今回は収容所の攻略に入って行きます。
では、どうぞ。
Side レオ
僕達ヴァレリア解放戦線がベスティアの石窟街ローランを拠点してから2週間が過ぎた。
会議でフェンリルさんが提案したように、僕達はこの一週間で現地の生き残ったベスティア軍と足並みを整えながら帝国軍に何度か波状攻撃を仕掛けた。
平原に森に雪山と様々な場所で戦ってきたが、今度の戦場は砂漠。今までとはまた感じが違う。
実戦を行う前に模擬戦による訓練を行ったが、それはもうひどかった。
まず移動だが、普通の地面と違って砂の上を走るので足への負担は大きく、時にはバランスを崩しそうにもなる。
次に攻撃だが、こちらも砂の上で足腰に上手く踏ん張りが効かずに攻撃を外したり、威力が足りないなどということがあった。
また上手くいかないのは前衛組に限った話ではない。後衛組も破壊力の強い魔法を考え無しに使えば砂塵を周囲に撒き散らして味方の視界を奪ってしまうし、弓矢の軌道も大きく狂う。
そんな模擬戦の様子を一部抜粋すると……
「くっそぉ~……一歩進む度に足が沈むようなこの感覚、落ち着かねぇ……!」
「文句を口に出すくらいなら足を動かせ、戦場のど真ん中で転んでやられるなんて笑い話にもならないぞ」
「そういうお前だって上手く走れてねぇだろ。さっきすっ転んだの前転で誤魔化してたとこ見たぞ、リック」
「砂地に顔面からダイブしたお前には負けるさ」
……とか
「もらったぁ!!……あり?」
「ごはぁ!! ……おいリンリン、オレは味方だろうが! 何でオレの脇腹にドロップキック叩き込んでんだよ!」
「にゃはは……ごめんごめん、砂に足を取られて狙いが狂っちゃった」
「ドンマイと言いたいけど……レイジもさっき足踏み外して僕の背中斬りそうだったよね?」
……とか
「わ、私がリックさんの足止めを頑張らなくては! 行きます、フレイム!」
「ちっ、距離が開いていてはこちらが不利か。ならば斬り払う、輝炎斬!」
ボオォォン!!
「ぶわっぷ! くそっ!目に砂が……!」
「『心』で気配を探ればいけるかな……って危なっ! ちょっとラナさん! 今雷撃を纏った矢が頬を掠めたんですけど!?」
「ごめんごめん、風で舞った砂のせいで軌道が狂っちゃった」
……などなど、危うく死人が出る危険さえあった。
もちろん、最初の1週間のほぼ全てを使って充分な訓練を積み、今では砂地での戦闘もしっかりこなせるようになった。
そこから1週間に渡って帝国との戦闘を続けているわけなのだが、今の所大きな問題は無い。
砂漠や岩場で遭遇する帝国の戦力はボーンファイター・アーチャー等の他にデカい蜘蛛のサンダースパイダー、巨大なサボテンに二本の触手が生えたようなダリアというモンスターが殆どだった。
つまりは人間がいなかったのだが、恐らくそちらは刃九朗さんの言っていた生存者を集めるのに駆り出されているだろう。
そして現在、その情報についての進展があったということで、集会場に足を運ぶこととなった。
* * * * * * * * * * * * *
Side Out
「皆、良く集まってくれた。先日、捕らえた敵の兵士を尋問し、例の民間人の収容施設を特定した。偵察隊による確認も済んでいるため、間違いの無い情報だろう」
集合を終えてすぐ、いの一番に告げた刃九朗の報告に全員の顔が引き締まる。
特にリックは顕著ですぐにでも刃九朗からその場所を聞き出して突撃しそうな雰囲気である。
「となると次の目標はその施設を陥落して民間人を助けることだけど……敵の警備はどうなの?」
「こちらが一気に打って出れば然したる障害にもならない……だが、現状ではそれは難しい」
「民間人が人質にされてるも同然ですしね。攻め入って人質を前に何も出来ませんってのは勘弁ですし……」
猫形態のリンリンの質問に対して刃九朗が首を重く振り、レオが代弁するように理由を口にする。
そう。一番重要なのは施設の戦力ではなく、民間人が捕らえられているということ。
結果その人達を危険に晒してしまっては本末転倒というものだろう。
「だが、このまま見殺しには出来ないだろう。何か良い手は無いのか!?」
苛立ちが半分、焦りが半分と言った風な口調でリックが声を荒げる。
その反応を予想していたレオは視線をフェンリルに向け、許可すると言うように頷きを返される。
「打開策として考えられるのは、少数……3、4人程度のメンバーだけで施設に忍び込んで警備を無力化。人質の安全を確保したら外に待機してる本隊が攻撃を開始して人質と潜入班を回収、という感じかな」
その作戦自体は、前からフェンリルやサクヤとも話し合って候補の1つに上がっていた。
つまりは隠密作戦なのだが、これは言う程簡単ではない。
単純に危険というのもあるが、帝国とて無能ではない。施設の警備は相応の能力を持った者が任されているだろう。
そして一度でも発見などされて失敗すれば、それは人質の死に直結すると言っても良い。
「……だったら、俺が行く。1人で行けば、見つかる可能性は減るはずだ」
「ちょっと待てよ! 流石に1人じゃ無茶だろ! オレも行くぜ」
「必要無い。来るな」
レイジが反対の声を上げるが、リックはそれをにべもなくバッサリと拒絶する。
無論納得などしていないレイジはさらに噛み付くが、それよりも先にサクヤとフェンリルが否定の声を上げる。
「ダメよ、リック。今回の作戦で単独行動は許可出来ないわ」
「発見される危険以前に、お前1人では確実に人手不足だ。先程レオが話したように、あと3人は同行させる」
フェンリルの言う通り、今回の作戦はただ敵に見つからなければ良いとうわけではない。
敵に異変を気付かれないよう素早く警備を無力化し、敵の増援や別動隊が来るより先に人質を救出・誘導する。
聞くだけでも明らかに1人だけでこなせることではないし、誰も口には出さないが後半の仕事はぶっちゃけリックに向いていない。
それを本人も頭で理解しているのか数秒だけ押し黙り、静かに頷く。
「……わかりました」
流石に解放戦線のナンバー1と2の2人相手に反論は出来ず、リックは渋々と言った様子で了承する。
それを理解しているサクヤは小さく溜め息を漏らすが、すぐに表情を引き締める。
「それじゃあ、次は潜入するメンバーと本隊との合流手順を決めましょう」
とりあえずだが大まかな作戦が決まり、会議の内容は次の段階に移行した。
ただ、各員の意見や提案が絶えず飛び交う会議の中、リックの表情には常に焦りを押し殺すような影が差していた。
* * * * * * * * * * * * *
ローランでの会議を終えて2日後、帝国の収容所を襲撃する作戦は静かに始まっていた。
砂漠に溶け込むように迷彩を施したローブを装備して施設に接近し、気配を一切掴ませずに内部に侵入したメンバーは一先ずローブを脱ぎ捨てる。
続いて自分の武器を取り出した4人、リック、レイジ、レオ、ラナ、刃九朗は周囲に見張りがいないことを確認してレオは段取りを確認する。
「……さてと、一先ず施設への侵入は成功だね。計画通り、此処からはメンバーを3組に分けよう。刃九朗さんは外の警戒と見張りの排除をお願いします」
「承知した。お前達も気を付けてな」
そう言って刃九朗は腰に差していたカタール型のナイフを抜き放ち、両の翼を広げると共に音も無く跳躍して姿を消す。
それを見届けた後、続いてレオの視線はレイジとリックに向く。
「レイジとリックは人質の救出と誘導、退路の確保をお願い。刃九朗さんに教えてもらった施設の見取り図は頭に入れたよね?」
「おう、大丈夫だ。それと敵は出来るだけ静かに倒す、だよな?」
「人質の救出が完了次第、オレ達は退路を確保して避難を誘導。その後は離れた場所で待機している本隊と合流する」
レオの問いにレイジとリックは頭の中に叩き込んだ作戦の手順を確認。
大丈夫だと互いに確認し、レイジは大太刀となったユキヒメを、リックは盾と剣に姿を変えたエアリィを手に走り出した。
そして、その場に残されたレオとラナも、武器を握り締めて歩き出す。
「残った私達の仕事は……」
「見張りを片っ端から始末する。行きましょう……」
身に纏う雰囲気が静かでありながら鋭さを纏い、『心』によって研ぎ澄まされた感覚が生きるモノの気配を捉える。
その位置を把握しながら頭の中で敵を始末する順番をシュミレートし、レオは歩く速度を一段上げた。
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Side レオ
今更なのかもしれないが、僕の能力は暗殺や隠密に非常に向いている。
もちろん、剣士としての自分を捨てているつもりは無いし、正面からの一騎打ちだって望むところだ。
だが、それを差し置いても今回の作戦が僕に向いているのは間違い無いだろう。
たった今殺した都合13人目の敵の死体を見ながら僕はそんなことを考えていた。
作戦を開始して既に10分。
僕とラナさんはほぼ順調に施設内にいる敵の排除を行っていた。
まず僕の『心』で敵の気配を探り、少し離れた位置まで接近。それから身を隠して奇襲出来る場所を探し、僕とラナさんで仕留める。
大体の流れはそんな感じだが、相手が複数の時もある。そんな時はタイミングを合わせて別々に奇襲を仕掛け、敵に異変を察知される前に仕留めている。
今も通路を歩いていた警備兵に背後から音を立てずに近付き、右手の握る麒麟が心臓を一突きに貫く。
「ぁっ!……ぅぁ……」
低い断末魔を上げて息絶える兵士の死体を音を立てないようにゆっくりと寝かせ、袖の中から取り出したダガーナイフを手首のスナップと共に投擲。
小さく風を切るような音を上げたダガーは前方の曲がり角から姿を現した兵士2人の内1人の喉元に突き刺さり、悲鳴も無く崩れ落ちる。
「なっ!? ……貴様っ……!」
自分の隣を歩いていた兵士が絶命したことに驚愕しながらもう1人の兵士が腰の剣を抜こうとする。
だが、それよりも早く弦を弾く音が僅かに鳴り、飛んできた1本の矢が兵士の胸元を貫いた。
「鎧越しに心臓を一撃……お見事です」
麒麟を鞘に納めて後ろを見ると、そこには構えた弓をゆっくりと下ろすラナさんの姿があった。
弓矢というのは銃と違って連射は出来ないが、発射の際に発生する音がかなり小さい。
加えて、ラナさんは矢に雷撃を纏わせて相手の動きを止めることも出来る。今回の作戦にはうってつけだ。
「止まってる相手ならこのくらい余裕よ。それより、これでちょうど15人目よね」
「ええ、気配も感じませんし、刃九朗さんが事前に調べてくれた情報通りなら施設内の地上部はこれで全部です。外から騒ぎが聞こえないってことは刃九朗さんの方も上手くいったみたいですね」
「残るは人質がいる地下ね……刃九朗が言うにはモンスターを見張りに置いてるらしいけど……」
「戦えない民間人相手なら知恵の回らない化け物で充分ってことでしょうね……僕達も行きましょう」
生き残りがいないか周囲の気配を探りながら、僕とラナさんは地下を目指して走り出した。
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階段を下りて地下に着き、僕が最初に感じたのは肌を逆撫でするような寒気だった。
いや、実際に室温が下がったわけではないが、周りの暗くて重い空気がそんな錯覚を感じさせた。隣を走るラナさんも同じような気分なのか、眉を寄せて険しい表情を浮かべている。
そして数秒後、僕の嗅覚が地下全体に広がる僅かな異臭を感じ取る。
(何だこの匂い……血と、あとは…… 何かが腐ったような……)
「……クソがぁっ!!」
その時、進行方向から聞き覚えのある声と重いモノを床に叩き付けたようなガシャン!! という音が聞こえた。
一瞬だけラナさんと視線を合わせて先に進むと、地下の中では比較的広い空間に出た。
そこには倒れ伏す魔物の死体が幾つも転がり、表情を怒りに染め上げたレイジとリックが中央付近に立っていた。
その傍には中の資材を床にぶちまけた木箱が倒れている。さっきの声と状況からどうやらレイジが木箱を蹴り倒すなりして中身をぶちまけたようだ。
「レイジ、リック」
名を呼ばれてようやく僕達に気付いたのか、レイジとリックはハッとなってこちらを見る。
周囲の気配を探っても生き残りはいないようだが、どう見ても今の2人の様子は変だった。
「何があったの?」
ラナさんが尋ねると、2人は数秒の重い沈黙を挟んで口を開いた。
「……さっき、捕まっていた人達に話を聞いた。此処では、毎日のように大勢の人が連れてこらえれて、それと同じくらいの人数が施設の何処かに連れて行かれる」
「その後に大勢の悲鳴がイヤってほど聞こえて、連れてかれた人達は皆死体になって戻って来るそうだ。しかも、その遺体を生き残ってる残った人達に埋葬させてる。そんなことが、此処でずっと続いてるって……っ!」
それを聞いて、僕とラナさんは思わず絶句する。
同時に、僕は地下に漂う僅かな異臭の正体を直感的に理解して僅かに吐き気を覚えてしまう。
収容所のはずが、地下に降りた途端に一転して処刑場と地下墓所(カタコンベ)に変貌するとは、もはやイカれてる。
「連れてかれた人達が何をされたかなんて考えたくねぇが、1つだけ分かったがある……ベスティア(此処)で殺された人の数は、ルーンベールやフォンティーナの比じゃねぇ……!」
苦渋を噛み締めるようにレイジが呟き、その場に沈黙が訪れる。
その時、僕の『心』が索敵範囲に近付いてくる気配を察知して後ろを振り向くと、少々慌てたような様子で走り寄る刃九朗さんの姿があった。
見張りをしていた刃九朗さんが慌てて降りてきたということは、外の方で何か問題があったのだろう。
「お前達、急いで本隊と合流しろ! アルベリッヒが大部隊の増援を連れて迫っている!」
その報告を聞いて、全員の思考が軽い驚愕と共に冷静に戻る。
今やるべきことを再認識し、改めて現状を確認する。
「レイジ、リック、生き残ってた人達は?」
「見張りの魔物を始末して通れるようにした地下通路を渡ってもらってる。外までの安全も確認した」
「だが、こんな場所に捕まってたせいでみんなかなり弱ってる。外に出て本隊と合流するにはかなりの時間が掛かるだろう」
そこまで聞いて、僕はどうするべきか考える。
最優先……というか、僕達の目的は捕まっていた人達を救うことだ。
それを成功させる為、今この場にいるメンバーだけで何が出来るのか、何をするべきなのか。
「……メンバーを2組に分けよう。刃九朗さんは今すぐ施設を出て本隊に民間人の救助と増援の手配を知らせて下さい。ラナさんは地下通路を通って逃げてる人達と合流、そのまま外まで誘導して本隊と一緒に離脱してください」
「拙者の役割に異存は無い。だが、お前達はどうするつもりだ?」
「此処に残ってアルベリッヒの部隊を足止めします。メンバーは……」
視線を横に動かすと、既にレイジとリックが目付きを鋭くして武器へと姿を変えたユキヒメさんとエアリィを手に取っている。
それを見てやる気は充分だと確認し、刃九朗さんに向き直る。
「……有志の志願者と僕の3人で務めます。そう簡単には潰されませんが、なるべく早く援軍を寄越してください」
「承知した。だが、くれぐれも無理はするなよ」
一度強く頷いた刃九朗さんは走り出し、凄まじい速さで地上への階段を駆け上がって行った。
続いてラナさんの方に視線を向けると、少々不安そうな目で僕を見ていた。
「本当に3人だけで大丈夫? 私も残った方が……」
「こういうのは女性の方が適任ですよ。それに、逃げた人達も精神的に参ってるでしょうし、パニックでも起こしたら大変です」
そう言うと、ラナさんは僅かに顔を俯かせながら黙って頷いて地下通路へと走っていった。
残された僕、レイジ、リックの3人は一度視線を合わせ、そのまま身を翻してラナさんとは反対の上の階へと歩を進める。
まず僕達3人がやるべきことは、捕まっていた人達が逃げ切るまでの時間稼ぎだ。ならば、敵を迎え撃つのは構造が少々入り組んだ上の階の方が良い。
だが、その前に……
「レイジ、リック、この地下を調べて分かったことを教えてくれる? 何の部屋があったとか、どんな道具があったとか。何か使えるものがあるかも……」
「構わないが……帝国の奴等が来るまであまり時間も無いぞ」
「この3人で取り掛かれば何とかなるだろうよ。んで、レオ……何すりゃ良い?」
……此処の人達が受けた苦しみには遠く及ばないだろうが、帝国にはそれ相応の報いを受けてもらうとしよう。
心の中で腹を括りながら、僕達は命懸けの時間稼ぎへと身を投じていった。
ご覧いただきありがとうございます。
メインの戦闘には入れませんでしたが、今回は此処で切ります。
ゲーム本編では5人で戦闘に挑めますが、こっちではそんなに人数を連れていません。
サクヤとかフェンリルを連れて来てるって、普通に考えたら違和感スゴイですしね。
では、また次回。