漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! (通称:モモです!)   作:疑似ほにょぺにょこ

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注意:9章には漆黒の英雄モモンは出演しません。
モモンの活躍が見たい方は、次章までお待ちください。



9章 世界大戦編
9章 帝国 世界大戦ー1


──我が名はアインズ・ウール・ゴウン。世界皇アインズ・ウール・ゴウンである。

 

 朝と呼ぶには少しだけ遅い時間。この場に差し込む光も少しだけ和らぎ、代わりに肌に感じる温かさが少しばかり顕著になる時間。平穏な一日が続くと思われた、そんな時間に唐突に地獄は現れた。

 突如スレイン法国のある方向から上がる巨大な火柱。決して近い距離にはないここ、バハルス帝国でもはっきりとわかるほどの巨大な火柱が上がったのだ。だがあの火柱、どこかで見たことがあると記憶を探ればすぐに思い出された。ゲヘナと呼ばれた炎だ。前にヤルダバオトなる悪魔にリ・エスティーゼ王国が襲われたときに上がった炎の柱と同じなのだ。無論規模は比べるべくも無いのだが。

 

「フ、フフフ──世界に対し、宣戦布告か」

 

 脳裏に鮮明に浮かび上がる先の大戦──否、屠殺戦。幾万という兵を殺して見せた超位魔法なるもの。それを供物として呼び出された亜神。そして、亜神を殺した悪魔をも軽く凌駕する力で屠ったアインズ・ウール・ゴウンの配下たち。

 どうする。恭順するか。まさか。まさかだ。スレイン法国がアインズ・ウール・ゴウンに対して何をしたかは分からないが、少なくとも派兵を行ったわけではない。世界的に聖戦を謳ったわけでもない。だというのに滅ぼされたのだ。

 ローブル聖王国は生き残ったように『みえた』が実際は違うだろう。一度悪魔に変質した者が人間に戻るなどありえない。これにはじいも同意していた。恐らく人間に『戻った』のではなく、人間に『化けた』だけなのだと。これはいけない。恐らく今頃ローブル聖王国は『見た目だけ』人間の国ではあるだろうが、今は悪魔の国と言っていい状態にあるだろう。

 私は見たのだ。カルカ・ベサーレスが完全に悪魔になったのを。そして、『人間の姿に化けた』カルカ・ベサーレスを。アインズ・ウール・ゴウンに首を垂れた彼女を。あれは人ではない。それに私が気付けたのは──

 

「うわー、マジかー。やっばいねー」

 

 まるで床をひっくり返したように騒々しくなっているここ王宮において、あからさまに場違いな感想を口にしている少女。そう、彼女が居たからだ。

 

「ほんとやばいねー。どうするの、ジル?」

 

 まるで私を皇帝とは思って居ないかのように──いや、皇帝であっても態度を変えないだけなのだろう──私の座る玉座の肘掛けに座りながら、彼女は愛らしい顔を歪ませる。本当に楽しそうに。

 

「どうする、とは?」

「決まってるじゃん!」

 

 まるで重さを感じさせない身軽な動きでくるりと回って身体ごと私の方を向き、まるで口づけをするかのように顔を近づけて来る。しかしその距離がゼロになることはない。それが私と、彼女の距離だからだ。どんなに近づこうとも決して触れることは無い。まるで私と彼女との間に見えぬ無限の道があるかのように。

 

「ガタガタ震えてアインズ・ウール・ゴウンに頭下げて配下──ううん、下僕となるのか。それとも──」

 

 一瞬の間。大きな彼女の瞳が私の瞳を射抜く。

 そして、彼女の口はまるで三日月のように細く弧を描く。悪意に満ちた顔。だというのに、彼女の愛らしさに一切の陰りを見せない。そんな彼女と見つめ合う。

 あぁ、分かっている。お前は待っているのだな。そう返すように私も笑みを浮かべた。

 

「我がバハルス帝国が頭を下げるだと。あり得ない話はするものではないな、アウラ」

「だよね!流石はアタシのジルだよ!」

 

 いつの間に私は彼女のモノになったのか。そう思うも、立ち上がりまるで踊るかのように全身で喜びを表す彼女からひと時も目を離せない自分が居ることに気付いてしまっていた。

 

「──で、どうするの。アインズ・ウール・ゴウンは本気だよ。反抗するなら本気で潰しに来るよ。本気で、滅ぼしに来るよ?」

 

 くるくると回り踊っていた彼女がぴたりと止まり、再び私に視線を向けて来る。本当に楽しそうに。

 

「無論、我がバハルス帝国全軍を以て──と言いたいところなのだがな」

「ふぅん?」

 

 視線をアウラから外す。丁度じいと帝国四騎士が入ってきたからだ。しかしアウラの視線は私を射抜いたまま。こんな時でもなければ愛の一つでも紡いだ方が良いのだろうが、そんな場合ではない。

 

「バジウッド」

「は、民たちは然程騒いでませんね。どちらかというと野次馬といったところでしょう。むしろこの王宮の方が騒がしい位ですな」

「ふむ、じい」

「はい、こちらでも観測しました。一切煙等が出ていないところからも分かりますように、やはりあの炎は火災などではなく魔力の炎。前にリ・エスティーゼ王国を襲ったヤルダバオトの放ったというゲヘナなる炎と同質のものでございましょう」

「リ・エスティーゼ王国に放たれたゲヘナは攻撃特性を持って居ないという報告だったな」

「ええ、恐らくですがスレイン法国の民は生きているでしょうな。リ・エスティーゼ王国で放たれた時には内部に大量の悪魔を召喚するためだったという結果が出ております。であるならば──」

「──法国は滅んだのではなく、制圧されたか」

「えぇ、法国は世界でも有数の強力な結界を張った場所。いかなマジックキャスターといえど、一撃で消し飛ばすことは不可能でございましょうからな」

 

 なるほど、と頷く。ならばできる事が多い。奴は世界を亡ぼす破壊神などではなく、ただの『強い存在』というだけだと分かったのだから。

 

「ねえジル、どうするの」

 

 0が1になっただけ。身も蓋も無く、成す術も無く滅びの道を歩まねばならなかった未来が、ギリギリ繋がるかもしれないという希望が見えただけ。だがそれはとても大きかった。なぜなら私には女神が居るのだから。

 

「アウラ、頼みがある」

 

 放ったまま勝手に話を続けていた私に焦れて少しばかり不機嫌な顔をしていた彼女の顔がぱっと華やぐ。感情を真っすぐに表に出す彼女らしい仕草は私の周りには居ない新鮮さがあり、とても好感を持てるものだ。

 

「お前が欲しい」

「おぉっと、突然の大胆発言だねー。良いのかなー皇帝がそんなに軽々しく言っちゃってさー」

 

 いつもの様にいつもの雰囲気で軽く返してくる。しかし俺がいつもと違う事に気付いたのだろう。くるくると踊るのをやめてゆっくりと近付いてくる。

 

「出来るの?ねえ、ジル。本気でできると思ってるの?」

「無論だ」

 

 いつもの距離。限りなく近いのに限りなく遠い。吐息がかかるほどに近づくアウラを、私は──

 

「あっ──ちょ!?」

 

 ──抱きしめた。

 何という細さだ。ほんの少しだけ力を加えるだけで儚く消えてしまうかのように。

 

「じ、ジル──」

 

 逃がさないと、両腕でぎゅうと抱きしめる。私の腕など簡単に解ける筈の彼女は、私の腕で微かに身動ぎするだけ。

 微かに感じる彼女の温度。こんなにも簡単なのに、こんなにも難しい。私の立場が、彼女の立場が。ただの男と女ではなくしてしまっていたから。いや、違う。

 

「アウラ、お前が欲しい。お前の全てが欲しい。そのためだったら何だってしよう。我が裁量で出来うることであれば何だって差し出そう。この身、この命。全てを」

 

 ゆっくりと腕を解いていく。褐色の肌をこれでもかと赤く染め、小さく震える彼女。そこに居るのは紛れもなく、一人の少女。凶悪なほどの力を内包しようとも、決してそこは変わらない。

 ゆっくりと重ねる。こんなにも短い距離を。こんなにも遠くに感じていたなんて。

 

「あ──んっ──」

 

 私には勇気がなかった。一歩踏み出す勇気が。好いた惚れたの話ではない。ただ、勇気がなかった。こんな時でなければ踏み出せない程に。

 ゆっくりと離れる。しかし視線は私から離れない。足りないと瞳で訴える彼女に再び重ねた。

 

「愚かな私を守ってくれ。弱き私を守ってくれ、アウラ」

「それで、いいの?」

「それで良い。国など守らなくていい。民など守らなくていい。ただ、私を守ってくれさえすればいい。最前線に出る私を。私と共に歩み、私の剣となってくれ。私のアウラ」

 

 民を守れと言っても彼女は首を縦に振らなかっただろう。国のために戦えと言っても彼女は首を縦に振らなかっただろう。彼女を得るには一つしかなかった。

 私は徹頭徹尾皇帝だったから気付けなかった。いや、気付いて居ながら選べなかった。アウラはそれに気付いて居たのだ。だから彼女は決して自分から近付いても、触れることは無かったのだ。

 きっと私と彼女の間に恋や愛は無いだろう。だからなんだというのだ。無いのであれば作ればいい。私は欲張りなのだから。

 

「私の恋をお前に捧げよう。私の愛をお前に捧げよう。我が身、我が命をお前に捧げよう。故に欲す。勝利を。捧げてくれないか、我が女神よ」

「し、ししししかたっ──ないにゃあ──うふふ」

 

 流石に恥ずかしくなったのか顔を緩ませながら、まるで子猫のように私の膝の上で丸まる彼女を私は優しく抱きしめた。

 

 

 

「ほ、報告します!トブの大森林より──も──も──」

「どうした、報告は正しく行え」

「と、トブの大森林より──森が攻めてきました!!」

 

 来たか、と言いたかった。しかし何を想像すれば森が攻めてくると思えるのだろうか。今この空間を支配したのは無音だった。いや、違う。一人だけ違った。

 

「あっちゃあ──やっぱりマーレかぁ──」

 

 ふわりと浮かぶように私の膝から飛び降りたアウラだ。彼女はその正体が何なのかを簡単に看破していたのだ。

 

「マーレ──というと──」

「うん、アタシの弟。自然を操るドルイドっていう系統のマジックキャスターであり、最強の広範囲殲滅型魔導士だよ。しかも序列第二位。因みに一位はシャルティアね」

 

 トップがアインズ・ウール・ゴウンだとするならば、その妻であるシャルティア・ブラッドフォールンに次ぐ実力。つまり──奴らの戦力で第三位の力を持つということになる。

 

「自然を操らせたら右に出る者は居ないってくらいだからねー。森を作り出したのなら、本気でここ潰しに来てるね」

「そうかそうか、それは大変だな」

 

 そう言い、笑い合う。現実逃避しているわけではない。森が動くなどという非常識な事態に頭がついていっていないわけでもない。

 

「では、行くか」

「はーい」

「へ、陛下!?」

 

 まるで散歩にでも行くかのようにそのまま行こうとする私たちをじい等が止めようとする。当然だろう。あんな自然災害のようなものに突っ込むなど、ほんの1時間前の私であったら狂気の沙汰としか思えない愚行である。

 

「案ずるな、ちょっと止めて来るだけだ。だろう、アウラ」

「そうそう。ね、ジル」

 

 皆の静止を気にも留めずに二人で皇帝の間を出ていく。通路を出た先にある中庭に巨大なドラゴンが鎮座している。まるで主を待っているかのように。そのドラゴンに躊躇なく乗り、差し出されたアウラの手を私は握る。前に座るアウラの身体に腕を回しながらドラゴンの背に座った。

 一瞬の浮遊感と共に、瞬く間に空へと駆けていく。物凄い早さだろうに、不思議と風を受けなかった。ただ心地よい風が頬を擽っていく。みるみる遠くなっていく城は、巨大なはずの城はまるでおもちゃの様に小さく見えた。

 

「速いな、このドラゴン」

「でしょー?」

 

 数分と経たずに城下を超え、城壁を超え。一気にトブの大森林へと飛んでいく。気付けば眼下には巨大なモンスターの群れが私たちと同じ方向へと走っている。周囲にも見たことも無いような、まるで物語にでも出てくるようなモンスターたちが飛んでいた。

 彼女の弟が大自然を操るマジックキャスターならば、彼女はあらゆる強大なモンスターを操るビーストテイマーだったわけだ。これが、彼女の本気なのだろう。

 

「はははっ!これは壮観だな、アウラ!」

「とーぜん!」

 

 私の前に座る彼女が振り返る。そしてその細い腕で私を引っ張った。まるで思い出したかのように、彼女の力に私は抵抗出来ぬままに引っ張られる。体勢が崩れる瞬間に唇に感じる柔らかい感触。視界一杯に映る彼女に、今度は私が赤くなる番だった。

 

「絶対に放さないからね、ジル!」

「お前が嫌だと言っても離れてやるものか、アウラ!」

 

 眼前に広がるトブの大森林。しかし自分の記憶よりもずっと大きい気がした。そして、その大きくなった部分であろう場所が蠢くようにバハルス帝国へ向けて進んでいる。増えながら。

 まさに自然災害。あれが人の所業など考えられるはずもない。だというのに、不思議と。

 

「見えた!行くよ、ジル!!」

「あぁ、特等席で見せてもらおう。世界最強の姉弟喧嘩をな!」

 

 そう、不思議と負ける気がしなかった。

 




まるで打ち切りエンドのような引きですが、まだ続きます。
中々に難儀しました。ネタバレを隠しつつ、世界の事情も書きたい。
というわけでこのように、各所の戦いを書いていくという形に落ち着きました。
モモン様を中心に書くとネタバレのオンパレードですからねっ

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