれ、両側から同じところを同時に斬ったのだ。

 4度の同時攻撃による武器破壊。オリハルコンを両断する爪を、もっと柔らかいミスリルで行った男の技量は、目を見張るには十分に値するものだったのである。

 

「──秘剣虎落笛<もがりぶえ>・二式:爪切り」

 

 『パチパチパチ』静かな廊下に私の拍手が木霊する。たかが爪だ。だがこの男はやったのだ。私の想像を──予想を超えた行動を行ったのだ。それはまさしく賞賛に値するものだったのだ。

 『恐縮です』と小さく呟きながら、大きく頭を下げる。その頭──否、目からはぽつりぽつりと涙が零れ、絨毯に染みを作っていく。

 私にとってはただの爪だ。一番細い小指の爪だ。伸ばそうと思えば幾らでも伸ばせる、ただそれだけのものだ。

 だが、彼にとっては違う。私はコキュートスのような武人ではないが、戦闘を行う者である。だから、理解する。弱者である彼が、絶対強者である私に一つの傷をつけた。絶対に届かないはずの領域に指先が掠ったのだ。

 脳裏にたっち・みー様と武人建御雷様の数多の戦闘が浮かぶ。武人建御雷様はどうやってもたっち・みー様に勝てはしなかった。それでもなお研鑽に研鑽を重ね、新たな武具を構築し、何度も戦いを挑まれていた。終ぞ勝つことはできなかったが、それでも良いところまで行くことは何度もあった。その度に武人建御雷様は涙を流し、雄叫びを上げていらっしゃったのだ。

 その御姿と、目の前の男の姿が重なる。技術も力も何もかも、ありとあらゆるものが武人建御雷様には遥か遠く及ばないが、それでもその気概はどこか通じるものがある。

 

(そう、ぺロロンチーノ様もお二方の研鑽し合うお姿をよく羨ましそうに見ていらっしゃったわ──)

「男、名前を教えるでありんす」

「はっ──ブレイン──ブレイン・アングラウスと申します!」

 

 その名、心に刻もう。かつてぺロロンチーノ様が焦がれた姿を体現する男の名を。

 

「ブレイン・アングラウス!」

「はっ!」

 

 私の声に反応して、男は──ブレイン・アングラウスは再び私に傅いた。

 

「そなたの武技、とくと魅せてもらったでありんす。弱者が決して届き得ぬ領域に、よくぞ触れたでありんすね」

「ありがとう──ございます──」

 

 男というのは泣き虫だ。そういえばたっち・みー様も武人建御雷様も、それに敬愛するぺロロンチーノ様もよく涙を流されていた。嬉し涙だけではない、悔し涙も悲しい涙も。たくさん。たくさん。

 もう、戻らぬ楽しかった日々。もう、会えぬ御方たち。だが、後ろばかりは向いては居られない。そんなことではあの方たちに笑われてしまう。もしまた会えるならば、せめて自信をもって笑い合いたい。このような素晴らしい男がいたと、報告したい。

 そう思った私の手にあったのは一振りの剣。片刃の反った──刀と呼ばれる形状の剣だ。

 かつて武人建御雷様がぺロロンチーノ様に近接武器も使えるようになれと、半ば無理やり渡されたもの。結局数回振っただけで、私に渡されたままになっていたもの。

 この武器に意味があるとするならば、きっと──

 

「ブレイン・アングラウスよ。褒美を与えるでありんす。さ、頭を上げるでありんすえ」

 

 ゆっくりと彼の頭が上がる。視線が──泣き腫らした目が私の手にある武器に止まった瞬間、驚きと共に大きく見開かれた。

 

「このようなもの──よろしいのでしょうか」

「良いでありんす。さぁ、受け取りなんし」

 

 震える手でそっと剣を受け取る。けれどあまりに震えすぎて剣がカタカタと鳴っている。普段なら滑稽だと笑うそれも、不思議と──その武器が喜んでいる様に見えた。

 

「その武器の名は雷神刀・初式。かつて──最強と謳われた存在に果敢に挑み続けた一人の男が打った至高の一品の一つでありんす。柄に二つ、鍔に二つ、刀身両側に八つづつ。計二十ものルーンが刻まれているでありんす」

「────」

 

 すらりと剣を抜く姿は流石堂に入っている。だが、未熟。素人同然であったぺロロンチーノ様でさえ呼び出せた力が呼び出せていない。

 

「やはり、まだまだおんしには扱えぬ武器の様でありんすね。その武器には真の力が眠っているでありんす」

「真の──ちから──」

 

 彼は数度振るうが、その力は片鱗も見出せない。何が足りないのか。剣を使わない私が持っても発現するだろうその力。やはり未熟だからだろうか。

 少し気落ちした顔で鞘に納める彼に笑顔を向ける。

 

「作られた御方によれば──その武器には、力を求める者に応える意思が埋め込まれているそうでありんす。ブレイン・アングラウス。おんしはまだまだ未熟でありんす。でも、まだまだ伸びる。きっとその武器はそう感じて居るでありんす」

「俺がまだまだ未熟だから応えてくれない──ですか」

「そうでありんす。その武器の力──見事引き出して見せるでありんす。そのときは──」

 

 あぁ、嬉しい。あぁ、楽しい。きっとたっち・みー様は武人建御雷様に対してこんな気持ちを持たれていたのだろう。

 あぁ、ぺロロンチーノ様。あぁ、愛しき御方。もし、いつか貴方様に再び会える時があるとしましたら──この事をお話し致しましょう。きっと喜んで下さるはずだから。

 

「少しだけ──私の本気を、見せてあげるでありんすえ」




まだ──終わらない──ぐぬぬ──
今月中には終わらせたいですね──

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