世界を救う勇者たちの物語   作:紅氷(しょうが味)

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第十一話「いざ、世界の果てへ」

 

 

 乃木園子は杖をついて院内の廊下を歩いていた。

 杖、なんてものをついてはいるが正直必要なものかというほどの怪我の程度だと本人は思っている。

 まぁでも普段身につけないものを身につけているのか、その目新しさを含めて彼女はある種楽しんでいるような節が見受けられた。

 

そんな彼女は一体何処に向かっているのかというととある一室、応接室のような所に足を運んでいた。

小さくノックを行い室内に入ると、そこに居たのは面を付けた大人の人が一人、座って待っていた。

園子が到着したことで、その者は立ち上がり深々と頭を下げ始める。

 

「…こんにちは」

『……こんにちは。日々のお勤めご苦労様です』

 

園子は今回呼んだこの人を知っている。

顔は面に覆われて見ることはできないが、少なくともこんなに余所余所しく接するこの状況に少し寂しさを覚えた。

 

しかし園子はそんな内心の思いを表に出さずに向かい側のソファーに腰掛ける。

 

「しばらくぶりですね。元気ですか?」

『ええ。園子様も足のお怪我の程度は……』

「『様』呼びなんてやめて欲しいんだけどなぁ。うん、大した怪我じゃないので安心してください。『大赦』への報告の通りです」

『…そう、ですか』

 

ギコチナイ。これでもかってほど仰々しい態度をとられるとムズムズする。

面を被っているため詳細な感情は読み取れないがあちらもどう対応にしておくかと逡巡していることだろう。

 けれどもいつまでもこんなやり取りだけをしているわけにはいかないので、園子は早々に本題に入ろうとする。

 

「今日ここに足を運んでもらったのは他でもありません。かみきん……カミキくんについて聞きたいことがあります」

 

 本題はこの通り。三日前に消息を絶ったとされるカミキについてのことだ。

 

『……詳細は報告した通りです』

「わたしにはあれが『表向き』としか思えなかったんですが。本当の理由(わけ)、教えてください」

『…………。』

「……あの時のように、後悔だけはしたくないんです————安芸先生(、、、、)

『……それでも。いえ——確かにそうなのかもしれません。あの御方からはなるべく口止めするようにと頼まれていたのですが』

「あの御方ってかみきんのこと?」

 

 小さく頷く。

 

『園子様も『壁』の件についてはご存知かと』

「それは、はい……」

 

 それはもちろん知っている。ことの顛末も、未だ修復は叶わず結界もその一点が原因で『綻び』となっていることも。

 『大赦』内でもそれについての対応を急いていることは耳にしていた。

 

『……年々『神樹様』の御力(みちから)が弱まってきています。終わることのない侵攻、人類を維持するために捧げる豊穣と結界。これによる法則が崩れてきています』

「でもそれは————」

『こちら側による不手際の極みにございます。『壁』の欠損は御力(みちから)に多大な影響を及ぼし、『天の神』による神撃を抑えることができなくなりました』

 

 それが今回の襲撃の真実ということらしい。

 ということはあの黒いバーテックスは他の個体とは異なり、『天の神』からの直接の刺客ということ。

 

『あの襲撃は『天の神』の憤怒の一つ。現状の危機に対応するために、怒りを鎮める必要がありました』

「——奉火祭っ!? まさか先生かみきんを生贄にしたんですかッ!!? だってあの人は……安芸先生ッ!」

 

 『大赦』が下した決断は、『贄』を捧げること。

 声を荒げた園子は足を怪我していることも忘れて、目の前の安芸に詰め寄る。

 

『…………。』

 

 仮面のせいで表情は読み取れない。

 この人が何を考えているのかが、今の園子には理解ができなかった。

 

「安芸先生もカミキくんがどういった人なのかご存知ですよね。なぜよりにもよってあの人を——」

『それがカミキ様の御意向だからです』

「御意向って」

『当初の予定では巫女としての適性値が高い東郷様が候補として挙がっていました』

「っ!!? わっしーが?」

 

 少しだけ冷静さを取り戻した園子は一歩安芸から下がる。

 

「でも、巫女ならわたしにだって適性が」

『園子様は乃木家の次期御当主になられる身であります』

「だからってわっしーやかみきんが代わりになっていい理由にはならないよ!!」

『……続けます。しかし決議の時にカミキ様が提案を覆しました。一言「僕がやります」、と』

「それだけで……」

『それだけの発言権が『あの御方』にはあります。そしてそれを成し得るための『御力』も同様に』

「何を言ってるんですか……!」

『さて、ここからは私個人としての話になりますが』

 

 会話をばっさりと切られ、口調は平坦なまま小さなアタッシュケースを取り出す。

 園子は首をかしげる。

 

『カミキ様から預かっていた物になります。これからのお役に立てるように、と』

「これは……私たちの端末」

 

 ケースの中身は勇者部のものであろう端末が収められていた。

 一つを取り出し起動する。

 

『機能をいくつか変更してあります。私やカミキ様が秘密裏に監修し『満開』の機能も同様に一新させています。個々の詳細はアプリに記載しているので』

「……安芸先生」

『————後の判断はあなたたちに委ねることにします』

 

 立ち上がり、それ以上は何も告げずに応接室を後にした。

 残された園子は再び端末に目を落として決意の火を灯す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「————ということでかみきんは『壁』の外。奉火祭による生贄として捧げられているみたい」

「……カミキ。やっぱりあの場所にいるのね」

 

 園子はやり取りを夏凜に掻い摘んで説明した。

 その際に彼女の端末を渡し、それを受け取った夏凜は手に収まる端末を握る力を少しだけ強める。

 

「なら今からでも行くわよ園子! このままだとカミキの命が危ないわ」

「落ち着いてにぼっしー。あのバーテックスがどういうものだか身をもって知ったでしょ。壁の外は何が起こるかわからないの」

「でも……」

「ちゃんと今残ってる傷を癒してからじゃないとダメだよ~。それと勇者部の皆にもキチンと説明しないとね! せっかく仲間がいるんだから」

 

 ぽやぽやとした普段の口調に戻りながら夏凜を落ち着かせる。

 それに対して毒気を抜かれたのか、夏凜は小さくため息を吐くとパイプ椅子に腰を落ち着かせた。

 

「あんたはやけに落ち着いているわね。心配じゃないの?」

「もちろん心配だけどこればっかりはどうしようもできないからね~。座して待つことも勇者としての大切な資質なんよ」

 

 二人の視線が窓の外に向けられる。

 今もなお変わらず雨は降り続いていて、降り止む気配はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

雨の日は気持ちが下がりがちになってしまう。

病院を後にした風と樹は、友奈や東郷と別れて帰路についていた。

 

「しっかし雨が止まないわねー。樹、濡れないように気をつけなさいよー」

「……うん」

 

傘と靴底を叩く雨水の音を聞きながら小さく頷いて答える。

 

「ねえお姉ちゃん。カミキさん大丈夫かな?」

「大丈夫よきっと。付き合いはまだ短いけどそこらへん上手くやってそうな気がするわ」

「そう、かな」

 

 風は少し後ろを歩く樹に目をやる。

 トボトボと歩を進めるその姿は尻尾や耳が生えていたらしゅん、と倒れているだろう。

 まぁ無理もないかと風自身もあの時は完全に無力でしかななかったからその気の落ちようは理解できる。

 

だからこそ風は口を開く。

 

「次よ樹」

「……えっ?」

「必ず場所をみつけだして挽回してやるの。諦めたらダメなんだからね。五か条にもあるでしょ? 為せば大抵なんとかなる(、、、、、、、、、、、)!って」

「お姉ちゃん……ありがとう。わたし頑張るよッ!」

「その意気その意気! よし、このまま『かめや』でうどん食べに行くわよ!!」

「またぁ? もぉ、別にいいけどー」

 

 風のお調子に当てられて樹に自然と笑顔が戻ってくる。

 これでいい。妹はいつでも笑顔で過ごして欲しいものだ。

 もちろん仲間である勇者部の人間も同様に。

 

 

 それからしばらくしないうちに園子から連絡が入り、カミキの居場所が発覚すると二人はうどんを食べまくったそうな————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日が経過した。

 それぞれの傷は癒え、六人は学校の屋上に集う。その手には安芸から返却された端末がそれぞれ握られていた。

 

「今回のアップデートはわたしの信頼できる人たちと、かみきんが携わったものだよ」

 

 園子が説明を始める。

 

「みんなの戦闘データをもとに再調整されているから今まで以上に身軽で動きやすいものになっていると思う。ここからが大きな変更点で、精霊バリアは以前に比べて弱体化しちゃってるんだ」

「それって大丈夫なの? みんなが大きなダメージを受けてしまうリスクが高くなっちゃうってことでしょ?」

 

 風が不安を述べる。今までの戦闘で何度も危機を救ってくれたあの守りが弱くなってしまったとあれば不安も大きくなってしまうものだ。

 対して園子は首を横に振る。

 

「それはそうなんだけどね。極力……例えば致命傷に匹敵する攻撃が迫った時には発動してくれるんよ。要するに機能をそこだけに絞ったって言った方がいいかな。それぞれの戦闘経験値が上がったことによってそのリソースを他の機能にまわすことにしたみたい」

「園ちゃんその機能って……」

「うん、以前も実装されていた『満開』に今回は重きを置いたみたい」

 

 園子を除く皆の表情が固まる。それもそうだ。以前まで使用していた『満開』の機能は絶大な力を発揮する代わりに対象者の身体機能を捧げる。

 

 それを『散華』という。

 

 その辛さ、恐怖は全員が体験していることであり、今までと変わらないものだった場合、使用に対して躊躇してしまうのが彼女たちの素直な意見だった。

 

「でも安心して。前みたいな『散華』の機能は廃止してくれたみたい。『満開』の使用に対するこのデメリットはなくなったんだー」

「本当に? でもそういうのに限って力は弱まった、とかありそうなものだけど」

「にぼっしーは鋭いねー。そう、前よりもいくらか弱体化しちゃったんだ。だけどその代わりに『満開』の使用回数に制限がなくなりましたー!」

 

 『おおー』と歓喜の声が上がる。

 

「それならそのっち、戦闘時に常に満開を使っていても問題ないのかしら?」

「……って言いたいんだけどねぇ。確かに制限はなくなったんだけど、それは使用者に依存しているというか……ぶっちゃけ『根性』があれば何回もできるぞー! 状態なんよ」

「つまりまとめると、精霊バリアは非常時のみの発動に限定されるかわりに、『満開』は精神力…のようなものがある限り何回もできる——でいいんですかね園子先輩」

「イっつんさすがー!! ザッツラーイ!!」

 

 

 両手の親指を立てて樹に笑顔を向ける。

 

 

「……カミキくんたちは私たちの『力』を信じてこれを託してくれた。なら、みんなの期待に応えないとだねっ!」

 

 友奈の決意のこもった瞳に、一同は再び強く頷いた。

 

 

 

 

 

 

「——それじゃあ、『カミキ救出作戦』を始めましょうか!  行くわよみんな!!」

 

 風が声高らかに宣言する。皆一様に頷き端末のアプリを押して起動させた。

 勇者となった彼女たち向上した身体能力をもってして屋上から跳び立つ。

 

 

 

 ————目指すは世界の果てへと。

 

 

 

 

 

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