アサシンは、片手で器用にバイクを駆る。
あたかも、タロットカードに描かれている死の馬から乗り換えたように。
彼は残ったサーヴァント、セイバーとアーチャーの狩りに向かう。
腕を失って急速をするべきと見られる状況なのになぜなのか?
それには、彼のマスターの意向と、アサシンの所持するスキルが関わっている。
マスターの意向とは、すなわち今夜の内に全てを終わらせること。
スキルのこととは、すなわち今夜中こそが最もアサシンが力を発揮できる時間であること。
キャスターから食らった一撃。
あれは平時のアサシンであれば、ほぼ間違いなく道連れにされていた威力を誇っていた。
持ちこたえられたのは、『禁忌の数字』というアサシンの所持するスキルによる防御能力の上昇効果があってのものだった。
禁忌の数字、聖杯戦争が始まって十三日目のみ、アサシンの能力は圧倒的なまでに上昇する。まるで十三という数字に込められた畏怖をその身に纏うかのように。
しっかり療養して腕を治した通常状態と比べても、恐らくは腕を失っている今夜の方が戦闘能力が上となっている。だからこそ、今マスターに示されているセイバーの元へと向かう。
そして、マスターに示されたポイントのほど近くに辿り着いた瞬間のことだった。
――――一閃。
すれ違いざまの斬撃で駆っていたバイクがスライスされる。
二つに裂かれた燃料タンク。ガソリンが空中にバラまかれ、引火して、一つ大きな爆発音とともに車体は燃える。
アサシンは慌てること無く、残った左腕を立てて転倒を防止する。
「お覚悟を」
セイバーは容赦なく、立て直す暇も与えずに畳み掛ける。
一振り、二振りと必殺の斬撃がアサシンを襲う。
しかし、アサシンは虚空から取り出した刀で、その斬撃を真っ向から受け止めて距離を取る。
追い打ちをかけようとしたセイバーであったが、アサシンの持つ刀が目に入って足を止める。
「大典太……?」
「驚いたかな? キャスターに暴かれてしまったオレの宝具、
そう言って、アサシンは一転攻勢、驚愕の内にいるであろうセイバーに向かって、稀代の名刀の具現化を振るう。
しかし、セイバーの心境はアサシンの勘違いだった。
一瞬揺らいだものの、冷静を取り戻していたセイバー。
瞳に青い閃光を宿した剣士の打ち返しに、アサシンの手にある鋼の刃が中途のところで折れて吹き飛んでいく。
「ちっ!」
役に立たなくなったそれを放り捨て、次なる名刀を具現化する。
「大包平……」
「くそっ!」
「不動国行……」
「ゴミがッ!」
「一期一振……」
「何故だ!?」
次々と取っ替え引っ替えに、歴史に名を残す宝刀を次々と生み出していくが、そのことごとくをセイバーの一振りにねじ伏せられる。
「何故かと? 至極当然のこと。貴方が振るうのは幻の刀。決して本物ではありえない」
「バカを言うな。オレの宝具で形作られるのは、本物と何ら変わらないもののはずだ」
「刀は使い手を選ぶ。真に正しき心を持った使い手が握ってこそ本物になるのです。たとえ刀は本物でも、本物でない貴方が握れば偽物へ転ずる。至極当然の結論でしょう」
セイバーはアサシンを追い詰める。
「なるほどな。お前に刀で勝負を挑むなんて馬鹿な話だったということか……」
と言いながらも、アサシンは新しい刀を生み出してセイバーに向かって振るう。
「往生際が悪い!」
打ち払い、とどめの一撃を与えようとしたセイバー。
しかし、自分の身に走る違和感に気付いて、攻撃を取りやめてアサシンから距離を取る。
「刀が上手く握れない……」
これと似た状況にセイバーはつい最近陥っている。
それはアーチャーとのゲームに破れた時。
そのときは一気にガクリと身体能力が下がった感覚を味わっていた。
しかし、今セイバーが感じているのは、ジワジワと身体から力が抜け落ちているような感覚。
「ようやく効果が出始めたか」
目前のアサシンが愉快そうに笑う。
「人間には人間である限り、一つ致命的に避けようのない死の概念がある」
「……そうか、『老い』でござるか」
セイバーは、筋肉が衰えてしわくちゃになった自分の右腕に浮かび上がる血管を見ながら答える。
「大当たり。これからお前は、老いて体の機能を徐々に失いながら死んでいくんだ」
それを証明するように、特に右腕が急激に老いていく。
というよりも、風化して消えていく前兆のように肉が失われていき、骨が浮かび上がる。その骨もやせ細って、もう明らかに右と左で骨格レベルで形が変わっている。
このまま行くと、分解されるように身体が失われていきそうな状態のセイバー。
だがその身体が急に光りに包まれて、その場から消える。
「令呪で逃げおおせたか。だが、その身体で本当に逃げられるかな?」
死神は逃した獲物を今度こそ仕留めるために、夜の闇を駆け始めた。
如月はセイバーを追走しようとするアサシンを遠目から眺めながら、アーチャーに指示を出す。
「全く損な性分だ。我ながら」
聖杯戦争において、マスター自らが表に出て敵サーヴァントと対峙するなんていうのは、相手に弱点を晒す自殺行為にならない。
如月自身も、絶対的有利に立った時や、どうしても相手との対話を試みたい場合にしか、そうするつもりはない。
アサシンは見るからに狂った思考の持ち主で、対話が成立するかも分からない。
だから、無駄になる公算が高かったのだが、それでも如月はアサシンの前に出てみることにした。
「毒されているんだろうな、きっと」
平和ボケしたセイバーのマスターたちのことが、ちらと頭によぎる。
状況は、ちょうどアーチャーが初矢を射たところ。
移動直線の少し前方に放たれた矢に、アサシンの足が釘付けになる。
それを見計らって、如月は身を潜めていた建物の影から、死の具現たるアサシンの前に出る。
「アーチャーのマスターか。一体、何のマネかな?」
「悪いが通行止めだ」
「まさか、お前がオレの相手をしてくれるのか?」
「そうさ。オレのサーヴァントがな」
と言い放つとともに、世界の様相が切り替わっていく。
マヤ文明の球技場。
石造りのハーフパイプのような奇妙な建築が、気付けば周りにできあがっている。。
「さあ、しょうぶだー」
「まけないぞー」
それとともに、隠れていたアーチャーが如月のさらに前に飛び出てくる。
「足止めされつつ、少し話でも聞かせてくれや」
「お前が聞きたいというと……オレのマスターの話かな?」
「ああ、そうだ」
「悪いがあまり答えられそうにないな。なにせ、マスターからは最低限の指示を出されるだけで殆ど接触したことがない。今だって、オレがこれほどの怪我を負っているというのに令呪の支援の一つも無いと来たものだ」
と言い終わるとともに、見計らったようにアサシンが虚空からクロスボウを取り出し、目の前に現れた球技に使用するゴムボールを撃ち抜く。
「あーなにするはんそくだぞー」
「ぶきつかっちゃだめなんだぞ」
球技対決は始まる前に終わってしまった。
アーチャーの作り出した球技場が消失していく。
とともに、反則を働いたアサシンにステータスダウンの効果が及ぶ。
一瞬、膝が揺らぐが、すぐに立て直すアサシン。
「おいおい、お前はアホなのか? 罠かもしれないものを躊躇なく撃つなんて。バーサーカーだって、もう少しは警戒するぜ」
如月はアサシンを煽る。
しかし、煽られたアサシンは、至って冷静な態度で答える。
「あれが何かは知ってるさ。あの球技で負けた方がペナルティーを負うんだろう? だが、この場面での本当の思惑は時間稼ぎで、その上その球技でアーチャーに勝てる可能性なんてのはないんだろう。なら、こちらとしてはさっさと負けるのが正解だ」
「ちっ!」
そう、如月の煽りは焦りから出た行動だった。
アサシンの推察は完全に正解で、最もされては困る行動だった。
「アーチャー、矢を撃って時間を稼げ!」
「がってん!」
「まかされた!」
威勢のいい言葉とともに双子が矢を放つが、アサシンが取り出したナイフに弾かれてしまう。
「ヌルいな。死んでおくか?」
そして、反撃のナイフを投げる。
「うわっ」
と双子の一人が、手にした矢筒でナイフを受け止めるが、衝撃に負けて大きく弾かれる。
それは、アサシンと如月を結ぶ直線上での衝突。
すなわちマスター殺しを狙った一撃であった。
反応できなかった。
アーチャーに守られていなければ、気付く間もなく絶命していた事実に震える。
やはり、前に出てくるべきではなかったなと、イメージに反して的確な行動をとってくるアサシンを前にして後悔の念が押し寄せてくる。
しかし、先の死を感じさせられた一撃で、覚悟がついたのは嬉しい誤算だったかもしれない。
「アーチャー、第二宝具だっ!」
「えっでも?」
「いいのか?」
「ああ、決死の覚悟でアサシンを討つ!」
「りょうかい」
「さいしゅうきょくめんだな」
アーチャー、フンアフプーとイシュバランケーは、マヤの創世神話『ポポル・ヴフ』に登場する双子の英雄である。
彼らの神話での物語は、地中にある冥界シバルバーの神々を倒す物語である。
彼らが平和に毎日球技で遊びながら過ごしていたところ、その様子を地上から漏れ出てくる音として聞いていた冥界の住人たちの癇に障ることになる。
結果、双子は冥界に呼び出されることになる。
冥界での日中。双子たちは、双子の殺害を目論む冥界神たちを球技で負かせることで諌める。
これこそが、アーチャーの第一宝具である『
そして、第二宝具の元になったのは、冥界での夜にまつわる逸話である。
冥界の主は、双子に毎夜、趣の異なる恐ろしい館に泊まらせて試練を行う。
『
その内訳は、闇・剣・獣・冷気・熱気。
六つある内ここまで五つ。
しかし、最後の館の試練に関してのみ、この宝具は耐性を与えるものではなく、状況再現を行うものとなる。
すなわち、最後の試練の館である『蝙蝠の館』を現実に招く固有結界宝具になる。
アーチャーの宝具発動と同時に、世界が塗りつぶされていく。
今度は石の球技場ではなく、豪奢な、しかし不安を掻き立てるワンルーム。
如月、アーチャー、アサシン。その場にいる全員が、いつの間にか世界を塗りつぶしてできた屋内へと移動させられる。
と同時に、二人のアーチャーは、自らの小さい身体を今まで武器として扱っていた吹筒の中に押し込めて隠す。
それは逸話通りの行動で、出現した館の主から身を隠すためにとった手段である。
そして、如月は何処から来るともしれない脅威に、全神経を集中させる。
前方からの風切り音。
瞬間、如月は大きく一歩後ろに下がる。
直後、金属同士がかち合うかのような高音が響く。
前方を見やると、アサシンが膝立ちの状態で上空からの攻撃に対して、西洋刀を掲げるように構えている姿。
アサシンが対峙しているのは、不気味でおぞましい雰囲気を身に纏った巨大な蝙蝠。
不気味な蝙蝠が有する大鎌形状の爪による攻撃を必死で防いでいた。
その蝙蝠こそが、この『蝙蝠の館』の主、死の蝙蝠『カマソッソ』である。
双子の英雄はカマソッソのいる館で一夜を過ごす試練を受け、それに対抗して自らの持っていた吹筒に身を隠してやりすごす。
アーチャーの宝具はその強大な戦闘能力を持つカマソッソを呼び出す能力と言い換えてもいいのだが、なにせ死の蝙蝠は双子の味方でも何でも無いので、敵味方問わずに攻撃をする。気を抜けば自滅が普通にありえるとんでもなく扱いづらい代物である。
今は運良くアサシンを攻撃してくれたが、如月が標的になる可能性も十分に考えられた。
そのために、先程かなり遠くの風切り音なのに、身体が思わず飛び退いてしまう反応を見せてしまった。
前方の戦闘は、アサシンが押され気味になりながらも、鎌の一撃を跳ね返しカマソッソが再びに宙に身を隠して、状況が振り出しに戻ったところ。
「さて、後何度幸運を引き続ければ勝てるかな?」
先程の攻防を見て痛感したのが、もし如月が標的にされる場面が訪れるなら、一瞬の内に解体させられてしまうだろうということ。
そうならないためには、標的にされない幸運を引き続ける他にない。
ノイローゼになりそうなくらいに神経を張り詰めながら、次の蝙蝠の一撃を待つ。
――――世界が横転する。
如月は、そのとき死んだのだと思ってしまった。
胸部辺りに、衝撃が走っていた。
鋭利すぎる鎌で裂かれると、まるでパンチを食らうような鈍い衝撃が走るのかと感心もした。
けれど、そうではないのだと気付く。
腰の辺りに纏わりつく柔らかい感触。
ふわりと舞い上がっていたビニールシートが、如月の身体を隠すように降りてきて触れる。
「何してんだお前?」
如月は飛びついてきた物体の正体を確認して、思わず強い口調で問いかける。
「……助けに来ました」
弥生は抑揚のない声で答える。
「こんなビニールシート一枚じゃ、流石に隠れたことにならないぞ」
「……大丈夫」
「大丈夫って、…………ああ、そうか」
如月はメイド服の少女が、認識阻害の能力を有していることを思い出した。
つまり、今ビニールシートに同じものがかけられていて、外部からは認識ができない状態にある。
「これなら、確かに問題なさそうだな……」
「はい!」
「でも、それにしたって、こんな戦場のど真ん中に飛び込んでくるなんて、正気じゃないぞ」
如月は助かったことに安堵を覚えて、弥生への感謝の気持ちが際限なく湧いてきているのだが、それでも先に文句を言わずにはいられなかった。
「……この前助けられたから、わたしも助けたいって。そう思いました」
「この前って、たったあれだけのことでか」
この前、ライダー打倒作戦の一環で、如月は弥生を直接開放しに行く役目を果たした。
それは、少女に対して今感じている感謝と比べれば、とてもとても些細な話だと思う。
あのときの彼女は決して、今しがたの如月のような死の瀬戸際に立っていたわけではなかった。
「わたしは、あなたに死んでほしくないと思っているんです!」
「……そうか。ありがとな」
まだ言い足りない言葉を沢山抱えている如月であったが、少女の強い言葉に何も言えなくなってしまう。
「さて、最後まで見届けるか」
「……あまり顔を出しすぎると危ないです」
如月は弥生と並んで腹ばいになって、ビニールシートの端の隙間から覗くように、続いているであろう戦闘の行方を確認する。
アサシンは押されていた。
右腕を失って、アーチャーの宝具による弱体化まで食らった身体では、カマソッソの猛攻は防ぎきれないらしい。
間一髪のところで致命傷を避けているようだが、ボロボロの黒衣のアチコチが引き裂かれており、その裁断面の大きさからかなり深めの傷をいくつか受けていると考えられる。
幾ら顔が骸骨で、身体も骨だけで構成されていてもダメージ無しとはいかないようで、アサシンは肩で息をするような状況になっている。
「クソがっ!」
と剣を振り回すアサシンを嘲笑うように蝙蝠はヒラリとそれを避け、返しの一撃を放つ。
防御の剣は間に合わず、まともに蝙蝠の一撃を食らったアサシンは大きくのけぞる。
「流石に自滅の危険があるだけあって、あの蝙蝠相当強いな」
このまま押し切ってアサシンを葬れる期待が高まる。
「許容範囲外のダメージ。もはや温存はできないか……」
冷たい声が空気に流れて届くと、気温さえも下がったような錯覚を覚える。
一気にそれほどの寒気が走った。
ボロボロの状態のアサシンは、虚空に存在する闇に手を伸ばす。
今の圧倒されている状況を見ると、強がりにも捉えられる先程の発言だけれども、全くもってそうとは思えない雰囲気。
その様子を察したのか、カマソッソがトドメを刺すためにアサシンに狙いを定める。
勢いを付けて、アサシンが何かを行うより前に攻撃を加えようとする。
「まさか、コレを使わされることになるとはな」
しかし、アサシンが闇から宝具を生み出すほうが早かった。
闇が粘土を盛るように成形されていく。
形が完全になるとベールを剥がすように闇が薄まっていって、神秘的にすら感じる鉄のキラメキが顕になる。
それはカマソッソが爪として持っているものに近い、大鎌の形をしていた。
アサシンは、自らの長身の三割増しほどもあろうかという大物を、片手で軽く振るい蝙蝠の爪を迎え撃つ。
「収穫の時は来た。刈り取れ、
鎌と鎌が衝突する。
同様に絶大な威力を内包している。
それだけに、一時的に拮抗する。
けれど、すぐに異変が訪れる。
アサシンの大鎌の進行方向上にあるカマソッソの身体に突如ひび割れが走ったのである。
赤に染まったその亀裂にアサシンが大鎌の刃を当てていくと、先程まで拮抗していたのが嘘のように、力のかかっている様子もなく亀裂の通りにカマソッソの身体は裂けていく。
そして、これまで猛威を奮っていた死の大蝙蝠は、あっけなく絶命する。
如月たちが呆気にとられている中、アサシンの攻撃が続く。
カマソッソを殺した勢いのまま、今度は吹筒に隠れているアーチャーに狙いを定める。
振り下ろされる鎌。
いつもうるさいくらいに賑やかだった双子の英霊。
最期の言葉を残す間もなく、二つの繋がりが途絶えたことを、マスターである如月は感じ取れた。
「やれやれ、思った以上の大仕事だった」
もはやサーヴァントを葬った後のマスターに興味はないのか、それとも弥生の認識阻害で見えなくなったために諦めたのか、アサシンは大鎌を肩にかけた状態でその場を去っていった。
しばらくは、呼吸すらできなかった。
沈黙の時間は、五分を越えただろうかという頃に、ようやく独り言のように言葉を発する。
「生き残れちゃったな」
「……良かったです」
二人して、のそのそとビニールシートから這い出る。
とりあえず立ち上がって、これからどうするか相手から言ってくれないかを互いに待っているかのように、顔を見合わせる。
そのときに、美しくしつらえられたメイド服に目立つ汚れがあることに目が行き、申し訳ない気持ちが強くなる。
ただ、このままでは自分に残された最後の役割を果たすためのタイミングに遅れてしまうかもしれないと、先に如月が発言することになる。
「とりあえず、結末を見届けに行こう」
「……はい」
セイバー、アサシン共に満身創痍の状態。
天秤がどちらに傾くのかは分からないが、両者の戦いは開戦から間もなくして決着がつく。
となると、あまり悠長にしている時間はないだろう。
「遅れたらシャレになんねぇな」
如月は、その時のために今日までを過ごしてきたのだから。
「……急いでます?」
「ああ、少しな」
「……じゃあ、わたしは置いていって大丈夫ですよ」
「そこまでは、急いでないさ。ティーブレイクを挟めるくらいの余裕はあるはずだ」
くぅ、とかわいい音が鳴った。
どうやらティーブレイクという言葉に反応したらしい。
「あっ」
と、前回にこんな事があったときには、気にもしていない様子の弥生だったが、今回は二度目ということもあってか、かなり恥ずかしがっている様子だった。
「くっくっくっ」
思わず笑いが漏れる。
すると、恥ずかしがっている少女の顔が、少しむくれているように変わった。ように見える。変化は薄かったけれど。
「悪い悪い。これ最後の一個だけど食べるか?」
如月は、いつもやっているようにして、ポケットに残っていた大福を手のひらの上に移動させて、少女に差し出す。