漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! (通称:モモです!)   作:疑似ほにょぺにょこ

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このおはなしにはおりじなるせっていがとうじょうします

混乱しないでくださいね。


7章 王国 七罪 ─Jaldabaoth─ 5

「なんと──なんという──」

 

 アインズ・ウール・ゴウン伯爵の放った超位魔法というものは、私の想像を遥かに絶するものだった。その超位魔法なるものは敵を倒すだけに飽き足らず、その死を供物として黒き豊穣の女神なる存在の仔──恐らくは神の仔たる存在を召喚してみせたのだ。しかも見た限りでは召喚された7体の神の仔は完全に伯爵に制御されている。あの異形なる存在が神の仔であるとは思いたくはないが、あまりにも圧倒的な存在感と力は確かに神の仔と言われても過言ではないだろう。

 一体どれだけの者があの存在に立ち向かっていけるだろうか。聖戦であると謳ったローブル聖王国兵は逃げる事無く戦ってはいるものの、戦局は一方的──いや、ただただ蹂躙されているだけである。

 ちらりと絶死絶命へと──漆黒聖典番外席次へと視線を向ける。相変わらずの薄笑いは余裕を持って居るようにも見えた。

 

「絶死絶命よ。あれを倒すことは出来るか」

「んー────5分は持つかしら?」

 

 彼女にしては珍しい長考の後に出た数字。つまりあの存在を倒すには神人たる我が国最強の──

 ふいに視界一杯に映る彼女の姿に驚き、仰け反ってしまう。阿鼻叫喚の地獄絵図を写す鏡とは裏腹にとても静かなここ──観覧席で声を上げなかったのは僥倖と言えよう。

 

「な、なんだ──突然──」

「間違ったことを考えているみたいだからぁ、訂正しようかなぁと」

 

 私が驚いたのがそんなに面白かったのか『くすくす』と声をあげて笑っている。その姿は容姿相応と言える仕草ではあるのだが、彼女は化け物が人の皮を被っているだけである。圧倒的と言うべきその存在がまるで幼気な少女の様に笑うのは不釣り合いを通り越して不気味に思えた。

 

「私の言葉は聞こえてましたぁ、闇の神官長様?私は『5分は持つ』って言ったのよ」

「わ、分かっている。だから──」

 

 私の言葉を待つことなく、ゆるりと首を振る。それが違うと。では、まさか──

 

「私は、『あの暴れている内の一体がこちらに来た時に、全力でやって5分は持たせられるかもしれない』って言ったのよ?だってあれ、私とは──いえ、生物とは存在そのものが違うもの。戦いにすらならないのではないかしら」

「──っ!!」

 

 絶句するしかなかった。神人たる絶死絶命ですら戦いにならないというのか。では、あれに対抗できるのはやはりドラゴンロード位──

 

「無理ねぇ──白金の竜王<プラチナム・ドラゴンロード>は勝てる気がしないわ。でもそれだけなの。あれは、戦いにすらならないわ。大人と子供じゃないの。龍と生まれたての赤子ね。やるとするなら、一体相手に全竜王をぶつければ──1,2体死ぬだけでなんとか倒せるかもしれないわね。ちがうかしらぁ、ツァインドルクス=ヴァイシオン?」

「そんな──そんなの──あれは──」

 

 あれは、八欲王と同等の強さを持つとでもいうのか。

 一際大きな声で二つ隣のテーブルに座る白金の竜王に向けて彼女が言う。しかし白金の竜王からは答えは返ってこない。

 残酷な沈黙が降りる中、召喚主から──伯爵から笑い声が上がった。

 

「ハハハ──安心したまえ。可愛い仔山羊たちは貴方達に危害を加えることは無いと宣言しよう」

 

 その言葉にどれだけの信用があるというのか。彼の──アインズ・ウール・ゴウン伯爵の本当の目的が、この化け物を召喚する事にあるとしたら。それらを各国に放つとしたら。

 

──我らの死を以て

 

 『カタカタ』と身体が震える。その震えを止めるのは一つしかない。あまりにも無慈悲なるもの──

 

「本日のデザートとなります。カスタードプリンでございます。ごゆるりとご賞味くださいませ」

 

 彼の言葉をただただ信用し、目の前に出される食事に専念することだけだった。

 

「ん~~~。このぷりんっていうやつ、美味しいわぁ」

 

 にこにこと満面の笑みを浮かべながら食べる絶死絶命を見ていると、案外この選択肢は間違いではなかったと思えてしまう。これから帰って行う会議の事を思えば腹が痛くなるというのに。デザートを口に運ぶ手を止めることはできない。

 

「此度の余興は如何でしたかな、皆々方。色々と考えられることもあったことだろう。国へと持ち帰り、ゆるりと──うん?」

 

 こちらに向き、最後の演説を行う伯爵の後ろ──戦場より突如巨大な爆音が鳴った。

 伯爵の力により支配された空間に居る我々が直接感じることは無いが、周囲の草木が物凄い勢いで揺れているところを見ると相当凄まじいようだ。

 それもそのはずだ。鏡越しでなくともわかる。超巨大な火柱が上がっていたのだから。

 

──あの、黒き豊穣の女神の仔が居た所に。

 

 続けて火柱が上がっていく。ふたつ、みっつ。増える。増えていく。増えるごとに巨大な爆音が轟き、神の仔の悲痛な叫びが上がる。

 絶望を与えるはずの神の仔が、絶望の声を上げている。

 

「メエエェェェエエェェェェ──!!」

 

 ついに最後の一体をもその巨大な火柱に包まれる。

 『どう』と地響きを立てながら一体──また一体と炎に包まれながら倒れていく。

 

「ほう──やはり居たか──」

 

 轟々と燃え盛る戦場。そこに居たのは──倒されたはずの兵たち──ローブル聖王国の兵たちだったのだ。

 伯爵の怒りの混じった低い声が響く。我々に言われたわけではないというのに、まるで心臓を鷲掴みにされたかの様に息が詰まった。

 

「──出てこい、ヤルダバオト!!」

 

 誰もが息を飲んだ。情報は既に各国へと通達されている。曰く史上最悪の悪魔。曰く立った一晩で国を攻め滅ぼそうとした厄災。

 曰く──それは──原初の悪魔。

 

「ははは、やはりバレてしまいましたか。一気に攻勢に出たいところでしたが」

「随分とあっさり落とされていたからな──こそこそ後ろに隠れおって」

 

 それはまるで空気に溶けていたかのように伯爵の前に現れた。緑色の蝙蝠のような羽を持ち、赤い鮮血のような色をしたタキシードを着た仮面の存在──ヤルダバオトが。

 奴は慇懃に大仰に伯爵にお辞儀をしている。その姿はまるで主従のようにもみえる。それこそが奴の策略なのだろう。

 

「やはり超位魔法は脅威ですからね。戦力を温存させて頂きました。余興などと言って出し惜しみせずに使っていただき、感謝の念しかありません」

「フ──フフフ──私があれを──超位魔法を使うのを待っていたという事か」

「えぇ、その通りです。《イア・シュブニグラス/黒き豊穣への贄》を温存されていては私に勝ち目がありませんからね」

「フフフ──まるで、それさえ無ければ私に勝てるという風に聞こえるが、気のせいかね」

「いえいえ、気のせいではありませんとも」

 

 奴が手を挙げた。何かの魔法かと思った時、『ドン』という地響きが起こった。それは魔法ではない。ただ、呼んだだけだ。悪魔を。一体ですら圧倒的であろう悪魔たちを。恐らく、あの神の仔を倒したであろう悪魔たちを。

 何より恐ろしいのは、一見すればまるでそれは悪魔が人になったかのようだったのだから。

 

「そこに居るの、カルカ・ベサーレスではないかしら。あっちは九色や神官の有名どころみたいねぇ」

 

 面白そうに一人一人指さしていく。確かに言われれば、前に見たあのカルカ・ベサーレスに見えなくもない。だがその表情はまるで全ての色情を内包しているかのように見える。

 それにその隣に居たのは確か聖騎士団長であり九色の一人であるレメディオス・カストディオのはずだ。彼女は王国戦士長であるガゼフ・ストロノーフと同等の力を持つとされる非常に強い騎士であったはず。だとするならば、ヤルダバオトはローブル聖王国最強たる者たちを悪魔化させたということになる。

 

「なるほど。人を悪魔と同化させたか」

「えぇその通りです。アインズ・ウール・ゴウン伯爵のお陰で憤怒の魔将<イビルロード・ラース>・嫉妬の魔将<イビルロード・エンヴィー>・強欲の魔将<イビルロード・グリード>の三魔将と、傲慢の大魔<デーモンロード・プライド>・怠惰の大魔<デーモンロード・スロウス>・暴食の大魔<デーモンロード・グラトニー>・色欲の大魔<デーモンロード・ラスト>の四大魔。悪魔最強の7体。通称七罪を蘇らせることが出来ました。しかも良い人材と合成することで通常では考えられない戦闘能力を有することが出来ています。黒き豊穣の女神の仔ですら倒せるほどに。これだけの力を持つ彼らであれば如何に伯爵は強くとも──」

 

「七罪──七罪だと──」

 

 伯爵と悪魔の会話を聞きながら思わず声が漏れてしまった。

 七罪──それは人の最も忌避すべき大罪であり、それぞれに強大な悪魔が司っていると言われているものだ。憤怒<ラース>・嫉妬<エンヴィー>・強欲<グリード>・傲慢<プライド>・怠惰<スロウス>・暴食<グラトニー>・色欲<ラスト>。それらは一つでも世界を亡ぼすほどに強大だと言われている。だというのにその七罪がここに揃ってしまったというのか。

 

「なるほど。前にリ・エスティーゼ王国を襲ったのは七罪を復活させるためだったか」

「えぇ、貴方ほどの存在を倒すとなれば最大限の力をもってあたらなければなりませんからね!」

 

 そう言いながら奴は後方を──ローブル聖王国の兵たちが居た場所を指さした。そう、居た。居たのだ。人ではなく悪魔が。恐らく同じ数の悪魔たちが。

 

「これだけの数に埋め込んでいたということか──」

「えぇ、人間のほぼ全てと一部の亜人に。流石に全てに埋め込んでしまうと、仔山羊が召喚されないので、バレてしまいますからね。ははは、冷や冷やしてましたよ。完全に覚醒させるに足る血と命を散らして頂けるかと」

「──全て、計画通りだった。と、いうわけか」

「その通りですよ、アインズ・ウール・ゴウン伯爵殿。さぁ、始めましょうか。第二幕を!貴方の死を以て!」

 

 大仰に奴が言う。手を広げ、翼を広げて。絶対なる確信の元に。しかし伯爵に油断はないようだ。驚いてはいるようだが、驚愕はしていない。むしろ楽しんでいる風にすら感じた。

 いや、実際に楽しんでいるのだろう。まるで堪えきれないとばかりに笑い出したのだから。

 

「ク──クハハハハ!甘いなヤルダバオトよ!確かに私一人であれば七罪を倒せたとしても、貴様に成す術なく倒されていただろう。しかし。だがしかし!貴様に配下が居るように、私にも配下が居る事を忘れてもらってはいかんな!」

 

 今度は大仰に伯爵が手を広げる。マントをはためかせるその姿は、はたして王か神か。それが魔王なのか邪神なのか、それとも神王なのか。神々しさすらある伯爵の姿は、まるで記憶にも記録にも風化してゆくあの──遥か昔に居たという善神を彷彿とさせる何かがあった。そう思えてしまう何かとは何なのだろうか。そう思いながらちらりと白金の竜王へと視線を向けるが、空虚な鎧からは何も感じられない。ただ腕を組みながら彼らを凝視するその姿は何かを感じているのかもしれない。

 

「さぁ準備は整った。来るがよい。我が配下たちよ!!シャルティア・ブラッドフォールン!アルベド!コキュートス!セバス・チャン!アウラ・ベラ・フィオーラ!マーレ・ベロ・フィオーレ!そして──ガルガンチュアよ!!」

 




はい、私の大好きなガルガンチュアがとうとう登場します。
トカゲ編でチョイ役でしたあの子を上手く扱えるかはわかりませんが、大暴れしてくれることでしょう。

そうそう、大魔<デーモンロード>たちや人に悪魔を埋め込むのは私のオリジナル設定です。一応公式には登場しておりません。いずれ別の名前等で登場する可能性はありますけどね!
悪魔埋め込みの元ネタは頭だけ使うあのモンスターです。頭だけって勿体なくない?って思って思い切って埋め込みました。正確には──ゲフンゲフン──ですが。

なので、「そんなモンスター(設定)あったっけ?」って読み直す必要あはありませんよっ


まだまだお題目は募集しております。当選確率はいつ投稿されてもほぼ一緒なのでどしどしご応募くださいませ。
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