世界を救う勇者たちの物語   作:紅氷(しょうが味)

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第七話「始まりの警報(アラート)」

 

 

 空は曇天に覆われている。

 このところの快晴から一転して、今日の空模様はよろしくないようだ。

 

「お邪魔します~」

「いらっしゃい友奈ちゃん」

 

 ニッコリとほほ笑みながら出迎える東郷。ここは彼女の自宅でお隣に住む友奈が遊びに来た形だ。

 この光景は今に始まったわけではなく、近頃はほぼ毎日訪れているみたいだった。

 

「はい。これお母さんから持っていけーって。お菓子とかもろもろ」

「ありがとう! また友奈ちゃんのお母様にはお礼を言っておかないと」

「カミキくんはまだ来てないの?」

「えぇ、でももう少しで来るんじゃないかしら?」

 

 今日はカミキとの親睦を深めるために彼を招待した。

 これ自体は友奈の案なのだが、それならば自身の牡丹餅をごちそうさせようと東郷は自宅に呼んだ次第である。

 

 先に来た友奈を部屋へと案内して、彼女はさっそくくつろぎ始める。

 

「いやーやっぱり東郷さんの部屋は落ち着くなぁ~」

「こらこら。友奈ちゃん銀も来るんだからだらしない恰好してちゃダメよ」

「は~い……」

「もう……あ、来たかな」

 

 しばらく雑談していると、インターホンが鳴った。

 恐らくカミキだろうと東郷は足早に玄関先へと向かう。

 

「――――今日はお招きありがとう東郷」

「…いらっしゃい、銀。どうぞ上がって」

「ああ、お邪魔します。飲み物にと茶葉を持ってきたんだが」

「ありがとう。後で淹れて飲みましょう」

 

 もう見慣れた和服に身を包んだ彼を案内する。

 

「あ! やほーカミキくん!」

「和室は落ち着くな。やあ結城、連絡ありがとう」

「二人とも待ってて。今から用意してくるから」

「ありがとう東郷さん」

「ありがとう」

 

 二人に微笑み返して自室を後にする。残った友奈とカミキはテーブルを挟んで向かい合う形で座った。

 

「カミキくんは女の子の家に遊びに来るのは初めて?」

「いや、二回目だな。初めは犬吠埼の家にたまたまお邪魔することになったのがそう」

「へえ~そういえばその時にわんちゃんを拾ったんだっけ?」

「うん。今でも飼い主は見つからずじまいだし、世話はたまに樹が手伝ってくれるよ」

「わたしもカミキくんの家に行ってみたいなー。わんちゃんにも会いたいし」

「いつでも歓迎するよ」

「ありがと~♪」

 

 ニコニコと外の天候の悪さを吹き飛ばす勢いで会話を続ける友奈。

 その溢れる活気にこちらの頬も自然に綻ぶ。

 カミキはどこか懐かしそうに目を細め彼女との会話を続けること数分。リビングに行っていた東郷が甘い香りとともに自室へと戻ってきた。

 

 

「おまたせ。ちょっと張り切りすぎて作りすぎちゃったわ」

「わぁ! すごい美味しそう♪」

「本当だ。これは楽しみだ……あっ、お茶は僕が注ぐよ」

「ならお願いするわね」

 

 綺麗に盛り付けられた牡丹餅に生唾を飲み込む二人。

 

「じゃあさっそくいただきます!」

「いただきまーすっ!」

「召し上がれ二人とも」

 

 一口食べると餡子の風味とやさしい甘みが口全体に広がる。もちもちとしたこの食感も好きな感じだ。

 カミキは一つ一つ噛み締めるように食べていく。

 そんな様子を東郷が少しだけ不安そうに眺めていた。

 

「おいしー♪ やっぱり東郷さんのつくる牡丹餅は最高だよ! ねっ、カミキくん?」

「本当に美味しいよ東郷。いくらでも食べれそうだ」

「ほ、ほんと? 良かったわお口に合って」

「東郷さんおかわり!」

「あっという間ね友奈ちゃん。…はい、どうぞ」

「じゃあ僕もよろしく」

「ふふ。はいはい♪」

 

 次から次へと胃の中へと消えていく。気が付けばたくさんあった牡丹餅は半分以下に減っていた。

その様子に東郷は満足していようだ。

 

「よかったら持って帰って食べてもらってもいいよ銀。お腹いっぱいになっちゃうでしょ」

「……あはは。じゃあもらっていくよありがとう」

「うん。じゃあ帰りに持っていってね」

「ふぅ……お茶おいし~」

 

 お茶をすする友奈は、視線だけを二人に向ける。

 どうにもまだぎこちなさを感じる二人。

 明確な壁があるわけではないが、どう接していいのかわからないといった感じだ。

 友奈が今日こうした場を設けたもう一つの理由が、二人のわだかまりをとってしまおうという意味合いもある。

もちろん二人には内緒にしているが。

 

「そういえばカミキくんって東郷さんのこと覚えてたりしないのかな?」

「え? あぁ……そうだな。僕は初めて会う、はずだよ。前にも言ったとおり」

「…………、」

「じゃ、じゃあそのカミキくんは以前に『勇者』をやってたりしない? ほら、お役目のこととかよく理解してたし」

「僕は『勇者』じゃないよ」

 

 彼の言葉に東郷の瞳がわずかに揺れる。

 

「記憶がないとか、混濁しているなんてこともないはずだよ。君の知っている『銀』とは別人だと思う。その子は『勇者』をやっていたんだろうけど……』

「でも……ええ、そうよね……彼女はもう――――」

「東郷さん……」

「でもさ、東郷」

 

 カミキが彼女の手をそっと握ると、俯いていた東郷の顔がハッと上がる。

 お互いの瞳が両者を映す。

 

「僕は純粋に東郷と仲良くやっていきたいと思っているよ。『今』の僕も君に歩み寄っていきたい」

「銀――――」

「もちろん結城とも仲良くしたいからな」

「うん、うんっ!! 私もカミキくんと仲良くやっていきたいよ! 東郷さんとももっともっと!」

「友奈ちゃん……ギン……」

 

 感極まったのか目元に涙を浮かべながらカミキの手を握り返す。

 更にその上に友奈の手も添えられると、三人は小さく笑いだした。

 

「改めると部屋の中心で手をにぎり合う場面はおかしいな…はは」

「そんなことないよ! こういうのもとっても大事なことだと思うんだ私は」

「くす。えぇ、そうね」

「なるほど。そういうものか」

「そういうものだよー♪」

 

 込める力を上げると呼応するように握り返してくれる。

 その手はただの熱とは違う暖かさを感じ取ることができた。

 

「じゃあさっそく、カミキくん……私のことは名前で呼んでよ! その方がもっと距離が近くなるよー」

「む……ゆ、友奈?」

「はーいっ! えへへ~東郷さんはどうする?」

「わたし…は。えと……二人の時は『須美』って……呼んで、欲しいかな。あっ、友奈ちゃんがいるときでも構わないから」

「じゃあ、須美。これからよろしく」

「はい……」

 

 もじもじと赤面しながら東郷は頷いた。

 その光景は自身の内なる何かを刺激される。端的に言って『可愛い』と表現した方が分かりやすいか。

 友奈も同じ感覚に襲われたのか両目をキラキラと輝かせているようだ。

 

「ふ、二人とも? そんなに見られるとその……恥ずかしいわ」

「なんかこう……ヤバイな友奈」

「でしょでしょ? 東郷さんの魅力の内の一つだと思うんだよねぇー」

 

 

普段は大和撫子の彼女が時折見せる少女のような愛らしさは男女に共通して魅了してしまうようだ。

カミキは色々な意味で面白い人たちだ、と思わずにはいられない。

 

「はは……ありがとう友奈、須美」

「うん? どうしたのカミキくん?」

「今日ここに招待してくれたのもそうだけど、普段の時も僕に良くしてくれてありがとう」

「お、お礼を言われるようなことはしてないよ! 私たちがカミキくんと仲良くしたいからそうしてるんだよ」

「友奈ちゃんの言う通りよギン」

「――――そうか。ああ、これなら片隅に残っていた不安も乗り越えられそうだ」

「何を言って……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間。世界が停止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この感覚は友奈と東郷は覚えがあるものだった。

 しん、と世界が静まり返るこの瞬間に言いようのない『不安』が彼女たちを襲う。

 

 

「ゆ、友奈ちゃん……これって――――」

「まさか……『樹海化』っ!? か、カミキくん!」

 

 まさかこうも突然くるとは思ってもおらず、だが身体は真っ先に動き出した。それと同時に友奈と東郷に疑問が生じる。

 『神樹様』の神託はまだバーテックスの襲来はないと告げられていたはずだ。

 なのになぜこんな突発に事態が急変してしまったのか。

 それがわからない。

 

 諸々の疑問を抱くが取り敢えず置いておいて、彼の方へと意識を向ける。

 目の前のカミキは困ったように笑みを浮かべるばかりだった。

 

「動けるんだね! よかった。私たちの近くから離れないで」

「――――まさかこのタイミングとは」

「っ!? ぎ、ギン身体が……っ!」

 

カミキの身体に起きた変化。

それを知覚するとともに東郷が一目散に駆け寄りその身体に触れようと手を伸ばす。

しかし、その手は空を切るばかりであった。

目の前にカミキがいるのに彼に触れられない。

何が起きたか理解ができなかった。

友奈もすぐさま血相をかえて東郷と同じように触れようとするが結果は変わらず。

 

「ど、どうしてカミキくん! 大丈夫なの!? 身体が透けちゃってるよ!!?」

「あぁ、大丈夫。驚かせてごめん二人とも。死んだりとかしないから安心してくれ」

「そ、そんなこと言われても。本当に平気なのギン?」

 

 

カミキは頷いて答える。二人の焦りに対して彼は冷静な対応をしていた。どうやら本人からしたら初めての出来事ではないらしい。

 

 

「それよりも君たちの勇者システムを機能させないと…急いでこのチップを使ってくれ。君たちの端末は大赦から渡されている代用品だけどこれを使えば変身は出来るはずだ。バージョンは古いものになるが」

「う、うん……」

「あ、あの…『満開』は……」

「……このバージョンには搭載されていない。それ以前にあれは現状使用者にとってデメリットが強すぎる。あっても使わない方がいい」

 

 彼女たち『勇者』の切り札たる『満開』。

 使用者に通常の数倍以上の力を引き出させてくれるものだが、反面に使用者の自由を奪う諸刃の剣であるのだ。

 あればこそ殲滅力が上がる代物だが、出来るだけ使いたくないのが二人の正直な感想であった。

 カミキの話を聞きながら、友奈と東郷は渡されたチップを端末に挿し込んでインストールを始める。

 目まぐるしく変わる状況に彼女たちの身体はしっかりと動いてくれていた。それは今までの経験が後押ししてくれているのかもしれない。

 

 頼もしい限りだ、とカミキは小さく笑みを浮かべる。

 その間にも彼の身体は端の方からどんどん消えてなくなっていく。

 

「カミキくん……あなたは一体」

「っ、他の勇者部の人間の分は間に合わないか。バーテックスが来る前に三好たちと合流してほしい。いま友奈と東郷みたいに変身できるのは三好しかいないから」

「そんなっ!?」

「夏凜ちゃんと……うん、分かった!」

「頼んだ。……それともう一つ。『変異体』には注――――っ!」

「あっ!? ギン!!!」

 

 カミキは何かを伝え切る前に消え去り、同時に停止した世界は変化する。

 神樹様がバーテックスによる被害を抑えるために形成した結界。

 嫌でも見慣れてしまったこの世界にカミキの姿は何処にも居なかった。

 

「……友奈ちゃん」

「今はとにかく急ごう東郷さんっ! カミキくんの言う通りに夏凜ちゃんたちと合流しないと」

「そうね。——インストールも完了したわ」

 

 二人で頷き、勇者システムのアイコンを押す。

 花びらが溢れてその身を戦闘装束に身を包む。

 

「わあっ! 牛鬼だ~! 久しぶりだね!」

「青坊主も……精霊バリアは健在みたい。行こう友奈ちゃん!」

「うん!」

 

 端末に目を落とすと夏凜の反応が現れていた。

 それはある場所に向かって真っ直ぐに進んで行っている。

 恐らくそこに他の勇者部がいるのだろう。

 

 友奈と東郷は夏凜の反応を追って樹海の中を進んで行った。

 

 

 

 

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