漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! (通称:モモです!)   作:疑似ほにょぺにょこ

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9章 評議国・王国 世界大戦ー終

「ガッ──ハッ──」

 

 アイツが居るところから歩いて数日。わしの足なら半刻といったところ。王国に行くフリをして、わしはまっすぐ法国を目指し走った。嫌な予感がしたからだ。全身に張り付く様な異様な感覚。まるであらゆる命を混ぜ合わせたかのようなその雰囲気を感じ取ったからなのだ。恐らく奴は──アインズ・ウール・ゴウンは法国からまっすぐアイツの所へ行こうとしたのだろう。奴を見つけるのは然程難しい話ではなった。

 そう、『見つける』のは。

 

「ほう、《グラスプハート/心臓掌握》を耐えたか。まさか耐えきれる者が存在していたとは。流石は英雄、と誉めてやろう」

 

 隙だらけで飛ぶ奴を打ち落としてやろうと、地上より渾身の一撃をわしは放った。しかし奴はその一撃を毛ほども気にはしなかった。そう、避けることも防ぐことすらもしなかったのだ。

 それでもわしの方に興味を持ったのは僥倖とガスト<上位喰屍鬼>を嗾けた──はずだった。

 

だが結果はどうだ──

 

「ぐぅ──うぅぅ──」

「無理に動こうとしても無駄だ。《グラスプハート/心臓掌握》を抵抗したとしても、そのスタン<衝撃>から逃げられん」

 

 ガスト共はただの1秒すら持たないままその場に崩れ落ち、わしは防ぐことすら出来ずに奴の魔法によって心臓は握りつぶされたのだ。

 無理矢理血管を繋ぎ合わせ、無理矢理血流を流す。膨大な内出血による失血死を必死で防ぐ。まるで霞の様に消え行こうとする意識を必死に手繰り寄せながら。

 だがまだ終わっていない。運の良い事に奴は、放った魔法をわしが抵抗したと勘違いしたのだ。それは当然だろう。わしが自らの身体すら作り変えられる上位の『死者使い』であることを知らないのだから。

 

(確かにこりゃあ──分が悪いどころの話じゃないねぇ──)

 

 ツァーは──アイツは言った。『戦いにすらならない』と。確かにその通りだ。わしの渾身の一撃は防ぐ必要すらなく、虎の子たるガストたちですら一撃どころか動くことすら叶わなかった。

 正に次元が違うという他ないだろう。大人と子供どころではない。大熊と喰われる寸前の兎程の差すらない。

 

「フ──フフフ──」

「ほう、動くか。貴様では私に勝てないと理解しているだろうに、それでもなお動くか」

 

 だがしかし。だがしかし。まだ運はこちらにある。その証拠にわしはまだ生きている。今にも消えそうな命ではあるものの、まだ動ける。それは、奴がわしの実力を測りかねているという確かな証拠。

 さりとて勝機は、無し。

 

(逃げた方が良かった?馬鹿を言うんじゃない。大悪を前にして逃げられるわけが無い)

「──来なァッ!ブラッドミート・ハルク<血肉の大男>!!」

 

 手を噛み切る。噴き出す血を生贄に作り出す。不敗の巨人を。無双の血肉を。

 ばしゃばしゃとまるでジョッキどころか樽ごとひっくり返したかのような水音に思わず笑みが出た。

 

「愚かな──」

 

 巨躯から繰り出す一撃は岩をも砕く。しかしその一撃ですらも奴は防ごうとはしなかった。

 

「まだ理解していないのかね。この程度では私に傷一つ付けられないと」

「分かっているさァ!だが貴様もわしの力を見くびったねェ!!」

 

 奴が手を振った瞬間に準備していた魔法を放つ。わしの最大の切り札を。

 

「時の流れに埋もれし古の聖王──汝が棺──今開かん──。さぁ祭りの始まりだ──起きな!クリプト・ロード<地下聖堂の王>!!」

 

 ドクン──潰され、無いはずの心臓が大きく鳴る。

 まるで周囲の空間を切り取っていくかのような感覚が広がっていく。

 

「ほう──ほう。クリプト・ロードか。それは厄介だな、フハハハハ!」

 

 いう程焦りも恐怖も見えない。しかしもうこれは止まらない。止められない。

 周囲に100を超える棺が現れ、そこから骸骨共が現れ始める。ただの骸骨ではない。聖王を守護する者たち。スケルトン・ウォリアー<骸骨戦士>、スケルトン・ナイト<骸骨騎士>、スケルトン・アーチャー<骸骨弓兵>などの上位アンデッドである。しかもそれだけではない。

 

『久シイナ。随分ト老イタ』

「アンタと違って時が止まってないからね」

 

 わしの前に『生えた』棺──いや、聖櫃より現れたクリプト・ロードは周囲に居る配下のアンデッド全てを強化する特殊能力を持って居る。更に彼の両隣に居る一際輝く鎧に身に包んだ2体のアンデッド──スケルトン・パラディン<骸骨聖騎士>は、帝国で操ろうと画策しているデスナイト<死の騎士>よりもさらに上位の強さを持って居るのだ。

 これならば勝てはせずとも、せめてツァーの封印が完全に解けるまでの時間稼ぎは──

 

『逃ゲヨ』

「なっ──」

 

 そう思って居たわしの耳に届いたのは、余りにも無残な現実だった。

 

「なぜだい、アンタはアンデッド・ロード<死者の王>たる存在だろう!!」

『オ前ハ知ラヌノダナ。我ヨリモ更ニ上ノ者ガ存在スル。ソレガ──』

 

 ゆっくりと奴を指さす。

 

『オーバーロード<死の支配者>ダ』

「オーバー──ロード──だって──」

 

 オーバーロード<死の支配者>。それは伝説の存在。全てのアンデッドの頂点に君臨する、云わば死者の神のような存在だ。しかしそれはあくまで神話の話。本の中の話のはずだというのに。

 

『ソウダ。例エ万ノ軍勢ヲ揃エヨウトモ、幾百ノ我ガ居ヨウトモ。絶対ナル者ニハ勝テヌ。例エソレガ紛イ物デアッテモナ』

 

 神話の中に存在する神とすら呼ばれる絶対なる支配者。そんなものが実在するなど想像すらしなかった。しかし彼は紛い物と言う。それは恐らく『あれ』が神を食らったからだろう。あの神話のように。

 

 神を食らい、混ざり、神へと至ったモノ。それが本当だとするならば、勝てない。勝てるわけが無い。あのツァー<最強の存在>ですら。

 

「走レ。決シテ振リ向カズ。真直グニ。支配者<オーバーロード>ニ勝テルノハ支配者<オーバーロード>ノミ。サァ行ケ。真ナル王ノ元ヘ」

 

 そう言われ、弾かれる様に走り出す。全力の半分ほどの速度しか出ないが、少しでも早く少しでも遠くと足を前に運び続ける。後ろから聞こえる剣戟。しかしそれは一方的なもの。そしてそれは戦いが絶望的である事を意味していた。

 

(振り向くな、走れ!)

 

 何度も後ろを振り向こうとしてしまいそうになるのを必死に堪えながら、必死に足を動かす。奴の下へと。真なる英雄の下へと。

 走る。走る。だが、足が止まろうとする。極度の疲労と、苦痛に。血が足りない。力が入らない。これだけ離れればもう大丈夫だろう。一度休憩しよう。そんな甘い言葉が脳裏に浮かび、消えないまま積っていく。

 

 ふと、風を感じた。

 

 暖かい風。柔らかい風。まるで春風のようなそれはわしの後ろから優しくわしを撫でた。

 まるで精霊の悪戯のようなそれは、疲労困憊のわしの足を止めるのに十分すぎた。

 

 そして──見てしまったのだ。振り向いてしまったのだ。

 

「あ──あぁ──」

 

 そこには──無かった。何もなかった。

 太い木も、巨大な岩も。渡った川も。

 あるのは、ただ──砂、だけ。

 

 遥か遠くに、微かに奴の姿が見えた。広大過ぎる砂の中央に立つ奴の姿が。ゆっくりとこちらを向いたように見えた。それは、まるで死の宣告のように。

 振り向き走ろうとするが足に力が入らない。そして気付く。止まったのは風のせいではなかったと。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 半歩。そう、半歩だ。半歩後ろにあった左足の後ろ半分が無くなっていたのだ。まるで思い出したかのように激痛と共に血が噴き出した。まるで噴水のように噴き出すそれは、乾いた砂漠に振る雨のごとく、砂に染み込み貯まることなく消えていく。

 

「くそっ──くそっ!くそぉっ!」

 

 砂から逃げるように転がり、必死に止血を始めるも、激痛と、疲労と、あまりにも非現実的な光景のせいで集中が出来ない。

砂と土の境界に、爪先が残っている。あぁ、これは夢なのではないかと。現実ではないと何かが囁く。悪魔の囁きが。死神の囁きが。抗い難き囁きが。

 

もう良いではないか、と。

ゆっくり休め、と。

何もする必要はない、と。

ただ──目を閉じるだけで良い、と。

 

「おぉおぉ、中々しぶといばーちゃんっすねー」

「アン──タ──」

 

 誰かが来た。そう思った瞬間、わしの意識はまるで太陽に黒いカーテンがかかるかのように消えていく。いけないと思う暇すらなく、一瞬だけ緩んだ気を待っていたかのように。

 

 

 

 

 

 

「う──ぁ──」

 

 起きたのだろうか。パン──じゃなくてアインズ様がド派手にぶちかました外縁部に居たしぶといばーちゃんを、何故か私は助けていた。そう命令されたわけではない。そうしたいと思ったわけでもない。放っておいても良かった筈だ。しかし何故か私はそのばーちゃんを背負い、モモンガ様達が居るであろう王国へと走っていた。する必要もないであろう回復魔法まで行って。

 

「何しているでありんすかぇ、ルプスレギナ。あなたの担当はこっちではなかった筈でありんす」

「──シャルティア様」

 

 突然眼前に現れる人影に足が止まる。ただの人陰であれば飛び越えれば良いのだが、流石にこの方を飛び越えるわけにはいかない。

 

「え、えと──担当、外されました──」

「はぁ?アンタ一番乗り気だったでありんしょう。どういう心変わりでありんすかぇ」

「それは──そのぅ──」

 

 一歩二歩。じりじりとシャルティア様から後退る。プレアデスとして決してやってはいけない行為であるはずなのに。しかも背中に背負っているばーちゃんを守るかのように。

 

「──?──ほぉ──」

 

 恐らくユリ姉辺りから《メッセージ/伝言》が届いたのだろう。右手で私を制すと左手指を米神辺りに充てて喋られた。

 

「──へぇ──わかったでありんす。ルプスレギナ、まさか貴方が敵側になるなんてねぇ」

「ひ、ひぃ──」

 

 ニタリと三日月を思わせる嗜虐的な笑みを深くすると、好戦的な視線を投げ掛けてこられる。とはいえ私とシャルティア様の戦力差は圧倒的だ。遊び相手程度にはなるかもしれないが、本気で来られたら逃げることすら出来ない。

 

「あ、あの──お手柔らかに──」

「ぷっ──冗談でありんす」

 

 必死にシャルティア様の神経を逆撫でしない様に笑みを──それでも緊張で歪んでしまっているだろうが──浮かべながらそっと話しかけると、冗談だと言わんばかりに笑われてしまった。くすくすと。

 まるで至高の御方のお一人である、るし★ふぁー様が設置した極悪トラップに侵入者が捕まった時のように、心底楽しそうに。

 

「そもそも私は貴方を相手している暇なんてないでありんす。そろそろセバスとアルベドも王都に到着する時間でありんす。遅れると間違いなくぐちぐちと言うに決まっているでありんす!」

「あ──王都襲撃──」

 

 そういえばそろそろ王都襲撃の時間になる頃だ。ということはそろそろセバス様達はモモンガ様と会われている時間だろうか。

 

「そういえば、後ろのは──確か、リグリットとかいう英雄のババアでありんすね。どこで拾ってきたでありんすか、そんなモノ」

「あぁ!そうでありんす!このばーちゃんさっきから『モモンガ様に』ってうわ言の様に言ってるでありんす!!って、うつったっす!?」

「あー──これもデミウルゴスの計画──でありんすかぇ?何故かアウラとマーレも戦っているみたいでありんすし──あぁ!──こほん、私には細かい事は分からないでありんす。とありあえず、モモンガ様の所に連れていくと良いでありんすぇ」

「はい、わかったでありんす!!」

 

 まるで洗脳のようにシャルティア様の言葉がうつってしまう。戻そうとすると地に戻ってしまいそうになるので仕方なしにそのままで行くしかない。シャルティア様の笑顔が少し引き攣っていたが見なかったことにしておこう。

 王都襲撃が始まる。つまりそれは世界征服が終盤に差し掛かったという事。最後の戦いが近いという事。

 確か当初の予定では──

 

「兎にも角にも、モモンガ様の所にこのリグリットのばーちゃん連れて行けばどうにかなるであり──っすよね」

 

 地を蹴り枝を跳び空を駆ける。そろそろ日が暮れる。完全に陽が落ちた時。それが襲撃の合図だったはずだ。

 シャルティア様が潜伏していた森を抜け、草原をひた走る。王都の城門が見えてきた。早くモモンガ様に──って。

 

「モモンガ様が王都のどこに居るか知らないっすよ私!?」

 

 王都が近くになるに連れ、走る人間に見える程度の速度に落とす。そういえば、と。私はモモンガ様がどこにいらっしゃるか知らないのだった。

 

「で、でも確かモモンガ様は王都の冒険者で漆黒の英雄って呼ばれていたはずっすよね。なら冒険者ギルドに──って、冒険者ギルドの場所も知らないっすよ!うわぁぁぁ!!」

 

 走る走る走る。悩み、頭を抱えながら。とりあえず私は王都へと走った。

 死んだように眠るばーちゃんを背負いながら。

 




これにて9章終了です。疲れたぁぁ・・・
色々か期待話が多すぎて、場所がてんでバラバラ、時間もバラバラと非常に分かりづらい章となってしまったことお詫びいたします。

何時何分とか書こうかなぁとも思いましたが、出来るだけそういうのはしたくなかったのでしませんでした!後悔はしてるけど!

さて、読んでわかります通り全力でふざけたシリアスです。平たく言うといつものオーバーロードですね。
そろそろラスボスが誰なのかは想像がついたかと思います。えぇ、その方です。本人もノリノリでやってます。

最終章はネタバレオンパレードとなります。流石に1話目はシリアス(?)ですが!ほら、タイトル回収しないといけませんからね!


というわけで、現時点(3/31/0時)を以てお題目募集の受付は終了となります。
投稿していただいた方、ありがとうですよ!
結果発表は当日の私が起きた時(!?)です。

おたのしみに!

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