では、どうぞ。
Side Out
「まったく…………怪我してるならもっと早くに言いなさいよ! こんな火傷を負って出血も多いのにあんなに動き回るなんて……」
「しょうがないだろ、アルティナ。レオはこの世界に来たばっかりで、治癒術なんてものがあるとは知らなかったんだから」
「いや、言わなかった僕も悪いよ。ごめんね、レイジ、アルティナ。迷惑掛けちゃったみたいで」
「べ、別に迷惑じゃないわよ……っ!」
スレイプニルとの戦闘を終え、レイジ、アルティナ、レオの3人は少し休息を取り、森の奥へと移動を始めた。
その途中、レオとレイジ、アルティナは改めて簡単な自己紹介を行い、レオにこの世界、夢幻大陸エンディアスについてのことを簡単に説明した。
今彼等がいる大陸、ヴァレリア地方のこと。そのヴァレリア地方を侵略しているドラゴニア帝国のこと。他にもこの世界の常識、獣人やエルフについてなどだ。
アルティナはその中のエルフの種族に入り、その証拠として一番説得力があるのがエルフ特有の尖った耳だった。
外見は十代後半の美しい女性にしか見えないが、エルフは不老でありその身の寿命は人間の数倍。実年齢は既に軽く百歳を超えている。
そして、ドラゴニア帝国というのは、この世界で“闇の軍勢”と呼ばれるもので、大義名分や主義を掲げるわけでもなく、一方的に他国を侵略している帝国の名前だ。
その帝国のせいで世界の情勢は混沌に包まれ、各地では巨大なドラゴン達が暴走を起こしており、様々な天変地異も起こっている。
今3人がいるエルフの国、フォンティーナも帝国の侵略を受け、多数のエルフの命が奪われ、首都も破壊されてしまった。しかも、奪われた命の中には、アルティナの両親までも混ざっていた。
事情を聞いたレオはアルティナに申し訳ないと思ったが、まだ付き合いが短い彼女の性格や雰囲気を察し、謝るのは逆に失礼だと思って何も言わなかった。
「………にしても、オレって学園でレオの顔を見た覚えがないんだよな。クラスメイトなら少しは覚えてる筈だから、違うクラスなんだろ?」
「うん。僕もレイジの顔はクラスでも見たことないから多分そうだと思う。
それに、僕はちょっと学園全体で怖がられてるからね……皆の視線がイヤになって、殆どの学校行事はサボってたから、顔を覚えてなくても仕方ないよ」
大太刀を肩に担いだままレオと話をしているレイジは人間であり、元々はレオと同じ世界で暮らしていたのだが、こっちの世界に勇者として召喚されたらしい。
だが、レイジが召喚された国、クラントールは完全にドラゴニア帝国の支配下に置かれてしまい、レイジは海を漂流してフォンティーナに流れ着いたんだそうだ。
しかも、クラントールにはローゼリンデという名のレイジの大事な友達がいるらしく、絶対に助け出したいと言っている。
ちなみに、レオは何度か名前ではなくイブキと呼んでくれと2人に頼んだのだが、良い名前なんだから問題無いだろう、という理由で通らなかった。
そして、3人が辿り着いた森の奥というのは、なんとレオがこの世界で目を覚ました巨木が立つ湖の場所だった。
飛針やら鋼糸を装備して他の荷物を置いてきたレオにとっては嬉しい誤算だったが、その時になって先程の戦闘で怪我をした左肩が痛みを訴えてきた。
荷物の中には治療の為の道具も入っているのでさっそく応急処置に取り掛かろうとしたのだが、それを見ていたレイジとアルティナが怪我に気付き、治療を手伝ったのだ。
少し手間を掛けて制服とYシャツを脱がしたのだが、左肩の傷はレオ本人の予想よりも酷く、Yシャツの左肩周辺が血を吸って真っ赤に染まっていた。
だが、何故か傷口は半分ほど塞がっており、出血も止まりかけていた。
そして現在に至り、レオは現在無地のTシャツ姿でアルティナの治癒術による治療を受けている。流石に傷を完全に塞ぐことは出来ないが、無いよりは遥かに良い。
おかげで痛みも引き始め、大分マシになってきた。
ただ、激しく動かすのはマズイので、現在は消毒を済ませてガーゼを張り、その上から包帯を巻いてある。
「………でも、よかった。この辺りには被害が無いみたいね」
レオの治療を終えたアルティナは立ち上がり、安心した顔で周りの森を見渡した。
レオとレイジもそれに釣られて周りを見渡すと、ちょうど良く差し込んだ太陽の光が湖の周りに無数の光を生み出している。
その景色は幻想的な美しさを生み出しており、座り込んでいたレオと近くにいたレイジはしばらく目を奪われて呆然としていた。
「………へぇ。森の奥にこんな場所があったのか」
「レイジは初めてだっけ? この銀の森に古くからある『霊樹』よ。この木の周りでだけは、精霊たちも以前のように元気でいるのよ」
「……………精霊?」
景色に目を奪われていたレオがその単語に反応して2人の方を見る。彼の事情を思い出したアルティナは説明しようとするが、あっ、と何かに気付いて微笑を零す。
「…………?」
「フフゥ~♪」
わけがわからず、レオは軽く首を傾げるが、突然謎の鳴き声が聞こえ、彼の頭の上に軽い重量感がのしかかった。
害意を感じなかったレオは慌てず、右手を動かして手探りで頭の上に乗ったものを捜し、柔らかい感触を掴んで自分の顔の前まで持ってくる。
すると、レオの右手が掴んでいたのは、頭に小さな王冠を被った全体的にピンク色の生物だった。危険は一切無さそうで、糸目の顔がむしろ可愛らしい。
顔のデカさに釣り合わず、首から下の全てが異様なまでに小さい。頭部の辺りから伸びている耳のようなものは全身の身長よりも長い。
「それがこの森に住む精霊よ。その子の名前はケフィアっていうの………自分で空を飛べるから、離しても大丈夫よ」
アルティナに言われ、まだ半分呆然としているレオは手を放し、知らずの内にケフィアの頭を優しく撫でていた。
すると、ケフィアは嬉しそうな声を上げ、アルティナの言う通り1人で空中に浮いて、湖の真ん中に立つ霊樹まで飛んでいく。
よく見てみると、霊樹の周りにはケフィアのような小さい生物、精霊達が無数に集まっており、楽しそうに遊んでいた。
ファンタジーの世界に少しは知識があるレオはその精霊達を見て、あの中にはシルフなどもいるのだろうか、などと考える。
「ふふっ、今日はみんな大人しいわね。それじゃあ、聞かせてあげるね」
嬉しそうに微笑むアルティナは両手を軽く広げ、瞳を閉じて鼻歌を歌い始めた。
けして大きな音ではないのに、その歌は透き通るように森の中に反響し、レオとレイジはもちろん、霊樹の周りに集まっていた精霊達も聞き入っている。
さらに、森の中から小鳥やリスなどの小動物や小さな狼などが顔を出し、何故かレオの元へと一箇所に集まり始めた。昔から、レオは動物には懐かれる体質なのだ。
と言っても、もみくちゃにされるわけではなく、近くに寄って来た動物を偶に優しく撫でたら親しくなれるという程度で、レオはアルティナの歌を聴きながら子供の狼の背中を撫でている。
(綺麗な声だな………誰かが近くで歌ってくれたことなんて、あったっけ?)
伊吹の本家で暮らしていた時は使用人達は近くにいるだけで、寝むる時はおやすみなさいませと言われただけ。レオは今まで子守唄などは一切聞いた記憶が無い。
レイジも同じくアルティナの歌を聴いていたが、レオは人一倍その声に、歌そのものに聞き惚れていた。
だが、そんな静寂を1つの声が打ち消した。
「なんて、素敵な歌声…………」
『…………ッ!!』
近くの茂みから聞こえた音と声。
一秒の驚愕を挟んで即座に反応した3人は弾かれるように全身を動かし、意識を戦闘中のそれに切り替える。
座り込んでいたレオは右の手の平で地面を叩き、その反動を利用して動物達を庇うように立ち上がる。武器は飛針と鋼糸だけだが、牽制と拘束用に7番鋼糸を用意する。
「誰! 誰かいるの!? いるなら出てきなさい! すぐに出てこないと、ただでは済ませないわよ!」
「は、はい……す、すみません……今、そちらに向かいます………」
茂みの奥に弓を構えるアルティナが鋭い声で警告すると、その声の主はあっさりと了承して、自分から姿を現した。
それは1人の可憐な少女で、自分を見る3人の視線に、いや正確に見るとレイジとレオの視線に何処か怯えているように見える。
白いカチューシャを付けた髪と瞳の色は金色で、髪の先端には小さなウェーヴがかかっている。長さは見たところ肩にかかる程度で、アルティナとそこまで違いは無い。
服装は大部分の緑色の所々に白を混ぜた、高貴と可憐な雰囲気を漂わせる“お嬢様”という感じのものだった。実際、その容姿も充分に可愛らしい。
本来なら充分に警戒するべきなのだが、頭の上や肩に何枚か木の葉が乗っていることに気付いていない少女の様子を見て、男2人は自然と構えを解いた
「あの……申し訳ありません。私、先程からここに隠れていたのですが、綺麗な歌声が聞こえてきたもので、つい………」
「隠れていたですって? あなた何者? どこから来たの!?」
だが、アルティナは弓を引く力を微塵も緩めず、鋭い視線で少女を問い詰める。
「私ですか? 私は、東の聖王国、ルーンベールから参りました、エルミナと申します。よろしくお願いします………」
対する少女、エルミナは天然気味なのか、質問にきちんと答えて、自己紹介の後にぺこりと頭を下げている。
その様子に流石のアルティナも毒気が抜けていくが、エルミナの放った単語に反応して再び力を込めて弓を引き直す。今度はしっかりと眉間に照準を定めている。
「ルーンベール? じゃあ、さっきのケンタウロス達はあなたの仲間なの!?」
何故ルーンベールという名前を聞いて彼女が仲間になるのだろうか? とレオは小さく首を傾げるが、大太刀を構えたレイジが小さく耳打ちして、ルーンベールは人間とケンタウロスが作った国なんだよ、と教える。
先程のスレイプニルの種族はケンタウロス。つまりアルティナは、奴等が人間とケンタウロスの作った国、ルーンベールの者でないかと思っているわけだ。
「あ、あの怖い方たちですか? い、いえ、違います。私、さっきまであの方たちに追われていて……それで此処に隠れていたんです」
追われていた、という単語に反応し、レオは自分の記憶を探ってみる。
この場所の近くで目を覚ました時、『心』で周囲の気配を探ってスレイプニル達から1つだけ離れた気配があったのを思い出した。
「アルティ、その子の言ってることは本当だよ。僕、スレイプニル達から追われてる気配を1つだけ感じたし、アイツも『娘の捜索』って言ってたよ?」
「そうだぜアルティナ、少し落ち着けって。スレイプニルも、自分で『帝国の騎士』って名乗ってたろ? 」
「もしそうだとしても、森への侵入は許さないわ!」
2人の言葉を聞いてもアルティナは弓を下ろさず、エルミナをじっと見ている。
だが、良く考えたら、迷い込んだとはいえ無断で森の奥に入った自分も同罪なのではないだろうか? と考えたレオは少々気まずくなってくる。
「ご、ごめんなさい! 私、森に入るつもりはまったくなかったんです……まさかシルディアにこんな深い森があるなんて全然知らなくて………」
「え?………シルディア?」
「はい。シルディアです………あら?」
エルミナの言葉にレイジが何かに引っ掛かるように反応してエルミナは平然と答えるが、自分を不思議そうに見るレイジとアルティナの視線に気付き、首を傾げる。
同じくレイジの隣でレオが首を傾げているのは、先程から自分の知らない町、あるいは国の名前が次々と聞こえてくるからだろう。
「あの、つかぬことをお伺いしますが………もしかして、ここはシルディアではないのですか?」
「……ここは、フォンティーナの銀の森よ」
「フォンティーナ?………あの、それはもしかして、エルフの国、フォンティーナのことでしょうか?」
「フォンティーナはそれ以外に無いわよ」
おそるおそると言う感じで訊ねてきたエルミナの質問にアルティナが答えるが、その声には先程までの鋭さは半分も残っていない。
レイジの方は若干エルミナに可哀相なものを見るような目を向けている。レオは変わらず内容がまったく理解できず、首を傾げたままだ。
「そうですか。ご親切にありがとうございます。フォンティーナと言えば、ルーンベールから見て南側にある国で、シルディアがあるのは確か西……」
アルティナの返答に納得したエルミナは状況を整理するが、徐々に理解していく内に顔が青褪め、おろおろと慌て始める。
「え? えええっ! では、もしかして私、全然違う方向に向かって………」
私は慌てています、という表現を体全体で示しながら、エルミナは驚きの声を上げる。
今回ばかりはレオも理解できたらしく、彼女が現在、盛大な規模の迷子の途中だと他の3人は心の中で合掌する。
「どうしましょう。
私、とんでもない間違いを……私、これからどうすれば………これでは、アイラ様に合わせる顔が……あぁ、アイラ様……お許しください。ぐすっ……うぅ…うぅうっ………」
「ちょ、ちょっと落ち着きなさい! 泣かないで!………あぁ、もうっ………!」
あたふたと慌てたエルミナは顔を俯かせ、今度は突然泣き出した。
アルティナもついに余裕が無くなり、慌てて泣き出すエルミナをフォローするが、どうにも適切な対応が思い付かない。
視線でレイジに助けを求めるが、彼もどうしたらよいのか分からず、戸惑っている。
もはや収拾が付かなくなりそうになったが、その時、静かに伸ばされた手が顔を俯かせたエルミナの頭の上にポンと置かれた。
「ふぇ?」
目元からポロポロと涙を流すエルミナが顔を上げると、そこには子供をあやすような微笑を浮かべているレオがいた。
レオはそのまま右手でエルミナの頭の上に乗っていた木の葉を優しく払い落とし、ポケットの中に入っていたハンカチを差し出す。
「まず落ち着こう。そして、出来れば事情を話してくれるかな? 僕もレイジもアルティナも、誰もキミを怒ったりしないから」
それは昔、子供の頃のレオが訓練でよく使っていた木刀を無くして泣いてい時、姉が自分にしてくれた方法だった。
周囲の伊吹家の人間はチラリと見るだけで何もしてくれず、周りに味方がいなかったレオにとってそのあやし方は効果抜群だった。
「ぐすっ……はい。ありがとうございます………」
どうやらエルミナにも効果があったようで、ハンカチを受け取った彼女は、ゆっくりと気持ちを落ち着け、話を始めた。
* * * * * * * * * * * * *
Side レオ
「そう。フォンティーナだけでなく、ルーンベールもそんな状態に……道理で森にも色んな異変が起きるはずだわ」
「はい。聖騎士団は壊滅し、城で指揮を取っておられた国王陛下までもが戦死され、斯く言う私も、命からがら主都を逃げ出しました」
数分後に泣き止んだエルミナが話してくれた内容は、随分と血生臭いものだった。
この銀の森があるエルフの国、フォンティーナだけでなく、エルミナが言うルーンベールという国も、同じくドラゴニア帝国の侵略を受けたらしい。
しかも話を聞いた限り、騎士団が壊滅して国王まで戦死したということは、少なくとも首都は破壊されたんだと思う。
けど、これはもう国家間の戦争のレベルじゃないと思う。
戦争だって外交手段の一つなんだから、そこには大小詳細問わずに国の利益の為に戦うという損得勘定がある。
でも、国王を殺すだけでなく、民間人を無差別に殺し、首都まで破壊するなんて、ドラゴニア帝国のやり方は覇道と呼べる物ではない。
僕にはこれじゃあ、目的の為の侵略というより、他国を蹂躙することそのものが彼等の目的であるように見える。
「ですが、まだルーンベールでは生き残った王女『アイラ・ブランネージュ・ガルディニアス』姫の指揮のもとで戦いが続いています。
西方のクラントール王国は帝国に完全に占領されてしまったようですが、ルーンベールだけでなく、他の諸国でも帝国軍に対する抵抗が続いているようです。
アイラ様はそうした勢力と手を結ぶため、何とか連絡を取ろうと努力しておられます」
クラントールの話を聞いたところでレイジが僅かに反応するが、すぐにその動揺は消え去り、再び話に耳を傾ける。
でも、周辺諸国まで敵に回した状態で戦い続けられるなんて、さっきのモンスター達といい、ドラゴニア帝国の戦力はどれだけスゴイんだろう。
「私もアイラ様のご命令で、ヴァレリア地方の中央にある都市国家シルディアに向かう所だったのですが、どう言う訳か、迷ったようでここに……」
「さっきも言ってたけど、エルミナはどうしてシルディアに向かってたんだ?」
「はい。なんでもシルディアには帝国と戦う意思を持つ人々が集まり、『ヴァレリア解放戦線』という義勇兵部隊を結成しているそうです。
その状況を視察した後、私に出来ることがあれば、可能な限りお手伝いするように、というのがアイラ様の言いつけです」
「そうなの……森の外でも、そんなことが……」
自分の知らない現実を知って、アルティナは少なからず驚いている。
これまでの自分の中の常識が一気に覆されたんだから、仕方ない思う。
義勇兵部隊ということは、腕に覚えのある傭兵や勇士などを集めた組織だと思う。
正規軍がもう存在してないのか、それとも元々無かったのか、どっちしてもその組織を立ち上げた人やリーダーはスゴイ人だと思う。
こんな世界情勢で抵抗勢力を立ち上げるなんて、多分、かなりの人の上に立つ才能、カリスマというやつを持っている人なんだろう。
「シルディア……ヴァレリア解放戦線、か。エルミナ、そこにはいろんな国の連中が集まって戦ってるんだよな?」
「はい。王宮が陥落する以前から聞いていたので、間違いないと思います」
「だったら、そこに行ってみるべきなのかもしれないな。少なくとも、今の世界の状況はわかりそうだし……もしかしたら、アイツのことも……」
最後に小さく呟いたレイジは何かを決心したような目で顔を上げ、大きく頷く。
その様子を見て、レイジがこれから何をするのか、僕には大体分かった。
「よし、わかった! エルミナ、俺も一緒にシルディアに行くぜ!」
「本当ですか? 一緒に来ていただけれるなら心強いです。ありがとうございます」
「いや、悪いがエルミナの為じゃないんだ。オレにも帝国と戦わなきゃならない理由があるんだよ。アルティナ、レオ。お前等も一緒に来ないか?」
…………驚いた。
てっきり自分だけで行くのかと思ったけど、レイジは知り合いのアルティナだけでなく、まだ付き合いが短い僕まで誘ってきた。
「僕は……レイジに付いて行くよ。この世界で行く当ては無いし、そこなら僕も少しは役に立てそうだ」
生憎と、この世界のことはまったくわからない。
だけど、義勇兵の部隊なら僕でも入ることが出来るし、戦闘で役にも立てる。
「そっか、心強いよ。アルティナはどうする?」
「私? 何を言ってるのよ。私には、この銀の森を守るという大事な役目が……」
「だけど、今エルミナが言ってたろ? 森の外はもっとひどい状況になってるって。このまま放っておいたら、森の中まで被害が及んじまうぞ? 森の番人は他のエルフでも出来るけど、外を見に行くのは簡単にはいかないだろ?」
レイジの言葉に反論出来ず、アルティナは静かに沈黙する。
でも、俯きそうになっているその目に有るのは、迷いの色だ。多分アルティナも、このままではいけない、と心の中で思っているんだろう。
「森を守るためには、外の様子を知らなくてはならない。確かに、その通りかもしれないわね。でも、少し、待ってくれる? 森を出るには、長老会議の許可を取らないと」
「え? アルティナさんも一緒に来ていただけるんですか?」
「ええ、行くわ。あなた達と一緒にシルディアへ」
「フゥ!フゥフゥフゥ~!」
アルティナが迷いの無くなった瞳で決意した瞬間、僕の頭の上に再び軽い重量感が襲い掛かり、着地したケフィアが僕の頭をポンポンと叩きながら抗議の意思を伝える。
別に痛くはなんだけど、何で僕の頭に乗るの? 僕はアルティナより身長高いから、自然と見下ろすような体勢になっちゃうよ?
「ごめんなさい、ケフィア。あなたを外に連れて行くわけにはいかないの。でも、必ずここに帰ってくるから、いい子で待っててね?」
「フゥフゥ~…………」
残念そうに鳴くケフィアは僕の頭の上で前のめりに倒れ、そのまま頭の上で寝るような体勢になった。
払い落とすわけにもいかず、僕は右手でケフィアの頭を撫でながら、バランスを支え、レイジ達の近くへと歩み寄る。
「それじゃあ、あなた達は私の家で出発の準備をしておいて。私は、これから長老たちに話を通してくるから。私は、森を守るために行かなきゃいけないんだって!」
そう言うアルティナの表情は先程までと少し違い、何かを吹っ切ったような顔だった。
* * * * * * * * * * * * *
Side Out
「んじゃ、アルティナの家に着くまで、改めて俺達の自己紹介でもするか。オレはレイジ、クラントールから来たんだけど、元々はレオと同じ世界の人間だ」
「僕の名前はイブキ……冗談だよ、レイジ……改めて、僕の名前はレオ。こっち風にフルネームで呼ぶと、レオ・イブキになるから、レオでいいよ」
「レイジさんとレオさんですか……お2人共、瞳の色が赤色なんですね。同じ色なのかと思いましたけど、よく見たらレオさんの方が色が濃いです」
「え? 赤色? 僕の目が?」
エルミナの発言に反応し、レオは驚いた様子で自分の目の周りをぺたぺたと触る。レオの瞳や髪の色は姉と同じく黒髪黒目のはずなのだ。
墓の前で謎の現象に巻き込まれた日の朝も、洗面台で顔を洗った時には確かに黒髪黒目だったのだ。間違いない。
やがて、木々の中に流れる小さな川を見つけ、レオは慌てるように走り出して膝を付き、水面に映る自分の顔を凝視する。
すると、そこに映っていたのは、何処か艶が増して黒というより漆黒という感じの色になった黒髪と、ルビーのように深くて赤い色の瞳を持つ自分の顔だった。
ご覧いただきありがとうございます。
次回は次の章に移り、拠点変更です。
では、また次回。