世界を救う勇者たちの物語   作:紅氷(しょうが味)

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第二話「交じり合う花。交差する銀」

「ただいま。戻ったよ」

 

 広い空間なのか、その者の発する声音は静かに響いていく。

 辺りが薄暗いその場所の中心にあるもの。それに語り掛けるように言葉を紡いでいる。

 

「会ってきた。中々楽しそうな人たちだね」

 

 袖から伸びるその手ひらには、淡い光球が握られている。それは周囲に不規則に降り注いでいて、その中の一つを手にしていたのだろう。再びその手を開くと光は消えていた。

 

「————受け答えはあれでよかったのかい? ……まあ君がそれでいいなら僕は構わない――――なるほど」

 

 うわ言のように呟く。その声は誰の耳に届くことはなく相変わらず虚空に消えていくだけだ。

 

「…………、」

 

 次に沈黙が場を支配する。瞳を閉じて静寂に身を包むと中心にあるものが幾ばくか輝きを増す。

 

「————わかった。じゃあ行くよ」

 

 薄暗い闇の中へとその者は溶け込んでいった。

 

 

 

 

 

 

「おはよう結城さん、東郷さん」

「おはよー!」

「おはようございます」

 

 朝の登校時間。二人そろって歩いて登校している友奈と東郷がそこにはいた。

 途中で並ぶ同学年の生徒と挨拶を交わしながら二人は昨日出会った彼について話していた。

 

「それにしても東郷さんの慌てっぷりが新鮮だったー!」

「恥ずかしいわ友奈ちゃん。わたしもあそこまで取り乱すとは思わなかったのよ」

「カミキくんと東郷さんの話してくれた『銀』ちゃんってそんなに似てるんだ」

「似てるというか、同じ……瓜二つよ。未だに男の人だなんて信じられないわ」

「そうなんだ~」

 

 東郷は少しずつ思い出してきた記憶を辿り、照らし合わせる。姿、声、髪質、雰囲気etc.

 『男性』という事を除けばまさに本人に近い存在だ。園子は彼の様子にすぐ気が付いたようだが、尚更その時に教えてほしかった。

 

(男の人に抱き着いたのは初めてだったのに……って、何を考えているのかしらわたしは!)

 

 顔を左右に振って頭の(もや)を振り払う。

 東郷は表層こそは落ち着いているように見て取れるが、その実はまだうら若き中学生。多少突っ走ってしまう癖があるが人並みに異性には関心がある。

 しかもただの異性ではない。あの銀に瓜二つなのだ。あれ? ならば問題はない――いや、ダメだ問題しかない。

 平常心。心の平穏を保つのだ東郷未森! 思考がぐるぐると迷走を始めたときに友奈が何かに気が付いたように声を出す。

 

「あれってカミキくんじゃない? おーいっ!」

「おっ! 結城に東郷じゃないか」

 

 友奈の活発な声にすぐに気が付いた和装の男――――カミキが歩みを止めて振り返った。

 

「おっはよーカミキくん!」

「おはよう。結城は朝から元気だな、東郷もおはよう」

「私はそれが取り柄だからねっ! カミキくんは何で和服のままなの? 制服はー?」

 

 友奈がまず疑問に思ったのがそこであった。学生の証である制服を彼は着ていなかったのである。

 

「学長にお願いしてこの装いのままにしてもらったんだ。和装の方が落ち着くからね僕は」

「はぇ~……そんなことができるんだね」

「やっておいてなんだけど、普通は許可は下りないと思う。少しだけ特別扱いさせてもらった……僕に必要なことでもあるから」

「必要なこと?」

「…………、」

「で、先ほどからぶつぶつ言ってる東郷はどうしたんだ?」

「あれ、東郷さん?」

 

 二人で会話を繰り広げていたが、カミキは未だ反応のない東郷に疑問を投げかける。

 

「えっと、東郷さんはカミキくんが銀ちゃんに似てるって言っててね」

「……昨日も言っていたなそういえば。ふむ――――ならあれを試すべきか」

「試す?」

 

 カミキはくるり、と東郷の方へと向き直ると突然立ち止まった。

 その行動に友奈は首をかしげて二人の様子を伺う。

 

 んんっ、と喉の調子を確かめるカミキは目を伏せる――――

 

『こら、須美(、、)! そんなボーっとして歩いていると危ないぞ!』

「――――えっ!? きゃ!」

 

 突然の声に驚いた東郷がよろめき躓く。それに反応したカミキは東郷の手を掴み、転倒しないように肩を引き寄せて支えた。

 

『ほら言わんこっちゃない。目が離せないなぁまったく』 

「……ぎ、銀?」

 

 やれやれと首を横に振るカミキ。

 彼の対応に対してキョドリまくる東郷。

 

「こほん……うーん、こんな感じでいいのか?」

「な、何を? というか須美ってまさかもとに――――」

「いや、君の知る『銀』のことだよ。真似てみたんだがイマイチ正解が解らない。結城知らないか?」

「ど、どうかな。カミキくんは何で東郷さんのその名前を知ってるの?」

 

 カミキが演じ、口にしたその名前は一部しか知りえない人物の名前だ。

 それをなぜ昨日知り合った人間が知っているのか。容姿が似ているとはいえ、東郷と園子の驚愕っぷりを考えるにやはり彼は二人の知っている『彼女』なのだろうか。

 

「それは――――乃木園子から聞いた」

「えっ? 園ちゃんから??」

「どういうことカミキくん。あっ」

 

 ふと、我に返った東郷は自分の今の状況を把握してしまった。

 通学路、人目につく往来の中、肩を引き寄せられ男の子に支えられている自分の姿を想像してしまい、先ほどの疑問は何処かへと消え去っていた。

 冷静になって見る。周囲の学生たちはヒソヒソと話し、こちらは注目の的となってしまっていた。

 次の瞬間に頬は熱を持ち身体がカチコチに動かなくなる。

 

「いや、僕が訊こうとする前に向こうから教えてくれてな。少し軽率だったかな東郷?」

「え、あっいや……あの、それよりもう大丈夫なので」

「ああ、すまない。ほら」

「カミキくんは紳士だねー! それに東郷さんがいつも以上にかわいい!」

「も、もうからかわないで友奈ちゃん!」

 

 赤くなった顔を隠すように両手をバタバタする東郷は少し足早にカミキ達の前を歩いていく。

そんな様子がおかしくてつい笑みを浮かべる友奈と、何やらぶつぶつと独り言を呟いているカミキの三者三様がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして時は放課後。

 あのあとは合流した夏凜に怪訝な顔をされたりしたが、恙なくカミキは転校生として皆に紹介されて友奈、東郷、夏凜、園子と同じクラスになっていた。

 はたして、このクラスは転校生を全員向かい入れるつもりなのだろうか。

 

 和服を着た男子が転校してきた。

 クラスでその容姿には皆一様に驚きを露わにしたが、特に気にしないでほしいと本人の言葉で締めくくられてしまう。

教師もそれ以上は言及せずに、指定された先に着席をさせるとそのままホームルームを始めていた。

 何気にスルースキルが高い。いや、事前に話は通されていたのだろうか。わからない。

 

 それはさておいて、変わって場所は勇者部部室。

 カミキは友奈、夏凜、東郷の三人に連れられ、改めてこの場所に案内される。

 部室の扉を開ければ既に犬吠埼姉妹と先に部室に向かっていた園子が揃って談笑に耽っていた。

 

「おっ、来たわね」

「先輩方お疲れ様です! 今お茶を用意しますね!」

 

こちらの様子に気がついた樹はいそいそとお茶の用意を始める。

 

「ゆーゆ、わにぼっしー! そしてミノさん~おかえりなさーい♪」

「さっきぶりだな園子」

「わーそのちゃーん! ただいま~♪」

「ちょっと園子! その略し方やめなさい」

 

 みんな口々に挨拶を交わす中、一人だけ妙に大人しい人物がいた。園子はすぐにその様子に気が付くと彼女の目の前にニッコリとほほ笑む。

 

「どうしたのわっしー? 今朝からずっとその調子だけど何かあったのー?」

「あ、いや……なんでも、ないのよそのっち」

「はぁ、いいかげん慣れなさい。いつまで気にしてるのよ」

「なになに? 何かあったの?」

「それがですね風先輩……」

 

 困ったように笑みを浮かべながら友奈は何事かと集まった風たちに今朝の出来事を話し始める。

 昨日から今日にかけて、無つ意識とはいえ男性相手のスキンシップ過多に東郷の思考はショート寸前だった。

 スキンシップとはいってもそこまでとは、と夏凜は思っているが口に出すと余計にややこしくなりそうなので一言二言で相槌を済ませる。

 

「ちょっとカミキくーん? うちの部員になぁに手をだしてるのよ~」

「お、お姉ちゃん!? その言い方はさすがに……」

「ミノさんさっすが~♪」

 

ニヤニヤと夏凜の横にいたカミキに問いただす風と、恐らくノリで合わせてる園子。

二人からはデビルな尻尾や耳が生えてるに違いない。夏凜はツッコミを入れるべきか悩んでいると、当のカミキ本人は微笑を浮かべていた。

 

「なら、犬吠埼」

「えっ……? ちょ!?」

 

つぎの瞬間に風は突如として後ろに倒れてしまう。

 何が起きたのか判らない風は成すすべなく流れに身をまかせるが、身体が倒れきる前にふわりと何かに支えられる。

 

「犬吠埼……急に倒れるなんて危ないじゃないか」

「え、え、ええ!? か、かか…カミキくんっ?」

「いけない娘だ」

「あっ……」

 

今朝の東郷と同様に肩を引き寄せられ、耳もとで囁くように言葉を口にするカミキ。

シチュエーション的には今朝の再現なのだが、見る側からするとまるで映画のワンシーンの様な状況が広がっていた。というか、見ていて恥ずかしい光景だ。

もちろん観戦者たる友奈達は顔を赤くし、その光景を見守るしかなかった。

……一人、目をキラキラと輝かして手元のメモ帳に書きなぐっている者を除いて。

 

「こんな感じだったかな――――悪気はなかったんだ。許してくれ」

「あ、ん、耳もとで囁かないで……か、顔がちかい…」

「お姉ちゃんがなんか…あわわ」

「えろえろだねぇ! フーミンパイセン~!! ミノさんもいいよイイヨーー!!! はぁ、はぁ……ペンが、ペンがとまらんよぉ! へぶっ!?」

「やっかましぃ!! 落ち着きなさい園子っ!! 元はといえばアンタが吹っ掛けたんでしょーがー!」

 

 堪忍袋ならぬツッコミの緒が切れたようだ。

 どこからか出したのか巨大なハリセンで園子の頭に振りぬいていた。

 

「な、なんか凄いことになってるね。って、東郷さん!?」

「ぷしゅー……」

「わー!? とーごーさーん!!?」

 

頭から煙を出して追い討ちをかけられる東郷を他所に、風もまた顔が茹でタコのような感じに仕上がってしまっていた。

普段弄り慣れてる人間が逆にやられるとこうなるいい例であった。

 

「あんたもあんたよ! 急にこんなことするとその……ビックリするでしょカミキ!!」

「みたいだな。まぁ頼まれてやってみたわけだが」

「――――頼まれた?」

「ぎくっ!?」

 

 露骨な反応を示すものが一人。それを夏凜は見逃さなかった。

 

「そーのーこぉ!!」

「わひゃあ!? にぼっしー顔がこわいよぉ……あ、あ、ああ。ハリセン二刀流は反則だよぉ」

「ふふっ……今ならこれでバーテックスをやれそうだわ。さぁ覚悟なさい!」

「ひい!? み、ミノさんヘルプー!!」

「自業自得のような気もするが仕方ない……犬吠埼、すまなかったな。付き合ってくれてありがとう」

「は、はひ。こちらこそ……」

「樹、あとは頼んだぞ」

「え、えぇ!? カミキさん!!」

 

 抱きかかえていた風を樹に任せると、今まさにやられようとしている園子と夏凜の間に割って入っていった。

その行動に対して夏凜は異様な気配を感じ取ったのか、ハリセンを振りかざす手を止めて数歩分後ろに引き下がる。

 

「なんの真似よカミキ」

「……助けを求められたならば仕方ない。乃木には指一本触れさせない」

「お、おぉ! ミノさんかっけー!! ……よし、コレはこれでメモメモっと」

「へえ、言うじゃない。でもその格好じゃまともに動けないと思うけど?」

「ふっ……」

「――――っ!?」

 

 にやり、とカミキは和服の袖に手を入れて何やら取る。そして見せびらかすようにソレを夏凜に掲げた。

 驚愕を露にする夏凜。それは彼女の闘志を揺るがすに値するものだった。

 

「こ、『高級にぼし』っ!? あ、あんた――――」

「三好は『にぼし』が好きだったな……取引だ。今、矛を収めてくれるならこれを譲ってやろう」

「ぐっ……ひ、卑怯な! けど――――私は園子にツッコミを入れるまで諦めるわけにはいかないのよ……っ!」

 

 

 彼の提案に揺らぎそうになる夏凜だったが、持ち前の精神力でなんとか耐えた。

 「ほう」、とカミキは夏凜の行動に称賛を送る。

「交渉決裂。残念だ――――ならば来い!」

「上等ォ!!」

 

 二刀のハリセン、片や二袋のにぼしを携え、今二人は接敵する――――

 果たしてカミキは無事に乃木を救うことができるのか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次回、最終決戦 開幕!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「————みたいなシナリオでどうかなゆーゆ?」

「おお! 流石園ちゃんだね!! かっくいー」

「と、とりあえずお茶をどーぞ皆さん」

 

 

 

 

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