シャイニング・ブレイド 涙を忘れた鬼の剣士   作:月光花

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川橋 匠様、スペル様、赤バラ様、桐生 乱桐様から感想をいただきました。ありがとうございます。

今回は一戦目の決着と第二戦です。

では、どうぞ。


第24話 悲しい再会

  Side Out

 

 その時、何が起きたのか誰も理解出来なかった。

 

レイジ達も、アイラとエルミナも、スルトも、誰一人として例外はない。

 

レイジ、リック、フェンリル、サクヤは仲間の絶体絶命の危機を阻止しようと走り、スルトは自分の標的に必殺を確信した。

 

次の瞬間、アイラかエルミナ、あるいは両方の命が散り、その場に惨劇が生まれる。

 

はずだった……

 

その惨劇を異変と共に覆したのは、レイジの少し前を走っていたレオだ。

 

まずは突然その姿が世界から消失し、足元の地面がバァン! と大きな炸裂音を鳴らして砕け散った。それも一度ではなく、数メートルの間隔を空けてほぼ絶え間無く同じ現象が起こった。

 

ほんの数瞬の後にレオが姿を現したのは、アイラ達とスルトのちょうど中間。

 

それと同時に、4つの斬撃が烈風と共に空間を斬り裂き、スルトの巨体を鮮血と共に後方へ吹っ飛ばしたのだ。

 

その光景に誰もが唖然となり、動くことも、声を出すことも出来なかった。だが、吹き飛んだスルトが派手な音を立てて地面を転がり、全員が我に返った。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 「ギャァァァァァァ!!!」

 

まともに受身も取れず、地面を派手に転がったスルトが激痛の叫びを上げた。

 

「レオ……さん?」

 

その時、初めて接近するスルトに気付いたエルミナが呆然と声を上げ、自分とアイラを庇うように立つレオの背中を見た。特に変わったところが見えないのに、その背中は前よりも大きく見えた。

 

「レオ……お前、今何を……」

 

ほとんど瞬間移動に近い形で現われたレオにアイラが声を掛けながら詰め寄る。だが、アイラの細い手が肩を掴んだ瞬間、小太刀を振り抜いたレオの体がグラリと大きく傾いた。

 

「ぐっ……!」

 

「レオさん!? どうしたんですか!」

 

倒れそうになったところを咄嗟にエルミナが支えるが、レオの顔色は顔色がお世辞にも良いとは言えず、苦痛を必死に耐えているのかまともな返答を返せなかった。

 

玉のような汗を流し、体のあちこちがギシギシと耳にハッキリ聞こえる音量で悲鳴を上げ、何処か虚ろな瞳も視線が定まっていない。

 

だが、一番酷いのは両足だ。焼けるような熱と痛みのせいでまったく動かせない。

 

(ひとまずレオを連れて戦場を離れるべきか……?)

 

レオの体調を深刻と見たアイラは現状でどうするべきかと考える。

 

だが……

 

「ふざけんじゃねぇ……」

 

その思考を、殺意に染まった1つの声が打ち消した。

 

弾かれたように振り向くと、そこには先程叫び声を上げたスルトが立ち上がっていた。

 

黒みを吸った金色の鎧の腹部、右胸部、左肩の三箇所には深く斬り裂かれた3つの傷跡が刻まれており、そこから溢れ流れる血によって黒い毛並みが赤く染まっている。

 

一歩進む度に流れる血がボタボタと地面に零れ落ちるが、瞳の中を強烈な殺意に染めたスルトは気にもせず、覚束ない足取りでレオに迫る。

 

アイラとエルミナがレオを守るように立って炎弾と氷槍を放つが、スルトは斧を横薙ぎに振るって全て叩き落し、返す刃で放った巨大な衝撃波で2人を吹き飛ばした。

 

つい先程まで2人を殺そうとしていたスルトだが、殺意の矛先が完全にレオへ移ったのか、吹き飛んだ2人には一切の関心を示さず進む。

 

「俺が……俺が人間なんぞに……やられる、わけがねぇ……」

 

血を吐きながら呪詛を唱えるような声で呟き、スルトはレオの前に立つ。体を動かせず、肩で息をするレオはせめてもの抵抗を示すように膝立ちの体勢でスルトを睨む。

 

そしてスルトの斧が振り下ろされ、がレオの頭部を両断しようと迫る。

 

だが、振り下ろされたその赤黒い刃を……

 

 

ガキィィィィン!!!

 

 

真横から割り込んだ大太刀の刀身が寸での所で受け止めた。

 

「させる……かよぉぉぉ!!!」

 

力を振り絞るような声を上げ、レイジは両足を踏ん張ってスルトの斧を押し戻していく。レイジ個人の筋力だけでは劣っているが、ユキヒメの助力を得てどうにか互角に張り合っている。

 

しかし、上方から掛かる力に下方から対抗している以上、不利なのは当然レイジ。僅かにだが斧の刃が沈み続けている。

 

「リックゥ!!」

 

「わかってる!!」

 

叫んだ声に怒鳴り声を返し、レイジとは正反対の方向から接近したリックが炎を纏わせた大剣を下から振り上げた。狙った先は、ユキヒメと拮抗する斧の柄本。

 

大剣は寸分違わぬ場所に直撃し、ついにスルトの斧を拮抗していた状態から大きく打ち上げた。

 

「ハァァァ!!」

 

そこへレオの後ろからサクヤが弾丸のような速さで突撃し、影のような光を纏った長刀で4連刺突を放った。刺突はスルトの鎧を叩き、突進力を加えた衝撃がその体を大きく後退させた。

 

「く、そがっ……!」

 

両足の爪で地面を削って失速したスルトが血を吐きながら毒づくが、畳み掛けるように接近したフェンリルに気付き、右手に握る斧を右薙ぎに振るって迎え撃つ。

 

だが、スルトとフェンリルはどちらも負傷によって左腕が使えない。よって、攻撃が放たれる方向が自然と絞られる為、思考に冷静さを残したフェンリルは見事に攻撃を見切り、体を沈めて斧を避けた。

 

「ふんっ……!」

 

そこから、レオの動きを見て物にしたフェンリルの震脚が地面を踏み砕き、真下から放たれた縦拳がスルトの顎を直撃した。

 

「ぐぉっ……!」

 

顎を打ち上げられたことで脳を揺らされ、流石のスルトも苦悶の声を上げた。ただでさえレオの斬撃によってフラフラだった体がついに倒れそうになる。

 

「ふざ、けん……じゃねぇ」

 

だが、それでもスルトは倒れなかった。

 

仰け反りそうになった体を両足で支え、消えそうな意識を気力だけで繋げている。そんな状態でもまだ、スルトは全身から溢れ出すフォースの光を斧に集める。

 

恐らく、特大の衝撃波を放って敵を纏めて葬るつもりなのだろう。

 

 

だが、それよりも両側面から急接近したレイジとリックの方が早かった。

 

 

左正面に立つリックの大剣からは炎が、右正面に立つレイジの大太刀から冷気が沸き起こり、どちらとも自分の武器を肩に担ぐように構える。

 

「いいかげんに……!」

 

「くたばりやがれえぇぇぇッ!!」

 

気合の声と共に2人の腕が振るわれ、2刀のフルスイングがスルトの胴体に叩き込まれる。

 

 

ボオォォン!!!

 

 

衝撃波と爆炎が一瞬の閃光を起こし、吹き飛んだスルトは庭園の壁に轟音を立てて激突した。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 レイジとリックのフルスイングを叩き込まれ、吹き飛んだスルトは庭園の端、王城を囲む城壁に轟音と共に突っ込んでいった。

 

頭痛と吐き気で意識がグチャグチャになっているが、レオの目は確かにその光景を捉えた。

 

大将が城壁目掛けて盛大に吹っ飛ばされ、周りのドラゴニアの軍勢が動揺し、戦場がまた静けさに占領された。

 

土煙が晴れていくと、その先には倒れた体を動かしてどうにか立ち上がろうとするスルトの姿が見えた。あの生命力には正直恐怖すら覚えるが、誰の目から見てもその姿に余力は感じられない。

 

「・・・・・・」

 

そこへ、右手の鉤爪を展開させたフェンリルさんが無言で近付いていく。それを見たサクヤも、長刀を手に数歩遅れて後ろに続く。

 

十中八九トドメを差すつもりだろう。それを止める人は戦線の中にはおらず、帝国の連中はスルトがやられた動揺のせいで動き出せない。

 

(これで、勝ったのか……?)

 

ほぼ決まりかけた勝利。

 

だが、体調が現在進行形で最悪なレオの中では、フェンリルが歩を進めるごとに何故か嫌な予感が膨れ上がっていた。

 

そして、フェンリルが倒れるスルトの前で無言で右腕を振り上げた。

 

だけど、その時……

 

 

『…………闇に惑う魂よ さあ、逝きなさい』

 

 

戦場の全てに歌が、否、旋律が響き渡った。

 

直後、レオの全身が強い虚脱感に襲われ、少しずつ回復していた意識が再び削り取られた。周りを見ると、酷さの違いはあれど戦線メンバーの誰もが同じ現象に襲われてる。

 

聴覚ではなく、心の中に直接響いてくるこの歌は、レオ達も良く知っている。

 

これはマナの歌、エルミナと同じ、歌姫(ローレライ)のフォースソングだ。この虚脱感も、恐らくエルミナの歌が傷を治してくれたのと同種の現象である。

 

だが……

 

(悲しい歌だ……)

 

エルミナの時とは違い、レオがこの歌から感じられたのは、深い悲しみだけだった。

 

その時、戦場の……いや首都全体の虚空に淡く輝く青い光球が現れ、そのすべてが何かに吸い寄せられるように一箇所へと集まっていく。

 

その正体は、スルトが補給部隊と避難民を皆殺しにした時にも生まれた漂う魂。

 

全員の視線がその行き先を辿ると、魂の全ては、城門に集まっていた。そして、そこには2人の人影が見える。

 

1人は機動性と防御力を両立させた漆黒色の鎧を着ており、各部に埋め込んだ黒紫色の水晶を薄く輝かせている。

 

スレイプニルによく似たデザインの鎧から見て、間違いなくドラゴニア帝国の騎士。それも、かなりの実力者だ。

 

「そんな……嘘、だろ……」

 

そんな中、レオの前に立つレイジが震える声で呟いた。

 

信じられないと語るような視線の先には、騎士の隣に立つもう1つの人影。銀髪と金色の瞳をした女性だった。恐らく、この女性がこのフォースソングを歌っているのだ。

 

全身に紅塗りの鎧を着て、装甲の1つ1つが花びらをイメージしたような楕円の形をしてる。見たところ帝国の鎧ではないらしいが、アレも個人用に作られた特注品の鎧だ。

 

あんな装備を持っているくらいだ。この女性もかなりの手練れだろう。

 

そして気付いた。城門の方へと集まっていく魂の全てが、女性の持つ魂のランタンに吸い寄せられている。

 

「なんで……なんでお前がそこにいるんだよ……! ローゼリンデ!!」

 

名前を叫んだレイジの問いに返答は無く、戦場には旋律が広がっていく。

 

(ローゼリンデって確か……前にレイジが言ってたエンディアスで初めて出来た友達の名前だよね。何で、その人が……)

 

レオが思考する中、隣に立つ黒騎士が前に踏み出し、ローゼリンデを守るように立つ。

 

すると、ローゼリンデの胸元が白い光を放ち、そこから先端に水晶を埋め込んだ剣の柄のような物が姿を現した。

 

黒騎士が何の躊躇いも無くそれを引き抜くと、取り出されたのは1本の両刃剣。だが、その見た目は普通の剣とは明らかに違う。

 

人から取り出したというのも当然だが、剣の刃が柄元から矛先まで全て透き通るような水晶で作られている。それに、何故か刃の矛先が欠けてる。

 

その水晶剣を見た瞬間、レオは直感で理解出来た。

 

あの剣は多分、ユキヒメやアミルやエアリィと同じ、ソウルブレイドの一種だと。

 

そして、その使い手である黒騎士が、弱い筈はない。

 

黒騎士の姿勢が傾き、地を蹴った次の瞬間には凄まじい速度で移動していた。その進行方向には、倒れるスルトの傍に立つフェンリルとサクヤ。

 

接近する黒騎士を警戒して2人は武器を構えるが……

 

「どけ」

 

短い言葉と一緒に黒騎士が水晶剣を右薙ぎに一閃。

 

直接の斬撃でフェンリルを防御越しに吹っ飛ばし、続いて放たれた暴風のような刃、エアスラッシュがサクヤをも吹っ飛ばした。

 

帝国戦力やスルトとの戦いで負傷・消耗したとはいえ、あっさりと2人を退けた黒騎士の力量にレオ達は息を呑んだ。

 

「て、めぇ……ファフナー、か……何で、てめぇがここにいる……!」

 

「バルドル様を通じてダークドラゴン様より命令が下った。目的であるソウルを回収した後、速やかに撤退しろとな」

 

「ふ、ふざけんな……撤退だと? 俺はまだ、戦えるぞ……!」

 

「戦うことは出来ても、勝てるとは思わんだろう。それともまさか、ダークドラゴン様の命に背くつもりか?」

 

倒れるスルトを見下ろしながら話していた黒騎士、ファフナーが水晶剣をスルトの顔に突きつける。

 

その様子からファフナーの本気を感じ取り、スルトは何も言えなくなった。そして動けない体を帝国兵士の数人が持ち上げ、他の戦力と一緒に城門の外へ退いていった。

 

撤退していく帝国の軍勢をレオ達は追わない。いや、正確には追えない。

 

もし追撃しようと動き出せば、間違いなくファフナーが斬りかかって来る。それに、もしファフナーを足止め出来ても、まだ城門にはローゼリンデがいる。

 

消耗が目に見えてる今のレオ達では、あの2人を突破出来ないのだ。

 

「おい。お前、ファフナーって言ったな。ローゼリンデに何をしやっがった!!」

 

『それにその剣、もしやソウルブレイドか。貴様、一体何者だ!』

 

だが、それでも個人的にどうしても用があるメンバーがいた。

 

怒りを隠そうとしないレイジとユキヒメさんの質問に、ファフナーは淡々と答える。

 

「俺は歌姫の守り手。そしてこれは心剣、竜心剣ドラゴスレイブ。ローゼリンデの心が形を成した武装だ。彼女を守るため、俺が借りている。そういうお前は、誰だ?」

 

「オレはレイジ! あの子の、ローゼリンデと友達だ!!」

 

そう言って大太刀を突き出したレイジを敵と認識したのか、ファフナーは黙って水晶剣を構えた。

 

「そうか。歌姫の歌を妨げるのならば、斬るまでだ」

 

「オレの友達を、返せぇぇ!!」

 

互いにフェイント無しの真正面からの踏み込み。そこから振るわれた大太刀と水晶剣が打ち合わされ、2人のソウルブレイダーは激突した。

 

右袈裟、左袈裟と弾き合ってぶつかり、互いの右薙ぎの斬撃によってすれ違う。そして背中合わせの状態から両者ほぼ同時に振り返り、唐竹の斬撃で鍔迫り合いとなった。

 

ハイブレードモードの刀身から放たれた衝撃波を、ファフナーは水晶剣が発生させる風の刃と雷を最大限に利用して完全に相殺する。

 

よって、両者の勝敗を分ける要素は、単純に剣の腕のみに絞られる。

 

「なるほど、腕は悪くないようだ。だが、思考も体力も乱れている今のお前では、そのソウルブレイドが泣くだけだぞ?」

 

「抜かしやがれぇぇ!!」

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

  Side レオ

 

 レイジとファフナーが対決を始めてすぐ、城門前に立つローゼリンデさんも動き出した。

 

驚いたことに、あの人はフォースソングを歌いながらでも戦えるらしい。実際の声量があまり関係無いとはいえ、この展開は少し不味い。

 

感情の色が一切見えない金色の瞳で周りを一度見渡し、右手に大型の突撃槍、左手に腕全体を隠せるほどの盾を装備した。

 

持っている突撃槍は幅広い槍の穂先が両端についてる独特のデザインだ。多分、アレは専用の武術を学ばないと使いこなせない代物だと思う。

 

武器を構えたローゼリンデさんはそのまま、未だに動けない僕の方へとやってくる。

 

別に不思議じゃない。今この戦場で、仕留めるのが一番簡単なのは僕だ。

 

だけど、自分のピンチを自覚して必死に打開策を探す中、ローゼリンデさんの前に大剣を右肩に担いだリックが立ちはだかった。

 

互いに何の縁も無く、語る言葉も無い。

 

僅かに腰を落とし、同時に動き出して斬撃と刺突がすれ違い、火花が飛び散る。

 

(くそっ! ……どうにかして体を動かさないと……!)

 

心の中で自分の醜態に苛立ちを吐き出し、僕は懐から取り出したグラマコアの力を解放。数秒で姿が変わり、ミヅハノメを地面に置いて左右の手で両足を握る。

 

一度深く深呼吸し、意識を落ち着ける。これからやろうとしていることは、術の加減を少しでも間違えれば大変なことになるからだ。

 

目を見開くと同時にクリュスタルスの内部に圧縮された冷気を開放、左右の手の平を通して、焼けるような熱を放つ両足にゆっくりと送り込む。

 

今やっていることは、酷使した筋肉に氷嚢を当ててケアするのと同じ、動かせないほどの熱を放つ両足を、出力を調整した冷気で強引に冷却しているのだ。

 

「ぐ、ぎぃ……!」

 

先程までとは違う痛みが両足から走り、歯を食いしばってる口元から声が漏れる。

 

だけど、術の制御には僅かな狂いも許されない。もし出力の加減を間違えば、僕の足の筋肉は二度と使い物にならなくなる。

 

そんな激痛を伴う作業が終了し、僕は肩で息をしながらグラマコアの力を解除して両足を動かしてみる。

 

すると、酷い筋肉痛に似た痛みが走るけど、両足はちゃんと動いてくれた。まだ体のあちこちがギシギシと鳴っているし、左肩の傷も浅くはないが、あと一戦程度なら問題無さそうだ。

 

「レオ! お前、なんて無茶を……!」

 

後ろから掛けられた声に振り向くと、アイラさんとエルミナが心配そうな表情で僕を見ていた。多分、さっきの術のことを言っているんだろう。

 

「すいません。あの2人を何とかしたら遠慮なく休ませてもらいますから、アイラさん達はサクヤさんとフェンリルさんを守ってください。僕はリックを手伝います」

 

今の体調から無茶は承知の上だが、議論している時間は無いと分かってくれたようで、アイラさんは気を付けろよと言ってエルミナを連れて走っていった。

 

心の中で感謝を述べ、僕は腰に差した麒麟と龍麟を抜刀。ローゼリンデさんと戦うリックの元へと真っ直ぐ走る。

 

近付く僕に気付いたのか、リックはローゼリンデさんから距離を取って僕と肩を並べるように立つ。

 

「間に合わせのコンディションの奴が来ても邪魔なだけだ。下がっていろ」

 

「あと一戦だけなら問題無いよ。それに、そっちだってかなり疲れてるでしょ。あの人は今のリック1人じゃ止められないよ」

 

「…………ふん。好きにしろ」

 

そこまで話したところでローゼリンデさんの刺突が放たれ、僕とリックは左右に跳んでそれをかわす。

 

そのまま挟み撃ちを狙おうとしたけど、ローゼリンデさんは突き出した突撃槍の穂先を水平に倒し、そのまま右薙ぎに振るってリックを追撃した。

 

リックは大剣を盾にしてそれを防ぐけど、足がその場に止まって挟撃が封じられた。

 

でも、足が止まったのはローゼリンデさんも同じ、動ける僕は背後に回りこみ、気絶を狙ってローゼリンデさんの首筋に麒麟の峰を打ち込む。

 

だけど、ローゼリンデさんは突撃槍を右に振り抜いてリックを押し退いて、スピアのような鋭い形状をした柄尻を真後ろにいる僕の顔面に突き出してきた。

 

「うおっ……!」

 

咄嗟に体を後ろに捻って直撃を回避するけど、掠めた矛先から血が流れ、体勢を大きく崩した。僕が体勢を整える時間を確保する為にリックが斬り込む。

 

だけど、精神的にも肉体的にも体力面で現状の僕達を上回ってるローゼリンデさんが取った戦略は、短期決戦だった。

 

リックの大剣を左腕の盾で受け止めるが、同時に右手の突撃槍に赤黒いフォースの輝きが迸る。

 

それに危機感を覚えた僕とリックは同時に飛び退くけど、ローゼリンデさんは構わず槍の穂先を地面に突き刺さす。

 

 

「開け、ヴァルハラの扉」

 

 

直後、足元からサークルを描くような範囲で赤黒い光が放たれ、地雷を爆発させたような大爆発が僕とリックを襲い、破壊力と衝撃によって後方へ吹っ飛ばされた。

 

咄嗟に飛び退いたおかげで気絶はしなかったが、傷を負わなかったわけじゃない。元々ボロボロだった体がさらに痛いし、リックの方もフラフラだ。

 

その時、ローゼリンデさんが戦場の一角を捉え、突撃槍を構えて走り出した。

 

行き先を辿ってみると、そこには衝撃波やら風やら雷やらを周囲に拡散させながら戦ってるレイジとファフナーがいた。

 

だけど、怒りでファフナーとの戦闘に集中しているレイジは気付いていない。

 

(ダメだ……! それだけは、それだけはあの人にやらせちゃいけない!)

 

ローゼリンデさんが帝国に操られているのは間違いないらしいけど、あの人にレイジを傷付けさせたら、2人は本当に元に関係に戻れなくなる。

 

痛む体に鞭打って走り出す。全速よりは明らかに遅いけど、鎧を着込んだローゼリンデさんよりは速い。十分に追いつける。

 

そして、予測通りレイジの横っ腹に槍を突き出そうとしているローゼリンデさんを追い越して前に立ち、上下に水平に並べた小太刀を槍の穂先に引っ掛けて止める。

 

でも、完全に止められたわけでもなく、矛先が僅かに僕の右脇腹に刺さっている。

 

「レオ……!?」

 

そこで、初めてローゼリンデさんの攻撃に気付いたレイジは大太刀を横薙ぎに振るってファフナーを後退させる。

 

互いに腕の力を一切緩めず、僕とローゼリンデさんは至近距離で睨み合う。

 

「そんな、何も感じない表情で、歌っちゃダメですよ。アナタも本当は、優しくて温かい歌を歌えるはずでしょ……!」

 

歌が同じでも、歌う人間の心によってそこから感じられる気持ちは大きく違う。

 

少なくとも、レイジが楽しそうに話してくれたローゼリンデ・フレイアという人は、こんな悲しい歌を歌うような人じゃないはずだ。

 

「ぐっ……!」

 

その時、一切の感情を移さないローゼリンデさんの瞳に僅かな光が灯り、何かの苦痛を感じてバックステップで距離を取った。それを庇うように、水晶剣を構えたファフナーが前に立つ。

 

槍が引き抜かれたことで僕の脇腹からは血が流れ出すけど、泣き言を言っていられない。レイジとファフナーがほぼ互角である以上、僕がローゼリンデさんを止めないと。

 

「……今日はここまでだな」

 

だが、明らかに有利であるはずのファフナーは仕掛けず、小さく呟いて水晶剣で地面を斬り裂いた。雷が地面を爆発させ、風の刃が土煙を巻き起こす。

 

「くそっ……!」

 

慌てるようにレイジは大太刀を振るい、衝撃波によって土煙を一瞬で吹き飛ばす。

 

でも、もうそこにファフナーとローゼリンデさんの姿は見えず、2人は戦場から姿を消していた。

 

それを確認して気が緩み、足から力が抜けて地面に膝を付く。

 

どうやら、本当に限界みたいだ。体はあちこち悲鳴を上げてるし、左肩と右脇腹の傷から流した血も少なくない。

 

だけど、僕の隣に立っているレイジは数秒顔を俯かせ、決意したような顔で歩き出した。

 

「何処へ行く」

 

そこに声を掛けたのは、人の姿に戻ったアミルを傍に連れたリックだった。

 

「ローゼリンデを助け出す」

 

即答したレイジの答えは、僕もリックも予想していた通りのものだった。

 

レイジの手に握られているユキヒメさんはその決断に賛成しているのか、あえて何も言わないのか、沈黙している。

 

「スルトを追おうとしたレオを止めたくせに、大した入れ込みようだな。勢いだけで敵に勝てるなら、今のお前でもあの子を取り戻せるだろうさ」

 

「黙れよリック。オレは……っ!」

 

どうにか腕を伸ばし、徐々に声を荒げていくレイジの右手を掴む。

 

今にも意識が飛びそうだけど、レイジは僕を止めてくれたんだ。今度は、僕の番だ。

 

「レイジ、辛いかも、しれないけど……今は耐えて。僕も、力を貸すから……もっと強くなって……次はきっと、あの人を助けよう」

 

そこまで言って僕の意識は限界を迎えた。

 

全身から力が抜け落ち、前のめりに倒れた体をアミルとリックに支えられながら、僕は自分の意識を手放した。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

ゲームとは違い、こっちでは体力もスタミナも回復しません。ぶっ続けでボスラッシュです。故に、勝てるわけありません。

ローゼリンデのフォースソングは防御と魔防を低下させるので、凄まじい脱力感が襲い掛かるという形で表現しました。

でも実際、歌いながら戦うローゼリンデさんはマジ凄いと思う。熱気バサラかよ。

あとレオのワイルドというか、エクストリームなアイシングですけど、私は医学に詳しくないので、正直正しいのか分かりません。

そこら辺分かる人がいれば教えてください。出来る限りで修正します。

出来れば次回で3章を終わらせます。
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