シャイニング・ブレイド 涙を忘れた鬼の剣士   作:月光花

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ELS様、スペル様、ダークガタック様から感想をいただきました。ありがとうございます。

お久しぶりです。どうにか年明けるまでに更新出来た。

いや、まず目を向けるのそこじゃねぇだろと自分でも考えますが、とりあえず今回から第5章灼熱のバルカローラに入ります。

では、どうぞ。


第43話 熱砂吹き荒れる灼熱の大地

  Side Out

 

 ヴァレリア地方の北西部には砂漠と山脈が広がっている。

 

砂漠と言うのは基本的に人間が暮らす環境としては困難なものである。

 

陽の光が差している時の気温は常に50度を上回り、何処までも広がる大地は砂に覆われている。

 

暑さというのは、その場に立っているだけで精神と肉体に負担を掛ける。

 

常に絶えることのない熱気が苛立ちを誘い、体から流れる汗が不快感と共に体内の水分を絞り取っていく。

 

しかも、砂漠の地面は一面砂だらけ。歩くだけでも足に掛かる疲労は土の上とは比べ物にならない。

 

……そんな砂漠の上を、数十人の団体が列を作って歩を進めていた。

 

一団の名は、ヴァレリア解放戦線。

 

数日前に遠征の準備を整えてシルディアを出発した彼等は、帝国の目を盗みながらベスティアの砂漠を歩いていた。

 

殆どの者が日除けと砂塵の対策の為にフードを纏って歩いているが、その奥の肌には砂漠の殺人的な暑さのせいで堪え切れない汗が流れている。

 

そんな中……

 

「ハァ……ハァ……ごめんなさい、エルミナ……私は、ここまでみたい……」

 

「そんな……! ダメです、アイラ様! しっかりなさってください!」

 

「あぁ……残念ね……もっと、色々教えて、あげた、かった……」

 

「アイラ様ぁ!」

 

「……水を差すようで悪いんですけど、僕の背中で別れの言葉告げるのやめてもらえます?」

 

エルミナの悲痛な叫びに間を置いて、疲労の気配を濃く宿したレオが呆れた声を出す。

 

その姿は普段着ているロングコートではなく、グラマコアを使用した時に纏う水色のYシャツと薄青色のズボン。

 

その上に着ているはずのトレンチコートは脱力して背中に背負われているアイラの肩に掛けられており、左手に装備されたクリュスタルスからは氷剣が静かに冷気を放たれている。

 

何故こんな状況になっているのか……レオは玉のような汗を流しながら遠い目をして思考を巡らせた。

 

そもそも、現在レオの背中に背負われているアイラがこうなったのは何も今さっきの話ではない。

 

氷の魔法を得意とする故なのか、それともただの体質なのか……アイラは寒さに対して人外じみた強さを持っているが、反対に暑さにはかなり弱い。

 

砂漠の近くに足を踏み入れた瞬間、まるで湯の中に落ちた氷のようにアイラは倒れ伏した。それも直立した姿勢から真っ直ぐ倒れる形で。

 

予想以上の脆弱さに解放戦線はいきなり遠征の足を止められてしまい、何か方法は無いかと考えることになった。

 

砂漠を渡るので荷車の類は使えないし、今回は隠密性を優先してラクダも連れていない。

 

ならば必然的に誰かが背負って運ぶしかないのだが、そうなると次の問題は誰が運ぶかだ。

 

まず最初に考え付くのは体力にも能力にも余裕のある獣人のフェンリルと竜人の剛龍鬼だが、この2人は乗り物の代わりに多くの荷物を運んでもらう計画だ。

 

よって、次なる候補は解放戦線の切り込み役を務めるレイジ、リック、レオの3人となった。

 

しかし、レイジはアイラ程ではないが暑さを苦手とするユキヒメを、リックは体力的にも不安の大きいアミルとエアリィを武器形態で運ばなければならない。

 

消去法で必然的にレオが抜擢されるのだが、この時はレオ本人も他のメンバーも特に異存は無かった。

 

この場にいる全員、レオが動ける限りで毎日筋トレをしていたのは知っているし、そのタフさも実績で証明している。

 

だが、どういうわけかこのままでは終わらなかった。

 

移動方法に目処が付いた矢先、アイラが新たな問題点を提示してきた。

 

曰く、自分で歩かなかったとしてもこの熱気の中に長時間いれば溶ける、とのことである。

 

アイラ本人は至極真面目な顔だったのだが、それ以外の者の心境は揃って「どうしろと?」という感じである。

 

もう置いてった方が良いんじゃないだろうかこの人、などと思いながら再び会議が始まりそうだったのだが、この問題に関してはアイラが解決策を提示した。

 

その方法とは、レオがアイラを背負いながらグラマコアの冷気の吸収・圧縮・解放の能力を使って自分の周りの気温を強引に下げる、というものだった。

 

だが、いくらグラマコアの力があっても大気中の冷気は無限ではない。しかもこれから歩くのは砂漠、むしろ冷気があるのだろうか。

 

そこで、アイラの出番である。背負われている彼女がその膨大な魔力で冷気をひたすら作り出し、それをグラマコアに吸収させるのだ。

 

結果で言えば、策は成功した。

 

グラマコアの冷却能力によってアイラとレオの周りの気温は砂漠の上だというのに23度~25度近くまで減少した。

 

しかし、その代償とでも言うように別の問題が発生した。

 

単純な話、レオの負担が予想以上に大きかったのである。

 

確かにグラマコアの力で周囲の気温を下げることは出来た。しかしだ、そのグラマコアを制御しているのはレオである。吸収した圧縮冷気を周囲に散布させるだけとはいえ、術を行使する以上は精神力を消耗する。

 

さらに、気温を下げたしても直射日光の熱さはどうにも出来ないので、レオは気温が下がった空間の中にいながら他のメンバーよりも大きな負担をしょい込むことになったのだった。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

  Side レオ

 

 (やばい……思ったよりキツイ)

 

 現状を再確認し、僕は心中で溜め息を吐きながら右手で首元にぶら下げているボトルを持ち、水を飲む。

 

「アイラさん、水です」

 

「うむ……」

 

そのままボトルを弱々しく手を伸ばすアイラさんに手渡し、両手でアイラさんを背負い直して歩き出す。

 

砂漠というのは喉が渇いていなくても定期的に水分を取らなければ体が思うように動かなくなってしまう。

 

まあ、今は日差しと術の維持で体力も消耗しているのでなおさらだ。流れる汗も水分には違いないのだから。

 

ちなみに、間接キスだの何だのという問題は僕もアイラさんも気にしちゃいない。というか、砂漠を歩いている中でそんな余裕は無い。

 

(こんな状況じゃなければ役得なんだけどね~……)

 

僕も男なので脱力したことで背中に押し付けられている素晴らしい感触とか両手で持ち上げている女性特有の柔らかい肌などを嬉しいと思えるのだが、今気を抜くと暑さで頭がボォ~っとしてくるのでそれも半減だ。

 

「みんな! もう少しだけ頑張って! 目的地が見えてきたわ!」

 

サクヤさんのよく通る声が先頭から聞こえ、他の皆の顔に確かな喜びの色が差す。

 

かく言う僕も、ゴールが近いと分かったおかげで体に活力が戻ってくる。

 

「アイラ様、聞こえました? もう少しですよ!」

 

「ええ、聞こえたわエルミナ……すまないが頼むぞ、レオ」

 

「了解です」

 

返答を返しながら僕は先頭を歩くサクヤさんが指を差している方向に目を向ける。

 

強い日差しで輪郭がボヤけて見えるが、視ることには少々自信がある。目を広げたり細めたりなどしてピントを調節し、その姿を正確に捉える。

 

そこに見えたのは、一見すると横に広く、縦にそこそこ高い岩山。

 

だけど、僕の目はその山の中に見えた陽の光を遮る空洞のような部分を捉えていた。

 

「アレは……鍾乳洞? いや、それにしては大き過ぎる……石窟か?」

 

山の中に見える影の部分から思い付いた推測が零れるが、この距離ではハッキリと判別出来ない。

 

だが、少なくとも一つだけ大事なことが分かっていることがある。

 

「目的地は涼しそうだ」

 

そんなことを呟きながら、僕は疲れた体に喝を入れて再び歩き出した。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

  Side Out

 

 長い砂漠の道を歩いた解放戦線が辿り着いた場所は、レオの予想通り岩山を掘削した石窟だった。

 

ただ、その規模はインドに存在する石窟寺院などよりも凄まじく、岩山の内部に1つの街がそのまま収められていた。

 

その町の名は、石窟街ローラン。

 

並ぶ建築物はどれも中華を思わせるようなデザインをしており、街の中からは人々の活気の声や鉄を叩く音などが絶え間無く聞こえてくる。

 

ひとまず、街に到着した解放戦線のメンバーは殆どが砂漠越えで消耗していた為、荷解きを済ませてすぐに水浴びや食事など、それぞれ充分な休息を取ることとなった。

 

特に、疲労困憊でぜぇぜぇ言いながらも無言で地面に倒れ伏していたレオはレイジとリックの手により即座に水浴び用の湖に放り込まれ、水分補給を終えた後に泥のように眠った。

 

他のメンバーもそれぞれ休息を取り、準備を終えた解放戦線のメンバーは街の奥にある一段大きな建物……軍の集会場に集合することとなった。

 

「よく来て下さった、サクヤ殿。他の方々も、援軍に駆けつけてくれたこと、心より感謝する」

 

「久しぶりね、刃九朗。もっと早くに来られれば良かったんだけど。現在の状況を教えてくれる?」

 

感謝の言葉と共に解放戦線を出迎え、サクヤと握手を交わしたのは、忍者のような黒装束に身を包んだ白い鳥獣人だった。

 

その背には白と黒の対の色を持つ翼が見えるが、何故か黒翼の方は光沢を放つ機械的な翼となっている。

 

「うむ、簡単に言えば、ベスティアはかなり危険な状況にある。首都が侵攻された際に国王ディオクレス陛下が戦死され、我が兄バクートを含めた獣王十二将も殆どが生死不明の有り様。加えて、王城の地下深くに封印されていたダークドラゴンの体も敵に回収されてしまった」

 

「やっぱり、どの国も似たような状況ってわけか」

 

「だが、今最も深刻なのは避難民の方だ。首都から逃れて散りじりになった生存者は多数確認されているが、精霊力の低下による干ばつの悪化と帝国軍の追撃で深刻な被害が出ている」

 

砂漠という環境において水はまさしく生命線とも呼ぶべきもの。

 

ただでさえ水の確保が難しい砂漠の地で干ばつが悪化すれば人間も獣人もあっという間に死に絶える。

 

「大地の精霊力が弱まっているということは、沖合いの火山島に棲む炎の精霊王も帝国の手にかかったと見るべきですね。たしか、精霊王を守護するドラゴンの名は……」

 

「炎竜ブレイバーンだな……しかし、現在港は帝国軍に押さえられている。すぐに火山島へ向かうのは難しいだろう」

 

竜那の後を引き継ぐように答えた刃九朗の言葉に、全員が難しい顔をする。

 

ルーンベールやフォンティーナと違い、ベスティアの炎の精霊王は沖合いの火山島にいるので、向かうには船が必要になる。

 

ならば港を取り戻せば良いと考えるのだが、こちらもそう簡単にはいかない。

 

港というのは国交においては貿易の要であり、軍においては物資補給の要でもある。そんな場所ともなれば敵の守りは当然固い。

 

つまり現状において、火山島に向かう手段は無いということになる。

 

「……解放戦線の方々よ、精霊王の件が重要だとは理解しているが、今は生存者の救出を優先していただけないだろうか。昨今もたらされた情報なのだが、生存者を狩り集める部隊の中に4魔将の1人であるアルベリッヒの姿が確認されている。現状で奴を放置するのは危険なのも有るが、まずは生存者の確保を優先したいのだ」

 

刃九朗がその言葉を発した直後、ガタッ! と大きな音が集会場の中に響いた。

 

その音に反応した全員が視線を向けると、リックが座っていた椅子を倒すほどの勢いで立ち上がっていた。

 

「今、アルベリッヒと言ったか……? どこだ! 奴は今どこにいる!?」

 

「いや、それが……あのダークエルフは神出鬼没でな。ベスティアの各地を移動しているようで、拙者も動きを掴めていないのだ」

 

声を荒げるリックの剣幕に一瞬圧たじろぐが、刃九朗はどうにか冷静に返答する。

 

そして、今にも掴みかかりそうなリックを止めようとレイジが立ち上がり、後ろから肩を掴んで止める。

 

「落ち着けよリック、今はそれよりも大事なことがあるだろ」

 

「『それよりも』だと? 俺にとってはこれが一番重要なことだ!!」

 

「2人ともやめなさい! 今は私達が仲たがいしている場合じゃないわ!」

 

レイジの手を振り払いながらリックはさらに声を荒げるが、サクヤの制止の声で2人共押し黙る。

 

リックの顔には未だ不満や苛立ちの気配が漂っているが、サクヤの手がそっとリックの肩に添えられる。

 

「気持ちはよく分かるわ。でも、今は耐えてちょうだい……」

 

「……分かりました」

 

絞り出すような声を返し、リックは黙って再び椅子に座った。

 

集会場に重い沈黙が落ちるが、その中で静かにレオが片手を持ち上げて刃九朗に質問した。

 

「気になったんですが、帝国が生存者を狩り集めてるってどういうことですか? 殺しているのではなく?」

 

「うむ……理由は分からぬが、帝国は何故か生存者を見付けては捕らえて一箇所に集めている」

 

「その詳しい場所は?」

 

「大体の見当は着いている。だが、その場所は敵陣のさらに後方……情報収集も思うように出来んのだ」

 

それを聞いて、レオは視線をサクヤとフェンリルの方に向けた。

 

2人はその視線に対して無言で頷き、前に進み出たフェンリルが刃九朗と向き合う。

 

「ならば、まずは俺たちが帝国に対して波状攻撃を仕掛けて注意を引こう。その隙に敵陣の情報を集めてくれ」

 

「……承知した。そちらは任せてくれ」

 

「一先ずの方針は決まったわね。みんなも、異存は無い?」

 

サクヤが会議場にいる1人1人に視線を向け、満場一致を確認して隊長としての指示を出す。

 

「30分後に軍議を開くわ。各員は準備に取り掛かってちょうだい」

 

その言葉を聞き、全員が自分のやるべきことを頭の中で確認しながら席を立ち上がった。

 

帝国を相手に挑むのはこれで3度目。

 

最初はちぐはぐな所もあったが、これだけ経験を積めば自分が何をするかはもう分かっている。

 

先程声を荒げたリックも、自分のやることを理解しているからこそ一度深く息を吐いて席を立ちあがった。

 

そんなリックの背中をレイジは無言で見ていたが、肩をレオに軽く叩かれ意識を切り替える。

 

「今は僕達に出来ることをやっていこう。焦っても仕方がない」

 

「……だな。よし! オレ達も行くか!」

 

自分に喝を入れ、レイジとレオは集会場の外へと出て準備を開始した。

 

この時を引き金に、ベスティアにおける反抗の戦いが幕を開けた。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

オリジナルというか、息抜き的な理由で勝手ながらアイラ様が暑さに弱い描写を入れました。

でもこれ、そんなに間違ってもいない気がするんですよね。だって、アニメだと砂漠のど真ん中に氷で家を作って生活してた人ですし。

ひとまずストーリーの進行は今回はここまで。

次から打倒帝国に動き出します。

では、また次回。

皆さん、良いお年を。
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