今回は初戦闘の次にボス戦という急展開です。
では、どうぞ。
Side 黎嗚
「………森の番人か。貴公に用はない。早々に立ち去れ。用があるのは我が僕(しもべ)達を葬ってくれたその人間だ」
「ふざけたこと言ってんなよ。立ち去んのはてめぇの方だろ! これ以上森を荒らすんじゃねえよ!」
黒騎士と赤髪の男性が睨み合いながらお互いの得物を構えて、少し後ろに立つ銀髪の女性も弓の照準を黒騎士に定める。
まさに一触即発って感じなんだけど………その中間に立たされている僕は、この場合どうしたら良いんだろう?
黒騎士の方に味方する気は無いけど、もう一方が無条件で味方だとは限らない。それに、すぐに離脱すれば注意を引いて黒騎士に狙われてしまう。
そんな理由で迂闊に動けず、僕は両手のショートソードを構えたまま、前方の黒騎士と背後の男女の動きを同時に警戒する。
「ちょっと、あなた! 人間みたいだけど、もしかして帝国の手先なの!」
「いや、違う。あいつは多分、巻き込まれただけだ。帝国の手先はあっちだ」
動きを見せない僕に痺れを切らしたのか、銀髪の女性が弓を構えたままよく分からない疑いを飛ばしてくる。だけど、それは赤髪の男の人にすぐに否定される。
というか、帝国って………あんなモンスター達が国家を築いてるの? なんだか想像しただけで背筋に盛大な寒気が走るんだけど。
「いかにも。我が名はスレイプニル! 闇に仕えるドラゴニア帝国の騎士! 光の者を滅さんと、流血の誓いを立てし者! ちょうど良い。貴様等まとめて、我が槍で相手をしてやろう!」
北欧神話の主神オーディンが騎乗する8本脚の軍馬と同じ名前を名乗った黒騎士、スレイプニルは馬の下半身で地面を蹴り、走り出した。
走りながら、まだ距離が有るというのに右手に持つランスの矛先を僕に向けてくる。
「受けよ! デッドリードライブ!」
叫びと共に矛先が黒い光と紫電を放ち、僕が左肩にくらった光球のように黒くて大きな棘が3発放たれる。おそらく、さっきの光球より威力がある。
(というか………黙ってても結局僕の方ですか………!)
僕は左に跳んで棘をかわし、射線上の後ろにいた赤髪の男の人も避ける。そのまま赤髪の人は大太刀を構え、スレイプニルに突撃する。
(これであの2人も敵だったら最悪だけど………仕方ない)
数秒考え、僕は走り出して左手の剣を逆手に持ち替え、右腕の袖の中から取り出した飛針をスレイプニルの後ろの右足の付け根を狙って投げつける。
飛針は鎧が張られていないその場所に正確に突き刺さり、スレイプニルは突撃の勢いを鈍らせ、その場で減速する。
赤髪の男はその隙に距離を詰めて大太刀を右袈裟に打ち込むけど、それはスレイプニルの持つ赤いランスに防がれ、逆に押し返される。
「地獄に落ちよ! デッドランサー!」
押し返されたせいで赤髪の男は体勢が崩れ、そこに闇色の光と紫電を纏ったランスの刺突が叩き込まれる。大太刀で防いで直撃は免れたのか、赤髪の人は少し後方に飛ばされただけで、軽傷で済んだ。
さらなる追撃を仕掛けようとスレイプニルは走り出そうとするが、後ろにいた銀髪の女性が放った正確な弓撃がその動きを牽制する。
僕は注意を逸らす為にスレイプニルの前に立ち、正面から挑む。
スレイプニルが僕の心臓を狙って刺突を放ってくるが、右に跳んでかわし、矛先が僕の左腕のすぐ隣を通過する。お返しに左の剣を順手に持ち替えて左袈裟に打ち込むが、左腕の巨大な手甲に止められる。
やっぱり、身長差が有るせいでろくに胴体に打ち込むことが出来ない。足は鎧で守られてるし、迂闊に跳躍して攻撃したらランスで串刺しにされる。
「ふんっ!」
足が止まったところを狙い、スレイプニルは刺突を放った状態のランスをそのまま左薙ぎに振るってきた。
迫るランスの腹目掛けて左の剣をぶつけて『徹』を打ち込む。だけど、振るう力が弱くなった代わりに、左の剣の刀身が亀裂を走らせて折れた。
「やばっ―――――!」
振るわれたランスを、伏せて何とか回避。だけど、そのままランスを引き戻し、スレイプニルは僕の首や心臓を狙って刺突の雨を降らせてくる。
僕は冷や汗を流しながら右手の剣を休むことなく振り回し、その矛先を全て狙いから逸らす。
一定の速度を維持し、時に加速して迫る矛先を目で捉え、剣を叩きつけ、時には刃の腹で火花を散らしながら受け流す。
『点』で狙う刺突を、剣による『線』で受け流す。相手の腕の動きや足捌きを良く見ていても、この防御はかなりの集中力を必要になってくる。
「くっ――――!」
「づっ――――!」
前者が僕、後者がスレイプニル。互いに手から伝わる痺れに似た反動の苦悶だ。
叩きつけるように振るわれたランスの一撃を、何とか渾身の力で振るった右手の剣で相殺し、僕とスレイプニルの間に距離が開く。
「………鍛えが甘過ぎでしょ。このなまくら」
「馬鹿を抜かせ。何をしたかは知らんが、貴公の使った技が異常なだけだ。並みの武器では耐え切れずして当然のこと」
僕は左手に持ったままの剣を見てぼつり、と小さく呟いた。それを聞き取ったらしく、スレイプニルは、何を馬鹿なことを、という感じで答えた。
どうやら『徹』の詳細はバレてないみたいだけど………やっぱり、そこいらのなまくら品じゃ御神流の技には耐え切れないらしい。
多分右の剣も、思いっきり振るってあと1回が限界だと思う。
(手甲やランスに防御されず、あの鎧も打ち抜ける技といえば………アレしかないか)
そう考えていると、ちょうど良いタイミングで赤髪の男が戻ってきて、僕の隣に並んで大太刀を構え直す。すぐ後ろでは移動してきた銀髪の女性が弓を構え直す。
「………悪いんだけど。1つ頼まれてくれるかな?」
僕から声を掛けられたのが予想外だったのか、赤髪の男と銀髪の女性は武器を構えたまま若干驚きの視線をこっちに向けてきた。
「今から僕があいつの隙を作る。そこを狙って畳み掛けて。やれる?」
残念ながら僕は未熟の身だ。あの技を物に出来ても、その威力と錬度は夢の人にも、夢で見たどの人物にもまだ届かない。
だからこそ、トドメはこの2人に任せる。僕がやるのは、スレプニルに隙を作ること。
「わかった。任せとけ…………お前、名前は? オレはレイジ」
「……アルティナよ。さっきは、疑ってごめんなさい」
赤髪の男、レイジは笑顔で僕の肩を叩きながら名前を聞いて、銀髪の女性、アルティナは僕から視線を逸らしながら謝罪をした。
「僕は………黎嗚。伊吹黎嗚」
名乗りながらも視線を少し俯かせてしまう。やっぱり、まだ自分の名前を名乗るのを恥ずかしく思ってしまう。
「レオ、レオか………カッコイイ名前だな。んじゃ、任せたぜ、レオ!」
だけど、レイジは笑顔のままもう一度僕の肩を叩き、大太刀を構えた。
アルティナさんは何も言わなかったけど、弓を構えたってことはどうやら任せてくれたみたいだ。
初めてだな、こういうのは。何だか、とにかく嬉しいや。
心の中で思いながら、僕は2人の前に立ち、信頼に応える為に右手の剣を握り直し、体に覚え込ませた御神流の“奥義”の構えを取った。
左足を前に出し、右足を後ろに引く。左腕を前方に突き出すように構え、剣を持つ右腕を大きく、まるで弓のように引く。
スレイプニルとの距離はおよそ5メートル。普通は剣を振るどころか、このような構えを取る距離でもないだろう。
だが、僕が体得した奥義はこれでいい。そんな常識なんか、覆してみせる。
「…………いくよ」
その言葉はレイジとアルティナに、スレイプニルに、多分僕も含めた全員への合図。
両足で地を蹴り、その力の全てを前方への加速力へと変換する。
知らない内に上昇した自分自身の身体能力も頼りに加え、地を蹴った衝撃は地面を大きく抉り、僕の体は弾丸の如く一瞬で急加速する。
「なにっ―――――!」
その急加速はスレイプニルとの距離を一瞬で縮め、眼前に漆黒の鎧を捉えた。
その状態から引き絞った右手の剣を、突き出す!
これが、御神流の中で最長の射程距離を誇る奥義。
『御神流奥義之参・射抜』
その一撃は、確かにスレイプニルの防御を抜けた。
* * * * * * * * * * * * *
Side Out
「チィ――――!!!」
驚愕よりも先に、スレイプニルの脳は体が動くことを選択。
迫る刺突に対抗し、手に持つ赤いランスが振り上げられる。それには既に闇色の光と紫電が渦巻き、『デッドランサー』が今にも放たれる状態だ。
「ハアァァァ!!!!」
激突。
破壊力を一点に集中させた互いの攻撃は、矛先同士を寸分違わずぶつけ合い、空間が悲鳴を上げるような爆音を響かせた。
しかし、2人が使う武器はその耐久力からして大きく違い、剣の方は御神流の技に耐え切れず限界が来ている。故に、勝者は容易く決まると考えられた。
だが、激突の勝敗は………互いの武器が砕け、引き分けに終わった。
武器の限界が近いのは、スレイプニルのランスも同じだったのだ。
先程の打ち合いの際に『徹』が打たれていたことを互いに失念していた。
その失念は、スレイプニルの敗北を許すきっかけとなった。
ランスが内側から砕け散り、ランスを振り下ろした力でスレイプニルの体が前のめりに傾いた。
その瞬間に、カンッ!! と弾かれたような金属音が響き、スレイプニルの手甲が外側に大きく弾かれた。
「っ――――!」
スレイプニルが視線だけを動かすと、弓を放った直後のアルティナの姿が見えた。それを見て、手甲を弾いたのは彼女の矢だと即座に理解する。
そしてもう1人、美しい大太刀を構えていたレイジは…………
「よっしゃあ! やるぞ、ユキヒメ!」
スレイプニルのランスが砕けたその時から、こうなることを初めから分かっていたように動き出しており、既に懐へと距離を詰めていた。
だが、彼はそのような策士ではない。
ただ信じた。
それだけのことで、彼はその場所に立ち、勝利のチャンスを掴み取った。
「打ち払えぇ!!」
今のこの世界、エンディアスで彼にしか扱うことが出来ない伝説の剣『霊刀・雪姫』が振るわれる。
『零式刀技・砕』
斬り裂く、というより、叩きつけるような大太刀の3連撃がスレイプニルの漆黒の鎧に全て直撃し、ケンタウロスの巨体が、衝撃で後退した。
「ぐっ―――――!」
スレイプニルが苦悶の声を漏らす。
刃で斬り裂かれたわけではないが、その衝撃は確かなダメージとなって体に届いた。
だが、もう戦えぬわけではない。折れていようと、まだ武器は使うことができる。
しかし同時に、それはこの場所を死に場所に決めることにほぼ等しい。
「………そこの優男。貴様、名はなんという?」
ゆっくりと体を起こしたスレイプニル。
その問いを投げた優男と言えば、この場ではレオしかいない。レイジは上半身が半袖のアンダーシャツ姿で、見るからに筋肉質だ。
「人間共の中に、それ程の剣技を扱う者がいれば名も上がるはず。だが、我は貴様のような者のことを聞いたことがない。故に問う………貴様は、何者だ?」
ぎろり、と。真実以外の回答を許さない、というような視線を向けた。
レオは少しだけ視線を俯かせ、何かを決意した顔で一歩踏み出し、顔を上げた。
「永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術見習い、伊吹黎嗚」
その名乗りが意味するのは、己の生きる道への決意。
夢で見た剣の歴史、当主の座を任された彼と同じ高みに辿り着くと、追い越してみせるという誓いだった。
「イブキ………よかろう。貴様との決着、いずれまたの機会で着けおうぞ。その時は見習いでなく、真の剣士としてな」
詳しい事情を知らぬスレイプニルも、彼の名乗りに秘められた決意を悟り、何処か満足げに頷いて身を翻し、森の外へと走り去っていった。
やがて、地面を蹴る音も遠ざかり、その場には沈黙だけが残った。
ドサッ!!
だが、本来なら一番状況が理解できなかったレオは緊張の糸を断ち切り、その場に背中から地面に大の字に倒れ、大きく息を吐いた。
「ほんとに…………何がどうなってんの?」
その呟きは、静かになった森の中で、小さく音として広がった。
ご覧いただきありがとうございます。
今回登場した奥義、射抜の詳細は………分かりやすく言えば長距離射程からの刺突です。威力は、免許皆伝者なら鉄板を楽勝に貫通出来ます。
他にも奥義は有りますが、それは物語の進行と共に登場します。
では、また次回。