シャイニング・ブレイド 涙を忘れた鬼の剣士   作:月光花

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神無月神流様、スペル様、NOGAMI壱様、ダークガタック様から感想をいただきました。ありがとうございます。

今回はエレンシア奪還戦の後です。

では、どうぞ。


第43話 向き合わなければならないもの

  Side Out

 

 都市のほぼ全域で繰り広げられたエレンシア奪還の激闘。

 

その結果は解放戦線とエルフ達の勝利となり、スレイプニルの敗北と撤退がトドメとなってドラゴニア帝国の士気は完全に消し飛んだ。

 

防戦を続けていた北門の戦力は程なくしてレイジ達に殲滅され、エレンシア内部に残っていた戦力も散り散りに逃げていった。

 

そして、都市内部を完全に制圧して時刻は夜を迎えた。

 

月明かりに照らされたエレンシアの街並みには、決して数は多くないが大きな光が広場に灯されていた。

 

そこでは、大型の篝火を中心にして多くの者達が賑わっていた。

 

料理を口に運ぶ者、誰かと肩を組んで笑い合いながら酒を飲む者、篝火の光を見詰めながら周りの雰囲気を楽しむ者と色々な様子の者達がいた。

 

その中には当然、解放戦線のレイジ達の姿もあった。

 

基本的に前衛を務めていた数人は体に包帯などが小さく巻かれているが、騒ぐのに支障は無いようで、それぞれ宴を楽しんでいる。

 

そんな中、大きな骨付き肉を両手で持ってガブリと口にしていたレイジの視界にキョロキョロと周りを見渡しながら歩くサクヤの姿が映った。

 

「むぐっ……サクヤさん、どうしたんですか?」

 

口の中の肉を素早く飲み込んだレイジの問いに、サクヤは腰に手を当てながら溜め息を吐いて答えた。

 

「レオを見なかった? 傷の手当てがまだ応急処置だけだったからアルティナと龍那に治療してもらおうと思ったのだけど……」

 

「レオなら先程少し眩暈がするから夜風に当たってくる、と言って北の城壁の方に歩いて行ったぞ」

 

サクヤの問いに答えたのは、レイジの隣で飲み物を片手に立つユキヒメ。

 

だが、レイジはユキヒメの言葉に眉を顰め、首を傾げた。

 

「あれ? でもアイツ、さっきデカい酒瓶両手に持って歩いてたぞ」

 

その言葉に、ユキヒメとサクヤはえ? と呟いて少々意外そうな顔をする。

 

今聞いた話から察するに、つまりは仮病を使って1人で酒を飲みに行ったということなのだが、何というか……らしくない。

 

普段は比較的に温厚で人当たりの良いレオのイメージに合わない行動に思えたのだ。

 

「……まあ、良いか。城壁に向かったのよね? ちょっと行ってくるわ」

 

サクヤは少し変に思ったが、誰にでも1人になりたい時くらいあるだろうと考えて城壁の方へと歩を進めた。

 

その背中を見送りながら、ふとレイジは隣のユキヒメに声を掛ける。

 

「そういえばレオのやつ、戦闘が終わって合流した時から何か様子が変だったよな」

 

「スレイプニルを仕留められなかったことに責任を感じているのかと思っていたが、どうにもそれだけではないような気がしてきたな」

 

思い返す2人の脳裏には、北門の制圧を完了してエレンシアの内部でサクヤ達と合流した時のレオの姿が浮かんでいた。

 

ロングコートを肩に掛けて座り込み、頭や肩に白い包帯を巻いていたレオの表情は何処か思い詰めているように見えた。

 

その時はレオがスレイプニルを仕留められなかったという報告のせいだと思っていたが、今思えばそれだけではないような気がしてくる。

 

「……けどまあ、今はサクヤさんに任せようぜ。俺達も一緒に行ったら流石に気まずいというか、気分悪くなるだろうし…………おい、ユキヒメ。ここに大事に残しておいたケーキは何処にいった?」

 

「数秒前に私の食道を通って現在胃の中で消化中だ」

 

「食ったってことだろうが! 辿った道筋を堂々と言っても誤魔化されねぇぞ!」

 

何処かドヤ顔を決めこむユキヒメと怒りの声を上げるレイジ。

 

そんな2人の喧騒も、やがては宴の中に溶け込み消え去っていく。

 

夜空には変わらず、星の輝きと月の光が満ちていた。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 場所が変わって北門の城壁。

 

そこに足を運んだレオの恰好は、普段と比べると随分ラフな格好だった。

 

ロングコートを着ておらず、上に着るYシャツは第2ボタンまで開けられている。当然腰に小太刀は差しておらず、武器は何も持っていない。

 

頭部と左肩には包帯が巻かれているが、本人にとっては動くのに支障は無い。

 

ぐるりと周りを見渡し、一番高所にある高台に目を付けてそこへと足を運んだ。

 

まだ戦後の処理が最低限にしか行われていないので道中には折れた剣や矢、砕けた兜に取っ手の壊れた梯子などがあったが、レオは構わず上を目指す。

 

両手が酒瓶で塞がっているからと無事な取っ手を足場にしてジャンプで登り、道が途切れているなら近くの瓦礫を足場にして三角跳びで飛び越える。

 

見る者が見れば、コイツ本当に怪我人か? と疑いたくなるだろう。

 

そんなこんなで、レオは程なくして目当ての高台に到着し、その場に腰を下ろす。

 

酒瓶のコルクを腕力だけで引っこ抜き、それなりにアルコールの度が強い酒をそのままラッパ飲みで口に含む。

 

もはや完全に舌が覚えた酒の味と少々強めのアルコールが体内に広がるが、レオは特に苦も無くソレを受け入れ、飲み込んで軽い息を吐く。

 

「美味いな……カクテルやウォッカとも違った味だ」

 

呟いて酒瓶を置き、懐から取り出したタバコを咥えて火を点ける。

 

虚空に吐き出した紫煙をぼんやりと眺めると、その先には夜を照らす月が見える。

 

そのまま夜空を眺めながら1人で酒と煙草を楽しんでいると、ふとレオの気配探知の範囲内に誰かの気配が入り込んできた。

 

「こんな場所で1人で月見酒とは、少々意外だな」

 

数秒後に聞こえた声に振り返ると、そこにいたのは酒瓶とグラスを手に持ったエルフの議長、アルフェウスだった。

 

議会の場で見た時よりも薄着の恰好をした彼はレオの隣に腰を下ろし、持っていたグラスの1つをレオに手渡した。

 

続いて持っていた酒瓶の蓋を開け、レオの持つグラスと自分のグラスに酒を注ぐ。

 

自然と2人の手に持つグラスが合わさり、カンッ! と音を鳴らす。そのままグラスの酒を一気に飲み干し、2人は同時に息を吐く。

 

「なんだか、無性に静かな場所に行きたくなりまして……」

 

「そうか……確かに、今のこの場所は酒を楽しむのに最適だな」

 

空には雲一つ無い満点の星空。

 

地上には月光を浴びて淡く光る広大な湖。

 

酒の肴に良いというのもあるのだが、この景色を見ていると心が落ち着くのだ。

 

今度はレオが酒瓶を持ち、アルフェウスと自分のグラスに酒を注ぐ。そのまま2人は黙って景色を眺めながら自分のペースで酒を口に運んでいく。

 

やがて口に運んだグラスの中が空だと気付くと、レオの眼前にアルフェウスの持つ酒瓶の口がひょいっと突き出される。

 

「私は頭が固いくせに肝心な時は優柔不断なエルフだが……良かったら心中の悩みを訊かせてくれぬか? 解決出来るかは分からぬが、少々のガス抜きにはなるだろう」

 

アルフェウスの自己評価に苦笑を浮かべ、レオは注いだ酒を口に運ぶ。

 

そして軽く息を吐き、数秒の間を置いてレオがゆっくりと言葉を口にした。

 

「……正直、自分でもよく分からないんですよ。今心の中で引っ掛かってるモヤモヤが何なのか。これじゃあ悩みと呼ぶのも怪しい」

 

そう言って、レオは手に持ったグラスを地面に置き、突然自分の左親指の肉を噛み切った。当然指先から鋭い痛みが走り、血がダラダラと流れ出す。

 

それを見たアルフェウスは少なからず驚くが、言葉よりも先に新たな変化が起こった。

 

レオの親指からダラダラと流れる血の量が、目に見える速度で少なくなっているのだ。

 

穴が開いた水風船のような勢いで流れていた出血が、今ではポタポタと水滴のような勢いで地面に落ちている。

 

アルフェウスがその光景に眉を顰め、レオが親指を一舐めして傷口を見せる。

 

すると、確かに肉まで噛み切ったはずの傷口はまだ少量の血を滲ませているが、既に傷口の表面が薄い皮膚の膜に覆われていた。

 

「こっち(エンディアス)に来てから、変化はあったんです。目と髪の色がおかしくなって、身体能力が目に見えて跳ね上がって、おまけにこの異常な治りの速さ。どう考えても普通じゃない」

 

その言葉に、アルフェウスは返答こそしなかったが無言で肯定する。

 

今見せたレオの治癒力は基礎的な身体能力が優れている獣人をも超えている。

 

新陳代謝が優れているなどのレベルではなくもっと別の……何かの異能を思わせるような異常性をアルフェウスは感じた。

 

「心の何処かで気にはなっていた。だけど実際、この力に助れられたこともあった。だから自分に都合の良い言い訳をして、考えるのを避けていた」

 

エルデの人間はエンディアスでは高い身体能力が発揮出来るようになるという一説を耳にした。

 

今はドラゴニア帝国と戦っているのだから考えるのは後回しだ。

 

……そうやって自分に嘘をついて、疑問を心の奥底に追いやった。

 

自分がまるで人の形をした化け物になったようで怖いと思ってしまうから。

 

だが今回の戦いであの男、伯爵と呼ばれていたヤツの態度と言葉が遠ざけていた疑問を再び引きずり出した。

 

改めて今の自分の様を見て、レオは自分の弱さに吐き気さえ感じた。

 

「……私が言えた義理では無いかもしれんが、それは悪いことではないと思う。心の弱さを常に見詰めて向き合える者などこの世にいないだろう。それに、レオ殿とてそのまま腐り果てるつもりはないのだろう?」

 

アルフェウスの問いに、レオは当然だと言うように左手を握る。

 

そして、血が滲んだ左手を広げ、レオは静かに呟いた。

 

「怖いのは変わらない。今すぐに解決は出来ないかもしれない。だけど、向き合う覚悟は出来ました。この力だけじゃなく、自分の過去のことも……」

 

そう。レオが目を背けていたのは自分の体のことだけではない。

 

1年前のあの日、レオの心に拭えぬ後悔を刻んだ雪の降る夜。その時に大好きな姉が言っていたことも。

 

知らなければならない。向き合わなければいけないのだ。

 

「……そうか。では、新たな一歩を踏み出す記念に……」

 

言って、アルフェウスは微笑を浮かべながら残り少なくなってきた酒をレオのグラスに注ぐ。

 

そして、2人は手に持ったグラスを天に輝く月に掲げ、グラスの酒を一気に飲み干した。

 

その時、レオの気配探知の範囲内に新たな気配が現れ、後ろから声が聴こえた。

 

「驚いた……議長も一緒にいるなんて……」

 

振り返ると、漆黒のドレスを靡かせたサクヤが驚きと呆れを混ぜたような視線を2人に向けていた。

 

続いて傍に置いてある酒瓶とグラスを見てサクヤは溜め息を吐く。

 

「怪我人が進んでアルコール摂取とは、いっそ清々しいわね」

 

「えっと……どうしてここに?」

 

「アルティナと龍那の手が空いたから怪我の治療に呼びに来たの。早めに治した方が良いと思ってね」

 

「分かりました。すぐに行きます……」

 

そう答えてレオは飲み干した酒瓶を持って帰ろうとするが、隣に座るアルフェウスがそれを手で制した。

 

「此処の片付けは私がしておこう。気にせず行くと良い」

 

言われたレオは少し考えるが、断るのも悪いと思い「お願いします」とだけ言ってサクヤと共に城壁の高台を降りて、街へと戻った。

 

高台に残されたアルフェウスは、何も言わずに空の満月を眺める。

 

だがやがて……

 

「良くも悪くも変わらぬものなど無い、ということか……」

 

……静かに呟いたその顔には、何処か救われたような微笑が浮かんでいた。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 「議長と何を話していたの……?」

 

特に会話の無かった街への戻り道、ふとサクヤが問いを投げた。

 

それに対しレオは、特に迷うこともなくすぐに返答する。

 

「自分の何十倍も生きてる人生の先輩にちょっとした人生相談をしてました」

 

「……私も一応は人生の先輩なのだけど?」

 

「男同士でしか話せないこともあるんですよ」

 

少し拗ねたようなサクヤに対して何処か煙に巻くような言葉を返すレオ。

 

それによって今度はむぅ、と頬を膨らませるのだが、そんな時彼女の脳裏に戦闘中にアイラに言われた言葉が思い浮かぶ。

 

 

『作戦が終わったらご褒美の1つでもくれてやればいいさ。きっと喜ぶぞ。そうだな……なんなら私が引き受けても良いが?』

 

 

あの時言われた言葉を思い出し、サクヤの頬が少し赤くなる。

 

別に不服なわけではないが、いざ言い出そうとすると少し気恥ずかしいのだ。

 

「ね、ねぇレオ……その、何かしてほしいこととか、欲しいものってあるかしら」

 

「?……急にどうしたんですか?」

 

突然の質問に首を傾げながら問うレオに対し、サクヤは視線を彷徨わせながら手をモジモジさせて答える。

 

「えっと……今回の作戦でレオにはとても負担を掛けてしまったし、何かご褒美でも上げようかと思って……」

 

「ああ、なるほど……」

 

サクヤの言葉に納得しながら、レオは遠い目で夜空を見上げる。

 

確かに、今回の作戦では随分とあちこちを動き回って苦労したような気がする。

 

だが、いきなりご褒美と言われも、基本的に物欲の薄いレオにはこれと言って欲しいものなどは思い浮かばない。

 

かと言って、してほしいことなどさらに思い浮かばない。

 

だが、せっかくの厚意を断るような薄情な答えも返したくはない。

 

(どうしたもんかな……)

 

顎に手を当てながら考え、何かないかとレオは頭を捻る。

 

そして数秒後、何かを思い付いたのかうん、と頷いてサクヤと視線を合わせる。

 

「じゃあ、今度休める時に2人だけの酒飲みに付き合ってください。良いお酒と料理を用意しますから」

 

「え? そ、そんなことでいいの……?」

 

「僕にとってはそれが“ご褒美”になるんですよ」

 

それだけ言って、レオは再び街の方へと歩き出した。

 

サクヤも慌ててその後を追い掛けようとするが、その途中でふとある考えが頭の中に浮かんだ。

 

(あれ?……よく考えたらこれって、夜のディナーに誘われたってことよね? しかも2人きりでの食事……それって、まるで恋人同士のデートみたいな……)

 

そこまで考えてサクヤの思考はグルグルと空回りを始め、謎の悶絶を始めた。

 

そんな突然の奇行に走り出したサクヤをレオは驚きながらもどうにか落ち着かせるが、再び街に向けて歩を進めたのはそれから30分も先のことだった。

 

ちなみに、本来の予定よりも治療に取り掛かる時間が大いに遅れてしまい、アルティナの機嫌がすこぶる悪くなったことにサクヤが強い罪悪感を感じたのは余談である。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

今回は戦いに勝利した後のちょっとした宴の話でした。

伯爵のちょっとした精神攻撃によってレオは自分に起こっている異変と自分の過去に向き合うことを決めました。

そして、今回になってようやく出て議長の名前。

言えない・・・・久々にプレイしたシャイニング・ブレイドで名前を見付けたなんて言えない。

次回は恐らく第4章のエピローグになると思います。5章に入れるかどうかは少し微妙ですが。

では、また次回。
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