シャイニング・ブレイド 涙を忘れた鬼の剣士   作:月光花

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今回はようやく装備を整えた主人公の初戦闘です。

では、どうぞ。




第8話 想いの武器と御神の本領

  Side レオ

 

 リックを先頭に到着した街道は、既に敵によって手が加えられていた。

 

ここからだと充分には見えないけど、木で作られた柵や小さいバリケード、傍にはこちらを警戒する敵の姿がある。どうやら、こっちを待ち伏せているようだ。

 

今僕達がいるのは高台。

 

リックも敵に気付いているようで、一緒に来たエアリィを守るように立っている。レイジは大太刀となったユキヒメさんを肩に担いでいる。

 

僕は片膝を付いて高台の下を見渡してる。弓兵の姿は見えないけど、もし矢が飛んできたら心臓か額に投げ返してやるとしよう。

 

さて、どうやら仕掛けるタイミングはこっちの自由みたいだけど、レイジ達はどうするつもりだろう。レイジなら今すぐ、とか言いそうだけど。

 

「サクヤさんに言われて出てきてはみたけど、今の所はのんびりしたもんだな。敵なんか何処にも見えないじゃないか」

 

…………多分、その発言に唖然としたのは僕だけじゃないと思う。

 

常に淡い光を放つ刀の姿のユキヒメさんも一瞬だけ輝きが止まったし、リックの目も冷たい眼差しから呆れたような感じになった。せめての救いはエアリィの苦笑だろうか。

 

「……お前の目は節穴か?」

 

『まったくだ。先代であれば、これほどまでに露骨な待ち伏せに気が付かぬようなことはなかったであろうに。ああ、嘆かわしい……』

 

リックとユキヒメさんの2人から容赦ない言葉と冷たい眼差しが送られ、レイジは高台から身を乗り出してもう一度周りを見渡す。

 

「なんだよ、敵なんてどこに…………あ! し、しまった! あそこの物陰か! くそ、あっちにもいやがる!……ちくしょう、気付かなかった」

 

「ついでに言うと……物陰の近くに4体、岩陰に3体が固まってるね。ウルフとゴブリンしかいないみたいだけど、殆ど同種でペアになってる」

 

レイジの視線に合わせ、指で場所を差しながら敵の情報を伝える。岩陰や死角の場所は『心』で探ったので、リックとエアリィにも分かるように説明する。

 

すると、その場の全員がまた黙り込んでしまった。しかも視線の先には僕がいる。

 

レイジの時のように呆れるような視線じゃないけど、僕は軽く首を傾げる。

 

「……前にも思ったんだけどさ、レオって、何でそんなに敵の場所とかがハッキリ分かるんだ? しかも目を瞑ったままで」

 

「ああ、そのこと。コレ、僕の使う流派の技なんだよ。視界からの情報を遮断して、音と気配だけで相手の居場所を見抜くんだ」

 

と言っても、これを自分の意思で完璧に使えるようになったのは、ほんの数ヶ月前。でも一度覚えてしまえば、この技の練度は面白い位に上昇した。

 

今ではドア越しだろうと室内の敵の数がすぐに分かるし、明かりの無い暗闇の中なら目を開けている場合よりもよく見えると思う。

 

「まあ、僕のことはいいよ。それより、奇襲は無理そうだけど、すぐに仕掛ける?」

 

「ああ、問題ないさ。蹴散らしてやるぜ!」

 

力強く頷いて大太刀を握り直すレイジ。続いてリックの方に視線で問い掛けると、無言で肯定するようにエアリィの方を向く。

 

「どうだ、エアリィ。行けそうか?」

 

「う、うん。いつでも、いいよ……?」

 

変わった発言をしたわけでもないのに、僕はその問い掛けに僅かな違和感を感じた。

 

戦えるか? ではなく、準備はいいか? という感じの聞き方だ。

 

問われたエアリィは若干緊張気味だが、力強い瞳で答える。

 

「そうか……じゃあ、頼む。でも、無理はするなよ?」

 

リックの声に無言で頷き、エアリィは瞳を閉じた。

 

次の瞬間、エアリィの体を小さな光の奔流が包み込み、差し出したその手をリックが握った途端、体が光と共に姿を変えていった。

 

光の奔流がその全身を包み込み、リックが腕を上に振り上げる。すると、光の中から現れたのは白い十字架が描かれた少々大き目の碧色の楯だった。

 

いや、それだけじゃない。楯の持ち手にある新たな武器、楯と同じ透き通るような碧色の刀身を持つロングソードもある。騎士剣(ナイトソード)という言葉も合いそうだ。

 

 

碧色の剣と楯。それが、今僕達の目に映るエアリィの姿だった。

 

 

「え!? え、エアリィが……剣と盾に変わった……?」

 

『これは……やはり、この娘達は……』

 

レイジが呆然と呟くが、ユキヒメさんは何か心当たりがあるのか冷静にしている。

 

僕も驚きだけど、無意識にリックとエアリィの気配を読み取ったことで、その驚きは殆ど失われた。

 

目の前にいたはずのエアリィの気配が、ハッキリと見えなかったのだ。この曖昧な気配を、僕は前にもアミルから感じた。

 

(アミルの時と同じ……そうか、だから突然現れたみたいに……つまり、2人は……)

 

様々な情報要素が頭の中で連結し、1つの答えが導き出される。

 

だけど、それが正解かどうかを訊ねる勇気なんて、僕には無かった。

 

『はぁ……はぁ……リック? 私、ちゃんと変身できてる? まだ、慣れてなくて……これで戦えるかな?』

 

「ああ、ちゃんとできているよ。剣と盾からエアリィの心が伝わってくる。それじゃ、行くぞ。大丈夫か?」

 

『……だ、大丈夫。リックもいるから……リックと一緒に戦いたい、それが、今の私の願いだから……』

 

その答えを聞くリックの目はとても悲しそうで、何かを必死に耐えるようだった。

 

その時、隠れていた気配が揃って一斉に動き出すのを感じた。どうやら、こっちを待ち伏せする気は失せたらしい。まあ、この空気の中では救いかもしれないけど。

 

「敵が動き出したみたいだ……どうする?」

 

僕の問いが沈黙を破り、リックは視線だけで頷いて歩き出す。その先は敵の陣営だ。

 

レイジは背中を見せるリックに戸惑いながら問いを投げようとしたけど、それよりも先にリックは高台から飛び降り、敵陣の中央へと突っ込んでいった。

 

「おい、リック!……くそ、なんだったんだよ今の……」

 

「レイジ、それは後にしよう。今は……」

 

『うむ。目の前の敵を叩くぞ! もたもたするな!』

 

ユキヒメさんの言葉にレイジは気を引き締め、再び大太刀を握り直す。

 

2人で同時に高台から飛び降り、着地した場所からレイジが右翼、僕が左翼を攻めるような形になる。そして、少しでも余裕が出来れば、リックの援護もだ。

 

「オレの方はユキヒメがいるけど、レオの方は1人で大丈夫か? この前の戦闘で怪我もしたし、一緒に行動した方がいいんじゃないか?」

 

「心配してくれるのは嬉しいけど、今回は無用だよ。今の僕は、簡単には負けないから」

 

僕は左右の腰に差した小太刀を両手で抜刀し、微笑を返す。

 

今までは徒手格闘と暗器だけで戦ってきたけど、今回は相手の武器を盗んだ真似事でもなく、本当の小太刀二刀、僕が扱って最も馴染むと自覚している戦闘スタイルなんだ。

 

「んじゃ、行こうか」

 

「おう!」

 

同時に走り出し、互いに自分の武器を構えて突撃する。

 

さあて、御神流見習いの本領発揮といきますか!

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 接敵してすぐに目に入って来たのは、木の柱で作られた柵、バリケード。

 

その先には見える限り2体のゴブリンが先端にスパイクをびっしり生やした長い鉄の棒、釘バットならぬ、スパイクステッキを構えており、その傍には巨躯の狼、ウルフが唸り声を上げながら待ち構えている。

 

だけど、生憎と後退、停止の選択肢は存在しない。

 

左手の龍麟を逆手に持ち替え、3番鋼糸をセットして左手を振るう。極薄の鋼糸は鞭のように飛び、僕の腕の振りに従ってバリケードを数回“通過”する。

 

即座に鋼糸を巻き戻し、龍麟を順手に持ち替えながら走る速度をさらに上げ、走り幅跳びのように跳躍してバリケードに飛び蹴りを叩き込む。

 

すると、バリケードは蹴りが当たった場所を中心にバラバラに崩れ落ち、それらは蹴りの衝撃でゴブリンとウルフの頭上に降り注ぐ。

 

小太刀の方はまだ未熟だが、暗器の扱いなら僕の腕は御神流の師範代に匹敵する。これは一切の自惚れもなく断言できる。

 

そして、今の僕の腕ならば3番鋼糸で木材を斬り裂くのも余裕だ。

 

木材が降り注ぎ、ゴブリンとウルフは行動を制限されて混乱する。

 

そこへ姿勢を低くして降り注ぐ木材の中を走り抜き、ゴブリン2体の側面に回る。すぐさま右手の麒麟を振り下ろし、一体の首を刎ねる。

 

隣にいた仲間が死んだことに気付き、もう一体が僕の頭部を狙ってステッキを右薙ぎに振るってきた。右膝を曲げ、姿勢を下げてそれを回避する。

 

僕はそのまま龍麟でゴブリンの手首を斬り裂き、立ち上がろうと踏み出した右足の震脚と共に麒麟で刺突を放ち、ゴブリンの心臓を貫く。余剰の衝撃でゴブリンの体はそのまま後ろに吹き飛び、麒麟は勝手に引き抜けた。

 

背後を見ると、降り注いだ木材の中から出てきた2体のウルフが姿勢を低くして牙を見せ、今にも飛び掛るように力を溜めている。

 

僕は両手の小太刀を鞘に納め、左腰に差した麒麟で抜刀の構えを取る。そこからは動かず、2体のウルフと睨み合うように相対する。

 

だけど、その睨み合いは数秒で終わり、1体のウルフが飛び掛ってくる。

 

同時に僕も動き出し、抜刀の構えから両足で地面を蹴った加速で距離を詰める。そこから麒麟が抜刀され、飛び掛ってきたウルフの体を“半分”に両断した。

 

 

『御神流奥義之壱・虎切』

 

 

これは一刀での遠間からの抜刀による一撃を放つ奥義。基本的に小太刀二刀で戦う御神流の中では一刀のみ使う隠し技に近い。

 

抜刀術と鋭い踏み込みを合わせた高速の斬撃は威力も保証付きで、『射抜』ほどではないが、その射程も踏み込みの練度によって広がっていく。

 

両断したウルフの横を速度を殺さずに通過し、僕は左手で再び龍麟を抜刀する。その先には飛び掛ろうとする寸前のもう一体のウルフ。

 

走りながら左を突き出すように前へ、右手を引き絞るように後ろへと構えて、僕はもう一度両足で地面を蹴って再加速する。

 

 

『御神流奥義之参・射抜』

 

 

刺突が飛び掛かろうと跳躍したウルフの腹を突き破り、僕の両足で働いた急ブレーキによって体が前方に吹っ飛んでいく。

 

飛んでいったウルフの体は岩に激突し、小さな血飛沫を上げて絶命する。

 

その様子に少し心が痛むけど、一瞬でそれを切り捨てて、その場に伏せる。その直後、僕の頭上を背後から近付いていたゴブリンのステッキが通過した。

 

僕は振り返らずに麒麟と龍麟を逆手に持ち替えて、龍麟を左から後ろへと振るい、麒麟を脇の下を通すように真後ろへと突きを放つ。

 

すると、龍麟は左からゴブリンの首筋を、麒麟は心臓を貫いた。

 

2本の小太刀を同時に引き抜き、倒れるゴブリンを背中にして再び走り出す。

 

進んだ先にいたゴブリン3体の内2体に目掛けて飛針を投擲し、痛みに怯んだ間に近付いて左、右の順に振り下ろした小太刀で首筋を斬り裂く。

 

残る一体には7番鋼糸を首に巻き付けて腕を引き、体勢を崩した瞬間を狙って『虎切』により胴元を右逆袈裟に斬り裂き、斬り抜きの一閃で仕留める。

 

そしてすぐにその場から前へと跳躍し、左右に隠れていたウルフの飛び掛りを回避する。着地と同時に両手で飛針を投擲し、動きが怯んだ隙に接近。

 

一体を『徹』を含めた右拳で頭蓋を砕き、もう一体を龍麟で首を斬り落とす。

 

周りを見渡した後に敵の気配が無いことを確認し、僕は深く息を吐いて呼吸を整える。体力の疲労はそんなにひどくないけど、気持ちの方を少し落ち着けたい。

 

でも、やっぱり思った通りだ。小太刀があれば、今の僕ならこれくらいは軽い。

 

(小太刀二刀の調子は悪くない。いや、無手の技術が向上したおかげでむしろ良くなってる……それにしても、サクヤさんから普通に受け取っちゃったけど……)

 

視線の先にあるのはサクヤさんがくれた二本の小太刀。今更だけど、これは二本ともかなりの業物だ。価格なんて多分想像もつかない。服の件に続いて物凄く申し訳ない。

 

だけど、こうして使ってみて、僕はどうにも腑に落ちなかった。

 

切れ味も、重さも、手触りも、全て文句が無い。そう、“初めて使う小太刀だというのに、異常な程に手に馴染む”のだ。まるで僕の為だけに存在するかのような一体感すら感じる。

 

それは衣服も一緒で、初めて着る服なのにまったく違和感を感じない。むしろ僕が普段から来ている私服よりも体に馴染むし、動きの邪魔にならない。

 

(悪い事は一切無い、むしろ良いことだけ……だけど、これは幾らなんでも……)

 

「お~い! レオ~!」

 

考え込んでいると、後ろから聞こえてきたレイジの声に振り返る。

 

レイジは大太刀を肩に担ぎ、リックは楯の持ち手に剣を収納してこちらに歩いてくる。見た所、目立つ傷は見当たらないので2人も無傷なんだろう。

 

二本の小太刀を一振りしてゆっくりと鞘に収め、僕も2人の方へ向かう。歩きながら『心』で周辺一帯の気配を探ってみたけど、敵の気配はもう無い。

 

「すごかったなぁ! 素手でも充分戦えたのに、武器持ったら別人みたいに強かったぞ!」

 

『うむ。確かに、素手で戦うには勿体ない程の実力だ。見違えたぞ』

 

「まだまだ見習いの身だよ。僕が目指す人の強さは、こんなものじゃないからね」

 

夢の人はもちろん。その周りにいる人達の強さは今の僕とは次元が明らかに違う。

 

そう。御神流の強さはこんなものじゃない。もっともっと上がある。

 

「とにかく、敵は全部片付けたんだし、もう戻ろう。今回はあくまで偵察の第一陣なんだから」

 

「そうだな、そうすっか」

 

「終わったよ、エアリィ……さあ、帰ろう……」

 

『うん……』

 

僕の提案に全員がそれぞれ頷き、僕達は来た道を歩いて戻った。

 

ただその間、レイジの視線はリックとエアリィに向けられていて、リックもそれに気付いているみたいだけど、あえて無視していた。

 

(これは……帰ったら一波乱あるかもなぁ~……)

 

ちょっと疲れたような小さい溜め息を吐き、僕は空を見上げた。

 

空の色は、僕の小さな気苦労を現すように、少し曇り気味だった。

 

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

今回は主人公の軽い無双でした。

やっぱり、専用の装備があると無いとじゃ全然違いますからね。

では、また次回。
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