漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! (通称:モモです!)   作:疑似ほにょぺにょこ

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8章 法国 ケイ・セケ・コゥク編-終

「無事の御帰還。また、作戦の御成功。我ら配下一同、誠に御喜び申し上げます」

 

 いつもの空間。いつもの玉座。──だった場所。

 最初の頃こそこの間を使う事が多かったが、ここ最近は執務室でほぼ事足りていた。それだけ切羽詰まっていた状況が改善されたという事であり、皆の能力が──ただ俺に命令されるだけだった存在が大きく変わったという証左でもある。

 

「皆の者、面を上げよ」

 

 玉座に座り、呼吸を一つ。俺に傅く皆の姿が一望できるこの位置。最初こそ皆が何を考えているか分からなかったからこそここに頻繁に座っていたこの位置。だが、今ならば分かる。皆が一丸となって前に進んでいることを。

 俺の静かな言葉から一拍置いて、皆が顔を上げる。皆が信頼と自信を持った顔だ。なに一つ欠けていない。だからこそ、幾許かの違和感があるが最初の頃ほどでもない。皆が、個々が感情を持っている。それぞれの思いがあり、それぞれの希望がある。プログラムではない。NPCではない。一つの命を持ってここに居る。そう思えることが嬉しく、そして同じくらいに誇らしい。

 統治者。絶対なる者として君臨してきた日々が走馬灯のように頭に浮かんでくる。正直なところ、無茶ぶりの連続だった日々が。力だけではどうにもならない案件が多く、ねじ伏せるだけでは解決できない状況が多く。それをトップとして振舞いながら綱渡りを続けた日々。もし俺がアンデッドではなく人間としてこの世界に来ていたとしたら、恐らく俺は途中で倒れていたことだろう。過度のストレスで胃を悪くして。

 

「フ──フフ──いかんな。少しばかり感傷に浸ってしまったようだ」

 

 誰に話しかけるでもなく、小さく呟く。感傷的になるのも仕方のない事だろう。こうやって皆と話すのは恐らくこれが最後になるのだろうから。

 

「皆の者、これまでの働き。誠に大儀であった。皆が一丸となって事に及んでくれたからこその、今の結果であると私は確信している」

 

 そう言って再び一拍。普段ならば合いの手を入れて来るデミウルゴスですらも静かに俺の言葉を聞いて居た。聡い彼の事だ。何かを感じ取ったのだろう。

 

「一つ一つの事が、まるで昨日の様に思い浮かんでくるようだ。皆の雄姿が、な」

 

 

 静かだ。とても静かだ。ゆっくりと皆から高い天井に視線を移し、無き肺で深呼吸をした。

 そしてゆっくりと皆に視線を戻す。少しづつ伝搬しているのあろう。何かがあると感じているのだろう。デミウルゴスだけだったものが、アルベドに。そして皆へと伝わっているのだろう。

 

「これからナザリックは、大きな転換期を迎える。無論、気付いて居るな。デミウルゴス、そしてアルベドよ」

「はい、勿論にございます」

「全ては、御身の御意思のままに」

 

 デミウルゴスの事だから何となくでも気付いて居るだろう。アルベドもだ。アルベドには先日打診があった。『至高の御方々を探すべきだ』と。それを実行に移す時が来たのだ。

 ただし、皆を使うことは無い。それは、その行かせた誰かがそのまま寝返るからなのか。否だ。少し前まではその懸念もあったかもしれない。そして同時に思っただろう。『親の元に子は居た方が良い』と。だが今は違う。これは俺がやらねばならない事だからだ。

 

「つきましては、アインズ様。あのスレイン法国は如何なさいましょう」

「デミウルゴスの方で既に計画は上がっているのだろう。それに否は無い。ただし、苦痛を与える事だけは却下とする。我が手に傾城傾国は来たからな」

「──なるほど、かしこまりました」

 

 傾城傾国は手に入れた。つまり個の感情は終わったということ。これからは国と国の話だ。やるならば物理的な行動ではなく、政治的な行動を行ってもらわなければならない。そういう意味ではデミウルゴスは最適である。あのウルベルトさんの子なのだから。

 

「それではついに、『あの計画』を実行なさるわけですね」

「デミウルゴス、やはり気付いて居たか──」

 

 やはりデミウルゴスは俺が勇退しようとしていることに気付いて居たらしい。

 

「勿論にございます。しかし個人的には──少々時期尚早ではないかと愚考致しましたが」

「無論、それも理解している。しかしだな、デミウルゴス。潮時だと、私は感じたのだよ」

 

 早い、か。確かに早いかもしれない。まだ色々と気になる部分もある。未熟な部分もある。だが──

 

「私は、皆ならば──1人1人ではなく、お前たち全員ならばきっとやり遂げられると信じている」

「アインズ様っ──!」

 

 個人としてではなく、ナザリックとして。足りない部分を皆で補い合う事でやっていけるはずだ。これからは、飾りなど必要ない本当のナザリックとしてやっていけるだろう。

 そうなったとき、かつての皆を探し終えて帰った時。俺はきっと、皆を配下としてではなく彼らの子供としてでもなく──

 

「これからもう一つ進むために──」

 

 きっとそれは、仲間と言える間柄になれると俺は信じているから。

 

「やれるな、デミウルゴス、アルベド──そして、ナザリックの皆よ!」

 

 まるで示し合わせたように。裏でこっそりと練習でもしていたのかと思う程に。誰一人欠ける事無く。誰一人ずれる事無く。皆は応えた。

 

 

 

「アインズ様──本当に宜しいのですね。これ以後、後戻りは出来ませんが」

「フ──フフ──問題ない。そう、何も問題ないのだよ、デミウルゴス」

 

 皆が解散した後、まだ不安なのかデミウルゴスが駆け寄ってくる。普段の自信に満ち溢れた彼ではない。それもまた愛しい。

 

「やはりすべて──お考えの上で行動なされていたのですね──最初から」

 

 そんなわけ無いだろう。と思わず口に出そうになるのを飲み込む。だが最初からなかったわけではない。草案程度ならあった。

 

「あぁ、モモンはそのために作ったと言っても過言ではないだろう」

「やはり──!」

 

 これからアインズ・ウール・ゴウンは勇退し、フェードアウトする。そして、モモンとして──いや、モモンガとして世界を回るのだ。その時、英雄と言う肩書は大きなプラスとして働いてくれることだろう。

 

「最後の仕上げ──任せたぞ、デミウルゴス」

「この身に──代えましても!」

 

 

 

 

 

「お、あれは──モモンさーん!!」

 

 王都の昼下がり、通りのはるか遠く。遠目に見えたモモンさんの姿に、心の奥底から喜びがあふれて来る。頭が考えるより先に足が前に出る。人通りの多い本通りをぶつからない様に、縫うように走っていく。そしてその勢いのままに、私は飛びついて居た。

 

「──イビルアイか」

 

 『カツン』と彼のフルフェイスメットと私の仮面がぶつかる。まるでそれが、私には口づけの音の様に聞こえた。

 少しだけ困ったような、少しだけ戸惑ったような。それでいて少しだけ嬉しそうな。そんな口少ない彼の思いが手に取るように分かるのが何よりもうれしい。

 

「無事に終わったようですね」

「ん──あぁ、結局アインズ・ウール・ゴウンの手を煩わせることになったがな」

 

 私を優しく抱きしめた彼は名残惜しそうに私を地面に下ろした。流石に周囲に人が多すぎて恥ずかしかったのだろう。

 

「さぁ、詳しく聞かせてください。逃がしませんからねっ」

 

 彼の手を引き、いつもの喫茶店へと誘導していく。私の力程度では動かない彼が素直に私に引っ張られてくれるという、ただそれだけで気分が高揚していく。あぁ、私はやはり。

 

(私は──この人が好きだ──)

 

 

 

 

「よう、元気になったみたいだな!」

 

 騒々しいいつもの酒場。私たちのいつものたまり場だ。とても落ち着ける雰囲気のある場所ではない。しかしそんな場所で周囲の騒音を無視しながら、皆と──蒼の薔薇の皆と共に一角に座り、ゆっくりと茶を飲む。それが最近の私の日課である。その私の日課も今は少しばかり寂しくなっていた。その理由と言うのも、最近現れた新しい英雄であるモモンさんだ。彼は不思議なくらい私たちのチームに溶け込み、不思議なくらい私たちのチームと親しくなった。強い人だが、正義を胸に灯した熱い人ではない。とても寡黙で、いつも冷静な人。そして、不思議な魅力のある人だった。

 だった、というのは先の大戦にて彼はとても大きな深手を負ったからだ。彼に懸想しているイビルアイなど、そのあまりの凄まじさに青白い肌をさらに白くして叫んでいたほどだ。私とて決して冷静で居られたわけではない。彼の自慢の全身鎧は割れ、歪み、溶けており原型すら殆どなかったほどだった。そのため彼は鎧を知人の鍛冶屋に渡し、スレイン法国へと治療に行ってしまったのである。

 

「えっ?──あ──」

 

 突如背中に入る衝撃。背中を叩かれたと気付いたのはそれから数瞬後。思わず手に持って居たカップを落としそうになるのをなんとか立て直す。しかしカップが傾くのを抑えることは出来ず、そのまま私は紅茶を被ることになった。はずだった。

 しかしすでに私は紅茶を飲み干してしまって居たらしく、半分以上傾いたカップからは一滴もお茶が零れた様子は無い。カップが空になってもそのまま持って居たということに気付いた私は、さっと頬が熱くなるのを感じた。

 抗議をするように、恐らく私の背中を叩いたであろう相手の方──ガガーランの方を見ると、ニヤニヤと笑みを浮かべながら指を差してくる。私の正面を。

 

「モモン──さん──あっ──その──お帰りなさい」

「ああ。予定よりも戻るのが早くなったので驚かせてしまったようだな」

 

 正面に座るのはいつもの彼。あの大戦で負った傷などまるで夢のことだったと言わんばかりに、何一つ変わらず彼の姿がそこにあった。しかし、どことなく。そう、どことなく昔の彼とは違う気がしたのは何故なのだろうか。

 

「それでぇ、じっくり聞かせてもらいますからね。あんな怪我を負って帰ってきて──私本当に心配したんですから」

「あぁ、実は──」

 

 彼を連れてきたのであろうイビルアイが、隣に座って彼の手に自分の手を重ねている。その姿はまさしく恋人のそれだ。

 そして、彼はゆっくりとあの時何があったのかを話してくれた。ゆっくりと。ゆっくりと。

 それは、私の──私たちの想像を絶するものだったのだ。

 

「命の対価──ですか──」

 

 彼はすでに死んでいる。過去の人。遥か昔の人であり、アンデッドだ。それは理解している。それでもなおこの世界に留まれたのはあくまでヤルダバオトを斃すという思いのみ。だから本来ヤルダバオトを斃した後、彼は消えるはずだったらしい。しかしアインズ・ウール・ゴウン伯爵はそれを許さなかった。強大な力を与えた対価を求めたのだ。その一環として行ったのがスレイン法国だったらしい。色々と向こうの国との守秘義務があるらしく、あまり詳しくは話してくれなかったものの結果として上手く終わったらしい。

 

「それで──これからどうなさるのですか?」

 

 彼の話が終わった後、私は静かに聞いた。他の皆は気付かなかったのだろうか。また再び彼はこの国で冒険者を──英雄を続けると思って居たのだろうか。しかし私はそう思って居なかった。先ほど感じた違和感が今はっきりと形を成したのだ。

 

「どうしてそう思った」

「強いて言うなら──女の感でしょうか」

 

 どことなく、彼の雰囲気に感じたのだ。どこかへと行ってしまう。そして、二度と帰ってはこないと。

 

「──行かれるのでしょう。私たちすらも知らぬ遠くへと」

 

 彼は答えない。それが答えであるかのように。

 

「うそ──ですよね──モモンさん──嘘ですよね、ねぇ!嘘って言ってくださいよぉ!!」

 

 イビルアイが、いつも冷静なイビルアイが。まるで錯乱するかのように叫ぶ。それは騒々しい酒場ですらをも静かにさせてしまう程の大きさだった。

 

「俺は──」

 

 静まり返る店内に、小さく彼の声が響いていく。だが、それはほんの数秒の事だった。

 突如起こる轟音。まるで衝撃波の如き音が店内を一気に揺さぶったのだ。

 

「何だ!何が起きた!!」

 

 皆が大急ぎで通りへと出ていく。私たちも、勿論彼も。

 しかし通りにあの轟音が響くような被害があった様子は無い。だが、通りの皆は一様にある方向を向いて居た。

 

「おい、あの方向にあるのはスレイン法国じゃねえか」

「馬鹿いうなよ、あの国までどれだけ離れていると思ってんだ。あのでかさだぞ。国丸ごとでも吹き飛ばねえ限りありえねえだろ」

 

 凡そ南方。スレイン法国の都がある方角。そちらから巨大な火柱が上がっていたのだ。

 城門を走り出て、目を凝らす。そんな必要などないと言わんばかりに巨大な火柱と、何かを燃やした跡だろうか。もくもくと、遥か空高くまで煙が上がっているのがはっきりと見えた。

 

「ティア、ティナ!」

「──間違いない。あの火柱はスレイン法国の都」

「あの大きさから、多分。都丸ごとあの火柱に包まれている」

 

 一縷の望みをかけて二人の名を呼ぶが、それから返ってきた言葉はあまりにも残酷な現実だった。

 

『聞け、世界の生命たちよ。生きとし生ける者たちよ』

 

 突如雲がある形を取っていく。悍ましくも禍々しい。まるで死を体現するかのような姿。

 

『我が名はアインズ・ウール・ゴウン。世界皇アインズ・ウール・ゴウンである』

 

 あれは恐らく雲を自分の姿に似せたのだろう。あんな巨大化してしまったと考えるよりもまだ受け入れられる。だとしても、凄まじい魔法である。

 

「馬鹿な──ありえん──」

 

 身体を震わせ、彼が呟く。恐らくこの世界で誰よりもアインズ・ウール・ゴウンを知っている彼が。

 

『スレイン法国は私に弓を引いた。故にこの世から、歴史から退場してもらう事となった。次は貴様らである』

 

 彼でなくとも震えるしかない。アインズ・ウール・ゴウンははっきりと言ったのだ。スレイン法国を滅ぼしたと。恐らくはあの一撃によって。

 

『我──世界皇アインズ・ウール・ゴウンは、現時刻を持って全ての国に宣戦布告を行う!』

「なぜだ──なぜその選択を選んだぁぁぁ!!!」

「も、モモンさんっ!!」

「お、おいやめろ!!」

 

 このままではたった一人で突っ走ってしまいそうになる彼をイビルアイが、ガガーランが、私を含めた周囲に居た人たちが必死になって止めようとする。しかしそれでもなお彼は止まらない。皆を引きずりながら一歩、また一歩と歩を進めていく。なんという力だろうか。

 

『この世界皇アインズ・ウール・ゴウンに恭順する者は受け入れよう。しかし、我に楯突く者はこのスレイン法国と同じ末路が待っていると知れ。フハハ──フハハハハ!!』

 

 まるで心臓を鷲掴みにされるような高笑いを残しながら、アインズ・ウール・ゴウンの幻影は消えていく。ただの煙に戻っていく。そして力尽きたのか、それともただの幻影だと気付いたからなのか。10人以上でなんとか押し留めていた彼はゆっくりと膝を付き──

 

「あぁぁ────あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 

 狂ったかのように、ただただ雄叫びを上げ続けていた──




これにて8章は終了となります。
さぁ、9章です。もりもり死人が増える9章です。あまり直接描写することはありませんが!
この先を予想できる方はきっといないでしょう。たぶん、めいびー
皆さんの予想を良い意味で裏切ることが出来たら、作者冥利に尽きるというものですからねっ

このモモです!もあと2章で終わります。泣いても笑ってもそこで終了です。
皆の期待を裏切りながら、みんなの予想を裏切りながら。それでも良かったと言ってもらえるような最後にしたいと思います。

出来れば春までに終わらせたいなぁ──

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