カミキの自宅に訪れて数時間。
はやくもこの空間に馴染み初めた彼女たちは、みんなして一つの画面を注視していた。
「――――ここで! どうよ!?」
「いやいや甘いぞ三好。お返しだ」
「あぁ!? それはずるいわよカミキ!」
「勝負の世界は非常なのだよ」
「流石かみきん! イっつんここで挟み討ち」
「は、はいっ! えい」
「むむ、二人ともやるな」
「負けてたまるかぁ!」
画面の向こうにはキャラクターが忙しなく動き回っている。
いわゆるパーティーゲームの類のもので、四人の手元にはコントローラーが握られていた。
「あぁぁ……負けた」
声を漏らしたのは夏凛だ。画面には順位が表示されていて、彼女の操作するキャラクターの所は『四』となっていた。
「三好はゲームが苦手みたいだね」
「アンタが上手すぎるのよ! というかゲームなんてやったことないし……」
「まだまだだねぇにぼっしー。イっつんとダブルどや!」
「ど、どや!」
「ぐぬぬ。樹まで……もう一回よっ!」
負けず嫌いの夏凛は二人の挑発に再戦を申し込む。
受けて立とう、と園子はそのままプレイを再開する。
「それにしてもにぼっしーの言う通りかみきんゲーム上手だね~」
「んー? そうかなぁ。それなら教えてくれた人が良かったんだろう」
「教えてくれた人?」
「あぁいや、教えてくれたというか散々ボロ負けしてたうちにそれなりに上手くなっていったというか……あはは」
「ふふ。なにそれー」
「あぁ!? 樹ぃーよくもやったわね!」
「わ、わたしも負けてられないです!」
カミキと園子がまったり会話しつつゲームに勤しむ中、樹と夏凛は白熱した戦いを繰り広げていた。
というより夏凛は消去法で一番相手にしやすい樹を選んだわけだが、思っていた以上に彼女は善戦している。
結果は引き分け。二人の実力は拮抗していた。
熱が入った二人はさあ次、というところで家のインターホンが鳴りだした。
「ちょっと失礼」
「かみきんいってらっしゃい。ならわたしは応援してるよ~」
「む、なら樹。二人で対戦するわよ!」
「の、望むところです!」
わいわいと盛り上がりを見せている所でカミキは玄関へと足を運びその扉を開ける。
そこに居たのは面をした一人の人物だった。
『カミキ様。例のもの、お持ち致しました』
「……はい。わざわざありがとうございます」
ぺこりと頭を下げて差し出されるのはアタッシュケース。カミキは中身をその場で確認をし始める。
『――勇者様もこちらに居られるようですね』
「流れでウチに来ることになっちゃって。…うん、ものは確かに受け取りました」
『はい。仲良く出来ているようで安心しました』
「おかげで助かってますよ。それで
短いやり取りをしつつカミキはあることについて訊ねる。
面の者はしばしの沈黙のあと口を開く。
『我々も手を尽くしてみましたが、望む結果には至らず……申し訳ありません』
「やっぱりそうですか。ああいえ、あなたが謝る必要はありませんよ。どれも僕たちが未熟なせいですから」
『しかしあなたは――――っ』
何かを寸でのところで押し留める。その様子を伺えないが、おそらく悲痛に顔を歪めているのだろう。
なんとも優しいお方だ、とカミキは首を小さく横に振る。
「僕たちはそのためにあるんですよ。準備を済ませたのちに向かうことにします。いいですね?」
『――――はい。畏まりました』
簡潔に述べると面の者は静かに立ち去っていった。
その背中を見送りつつ扉を閉める。
カミキはそのままリビングに戻ると、その目に映ったのは項垂れる夏凛と勝ち誇った樹の姿があった。
その様子で勝敗は語るまでもない。
「カミキさんやりました! 三連勝です~」
「おーそれは凄いな樹」
「なんで勝てないの!? このゲーム壊れてるんじゃない」
「どうどう落ちついてにぼっしー。かみきん遅かったね」
「ちょっと宅配便の荷物を受け取っててね。ごめんごめん」
「カミキっ! なにか他のゲーム無いの? こうなったら何が何でも勝利をもぎ取ってやるわ!」
『わんっ!!』
「……あはは。ならこれなんてどうかな」
まだまだこの時間は長くなりそうだ――――
◇
「じゃあまた明日ねーかみきん!」
「遅くまでありがとうございました。カミキさん」
「うん、今日は楽しかったよ二人とも。また明日」
さらに盛り上がったゲーム大会は樹の端末に姉からの連絡が来たことによってお開きとなった。
樹もすっかり時間を忘れてプレイしていたようで、端末を見たときの驚きようが少しだけ面白かった。
日も落ちて暗くなってしまったため、園子のお付きの人間の迎えに樹は同行させてもらうことにして、二人は先に帰路についていった。
残った夏凛は単純に送らなくていい、と断って先に発った二人をカミキと見送る形になっていた。
「長居して悪かったわねカミキ。なんだかんだ楽しかったわ」
「はは、一番盛り上がってたのは三好だもんな。僕も楽しかったよ」
「うっ……」
痛いところを突かれたのか、夏凛は顔を赤くしながらバツが悪そうに視線を泳がせていた。
改めて反応やら何から面白い子だーと。普段いじられているだけあるなぁなんて思っていたり。
「じゃあ私も帰るわ」
「送っていこうか?」
「必要な……いや、送っていってもらおうかしら」
「もちろん」
何か思いついたように夏凛は送ってもらうことを承諾する。
特別その様子に疑問を抱かずにカミキは頷いて二人は歩き出した。
「戸締りはしなくていいの?」
「入れ替わりでお付きの人が出入りするからそのままで大丈夫だよ。気にしてくれてありがとう」
「べ、別に! それならいいんだけど」
歩幅を合わせながら二人は歩く。肩を並べてみると、その身体は意外と大きいと夏凛は感じた。
「カミキは私たちがどういうことをしているのか知っているのよね?」
「うん。それ自体はこの世界の人たちは全員分かっていることじゃないか」
「そうね、けれど詳細を知るものはそう多くないわ」
「……僕の存在がどういったものか知りたい感じだね」
「直球で言えばそう。『大赦』からの指示でここにいるの? それとももっと別の――――」
「違うよ」
言い切る前にカミキは夏凛の言葉を否定した。
「僕の意思でここにいるよ。誰の指示でもなく、僕は君たち勇者部の助けとなりたくてここにいるんだ」
「助けるって……」
「ちょうどいいタイミングだし、三好にこれを」
カミキは袖口からあるものを取り出し、夏凛に手渡す。
受け取った彼女は怪訝の表情になっていた。
「なにこのチップは?」
「君の『端末』に使用するもの。有事の際に活用してくれると嬉しい」
「なんでこれをあんたが……」
「僕は君に期待してるんだ。もちろん『勇者部』の人たち全員そうだけどね。そのための助力は惜しまないし、三好は僕や『大赦』が何か企てているなんて思っているのかもしれないけど、そんなことは絶対にありえないと言っておくよ」
「……本当に?」
「うん。だから僕も一緒に戦わせてよ」
その言葉に、その瞳に『嘘』はないと感じ取れた。
少しだけ心の突っかかりがとれたような気がする。
「なら、あまり足手まといにならないことね!」
「もちろん。君たちを引っ張っていくつもりで頑張るよ!」
「言うじゃない」
小さく笑う二人は、互いにその拳を合わせる。
「ここまででいいわ。ありがとカミキ」
「わかった。じゃあまた学校で」
「ええ」
そう言って夏凛は足早に歩いていく。カミキはその姿が見えなくなるまで見送っていた。
「…………、」
自分一人誰も居なくなったこの場所で、ふと空を見上げる。
今日は天気がいいのか、綺麗な月がその瞳に映った。
◇
今日も今日とて勇者部は活動している。
『本日も異常はなし』。端末から『大赦』へ向けてメッセージを送る。
異常はないがこの部の騒がしさは相変わらずであって、それはこの日も例外ではない。
「か、夏凜ちゃん……風先輩とカミキくんはどうしたのかな?」
「すごい剣幕で捲し立てていますね。銀は大丈夫かしら」
「んー? あぁ、あれはね」
にぼしを摘まみつつ苦笑を浮かべている友奈と東郷と一緒に見届けていた。
「くぉらカミキ!! 昨日は遅くまで樹と何をしてたのか白状なさーい!!」
「何をって樹はクロの世話とか――」
「世話ッ!!? 樹の世話って何を……姉は不純異性交遊は断じて許しませんが!!?」
「お、お姉ちゃん!! 何を言ってるの!?」
「風の頭の中が不純よね~。てか、私とか園子も居たし」
「そういえば遊びに行ってたんだよね! いいなぁ、わたしも行きたい!」
「わ、私も……」
「いいんじゃない? アイツのことだからいつでも歓迎でしょ」
「あーあーあー……そんなに揺すらないでくれ犬吠埼」
カミキはされるがままに風に肩をゆすられ続けている。
対して隣で落ち着かせようとしている樹の顔は赤くなっていた。
無理もないというか、姉である風の言動がだんだんと危ない方向にいってしまっているためである。
「樹が……樹があんなに遅くまで外出してくるなんて」
「いやいや! 夜の七時ぐらいだよお姉ちゃん!!? 確かに時間を忘れて連絡し忘れてたわたしが悪いんだけど」
「ふーみん先輩、ちゃんと私たちも居たから大丈夫だよ~。かみきんはその辺も気にしてくれてるから」
「乃木……」
「そ、そうだよお姉ちゃん。だから落ち着こうよ」
「――――わかった。でもカミキ! 万が一にもマイシスターに手を出したら容赦しないわよっ!」
「それで犬吠埼が納得してくれるならそれで構わない」
「よし! ならこの話は終わり!! さて、今日の活動するわよ」
切り替え早っ! と外野の面子は心の中で総ツッコミする。
「そ、それじゃあ風先輩! 今日の依頼はなんでしょうか?」
「今日は校外活動で河川敷の清掃活動よ~全員でちゃちゃっと片付けちゃいましょう!」
「よーし! 勇者部出動だ!!!」
友奈の掛け声とともに、皆は一様に支度を始めた。
「……ほら、カミキ! いくわよ」
「ああ、今行く」
横に並びながらカミキに視線を移す。
まだ不明慮な部分もあるが、少しだけ彼のことは信じてみてもいいのかもしれない。
接していて別に不快ではないし。
夏凜は昨夜渡されたチップの入ったケースに触れながらそんなことを考えながら歩いて行った。