シャイニング・ブレイド 涙を忘れた鬼の剣士   作:月光花

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川橋 匠様から感想をいただきました。ありがとうございます。

今回はブチきれた主人公とスルトの一対一です。

では、どうぞ。


第16話 否定の怒り

  Side Out

 

 小太刀を構えて走り出したレオは一切のフェイントを加えずスルトへ突撃する。

 

肋骨が折れているというのに、その速度はいつも以上にキレが有り、殺意を宿したその瞳には一切の揺れがない。

 

その殺気を浴びるスルトは、レオの瞳を見て楽しそうな笑みを浮かべた。

 

「……おいおい、なんだよ。腑抜け共の集まりなのかと思ったら、そんな目が出来る奴もいるんじゃねぇか! いいぜぇ! 遊んでやるよ!」

 

「待ちやがれ! スルト!」

 

そう言って身を翻したスルトをフェンリル達が追い掛けようとするが、その進路に数人の帝国兵士とボーンファイターが割り込んだ。

 

「なんだ、帝国の増援か!?」

 

『違う! 恐らく隠れていた伏兵だ! 薙ぎ払うぞ、レイジ!』

 

「おうよ! さっさと片付けて、レオのとこに急ぐぞ!」

 

レイジとユキヒメの呼応によって大太刀の刀身が展開し、冷気のような青い光が噴き出してハイブレードモードの姿を形成する。

 

横薙ぎに振るわれた斬撃に続いて衝撃波が前方に拡散し、現れた伏兵を牽制。その隙を狙って衝撃波の後ろから飛び出したリックとサクヤが斬り込む。

 

「道をあけやがれぇ!!」

 

レイジのその声を合図に全員が攻撃を開始した。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 「オラァァ!!」

 

直線状に地面を抉りながら迫る衝撃波をかわし、レオはスルトとの距離を詰める。

 

続いて右薙ぎに振るわれた斧を這うように伏せてかわし、起き上がると共に龍麟で首を狙う。

 

頚動脈どころか首を跳ね飛ばすような勢いで放たれた斬撃は白い剣閃と共に大気を斬り裂くが、甲高い金属音を立ててスルトの手甲に阻まれる。

 

「言ったろうが……その程度じゃ俺には届かねんだよ!」

 

再び斧が振り上げられるが、それよりも早く右手の麒麟が走る。だが、その狙いの先はスルトの肉体ではなく、手甲と押し合っている龍麟の刀身。

 

龍麟の峰の中心近くに麒麟が直角に叩き付けられる。同時に、ぶつかる瞬間に嫌な予感を感じたスルトは押し合っている左手を後ろに引いた。

 

スルトはそのまま数回のバックステップで距離を取り、自分の左手に視線を移す。

 

見ると、中心に紫色の宝石を埋め込んだ手甲が綺麗に斬り裂かれ、奥の自分の腕からも血が流れている。腕を引くタイミングがあと少し遅ければ、腕を半分近く両断されていたかもしれない。

 

小太刀二刀流・陰陽交叉(おんみょうこうさ)

 

打ち合う一本目の小太刀に二本目の小太刀を直角に叩き付けて敵の防御を崩す、あるいはそのまま両断する技だ。レオが見た限りでは、この技で鋼さえも斬り裂いていた。

 

「届かないなんて、誰が決めた……」

 

変わらず冷酷な殺意を放ちながら呟くレオは再び自分から距離を詰める。

 

その行動からは明らかに攻撃への積極性が感じられ、さらに口元を歪めるスルトは迎撃の態勢を取って斧を振るう。

 

だが、殺意によって豹変した今のレオはスルトの予想を軽く超えていた。

 

振り下ろされる斧の刀身に回避の動きを見せず、麒麟で斧の横っ腹を叩いて斬撃の軌道を強引に横へとずらした。斧は地面に沈み、レオは懐へと斬り込む。

 

 

『御神流奥義之弐・虎乱(こらん)』

 

 

二刀の小太刀が休まず振るわれ、暴れ回るような絶え間ない連撃がスルトの鎧に叩き込まれる。ただし、その斬撃は出鱈目に振るわれているわけではなく、一撃一撃が確かな鋭さと威力を持っている。

 

鎧に反響する衝撃がスルトの巨体をジリジリと後退させ、背丈で劣るレオが一歩ずつ、だが確実に前へと歩を進めていく。

 

「ぐっ……! この野郎……!」

 

襲い掛かる衝撃で体勢を崩されながら後退するスルトは僅かな苦悶と焦りを含んで言葉を呟き、右手に持つ斧を後ろへ大きく振りかぶる。

 

「調子に……乗るんじゃねぇ!!」

 

気合の声と共に斧が右薙ぎに振るわれ、旋風を起こしながらレオの体を真っ二つにしようと迫る。そのフルスイングの速度は剛龍鬼をも上回っているかもしれない。

 

だが、降り積もる雪の上に鮮血は飛び散らず、振るわれた斧は虚空を斬った。

 

見ると、レオは体を倒れるように前のめりにして斬撃をあっさりとかわしていた。そんな動きをする中で、レオの表情は微塵も変わらない。

 

そして、レオは前のめりになった体勢から右手の麒麟を逆手に持ち替えて体を右に回転。他人の視界からその姿を消失させる程の速度でスルトの懐に入る。

 

だが、レオの接近と同時にスルトは反対方向へと跳ぶ。

 

回天剣舞。

 

直後、烈風と共に3つの斬線が走り、盛大に響いた衝撃音と共にスルトの巨体を後方へと吹き飛ばした。受け身も思うようにいかず、スルトは数回雪の上を転がって起き上がる。

 

「おいおい、マジかよ……」

 

起き上がったスルトの鎧には斜めに並んだ3つの傷が深く刻まれていた。咄嗟に直感任せで後ろに跳んでいなければ、鎧の無い部分をやられていただろう。

 

そんな状態だというのに、冷淡な目で自分を見るレオに対してスルトは口元の笑みを絶やさず、おかしそうに笑う。その笑みは、レオが見た中で最も苛立つ笑い方だった。

 

「ひゃはははっ! いいぜ、いい眼してるぜお前! そりゃあ平気で誰かを殺せる人でなしの眼だ。何時か俺と同じ、何かを殺したくて仕方なくなっちまう奴の眼だ!」

 

「…………」

 

何がそんなに楽しいのか、下品な笑い声を上げるスルト。

 

その様子がさらにレオの苛立ちを刺激し、溢れ出る殺意がまるで別人のように豹変した思考をさらに広く塗り潰していく。

 

殺してやる。

 

一秒でも早くコイツの息の根を止めてやる。

 

血が滲みそうなくらいに両手の小太刀を握り締めて歩くレオ。だが、そんな様子の敵を前にしてスルトは、身を翻して逆方向へと疾走。つまり、逃げたのだ。

 

「今日はここで止めだ。俺の勘だが、テメェはそのままでしばらく放っておいた方が面白いことになりそうだ。あばよ」

 

「っ……! ふざけろ……!」

 

当然、今のレオがそれを許すはずもない。逃がすまいと地面を強く蹴る。

 

だが……

 

「……ぐっ!」

 

ついに体内から襲い掛かる激痛が無視できなくなり、膝から力が抜けた。

 

「安心しろ。何もこれで最後じゃねぇ。テメェらがこの国、ルーンベールを取り戻そうとする限り、殺し合う機会は幾らでもある」

 

その言葉を最後に、スルトは獣人の脚力に物を言わせて戦場から離脱。ほんの数十秒の時間経て、レオの『心』の感知範囲よりも遠くへ移動した。

 

逃がした。

 

その事実がレオの体に重く圧し掛かり、唇を噛み締める。

 

気が付くと周りからの戦闘の音が無くなっており、どうやらこの場にいた帝国の勢力は完全に倒されたようだ。

 

レオは両手の小太刀を杖代わりにして膝を起こし、殺気の全てが霧散した無気力な瞳でぼんやりと曇り気味な空を見上げた。

 

「レオォォ!!」

 

そんな時、自分の名を呼ぶレイジの大声が耳に入った。

 

声が聞こえてきた後方へ目を向けると、レオの目の前にはショートソードを高く振り上げた帝国兵士が立っていた。

 

周囲の警戒を怠った、というより警戒すらしていなかったレオの失態だ。

 

そのまま振り下ろされれば、レオの命はもろく消え去るだろう。いや、レオの無気力な瞳を見る限り、そうなっても不思議は無い気がする。

 

だが、レオはそんな結末を肯定などしなかった。

 

弾かれるように動き出したレオは帝国兵士の左側面に突撃。頭部目掛けて振り下ろされるショートソードを避ける。そして、回避と共に龍麟を右薙ぎに振るって帝国兵士の左脇腹を鎧越しに斬り裂く。

 

続いて背後に振り返りながら麒麟を左逆袈裟に振り上げて帝国兵士の胸元を斬り裂く。そのまま麒麟を振り抜いた勢いを利用して体を右に回転させ、帝国兵士の背中を斬る。

 

ここまでで3連撃。すでに帝国兵士の受けた傷は致命傷に等しい。

 

それでも帝国兵士はそのまま倒れず、最後の抵抗と言わんばかりに発揮出来る限りの殺意と力でショートソードを振るった。

 

しかし、最後の力を振り絞った攻撃は素早く身を屈めたレオに届かず虚空を斬った。

 

そして、最後の抵抗を完全に刈り取ろうと麒麟が横薙ぎに振るわれ、通り過ぎ様に帝国兵士の腹部を深く斬り裂いた。

 

 

水平四連撃『ホリゾンタル・スクエア』

 

 

本来の技が発する水色の光ではなく、斬撃によって飛び散った血飛沫が正方形の軌跡を描き、その中心に立つ帝国兵士は数回の死後痙攣で体を震わせて倒れた。

 

今度こそ戦場が沈黙に包まれ、確かに戦闘が終了する。

 

だが、レオは両手の小太刀を鞘に納めずに再び歩き出した。左頭部から流れる血で道を描きながら進む方向は、もう姿さえ見えなくなったスルトの移動先。

 

驚いたことに、レオはボロボロの体でスルトを追おうとしているのだった。

 

しかし、その無謀な行いを止めようとその肩を背後から強い力が掴んで止めた。

 

「待てよレオ! そんな体で何処行くつもりだ!」

 

「放せ」

 

必死に止めようとするレイジに対し、返されたレオの声は先程のように冷たかった。

 

そのまま先に進もうとするが、その前進は体の内外から襲い掛かる激痛によって中断され、再びの吐血による脱力感のせいで膝を付いて倒れ込む。

 

だが、それでもとレオは何かにとり憑かれたように歩こうとする。

 

「レオ! もういい! もういいんだ!!」

 

どう見てもマトモな様子に見えなかったレイジはレオの体を背後から抱き締めるように組み付き、必死にその進行を止めようとする。

 

その声に反応して初めてレオの視線がレイジを捉えた。

 

視線の先には、必死な表情で自分を止めるレイジがいる。少し離れた場所には他の戦線メンバーが集り、全員が心配そうな目で見ている。

 

その中、血に塗れた体で横たわる少女と、涙を流しながら膝を付く少年が目に留まった。

 

「あ……」

 

我に返るような小さな呟きをレオが零す。

 

だが、その呟きは何かから目が覚めたというより、今まで目を逸らして認めようとしなかった何かを突きつけられたようなものだった。

 

 

結局、自分はあの頃と何も変わっていなかった。

 

何も、守ることなど出来なかった。

 

 

その事実が自分の心に突き刺さり、ボロボロの体を立ち上がらせた不可視の支えが根本から崩れ去っていく。

 

両手から手放された小太刀が地面に突き刺さり、崩れ落ちたレオの体をレイジが受け止め、大太刀から人の姿になったユキヒメが手を貸してゆっくり寝かせる。

 

「ごめん……僕は……」

 

地面に仰向けで倒れながら、薄れる視界の中で誰に対してでもなくレオは呟く。

 

それを聞いていたのは、傍に膝を付くユキヒメだけだった。

 

「ごめんなさい……弱くて……守れなくて、ごめんなさい……」

 

その弱々しい呟きを最後にレオの瞼は閉ざされ、意識が深淵の中へと沈む。

 

許しを乞うような独白を聞き届けたユキヒメは悲しそうに目を細め、泣く子をあやすように艶のあるレオの黒髪を優しく撫でた。

 

それが僅かでもレオの安息に繋がればと、願いを込めながら。

 

 

こうして、聖王国での一戦は幕を閉じた。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

勝負の結果はスルトの逃亡という形でしたが、レオは精神的に不安定でぶっ倒れました。

とりあえず、今のレオは肋骨数本と内臓を少し傷付けて色々重傷です。

では、また次回。
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