世界を救う勇者たちの物語   作:紅氷(しょうが味)

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第八話「黒き星」

 

 

『樹海化』

 

 

 バーテックスによる被害から人類を守る一種の結界。

 

 人類を守護する『神樹様』によって生成されるものでその空間は大量の樹木に覆われている。

 そんな中を少女が一人、数十メートルの距離を一足で跳び、並外れた走力を持ってして樹海を駆けていた。

 

 三好夏凜である。

 

(――――みんなはどこに)

 

 内心焦りをみせ始める。突然の『樹海化』に勇者である彼女は驚きを隠せないでいた。

 

(カミキからもらったチップ――――勇者システムそのものだったのね。……他のみんなは連絡用の端末しかもっていないはず)

 

 以前の戦闘によるシステムのアップデートのため、彼女たちのメイン端末は『大赦』のもとにある。

 神託によるバーテックスの襲来も予見されていないことからシステムの未搭載の連絡用端末でしか今の勇者部の人間は持ち合わせていなかったのだ。

 そのせいで夏凜の初動は遅れてしまう。完全に油断してしまった。

 

(……ってダメだ! 焦るな私。まずはみんなと合流して対策を立てていかないと)

『諸行無常』

「……ええ、そうね。落ち着かなきゃいけないわね――――」

 

 周囲を漂う相棒の言葉に一度立ち止まり、深呼吸する。

 端末を手に取り、位置情報を探る。もしかしたらカミキが自分にしたようになにか手を打っているかもしれない。

 

 わずかな通信の後、二つの反応が現れる。

 友奈と東郷の名がそこにはあった。恐らくこれは自分と同じくカミキがやってくれたのだろう。

 距離は離れているが二つの反応は真っ直ぐにこちらに向かってきている。

 

 しかしそれを悠長に構えている暇はない。戦闘能力のある二人はまだしも、他のメンバーの安否が気になるところだ。

 夏凜は今一度周囲を見渡し限界まで気配を探る。そうするとある一点に人影らしきものが見えた。

 間違いない、と急いでそちらに駆け寄る。運良く風と樹がそこには居た。

 

 二人の名前を叫ぶとこちらに気がついたのか、ともに不安げな表情から一転して安堵の表情を浮かべる。

 

「夏凜さん……っ!」

「夏凜あんたは変身できたのね! 無事で良かった」

「それはこっちのセリフよ風、樹。奴らが来るまでに合流できて良かったわ。…園子は?」

 

 姉妹二人以外の姿はなかった。風は首を横に振って彼女たちとの合流を果たせなかったことを告げられる。

 樹も心配なのか今もなお周囲を見渡していた。

 

「東郷と友奈は大丈夫なの?」

「二人も変身してこっちに向かってきているわ。カミキが勇者システムを用意してくれなかったらどうなっていたか……」

「カミキさんは無事なんでしょうか?」

「アイツは……そもそもこの『樹海』にいるのかすら怪しいわね」

 

特定の、夏凜たちのような勇者たち以外はこの結界から弾かれてしまうのだが、果たして彼にはどちらに当てはまるのか把握していなかった。

 

「連絡が出来ないのが辛いわね。…しっかし、なんで急に樹海化したのかしら? まさか神樹様の神託が間違っていたとか」

「それは……」

 

 風の一言にみな言葉が詰まる。

 真相は誰にも分からない状況であった。

それがひどくもどかしい。

 

「……あ、お姉ちゃん夏凜さんあれっ!!」

「あちらさんは待ってくれないらしいわね。いい、二人とも私から絶対に離れないでよ」

「…悔しいけど仕方ないか。樹、私たちは隅に隠れるわよ」

「う、うん。夏凜さん、気を付けてください」

「まかせたわよ夏凜」

「ええ、まかせなさい!」

 

 樹の指差す方向にバーテックスが群をなしてこちらに侵攻してきていた。天が星屑に埋め尽くされる。

 夏凜は両手に脇差の日本刀を構えて精神を統一させる。

 

「さぁ、来なさい……一匹残らず殲滅してやるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白に染まる。

 これは数舜の出来事であるがどうにも慣れない感覚であった。

まぁ慣れるほどこの現象に襲われるのはこちらとしては不本意なのだが、仕方ない。

 

「…………、」

 

 まるでカメラのフラッシュを向けられた時のように、白く染められた視界。

 されど永遠と続くわけでもなく。少しづつ視界が晴れていくとともに、目の前には巨大な大木がこちらを見下ろすかのようにその大地に根を張っていた。

 

「神樹様——」

 

 ポツリとその大木の名を呟く。この世界を支える一柱の名を。

 

 

「神託を破り、バーテックスが侵攻してきています。——あの『砕けた壁』のところから」

 

 現状を言の葉にして話す。

 この世界の端。それは神樹様によって外界を遮断する役割を担っている『壁』がある。

 これが存在するからこそ人々は今も生きていくことができているのだ。

 それがついこの間のこと。とある戦闘によってその『壁』の一部に大きな『穴』が現れてしまった。

 

 端的に言って、このせいでマズイ状況を作り出してしまっている。

 

 一体どのようにして、どのような経緯を辿ってああなってしまったかは彼や神樹は把握している。

 それに答えるかのように淡く、神樹が光を帯びた。

 

 早々に対処せねばならない事柄。既に神樹はその対応策を自分に示している。

 

「……ええ。しかしそれは彼女ではなく私が役割を担います。私自身の適性値は彼女には及びませんが何とかします。いや、させます」

 

 瞳を閉じてそのように告げる。今もなお戦い続ける彼女たちを想いながら。

 

「これからすぐに向かいます。勇者たちにはうまく伝えてください。では……」

 

 深く頭を下げて、彼——カミキは立ち上がる。

 その手には端末が握られていた。

 

 

 ————花が咲く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——こぉのおお!!」

「ぐっ……友奈ちゃん後ろ!!」

「わっ!? ありがとう東郷さん!」

 

 友奈と東郷は反応のあった夏凜の下へ向かう途中でバーテックスと接敵していた。

 彼方の神樹様に近づけられないよう、殲滅を繰り返しながら皆と合流することになってしまった。

 

 友奈が範囲内である敵を拳で砕き、遠距離及び仕損じた敵を東郷の射撃がそれらを射抜く。

 お互いがお互いをフォローしつつ、進軍している。

 だが、

 

「…数が多い。ここから大きいのきたら大変だよ東郷さん、みんなは大丈夫かな?」

「さっきから移動していないことを察するに夏凜ちゃんが先輩たちと合流しているわ。むしろこの戦況……合流するよりも二手に分かれて戦った方がいいのかもしれない」

「このまま二人でバーテックスを倒していく?」

「ええ、でも……」

 

 会話をしながらもその手は止めることはない。

 一匹でも仕留めそこなったらそのままあれらは神樹様を食らうだろう。それは阻止しないといけない。

 広域展開されている布陣に対して、一か所で立ち向かうのは分が悪すぎる。

 けれども東郷の思考は、カミキの一言に不穏を隠せないでいた。

 

(……ギンが消える寸前に言ってた『変異体』。あれの意味はいったい——?)

 

 現在攻め入っているバーテックスは数は膨大なれど、その一個体はそれほどの戦闘力を有してはいない。

 『勇者』となった東郷達からしてみれば、これらの個が集結した『集合体』の方が脅威である。

 

 しかし、その『集合体』も以前の戦闘で残らず倒したはずだ。

 再生するとはいえ短期間であの数がすべて復活したとも考えにくい。

 

 ならばカミキの言っていた『変異体』はこの星屑たちのことを示していたのだろうか。

 

「あ、れ? 東郷さんアレはなに?」

 

 思考に耽っていると横に戻ってきた友奈が立ち止まり、天を指さす。

 つられて東郷の視線はそちらに移すとその顔は驚愕に染まっていく。

 

「アレ、は……?」

 

 白い星屑が天を覆う中、悠々と空を漂うかのように移動しているモノがあった。

 この空間では異質の存在であった。

 だが、見覚えがあるカタチでもある。それはそうだ。

 

 周りを飛び廻るモノと造形が同じだからだ。

 

「……『黒い星屑』(バーテックス)?」

 

 友奈がポツリと呟く。確かにあれはバーテックスだがその体色が違う。

 黒く、暗く、暗黒というほど黒に染まり、白いものにあった赤い線はコレになく、そこは金の色に変色していた。

 大きさは他のバーテックスより一回り大きく、けれど『集合体』に比べればその身は小さかった。

 

 黒いバーテックスはこちらに見向きもせず、真っ直ぐと神樹様の方へと向かっている。

 あのまま行かせてはマズイ、と判断した二人はバーテックスの進路を阻むことにした。

 

「……はぁあ!!」

 

 躊躇うことなく友奈はその拳を左側面に放つ。

 続く東郷が追い打ちをかけるために、無数の弾を撃ち込んだ。

 

『…………。』

 

 どちらも全てが命中する。それもそのはず、あの黒いバーテックスは避けるそぶりすら見せずに受けてみせたからだ。

 二人の攻撃はしかしその黒い体にはかすり傷すらつくことはなかった。

 

「————ならっ!! コレはどうかなぁ!!!」

 

 手応えが感じ取れなかった友奈は一度地に足をつけて、両脚に力を目一杯込めて瞬く間に跳ぶ。

 強靭なバネのように黒いバーテックスの居る所へ進む。反動でその地は大きな亀裂が走り、周囲のバーテックスが余波によって吹き飛ばされる。

 

 友奈は黒いバーテックスの口元、ちょうど人間でいう顎あたりにその身を奔らせると、彼女の膝が顎下を捉えた。

 東郷の目から視たその一撃は、脚の動きがブレて視えてしまうほどの速度がでていた。

 

 鈍く、重い重音と共にバーテックスの体が後方に吹き飛ばされる。

 流石にスピードと威力が乗った膝蹴りはその身を弾くには十分な力を発揮したようであった。

 

 そこへ更に二発三発と友奈の与えたダメージ箇所に東郷の弾丸が寸分違わず撃ち込まれると、樹海となってそこら中に伸びている大木のような根の一つに黒いバーテックスは激突した。

 

「……どうしよう東郷さん。あの黒いバーテックス硬すぎるよ。足がびりびり痺れてる」

「もっと連続的に攻撃を行うとか……でも今のわたしじゃ弾幕も威力も足りない。『満開』があれば……」

 

 口にしてすぐに友奈に手を握られハッとする東郷。友奈は首を横に振りながら「それはダメだよ」と彼女の思考を止めさせる。

 

「きっと何か方法があると思う。大丈夫、なせば大抵なんとかなる、だよ東郷さんっ!」

「ごめんなさい友奈ちゃん。うん、頑張ろう」

 

 お互いの手を握り、今一度気を引き締める。

 

 再び敵へと向き直る。

 すると黒いバーテックスは這い出ようとぐねぐね体をくねらせて起き上がっていた。

 友奈と東郷は再度攻撃を仕掛けようと態勢を整え始めたところで視線が――いや、意識が”こちらに向けられた”。

 

 次の瞬間、

 

「……っ!!?」

「あっ————」

 

 一息の間、瞬きの時には口を大きく開けたバーテックスが彼女たちの目の前にいた。

 東郷は何もできない。身体が反応するよりも早く接近されていたためだ。

 

 体色以外に初めてみせた特異性。目にも留まらぬスピードで判断が遅れてしまう。

 かろうじで瞳が捉えた紋様のような金の線はまるで流星の如く、さながら流れ星といったところか。

 それが不覚にも綺麗に思えてしまった。

 

 ————ロマンチックの欠片もない、畏怖の星だけれども。

 

 そんなことを刹那に考えながら、唐突に身体が何かに押される。 

 脱力した東郷はいとも簡単に身を委ねてしまう。更にはニコリ、と安心した表情の友奈の顔が視界に入った。

 

 ——なぜ彼女は離れている? わたしはなぜ後ろに押されたのか?

 

 理解が及ぶよりも前に東郷は彼女の名前を叫び、手を伸ばした。

 しかし届かない。そうこうしているうちに黒い流れ星は、

 

 

 ————彼女を呑み込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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