シャイニング・ブレイド 涙を忘れた鬼の剣士   作:月光花

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珍しく連投です。

では、どうぞ。



第4話 歓迎と拒絶

  Side Out

 

 城砦都市国家シルディア。

 

ヴァレリア地方中央の中央に位置するこの国は、規模こそ小国であるが、他国に繋がる多くの街道が交わる交差路の役割を担い、交易・外交を中心に栄えていた。

 

シルディアは強固な城壁に守られ、いざ戦闘になっても対応出来る戦力も存在していたのだが、帝国軍の攻撃を受けた今は国家機能の大半が失われ、戦力はもはや皆無だ。

 

しかし、辛うじて原形を留めた城壁の内部は、現在は故郷を追われた難民などが逃げ込む最後の避難場所となっている。

 

また同時に、帝国に対抗の意思を持つ義勇兵を中心に構成された舞台、ヴァレリア解放戦線の兵站基地でもある。

 

そのシルディアから少し離れた場所には、解放戦が前線にて使用している砦が街道沿いに存在している。

 

そこには、各地から集まった義勇兵、行き場を無くした敗残兵などが集っている。

 

 

 

 「……けっこう歩いたな~」

 

「仕方ないわ、銀の森を抜けるだけでも時間が掛かるもの。もう数時間は歩いてるんじゃないかしら」

 

「あれだけ深い森を抜けるのは、軽い山越えよりキツイかもね。でも、エルミナ……足取りが重そうけど、大丈夫? 少し休む?」

 

「い、いえ……だ、大丈夫です。道に迷ってしまった分、急がないと……」

 

長老議会から許可を得たアルティナが戻り、レオ達は夜明けと共に銀の森を抜けて、シルディアに向けて出発した。

 

現在は銀の森を抜けて街道を歩いているのだが、レオの言う通り、銀の森はその深さから外に出るのに、軽い山越えよりも体力を使った。

 

普通の道を使えばすぐに出られるのだが、帝国の目を避ける為に獣道を通ったのだ。レイジ、アルティナ、レオは許容範囲内だが、エルミナは少し疲れ始めている。

 

ちなみに歩く順番は、先頭からレオ、エルミナ、レイジ、アルティナの順番だ。

 

左肩が破けた制服を着る体にはもう傷が無く、朝に目が覚めると完治していたのだ。

 

目の色が変わったこともあるが、レオは自分の体に起こっている変化に気付いている。

 

そして、何故この世界の地理をまったく知らないレオが先頭なのかと言うと……

 

「なあ、リンリン……あとどれくらいだ?」

 

「そうね。この調子なら、おそらくもう少しで砦が見えてくるはずよ」

 

レイジの問いに答えたのは、レオの右肩に乗っている1匹の黒猫だった。

 

 

 

黒い毛並みが綺麗に整っており、尻尾の先端だけ毛の色が白い。誰かの飼い猫なのか、尻尾の先端にはピンク色のリボンが蝶結びで巻かれている。

 

それは、このエンディアスで猫の妖精ケット・シーと呼ばれる種族で、今のように人語を話すなど、普通の動物よりも遥かに高い知識を持っている。

 

この黒猫、リンリンはレイジとクラントールにいた頃から知り合いで、レオとエルミナはアルティナの家で初めて会ったのだ。

 

 

ちなみにリンリンは猫とはいえ、普段は自分の足で移動しており、誰かに乗せてもらうということはあまり少ない。

 

なら何故レオの肩に乗っているかと言うと、アルティナの家で起こったちょっとしたアクシデントが理由なのだ。

 

レイジ達がアルティナの家に戻る――→リンリンが姿を現す――→レオが普通の猫だと思って撫でる――→綺麗な毛並みや可愛さを褒める――→リンリンが喋りだしてお礼を言う――→何も知らなかったレオは激しく驚愕……こんな感じだ。

 

しかもレオは「こんなに綺麗な毛並みをしてるんだから、きっとオシャレを大切にする繊細な女の子だね」などと発言しており、羞恥心と共に速攻で謝罪した。

 

だがリンリンは気にしておらず、むしろ嬉しいと言っていた。それと、レオの撫で方が気に入ったのか、今ではすっかり懐いている。

 

元々動物にはよく懐かれる体質だったが、レオの撫では、ケット・シーにまで効果があるようだった。本人がかなり微妙な表情だったのは仕方ない。

 

そんなわけで、今では偶にレオの肩に乗って道案内を務めているというわけだ。

 

 

『しかし、西のクラントールから南のフォンティーナ、今度は中央のシルディアか。いつの間にか大陸内をかなり流されたものだ』

 

発せられたその声は女性のもの。だが、それはアルティナ、エルミナ、リンリンの誰とも一致するものではなかった。

 

その声の発生源は、レイジが持っている雪結晶の形をした鍔と美しい刀身を持つ青色柄の大太刀、『霊刀・雪姫』だった。

 

この大太刀はただの武器ではなく、その内部に上位精霊の化身を宿しているのだ。今は大太刀の姿だが、実は人間の女性の姿にもなれる。

 

こちらもリンリンと同じ時にレオとエルミナは目撃している。

 

髪と瞳の色は共に夜のような黒色であり、カチューシャのように紫色のリボンを蝶結びで巻いた髪の長さは首をくすぐる程度だ。容姿もかなりの美人である。

 

服装は黒を基調としたもので、何処か和服のイメージを浮かばせるのだが、上は胸の谷間を出して下はミニスカートという、大胆さではアルティナに並ぶものだ。

 

その上に着た陣羽織のような服で一見セーフに見えるのだが、アルティナの時と同様、レオにとっては充分に目の毒であった。

 

それでも彼女、ユキヒメから目を逸らさなかったのは、本人も無自覚で隠されたレオの大物ぶりを表していた。

 

 

そして、こちらのユキヒメも、レオとちょっとしたアクシデントを起こしている。

 

レオがレイジの素振りを見ている――→レオが綺麗な刀だと褒める――→レイジが良かったな、とユキヒメに話しかける――→人間の姿となる――→再び羞恥心と共に速攻で謝罪する……こんな感じだ。

 

姿が変わる時に「え? 斬魄刀?」とレオが1人で呟いたが、幸か不幸か、その内容を理解できる者はいなかった。

 

しかも、つい「……人の姿でも綺麗だな~」などと呟き、仕舞いには自爆した。

 

何だかんだで、何かを褒める度に恥をかく連続のレオだった。

 

幸いなのは、それを理由に全員がレオの人の良さを理解したことだろうか。

 

 

「……何だかんだで昨日は大変だったな、レオ。あの後、リンリンにこの世界のことを色々教えてもらったんだろ?」

 

『私とレイジは鍛錬で席を外していたが、どうだ? 何か得た知識はあったか?』

 

「うん。文字の読み方とか、もっと他の種族のこととかをね……

…種族の方は分かったんだけど、文字の方は少し苦戦したよ。エルミナも詳しく教えてくれたんだ」

 

「い、いえ、そんな……レオさんの理解力が高かったからです」

 

「そうね。エルミナの教え方も上手だったけど、レオは確かに優秀な生徒だったわ。昨日だけで文字もある程度読めるようになったのよ?」

 

「なるほど……それで朝、キッチンに置いてある調味料の名前を口にしてたわけね」

 

そんな風に話をしている内に、いつの間にか皆の顔には余裕が戻り始め、足取りも大分軽くなっていった。

 

そのまま歩いてしばらくすると、彼等の視線の先に1つの砦が見えてきた。

 

それが彼等の目指した、ヴァレリア解放戦線の最前線『アルゴ砦』だった。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

  Side レオ

 

 僕達のやってきたアルゴ砦は、その外見だけで最前線の雰囲気を感じた。

 

傷付いた外壁、所々引き剥がされて抉れた地面、木材で補強・建築された急造の建物、武器などが置かれていなくても、充分に戦いの凄さが伝わってくる。

 

「お前達か、隊長の言っていた新入りは。よく来てくれたな。俺はこのヴァレリア解放戦線の副隊長、フェンリルだ。よろしく頼む」

 

そして、砦に辿り着いた僕達を迎えてくれたのは今話している狼の獣人さんだった。毛並みの色から見て、銀狼というのがしっくり来ると思う。

 

来ている服装は中国のカンフーの服装によく似ており、肩の辺りには小さい陰陽太極図まで描かれている。

 

けど、そんな長身のリアル狼男を目の前にした僕は、驚きと感動で半分呆然としながらフェンリルさんの話を聞いていた。

 

それにしても、なんで新入りの僕達にわざわざ副隊長なんて、組織のNo2が出向くんだろう。今言った隊長が関係あるのかな?

 

「知っての通り、この砦は帝国軍の侵攻を食い止めるための拠点だが、戦況はあまり思わしくない。よって、戦力は常に不足気味なのが事実だ。

だから腕に覚えのある奴はいつでも大歓迎だ。お前達には期待しているぞ」

 

「承知いたしました。できる限りのことはさせていただきます」

 

「帝国の手から……私達の森を救うためですから」

 

フェンリルさんの言葉にエルミナは微笑を浮かべて頷き、アルティナは少々棘のある口調で答える。なんだか、ずいぶん対照的な反応だ。

 

僕も何か言わなければと思って答えようとするが、少し不思議そうな視線で僕を見るフェンリルさんが先に言葉を出した。

 

「……先程から俺のことをまじまじと見ているが、どうかしたのか?」

 

「あ、いえ……僕、数日前に異世界からやって来て、初めて獣人を見たので……」

 

「ほう、異世界から……では、俺の様な狼獣人(ウルフリング)を見たのは初めてか。この砦には獣人も多い、なるべく早く慣れておけ」

 

異世界の単語に反応してフェンリルさんが少し驚いた顔をしたが、さり気なく気を遣ってくれたことから良い人なんだとよく分かった。

 

そして、最後に残ったのはレイジなんだけど……どうにも僕とは違う理由で呆然としてたみたいで、ユキヒメさんに叱咤されて我に返り、挨拶をする。

 

「言葉を話す刀か……すると、その刀が霊刀・雪姫。お前がその使い手のレイジか」

 

「え? そうだけど……なんで知ってるんだ?」

 

刀が話したことにフェンリルさんは少し驚いたけど、逆に心当たりが有ったようで、レイジの質問に微笑を浮かべて答える。

 

「お前達のことは隊長から聞いている。西のクラントール王国の戦士なんだろう?

ここには、クラントールから落ち延びた者も大勢いるんだが……その中にお前と合わせておきたい男がいるんだそうだ。隊長に頼まれてな」

 

「オレと、そいつを? どうして? オレの知り合いなのか?」

 

「さあな、少なくとも知人ではないと思うが、とにかく会ってみろ。おい! リック! 少しこっちに来てくれ!」

 

フェンリルさんが少し大きめの声で呼ぶと、1人の青年がやってきた。

 

「……なんです?」

 

歳は多分、僕やレイジと同じくらい。身長は僕とレイジよりも低めだ。

 

外見は黒い髪に浅黒い肌が特徴的で、首に赤くて長いマフラーを掛けている。

 

少し陰がある顔つきをしているが、その眼光には確かな光があり、全身から周囲を拒絶するような雰囲気を出している。

 

でも、気のせいかな。なんだか、似たような雰囲気を知ってる気がする。

 

「こいつはリック。お前と同じクラントールの人間だ。こいつをお前に会わせろと、隊長に言われてな」

 

「へえ、そうなのか……えーと、こんちわ。オレはレイジ。出身地は別のところなんだけど、オレもあの時、クラントールにいたんだ」

 

レイジは軽く頭を掻きながら青年、リックに挨拶するが、クラントールにいたと聞いた所でリックの目が細められ、視線が鋭くなる。

 

「……何? そうか、お前がレイジか。異世界から来た戦士……」

 

異世界から来た戦士って……もしかして、レイジって実はかなりの有名人? ユキヒメさんも伝説の武器って言われてるし、有名になる要素は充分あるよね。

 

だけど、さっきからリックの視線が徐々に鋭くなってるのに気付いてる?

 

「あんなことになっちまったけど……でも、またあの国を取り返すことが出来るって思うんだ。だからさ、一緒に頑張ろうぜ」

 

「…………ごめんだね。何も守れない役立たずに用は無い。お前なんかに未来を託さなければ……こんなことには……」

 

レイジの言葉に、数秒の時間を挟んで返ってきたリックの反応は、明確な拒絶。

 

表情にはそんなに変化が無いけど、睨み付けるようなその目には怒り、後悔、悲しみ、憎しみなどの様々な感情が渦巻いていた。

 

まるでレイジ個人に恨みがあるような感じだけど、その目はレイジを見ているようで、別の何かを見ているようだ。その感情の本来の矛先もそっちなのかもしれない。

 

「っ!! それって、もしかしてクラントールのことを言ってるのか……?」

 

「…………」

 

目を見開き、体を震わせ、汗を流すレイジはリックに問い掛けるけど、リックは何も答えず、視線すら向けずにレイジの隣を通り過ぎる。

 

そのまま、リックは自然とレイジの少し後ろにいた僕と向き合う形になった。

 

気を遣ってくれたのか、リンリンは僕の右肩から飛び降り、少し離れた所で話を聞いているアルティナ達のところに向かった。

 

「お前は……」

 

「始めまして。僕はレオ、数日前にレイジと同じ異世界から来たんだ」

 

少し関心を持ったのか、小さく呟いたリックに簡単な自己紹介をする。

 

だけど、言葉の後半を聞くと、さっきレイジに向けたのと同じ視線を向けてきた。

 

「そうか……お前も、そこの役立たずと同じか」

 

まただ。僕を見ているようで、瞳の奥では別の何かを見ている。

 

役立たず、という言葉に対して別に思うところはない。実際、まだ何もしてないしね。

 

「役立たずは否定しない。でも、僕もこれから出来る限り頑張るよ」

 

僕の返答を聞いても、リックは何の反応も示さず、そのまま歩き出して雑踏の中へと溶け込んでいった。う~ん、嫌われたかな?

 

「そう落ち込むな。奴もわけありでな……いつもあんな調子で、誰にも心を開かない。まあ、味方に『死神』なんて噂を立てられれば、無理もないだろうが」

 

「死神……?」

 

「リックと一緒に出撃した者は、生きて帰れない。どんなに激しい戦いでも、リックだけはいつも生き残ってしまう。そんな噂があるんだ」

 

後ろから聞こえてきた声に振り返ると、そこには女の子が1人いた。身長が150~60程度なので、最低でも身長が170以上はある僕を見上げる形になる。

 

目の色は金色で長い茶髪を三つ編みにして左右に分けて垂らしている。頭には料理関係の職人が身に付けるような三角巾を被っている。

 

服装はスカートが横に長い緑色のワンピースで、その上には真ん中に大きなポケットが付いたエプロンを身に着けている。

 

「私の名前はアミル。アミル・マナフレア。リックの友達よ。リックの代わりに謝りに来たの……さっきは、ごめんなさい」

 

「アイツの友達? 長い付き合いなのか?」

 

「うん。クラントールにいた頃からね……幼馴染なんだ。リックも昔はあんな風に他人を避けたりしなかったんだけど…………」

 

 

カンカン!! カンカン!! カンカン!! カンカン!!

 

 

突然、砦の中にあった高台から鐘の音が鳴り響き、自然と会話が途切れた。

 

鐘の音と共に周りの人達の形相が変わり、全員がそれぞれの場所へと散っていく。

 

「これは……何かの合図か!?」

 

「見回りから敵襲の知らせだ! さっそくの仕事だ、行くぞ!」

 

そう言ってやって来たフェンリルさんの両腕には、縦折り式の黒くて長い鉤爪が装着されている。おそらく、アレがフェンリルさんの武器なんだと思う。

 

見ると、アルティナも弓を取り出しており、エルミナも先端に赤い宝玉が埋め込まれた木の杖を両手で握っている。此処に来る途中で聞いたけど、エルミナは魔法使いらしい。

 

「ごめん、アミル。話は後にしようぜ」

 

「うん! 私も、早くリックのところに行かないと!」

 

大太刀を肩に担ぐレイジに続き、近くの店の人に荷物を預けた僕を最後に準備完了。先頭を歩くフェンリルさんの背中を走って追いかけた。

 

だが、僕が両手に何も持っていないのを見たアルティナはハッとなり、走りながら僕の肩を叩いて声を飛ばす。

 

「ちょっと! そういえば、あなた武器無いじゃない! 大丈夫なの!?」

 

「武器は飛針と鋼糸が有るから大丈夫だよ。無手の戦い方だってちゃんと心得てるし、危ない相手がいたら足止めに徹する」

 

それに、出来ることが有るのに何もしないなんて絶対に無理だからね。

 

心の中で付け足し、僕は心の中のギアを戦闘のそれへと切り替え、走った。

 

 

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