漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! (通称:モモです!)   作:疑似ほにょぺにょこ

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6章 それぞれの思惑と戦争の足音
6章 世界 それぞれの思惑と戦争の足音-1


 ここに来るのも久しぶりだ。豪奢とは言わないが、荘厳という言葉をそのまま体現化したかのようなこの神殿。滅多に来る場所ではないからか、それともそこに居る『それ』が恐ろしいからなのかは分からない。ただ、どこぞの国の王と対面するよりもずっと緊張している自分が居るのは間違いなかった。

 神殿の奥へと通路を進むと、突如広い空間に出る。ほとんど何もない空間だ。ただ、その中央に居る圧倒的大きさを持つ『それ』がこの空間のほぼ全ての存在を牛耳っていると言っていいだろう。

 

「やあ、わざわざ来てもらってすまないね、キーノ・ファスリス・インベルン」

 

 一体どうやって喋っているのだろうか。明らかに人語を話すには適さない口をした『それ』──白金の竜王<プラチナム・ドラゴンロード>がゆっくりと首を持ち上げて話しかけてくる。

 圧倒的というべき存在感である。相変わらず『それ』を見る度に、いかに国落としなどと呼ばれている自分が矮小な存在であるかをまざまざと見せつけられている気分だ。いや、『それ』にとって私など、国落としでもただの小娘でも大差ないだろう。どちらも『それ』にとっては等しく無力なのだから。

 

「私の事はイビルアイと呼んでくれと前々から言っているだろう、白金の竜王<プラチナム・ドラゴンロード>」

 

 内心の恐怖を押し殺すように声を絞り出せば、普段よりも幾分か声が低くなってしまう。しかしそれは『それ』にとって、私が怒っていると誤解するのに十分だったようだ。

 

「それはすまなかったね、イビルアイ。出来れば私の事もそんな役職みたいな呼び方ではなく、ツァインドルクス──ツァーと呼んでほしいものだね」

「それで、『白金の竜王様』が私に何の用だ」

 

 リグリットのババアもいつも言っていたが、その名は『白銀』として姿を偽っていた時の名だ。彼女ほどではないが、私だって含む部分くらいある。

 そう暗に言う私に『やれやれ』とため息を付く姿は、世界最強の存在とは思えなかった。そう、最強というなら──

 

「呼んだ理由は一つだよ。なぜ漆黒の英雄が嘘の噂をばらまいているか、ということに──」

「ふざけるな白金の竜王!いくら貴様が最強の存在だと言っても、許されないことがあるぞ!」

 

 そう、私の考えうる最強の存在──モモンさんが、嘘をついているなどあり得るはずがないのだ。

 

 

 

 

 

「とても、楽しそうでございますな、陛下」

 

 我がバハルス帝国の我が城の我が部屋。他称すればバハルス帝国城の謁見の間。その中央に鎮座する我が椅子にいつも通りゆるりと身を任せて、リ・エスティーゼ王国から送られた親書を読み上げていく。

 親書という名の『通達文』を読みながら堪える事無く声をあげて笑う私に、同じく満面の笑みを浮かべながらじいが問うてくる。

 

「あぁ、楽しいとも。リ・エスティーゼの王め。腹の中に虫どころか魔王を取り込みおったわ!これを笑わずしてなんとする──ク、ククク──クハハハハ!」

 

 アインズ・ウール・ゴウン。得体の知れぬ存在。分かっていることは我が帝国最大の魔導士たるじい──フールーダ・パラダインですらも理解し得ぬ数多の魔法を扱う存在であること。我が帝国の中でも中々の手練れを集めた集団をただの一人も逃さず皆殺しにした無慈悲な存在であること。

 これを呼ぶに相応しい名は『魔王』に他ないだろう。そう籠めて言えば、じいも『その通りだ』と言わんばかりに何度も頷いている。

 

「ではどうなさいますかな。陛下の眼下に突如現れた伯爵に鉄槌でも食らわせますか」

「まさか!そんなことをして喜ぶのはあのダークエルフの双子くらいではないか!」

 

 人を縛る大地すら我が味方と言わんばかりに、私の身体は私の意志通りに玉座からふわりと浮いて立ち、天井に──あのいけ好かぬ幼き双子の居るであろう方へと両手を伸ばす。

 

「では、静観なさいますかな」

「まさか!そんなつまらんことをして喜ぶのは、金貨を数えるくらいしか趣味の無い貴族どもくらいなものだろう!」

 

 今度は両手を城下へと向ける。視線の先に居るであろう、欲に塗れて肥え太った我が国の貴族たちに向けて。

 

「では、どうなさいますかな」

「どうするかなど最初から決まっているだろう、じい」

 

 そして、じいへと手を向けた。私の思考など読めぬじいではない。そんな愚か者などではない。それを示すかのようにじいは、満面の笑みで私に頷いて見せる。

 

「ほほ、そうでございますな」

「行くぞ、リ・エスティーゼ王国へとな!」

 

 

 

 

 

「皆の者、よくぞ集まってくれた!」

 

 皆が集まる玉座の間──ナザリック地下大墳墓の玉座の間の最奥に鎮座する玉座に座りながら声を張り上げる。普段よりも三割増しくらいの大きさで。あまりに気合が入ったためか、思わずネガティブオーラが漏れてしまいそうになる。

 しかし、気合が入るのも仕方ないだろう。この玉座の間に集まったのはいつものメンバー──階層守護者や領域守護者達だけではない。皆の直属の配下に加えてコキュートスが統治しているリザードマンたち、セバスが監督している人間たちも居るのだ。総勢にして数百人にも及ぶだろう。

 

「まず、領域守護者統括アルベド。並びにこのナザリックが一の知者デミウルゴス。前へ」

 

 久しぶりの公式と言うべき謁見のため、いつもは隣に居るアルベドも。目立たず、しかし存在感を残す位置に立っているデミウルゴスも皆と一緒に傅いている。なのでまずは二人を立たせて前に呼ぶ。でないとまともに進行させられる気がしないのだ。

 そもそも人の上に立った事どころか、ユグドラシルというゲームを除けばまともな責任者になった事すらない俺に一人で進行しろという事自体が無謀である。

 普段よりも緊張しているのだろうか、二人もいつもより少しだけ気の入った返事をして立ち上がる。しかし慣れたもの。立った時の表情は二人ともいつもとかわらない。きっと肉の顔があれば冷汗でびっしょりになっているだろう俺とは大違いだ。

 

「まずアルベド、現在の進捗状況を」

「はい、現在ナザリックはカルネ村及びトブの大森林を中心に活動しております。カルネ村ではバレアレ一家による現地素材のみで扱う第三のポーションの制作を中心に行っております。先日行われた東の巨人こと『グ』の討伐及び西の魔蛇こと『リュラリュース・スペニア・アイ・インダルン』の従属はシャルティアを主体としてルプスレギナとエントマの二人によって解決いたしました」

 

 東の巨人と西の魔蛇の一件。シャルティア基準で言えば強さ的には然程強くはなかったようだが、森の賢王と呼ばれたハムスケと同等と考えればカルネ村が全滅する可能性と森林の中に作っている第二のナザリックに被害が及ぶ可能性があった。そのため忙しい俺の代わりにシャルティア達に行かせたのだが、上手く事を運んでくれていたようだ。もし俺が行っていたら、問答無用で倒してしまっていたかもしれない。何しろこちらに問答無用で攻撃を仕掛けてきたらしいのだ。そんな相手に手加減などするはずもないのだ。

 ちらりとシャルティアの後ろの方へと視線を向けると、まるで床で自らの額を削り取っているのではないかと思う程に、縮こまりながら床に頭を押し付けているナーガが居た。パッと見た感じレア種というわけでもなく、通常のナーガより少し強いだけのようだ。間違いなく俺なら他のナーガと一緒に倒してしまうだろう。そういう意味では、シャルティア達は想定以上の働きをしてくれた事になる。

 

「続いてトブの大森林ではリザードマンのクルシュ・ルールーを中心とした集落が安定した生産を続けているようです。また第二のナザリック建築も遅滞なく滞りなく進んでいるようです。また、先の東西のボスを倒したことにより東・南・西のモンスターのほぼ全てが我らの下に付きました」

 

 そういえばコキュートスがリザードマンの集落を統治し始めて久しい。あの白いリザードマン──クルシュだったか──がこちらに来ているリザードマンの子を産んだという話があった。とはいえ人とは違い卵で産むため、これから孵化させなければならないので大変なのはこれからだろう。モンスターの殆どの平定が終わったことも喜ばしい。後はトブの大森林の北側──山側の方だけになる。

 

「うむ。ではシャルティア・ブラッドフォールン、ルプスレギナ・ベータ、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ。前へ」

 

 さぁ信賞必罰だ。

 三人はこちらへと進み、あと数歩というところで再び傅く。個人的にはもう少しフレンドリーにいきたいが、今は公式の場。そういうわけにもいかない。

 

「まず──シャルティア」

「はい」

 

 俺の声に反応してゆるりとシャルティアが顔を上げる。そこにあるのは自身に満ち溢れた笑みだ。それがうっとりと、恍惚とした笑みへと変わってくる。本当に変な設定にしたものだ、ぺロロンチーノさんは。

 

「シャルティア。お前が主体となって此度の件を解決しただけでなく、西の魔蛇を捕獲した功績は大きい。何か褒美をやろうと思うのだが、何を望む」

「では、アインズ様のものを何か一つ頂きたいでありんす」

 

 そうシャルティアが言った時だった。一瞬、ぴしりと空気が凍った気がした。右からゴリッという何か擦れる様な音がしたが、右側にはアルベドしかいない。ちらりとアルベドの方を見れば、いつもの笑顔を湛えている。気のせいだったのだろうか。

 

「そうか、ではお前にはこれをやろう」

 

 そういって取り出したのは小瓶。中に入っているのは赤い液体。分かりやすく言うなら消耗品だ。見た目だけで言うなら最下級回復ポーションだ。しかしその赤い液体は全く別物である。

 俺は立ち上がり直接シャルティアに渡そうかと思ったのだが、ふとデミウルゴスと目が合った。目が言っているのだ『私がやります』と。手渡しすら駄目なのか。そういえば映画で王が配下の者に褒美を渡すときは側近の者に渡していた気がする。そういうことをやれということなのか。

 

「デミウルゴス」

「はっ」

 

 デミウルゴスに小瓶を渡すと、流石のデミウルゴスもこれが回復ポーションなどではないと気付いたのだろう。ほんの一瞬目を見開いていた。それから何事も無かったかのようにシャルティアに渡している。

 

「あ──」

 

 そして血を司るシャルティアも受け取った瞬間に気付いたようだ。その顔は驚愕にひきつっている。喜んでくれるかと思ったのだが、それ以上に驚きがあったようだ。

 

「気に入ったか、シャルティア。それは私のもの──そう、私の血だ」

 

 前──シャルティアと戦った時にできた傷の一つからほんの少しだけ出た血をとっておいたものだ。アンデッドであるが故に肉から流れ出た物ではなく、骨の内部に微量にあったもの。案外風化も固形化もしておらず高い魔力を有していたので、何かの触媒に使えないかと思って。とはいえ自分の血を使って何か作るというのは気が引けてそのままにしていたものである。

 真祖であるシャルティアなら生絞りそのままが良いだろうと思って、倉庫の肥やしにするよりは、と渡したのだが──予想以上に気に入ってくれたようだ。もう聞こえない程のか細い声で感謝を述べると、まるで幼子を愛しむかのようにそっと懐に入れた。

流石にこの場で飲むことは無いだろうとは思って居たが、あそこまで喜ぶとは思ってもみなかった。今度怪我したときにでもまたとっておくと良いかもしれない。

 

「続いてルプスレギナ・ベータ、並びにエントマ・ヴァシリッサ・ゼータ」

「「はっ」」

 

 この二人に関しては渡す物はすでに決まっている。なのですぐに子袋を二つ取り出すと、同じくデミウルゴスに渡す。

 デミウルゴスから渡された二人は対照的だった。少し震えながらも務めて冷静に胸に抱くルプスレギナと──

 

「──?──っ!!」

 

 渡した小袋に何が入っているのかいち早く気付いたエントマは体中から『かさかさ』と音を鳴らしていた。

 流石にそれは不敬だと思ったのだろう。ルプスレギナは普段では想像もつかないような眼つきでエントマを睨んでいる。

 

「よい、ルプスレギナ。エントマ、気付いたようだな」

「はい、とても美味しそうな匂いがします」

 

 嬉しそうなエントマの声に私はゆっくりと頷いた。こっそりと顎──口へと袋を持って行こうとするエントマが微笑ましい。

 

「それはお前たちへの褒美だ。ここで食すことを許す。だから袋ごと食べようとせず、開けて食べるのだ」

 

 食欲に正直なエントマを流石に看過できないとルプスレギナが殴り掛かろうとしたのでさっさと許可を出す。いちいち許可を出さないとお腹を空かせる子が食べることすら出来ないというのは見て居て辛いものである。

 口を縛るリボンを解くのすらもどかしいと、破りそうな勢いで小袋が明けられる。

 

「クッキー──ですか」

 

 袋から一つを取り出ししげしげと見るルプスレギナの隣からさくさくと音がする。開けると中も見ないままにエントマは口に運んだのだ。

 それに倣いルプスレギナも口を付ける。丸ごと口に入れるのではなく、半分だけ。軽く口が閉められると同時にルプスレギナの口からもさくりと軽い音が鳴った。

 

「アインズ様──もしやあれは──」

「ふふ、アルベドやデミウルゴスも気付いたか」

 

 そう、それは俺の手作りクッキーである。

 調理スキルを持たない俺ではどんなにやっても調理は成功しない。例えそれが大根を乱切りするだけだとしてもだ。

 しかし本当にそうなのだろうか。もしかすると武技のように後から習得できるのではないかと思い、ペストーニャに手伝ってもらって時間の許す限り作り続けてみた。その結果──

 

「あれは、アインズ様の手作りのクッキーなのですね」

「あぁ、スキルを持たぬこの私でもしっかりと練習をすれば作れるようになる、ということだ」

「なるほど、そういうことでございましたか──」

 

 相変わらず何かを深読みして、何かを察したデミウルゴスことさすデミさん。俺としては成功したのが嬉しくて、これ褒美としてあげると良いんじゃないかと持っていただけなのだが。

 

「ほう、私の意図に気付いたかデミウルゴス」

「はい、勿論でございます」

「ふむ、では許可しよう。わからぬ者たちに教えてやるのだ」

 

 情けない俺を含めて。

 決してクッキーを加えたままきょとんとしているルプスレギナや、黙々と食べ続けるエントマ、頭から湯気が出そうなくらい悩ませているアルベドやシャルティアだけではない。

 

「皆、我々はこの世界を少しは見てきた。そして気付いたはずだ『弱い』と。そう、この世界の生き物の大半は我々にとって取るに足らない程度の強さしかない。ハムスケの強さで特定区域を仕切れる程度のね。だがそれは全てではない。我らと同等──いや、我ら以上の強さを持つものも居ないとは言い切れないだろう。では今はいいとして、その我らより強い相手と出会った時にどう対処すればいい。この世界の者は際限こそあるだろうが、時間をかけるほど強くなっていく。だよね、コキュートス」

「アァ、リザードマン達モ見違エルヨウニ強クナッテキテイル」

「うん、そうやって強者が増えてきた時、我らは同じ位置に甘んじていて良いのだろうか。アインズ様はそれに一石を投じられたのだ。今回なされたのは調理スキルという戦闘には関係ないものだが、アインズ様は全く持ってないスキルを習得なされた。そう、可能性を見せて下さったのだ。我々もまだまだ『強くなれる』とね」

 

 なるほど、そんな理由があったのか。単に忙しなく働く皆の口に放り込んでやるときに使おうと思って練習しただけだったのだが、そういわれればそうである。

 レベル100である俺はマジックキャスターであるのに、《完全なる戦士/パーフェクト・ウォーリア》使用中のみという制限はあるものの、幾つかの武技が使えるようになったのだから。

 これはユグドラシルでは考えられない成長である。

 それを気付かせてくれるなんて、流石デミウルゴスである。さすデミ!と言いたいのに──

 

「流石はアインズ様です!」

 

 そういうデミウルゴスの拍手を皮切りに、万雷の拍手と共に『流石アインズ様!』という声が上がり始める。

 俺はスタンディングオベーションを始める皆を諫めた。まだ会議は終わってないのだ、と。

 そういうお前たちの態度がナザリックの主としての難易度を上げるんだよ、と。心の奥底で嘆きながら。

 




あいあむべーりーべーりーって延々ループさせながら夜中に書き上げました。
良いですね、アニメ三期OP。思わずmoraでデジタル版を買ってしまいました。


さぁこれから様々な人の黒い思惑が見え隠れし始めます。予想は当たりましたか?外れましたか?
当たってニヤニヤしながら読むもよし、外れて驚きながら読むもよしです。
短絡的に『これ間違ってねえ?』って思うもよしです。根気よく読んでいると驚く展開になると思いますよ?たぶんですが!!


題名からお気付きの通り、戦争前の章になります。そこまで長くなる予定はないですが、非常に重要な章でもあります。
上手く設定を煮込んでいければ良いな、と思いながら書いております。
今まで出てきた皆の話を思い返しながら読んでいってくださいねっ!


あぁ、もう6時ですよ──

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