世界を救う勇者たちの物語   作:紅氷(しょうが味)

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第九話「黒き星(後)」

 ————斬って、斬って、斬りまくる。

 

 時折蹴りや拳を交えながら星の集団を捌いていく。

 接近する敵の数、自身の体捌き。次に何をして何を成していくのか考えるよりも先に身体を稼働させていく。

 

「本当に、数だけは多いし鬱陶しいわねこいつらっ!!」

 

 吐き出すその言葉でさえ、身体の勢いの熱に乗せていく。

 近接型である夏凜は範囲外の敵に対しては刀を投擲で応対している。

 勇者としての膂力も相まって殆ど抵抗がなくバーテックスは刺し貫かれていった。

 次いで刀を新たに現出させ近接時に対しては、秒単位でバーテックスは次々に仕留められていく。

 そんな彼女の戦闘スタイルを見ていた風は改めて夏凜の殲滅力に驚かされるばかりであった。

 

「……さすが完成型勇者って言われるだけあるわよねぇ。部長としての威厳がなくなりそうだわ」

「すごい。けど、お姉ちゃんだって負けてないよ!」

「ありがと樹。……ん?」

 

 彼女の戦闘の邪魔をしないように根の隅に隠れていた二人だが、風は小さな揺れに気が付く。

 身を少しだけ乗り出してあたりを見渡す。するとある方向に大きな土煙が上がっているのを発見した。

 

「お姉ちゃんあそこって」

「……二人があそこで戦っているのかも。でも待って様子がおかしい」

 

 目を凝らして離れたあの場所を見つめる。

 いくらバーテックスが大量に攻めてきていても、あそこまでの状態になるものだろうか。

 

「夏凜っ! あそこどーなってるか確認できるーー!?」

「……ちょっと、まちな、さいッ!! あそこってどこのこと———ッ!!?」

 

 風に促されて夏凜は視線を向けていく。

 直後、爆発が起きたかのような衝撃が夏凜の全身に襲う。

 

(何が……)

 

 更にあの異変の先から何かが吹き飛んでくる。

 そしてすぐに理解した。驚きを露にする夏凜はその何かを身を張って受け止めた。 

 

「……ぐっ。かり、ん…ちゃん……」

「ちょ、ちょっと東郷じゃない!? 何があったのよ傷だらけじゃないッ!!?」

 

 夏凜が受け止めたのは全身が傷だらけの東郷だった。

 荒い息遣いの東郷はまだ意識があるようで苦悶の表情を浮かべている。

 

 ————一体何があった?

 

 今はまだ小型のバーテックスしか確認していない。

 不意を突かれた、或いは『集合体』が出現したのだろうか。

 

 いや、前者は彼女に限ってそれはないはずだ。ならば後者の可能性の方が高いか。

 いや、どちらにせよ一つ言えることがある。

 

 ————脅威(てき)がいるということ。

 

「私は、大丈夫…だから。それより早く友奈ちゃんを……うぅ」

「友奈がどうしたのよ! ぐっ! 風ッ、樹ぃッ!!!」

 

 一時離脱して二人の下に降り立つ。

 状況を見た二人は驚きの表情を隠せないでいた。

 急いで夏凜のもとへ駆け寄る。

 

「ちょ、東郷どうしたのよ!! 傷が……」

「東郷先輩っ! 大丈夫ですか!!?」

「友奈ちゃんが…友奈ちゃん……私を庇って」

「話さなくていい……よかった見た目にしては傷は浅い。東郷をお願い二人とも」

 

 東郷を風に預けると夏凜は立ち上がって二刀の刀を現出させる。

 

「……わかった。東郷は私たちに任せなさい」

「夏凜さん、気を付けてください」

「ええ、すぐに戻る」

 

 東郷の言動から切羽詰まった状況なのは間違いない。

 跳び立ち、爆発のあった方角に全速で向かう。

 

(……異様に静かね。いつの間にかバーテックスがいなくなってる)

 

 周囲の状態を伺うと、さっきまで溢れかえっていたバーテックスが軒並み姿を消していた。

 必然的に警戒を強める。比較的高所の根を見つけて降り立ち、気配を探っていく。

 

 やはり戦闘どころか、友奈自身の姿すらもみえない。

 何かがおかしいと感じた夏凜は、端末を取り出して友奈の反応を探すために画面に視線を移すが、

 

 ————友奈の位置情報のアイコンが背後から急速に接近してきていた。

 

「何っ!!? ぎッ!!」

 

 日頃の鍛錬のお陰だった。

 ほぼ身体の反射のみで両刀を前面に押し出してガードしていた。

 その眼前には見たこともない『黒いバーテックス』が大口を開けて衝突してきたのだ。

 

 目を見開き驚く夏凜だが、迫りくる重撃に受け止めきれなくなってきたため刀を持ち換えて受け流す姿勢に入った。

 結果的にそれは正解だったようで、黒き星はそのまま突貫するように突き抜けていく。

 

「なに、あいつは! ……っ、それにこの痛み」

 

 若干痺れを起こした腕を振るうと、手の甲がわずかに出血していた。

 再び驚愕に染まる。

 

(精霊バリアが効いてない……あいつが東郷をやったヤツで間違いないわね)

 

 大体今ので状況は呑み込めた。

 今の異常なバーテックスが突撃したときに、友奈の反応を捉えていたことから考えるとどうやら彼女は『喰われた』らしい。

 

 そこから東郷は助け出そうと奮闘したとみて間違いない。

 ひび割れた両の刀剣を捨て新たな刀を現出させて、構えなおす。

 あのスピードで来られるのは厄介極まりない。 

 だが来るとわかっていれば対処は出来なくはないはずだ。

 

 気配を探る。とてつもないスピードのせいで、突き抜けていったやつの姿が見えない。

 まさか神樹様のところへ行ってしまったかと考えたが、それならわざわざ自分に攻撃を仕掛けていないでさっさといけばいい。

 それなのにそれを行動に移さないのは、

 

(目的がある? バーテックスに意思があるとでも……っ!!)

 

 わずかに大気の動きが変わった気がした。

 立ち構えていたその場から近場の根に飛び移ると、先ほどまで居たところに黒い物体が根を削り取りながら突進してきた。

 

「ちぃ! 動きが速すぎて仕掛けられない」

 

 舌打ちをして通り過ぎた先を見据えるが、やはりそこにはバーテックスの姿は見当たらない。

 どう対処するか考える。

 

(直線的な動きが強烈だけど、今のところは『それ』しかしてこない。今までの『集合体』がそれぞれ固有な能力があったようにアレにもある?)

 

 もしあの突進が固有のものだとするならば、それさえ対処できてしまえばあとは何てことはないのかもしれない。

 言葉で言うのは簡単だが、自身のスペックを考えるとそうはうまくいかないのが現実。

 精霊である『義輝』に端末を持ってもらい反応を追う。

 

(受け止められるかしらね私に……でもうかうかしてもいられない。友奈を早く助けないと————来たッ)

 

 この戦場で戦えるのは自分一人だけ。ならばやるしかない。

 覚悟を決めるのとバーテックスが眼前に現れるのはほぼ同時だった。

 

 ——衝突。

 

「ぐっ……!! なめ、るなぁぁッ!!!」

 

 肉薄する両者は拮抗する。しかし何時までも保つわけではない。

 目の前のバーテックスは夏凛を『喰らう』つもりなのか、金属が打ち鳴るような音と共に口元を動かしている。

 

『…………!』

 

 夏凜は勇者としての膂力を駆使して耐えようとするが、少しづつ圧され始めていく。

 根を足場にしているので、必然的に限界が訪れる。

 

 そしてその時はすぐにきた。

 

 ふわりと浮遊感を得た夏凜はそのまま落下していく。

 後を追うように黒いバーテックスもこちらに接近してくる。

 

 ————喰われるっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「————にぼっしー!!」

 

 しかしその瞬間は訪れず、聞き覚えのある声とともに細長い何かがバーテックスの軌道をずらしていく。

 その瞬間を逃さない夏凜は全力で刀を側部に振るい切り付けて離脱する。

 

「……助かったわ園子(、、)

「えっへん! 間に合ってよかったよ~。怪我はない?」

「おかげさまでね。ていうかアンタも変身できたのね」

「わたしは念のためにバックアップ取ってあったんだ。ちょっと他のバーテックスを倒すのに時間がかかっちゃったけど」

「……さすが先代勇者。私も気を引き締めないと」

「今回のは仕方ないよー。それよりあの黒いバーテックスは?」

「園子も知らないってなると、いわゆる『新種』ってやつね。あいつは——」

 

 夏凜の知る情報を説明する。

 動きが速いこと、硬い表皮は勇者の力でも傷をつけられないこと、そして東郷がやられ友奈がヤツの体内にいること。

 

 簡潔にすばやく説明すると、いつものぽやぽやした空気が一変して園子の纏う気配が変わるのを感じた。

 

「ゆーゆが……でもまだ大丈夫なんだよね?」

「ええ。反応はまだキッチリある。恐らく中に捕らえられているだけなはず」

「それなら急ごう。こっちの攻撃が効かないのがツライけど———ねッ!!」

 

 園子の持つ槍が振るわれる。

 槍の先端から火花が散り、その先にいたのは黒いバーテックス。

 

 いつのまにか体勢を直したヤツがこちらに接近してきていた。

 それを園子は槍を器用に動かし攻撃を受け流す。

 

 去り際に視たヤツの表皮はやはり傷がつかない。

 

「…硬いね。すれ違いざまに何回か斬ったけど本当に傷一つつかない」

「どう対処する?」

「斬撃が効かないなら、あとは試すなら打撃かなぁーすぐに思いつくのは。囮を任せてもいい? にぼっしー」

「……おーけー。任せなさい」

 

 何か策があるのだろう。ここは園子の言うとおりにしておくことにした。

 承諾すると園子は頷きそのまま夏凜のもとを離れていく。

 

(……しっかし何回も受けれないわねやっぱり。手の痺れで握力がなくなってきた)

 

 改めて手の状態を確かめると、刀を握った両手が小刻みに痙攣し始めていた。

 精霊バリアの加護がない以上は地力が求められる。

 あのスピードに比例した威力はやはり幾度と受けるには難しいものだった。

 

『…………!!』

 

 敵は待っててはくれない。再び黒いバーテックスは夏凛目掛けてまっすぐ向かってくる。

 それを真っ向から受けていき、威力を流していく。

 

 だがその拍子に刀が両手から零れ落ちる。

 すぐに新たな刀を現出させるが、握力が限界に来たのか滑り落ちてしまう。

 

 ————構うものか。

 

 刀をそのままに夏凜は歯を食いしばって拳を握り走り出す。

 一度の接触で彼女にタイミング(、、、、、)を計らせたのだからこれで決めてほしいところだ。

 

『おおおぉォォッ!!』

 

 自分のを含めて遠くから雄たけびが聞こえてくる。

 離れた地点から槍を伸ばし高速にこちらに接近する園子の気配を察知した。

 

 対面には黒いバーテックスがこちらに同じように高速で来ている。

 ならば話は簡単で、こちらの火力不足なら、向こうの火力という名の速度を利用すればいい。

 

 黒いバーテックスと重なる瞬間に夏凜は下から上に拳を振りぬく。

 ほんの少しだけやつの体が上方に向かれると、見事に胴ががら空きになっていた(、、、、、、、、、、、、)

 

 間髪いれずに園子の蹴りが胴へとめり込んでいく。

 バーテックス自身のスピードと園子のスピード。それらが相乗効果となって襲い掛かる。

 

『……!? ————!!!』

 

 流石に堪えたのか、体をよじらせている。

 こちらも被害がないわけじゃなかった。夏凜は今の一撃で両腕が動かなくなる。潰れたわけではないが、しばらくはまともに動かないだろう。

 園子は反発して吹き飛んで根に激突する。

 幸いに激突自体は精霊バリアが発動しているようだった。

 

 夏凜同様意識はあるが、彼女はそのまま脚にダメージがいってしまったのか動けないでいる。 

 

 バーテックスは口から何かを吐き出す。

 それは意識を失っているのかぐったりといる友奈であった。

 

「ゆ、友奈ッ!! ぐっ!」

 

 落下していく友奈を助けようと動くが、足がもつれて倒れこんでしまった。

 黒いバーテックスは吐き出してしまったのを理解すると、身をよじらせながらも再度呑み込もうと口を開いて接近する。

 

 ————間に合わないっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——いや、本当にタイミングがよかった。『変異体』相手によくもってくれたよ三好、園子」

 

 

 

 

そこへ現れたのは姿の見えなかったカミキであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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