世界を救う勇者たちの物語   作:紅氷(しょうが味)

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よろしくお願いします。


第一話「再び出会う銀の色」

勇者たちの活躍により、バーテックスは一時的に掃討された。

 神樹による神託からしばらくは奴らからの侵略がないことを告げられた束の間の休息。

 

 讃州中学に集う勇者部五名と、新たに加わった一名の勇者の六人は再び手にした日常を謳歌していた。

 

「風先輩っ! 今日の活動は何をするんですか」

 

 快活な声でそう告げる彼女の名は結城友奈。讃州中学所属の二年生でついこの間まで入院していた身であったが、順調に回復が進み以前とさほど変わらないまでになっていた。

 

「そうね……色々とあるけど今日はこれよっ!」

 

 ピシッ! と手にしていた一枚の用紙を友奈に見せるのは犬吠埼風。

 彼女は友奈達が所属している勇者部の部長であり、活動の指針を決める人物である。

 

「これは……? 校内清掃ですか」

「そそ! たまにはこうした雑用もこなしていかないとねぇ」

「いつもの活動もさほど変わらないように思えるんだけど?」

 

 友奈の横でそう言う彼女は三好夏凜。確かにこの勇者部は彼女の言う通りでネコ探しから始まり、ごみ拾い、お年寄りや小さな子供たちの相手を務める一種のボランティア部みたいなところがある。

 

「ふふふ……甘いなぁ夏凜はっ! 確かに一見してじみ~な活動かもしれないけど、こうしたものを一つ一つ積み重ねていくことが大事なのよ」

「へぇ、珍しく言うじゃない」

「ちなみにどこの掃除をするんですか?」

「そうね……友奈と夏凜は校庭の草むしりをお願いしようかしら」

 

 ざっと簡略化された校内図の×印がついた個所を指さす。

 

「わっかりました~! ちなみにこの他の印の場所も私たちがやるんですか?」

「あっ、ここは他のメンバーにお願いしてあるわ。二人は校庭の草むしりをやったらまた部室に戻ってきてくれる?」

「風はどうするのよ? まさか自分だけサボる気じゃないでしょうね」

「そんなわけないじゃない! 私は私で依頼があるのよ。今日はもしかしたらそれで付きっ切りかもしれないけど」

 

 どうやら他のメンバーには既に声をかけて作業を始めているらしい。

 それはそれといて風個人に依頼があるとは初耳であった二人はそのことを彼女に訊ねてみるが、

 

「それはまた後で話すわ。あなたたちにもまったくの無関係なことではないしね。じゃ、しっかりとよろしく~」

「あっ……行っちゃった」

「一体何なのよまったく……とりあえず行きましょ」

「そうだね! それじゃーれっつごー!!」

「お、おー!」

 

 

 声高らかに友奈と夏凜の二人は部室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

 部員全員を配置した風は一人分かれて職員室に訪れていた。

 ノックをして扉を開けて目的の先生の所に向かう。

 

「先生おまたせしました――――って、どうかしましたか?」

「あ、犬吠埼さん」

 

 なにやら困った様子の先生に風は訊ねる。

 

「それが、お願いした案内係の件なんだけど」

「……そういえばらしい人が見当たりませんね。その人はどこに?」

 

 風が個人で依頼を受けていた内容は、とある人物の校内案内であった。

 しかし件の本人は先生が目を離した隙にどこかにふらりといなくなってしまったようでどうしたものかと悩んでいたらしい。

 

「私はこれから職員会議があるから探しにいけないし……」

「それでしたらわたしが探しますよ先生。見つけたらそのまま案内をしちゃいますので」

「本当? 悪いわね」

「いえいえ! おまかせください」

 

 そう言って風は職員室を後にする。

 

「さて、と。そこまで広い学校じゃないしちゃっちゃと見つけちゃいますか! えーっと確か名前は――――」

 

 

 

 

 

 

 

「ふんふんふ~ん♪ あっゴミ発見! これより捕獲作戦を開始します!」

「そのっち……それはもしかしなくても私の真似をしているのかしら?」

「ぐわっし! 捕獲成功であります! ―———似てない~?」

「似てないわ。そうよね樹ちゃん」

「あはは、そうですね。あっ、園子さんゴミをこの袋にお願いします」

「ありがと~イっつん♪」

 

 友奈と夏凜とは別の場所でゴミ拾いを任された乃木園子と東郷未森、そして犬吠埼樹の三人が校舎まわりを歩きながら散策している。

 かれこれ数十分拾い続けているが、意外とその量が多かった。

 

「それにしても結構な量が落ちていますね」

「困ったものだわ。これは一度先生に注意喚起するようにお願いするしかなさそうね」

「ポイ捨てダメ~! 絶対」

 

 樹の持つ袋はそろそろ一杯になろうとしている。

 一度捨てに行こうかと袋を持ち直そうとすると、

 

「いや、これは僕が持とう。このご時世に殊勝な心掛けだな」

「えっ?」

 

 ひょいと樹からゴミ袋を取るとスタスタと歩いていこうとする人物がそこには居た。

 樹は突然のことに面食らい呆然と佇むことになってしまったが、様子のおかしい彼女を見た二人は小走りで近づいてくる。

 

「樹ちゃん? どうし、たの……っ!?」

「わぁ! 和服を着た人だ~……え?」

「あっ、ま、待ってください~!」

「うん、どうした?」

 

 樹に呼び止められた和装に身を包んだその人物は足を止める。

 その隣ではなぜか東郷と園子が驚きを露にしているが、樹は気が付かずに歩を止めたその者に近づいていく。

 

「お、お気遣いは嬉しいのですが私たちでやるので大丈夫ですよ」

「いやいや、たまたま通りかかっただけだが君たちだけでは大変だろう? ここは男手の一つでも借りておいても損ではないぞ」

「そ、それはそうですけど……って男?」

「おかしなことを言うのだな。僕はこう見えてもれっきとした男だぞ失礼な」

「い、いやどうみても……す、すみません」

「構わないよ。云われなれてるからね。では――――」

 

 スタスタとそのまま和装の男はこの場を後にした。

 そして少ししてから呆然と佇んでいた東郷と園子はハッとした様子で樹の元へと駆け寄る。

 

「い、樹ちゃん!! さっきの人はどこに!」

「イっつん!!」

「え、えっ? あ、向こうのゴミ捨て場だと思いますけどどうしたんですか急に」

「あそこね! そのっち!」

「うんっ! わっしー!!!」

 

 ダッ! と勢いよく二人は和装の男の元へと走って行ってしまった。

 そこでポツンと樹は一人取り残される形となってしまったが、二人は血相を変えてどうしてしまったのだろうか。

 

「お、愛しのマイシスター発見っ! ってどうしたの?」

「お姉ちゃん! 二人が和服の男の人を追っていっちゃって」

「和服の男?」

 

 ふうむ、と考え込む風をよそに樹は姉の手をとり駆け出す。

 

「ちょ、樹っ!?」

「私たちも行こうよお姉ちゃん。二人のあの様子だと何かありそうだよ」

「あ~妹に手を引かれる日が来るとは……わたしゃ感激だよ! ……あ、はい急いでいきます」

 

 樹の背後から黒い影が見えたような気がした風は大人しく妹の言うことを聞くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東郷未森と乃木園子の二人は走る。それはもうバーテックスが襲来してきたばりに駆け出す。

 先ほど樹と話していた人物のその容姿に心当たりがあった。

 

「でもなんで……確かにあの時――――」

「……そうだね。あの人はきっと別人、なのかなぁ。でも会って話をしてみたいよ。わっしーは?」

「わたし、も……」

 

 二人の考えていることは恐らく同じだろう。それは一つの夢のようだった。

 

「この先ねそのっち」

「うん」

 

 この角を曲がればゴミ捨て場である。二人は息を呑むように一度顔を合わせた後、その先に進んだ。

 そしてそこに居たのは、

 

「ありがと~! 助かっちゃいました」

「見かけによらず力あるのねアンタ」

「役に立てたようで何よりだ。しかし先ほどといい、この学校は慈善活動を行う者が多くて感心するよ」

「えへへ~褒められちゃったよ夏凜ちゃん! やったね!」

「ふ、ふん! 別にアンタに褒められるためにやっているんじゃないからっ!」

「それなら尚更よい事だ。褒美に飴をやろう」

「小さいガキかわたしは!! って友奈は素直にもらうなー!!」

「わーい! いただきまーす!!」

 

 

 和装の人と友奈、そして夏凜が和気あいあいと会話を繰り広げていた。

 

「あっ! 東郷さんとそのちゃんだ!! お~い!」

「二人も掃除終わったのね。お疲れさま」

「…………、」

「……っ」

 

「どうしたの二人とも?」

 

 友奈が様子のおかしい東郷と園子に問いかけるも、二人は目の前の和装のその人に視線が釘付けだった。

 和装の男は振り返る。

 

「ん? ああ、先ほどの」

「――――さ、ん」

 

 その足はどちらが先だったか。その姿を捉えるなり、二人のその手は既にその身体を包み込んでいた。

 いわゆる抱擁である。

 二人分の勢いに少し圧されたが、彼は受け止めきる。

 

「……っと。急にどうした?」

「ミノさぁん!!」

「銀……っ、銀!!」

「…………、」

 

 展開の早さについていけずに友奈と夏凜はその様子を眺めるばかりだ。

 しかし、東郷たちの話すその名前には覚えがあった。

 

(ねえ夏凜ちゃん。『銀』ってもしかして……)

(一度話してくれた人の事よね。でも確かその人は――――)

 

 いつだか話してくれたことがある。しかしそれは結論から言えば『終わってしまった』話であるはずだ。

 けれど東郷と園子のあの様子からすれば彼は何かしら関りがあるのだろうか。

 

「あれま。みんなここに集まって何して――――」

「あっ風先輩! 樹ちゃん!」

「ええ!? お二人はなんで泣いているんですか!? ってあれは先ほどの」

「樹もアイツに会ってたのね。風、どうにか収拾つけなさい!」

「いきなりっ!? ……しかしまぁ、私のあの人には用事があることだし、まかせたまえ」

「用事?」

 

 スタスタと三人のもとへと歩き出す風。

 

「えーこほん。お取込み中のところ悪いんだけどね……実は――――」

「そんな、信じられない! 本当に銀なのよね! ねぇ!!」

「ミノさん! ミノさん……ぐすっ」

 

「あの~……だからその人は――――」

 

「色々と話すことがあるんだから!今すぐ部室に行きましょう銀っ! そのっち!!」

「うんっ! 今すぐごーだよわっしー!!」

「ちょっ、急に引っ張らないでくれ! 袖に皴ができる」

 

「…………、」

(うわ~……風先輩ことごとくスルーされちゃってるよ夏凜ちゃん)

(流石に哀れだわ……ほら、俯いてプルプルしてるじゃない。樹、姉のフォローに行きなさい)

(そ、そんな無茶ですよっ!!)

 

「――――ウガーーーッ!! 人のはなしをきけぇ!!」 

「あっ、切れた」

 

 露骨にスルーされている風はついに堪忍袋の緒が切れたようで、一人騒ぎ出した。

 

「全員部室に集合だぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 風の暴走に頭を冷やした東郷と園子は一度落ち着いてから全員が部室に集められた。

 ただの清掃活動からまさかの展開に勇者部一行は思いもよらなかったが、はたしてこれからどうなってしまうのか。

 ―———と、勇者部数名は事の顛末を見届けるべく少し離れてその様子を伺う。

 

 

「………で、そこな二人はなぜにこの人にわんわん泣きながらだ、だきゅ――――抱き着いていたのかをキッチリ説明てもらうわよ!」

「わんわんは泣いてませんが、肝心なところで噛まないでください部長」

「か、噛んでないやいっ!」

「わたしは流れ的に抱き着いてみました~」

「そのっち!!?」

「てへぺろ♪」

「…ねえ友奈、樹。話が進みそうにないんだけど……ツッコミに入った方がいいのかしら」

「落ち着いて夏凜ちゃん!」

「そ、そうですよもう少し様子を見ましょう」

 

 まだまだ混沌とした空間は終わりそうにないなと誰かが思っていると、今まで大人しくしていた彼が動き出す。

 

「して、僕はなぜこの一室に連れてこられたんだろうか? 樹とやら」

「あ、はいそれなんですが……って!? いつのまに」

「アンタは向こう側の人間でしょ!」

「いや、どうにも話についていけない状況で。説明が欲しいところなんだが……」

「それなんだけどね。私が探していたのよキミを」

「風先輩?」

 

 いつのまにやら風もこちら側に来ていたようで、友奈たちの会話に割り込んできた。

 東郷と園子はその場で正座をされていた。

 流石に自重させたのだろう。友奈は乾いた笑みを浮かべていた。

 

「ん、僕のことを?」

「そうよー。まったく、職員室から抜け出して何をやっているのかと思えばうちの子たちとよろしくやっていたようねー」

「関わったのは間違いないが、何か誤解を生む言い方だなえっと……」

「そういえばまだ自己紹介がまだだったわね。私の名前は犬吠埼風よ。そしてあなたの横にいるのが妹の樹で」

「はいはいー! 讃州中学二年の結城友奈だよーよろしくね!」

「私は三好夏凛よ」

「で、後ろで正座させているのが、東郷未森、乃木園子よ」

「犬吠埼姉妹、結城、三好、東郷、乃木、か……なるほど了解した」

 

 どうやらそこそこ物覚えがいいようだ。矢継ぎ早に名前を連ねたが、彼は難なく飲み込んでいった。

 が、彼のその態度に正座二人組が抗議の意を申し込んでくる。

 主に東郷が、だが。

 

「銀! そんな私たちのことを忘れてしまったのっ!?」

「わっしー。どうどう!」

「園子は落ち着いたようね。東郷もその辺にしなさい。ほら、キミも自己紹介してくれると助かるんだけど」

「その方がよさそうだ。では、コホン――――」

 

 袖口を直し、ピシッと姿勢を正して勇者部の面々と向き直る。その一連の所作は東郷や園子と同等以上に様になっていた。

 

「紹介が遅れた。僕は明日からこの讃州中学に入学することになった『カミキ ギン』という。容姿はこの通りで間違われやすいが立派な男だ。よろしく頼む」

「お、オトコですって…!?」

「わっしー気が付いてなかったの? 抱きしめたときにわたしは気が付いたよ~」

「な、なななぁ!? それじゃあわたしはなんて破廉恥な……っ」

「それにしてもミノさんと同じ名前なんだね~♪」

「ミノさんという人が誰かはわからないが、東郷の反応を見る限りだと相当似ているようだな僕は」

 

 自分の身なりを気にしながらそう答えるその姿すら美しいと感じる。それは皆も同じようで彼に視線が釘付けであった。

 

「カミキくんね。わたしがその学校の案内しようとしてたのよー」

「そうだったんですね風先輩。あっ、さっきは飴ありがとうねカミキくん!」

「なるほどそういうことか。それと結城、気に入ってもらえてなによりだ。どれ、もう一つやろう」

「わーい!」

「会って早々に餌付けされてるわ……まったく友奈は」

「ふむ。では三好にはニボシをやろう」

「ふぇっ!? しょ、しょーがねいわね、もらってやろうじゃない!」

「夏凜……アンタも人のこと言えないわ」

「というか何でニボシをもっているんでしょうかカミキさんは」

 

 袖の中から異次元から引っ張り出してきたかの如く、食べ物を次から次へと出してくるその様子に樹は苦笑を浮かべるしかなかった。

 

「なに、これも男の嗜みだよ樹」

「嗜みでニボシを持ち歩くんですね……あはは」

「東郷さん、大丈夫? ってわぁ!?」

「友奈ちゃぁん! わたしは、わたしは男の人になんてはしたない真似をっ!」

「お、おうふ……よしよし、東郷さんは悪くないよ~」

「順調に壊れていってるわね東郷は……」

「カミキくんかぁ……どっかで聞いたことがあるような? ん~」

「中々個性的なメンバーだな犬吠埼」

「でしょー! まとめるのに苦労するんだなこれが。っとそうだ本来の目的を忘れるところだったわ!!」

 

 思い出したかのように風は部室の出入り口に足を運ぶ。

 

「さっそく校内を案内するわカミキくん。じゃあみんな後はよろしくね!」

「そういえばそうだったな。それでは僕はこれで」

「……待ってください! わたしも行きます!!」

「じゃあわたしも~」

 

 一人が手を挙げればまた一人。結局全員がその手を挙げてしまっていた。

 風は一つ小さなため息を吐く。

 

「いいのよ今日はわたし一人でいくから。どうせまたキチンと紹介することになるだろうし」

「え? それってどういう――――」

「じゃあ今日は自由にして解散ねー!」

 

 ガララ、と扉を開けてそそくさと二人は行ってしまった。

 

 

 

 

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