妖之恋2020 -LILAC-   作:伊須鳥

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2日目 -月夜に咲く- (前編)

他人の家にいるせいか、いつもよりだいぶ早く目が覚めた。旅行先とかでよくある話だ。時計はまだ6時を指している。障子の外を覗くと、空はまだ暗い。不意に昨日の桜の絵が途中だったのを思い出して、続きを書くことにした。障子を開けると、涼風と共に光る花びらのようなものが舞い込んで来た。

十分足らずで絵は完成した。

だがまだ6時過ぎである。

せっかくだし、庭を散歩してみることにした。外には入り口に入った時に見えた、広大な庭園が広がっている。庭の作りとかそういうのは俺にはさっぱりだが、立派な庭だという事は一目でわかった。

耳をすませると、奥の方で何かを振る音が聞こえる。

こんな朝早くに誰だろうか、と音のする方へ行ってみると、妖夢さんが木刀で素振りの練習をしていた。朝練、というやつか。

向こうもこちらに気づいたらしく、こちらに駆け寄ってきた。

「おはようございます、〇〇さん。早いですね。」

「おはようございます。朝練ですか?…というか剣術やってるんですか?」

「はい。昨日申し遅れましたが、私の仕事はこの家の家事とか雑務とかと、主人である幽々子様の護衛、あとは、この庭の手入れとか、まあ色々ですね。」

「手入れって…もしかしてこの庭も妖夢さんが!?」

「は、はい。私の作です。どうでしょうか?」

…なんちゅう子だ…。

「あの…もしかして変でしょうか…?」

あっけにとられていると、不安そうな声で聞いてきた。

「いやいや、その逆ですよ。こんな見事な庭を作れるなんてすごいです。」

「ほ、ほんとですか?ありがとうございます!」

反応がいちいち可愛らしい。その上こんな見事な庭園を作り上げる上、剣術まで…文武両道、完全無欠、非の打ち所がない、とはこういう事をさすのだろうか。

そうこうしているうちに、幽々子さんも起きてきた。

「あら、妖夢に〇〇君じゃない、2人とも早いわね。」

「おはようございます幽々子さん。」

「おはようございます幽々子様。」

「おはよう。そろそろ朝ご飯の支度。よろしくね、妖夢。」

「はーい。」

それだけ言うと幽々子さんは目をこすりながら部屋に入っていった。

「…よし、それじゃあ俺も着替えなきゃ…あ、どうしよう。昨日洗濯に出しちゃったんだ。」

「ああ、それでしたら昨日のうちに、枕元に予備の着替えを置いておきましたので、そちらをお使い下さい。私の祖父のお下がりですが…よろしいですか?」

「いえいえ大丈夫ですよ。では、これで失礼します。」

「はい、ではまた後ほど。」

そう言って俺も部屋に戻り、着替えと支度を済ませた。

それからしばらくして朝食になった。朝食は、白ご飯に味噌汁、煮物と漬物だった。毎度ながら彼女の料理の腕には感心させられるばかりだ。

「今晩の縁日だけど、私達も行こうと思うわ。その時は案内よろしくね。」

「わかりました。」

今晩が縁日で、俺は朝から設営の手伝いをやらされることになっている。翌日には片付けを済ませ、夕方にはここの世界ともおさらばするつもりだ。いつまでもこの屋敷にお世話になるわけにもいかない。

食事を済ませたのち、俺は博麗神社へ向かう事にした。と、門から出たところで俺は踏みとどまった。

すっかり忘れていたのだ。この無限階段の存在を。すると後ろの方から俺の名を呼ぶ声がした。妖夢さんが俺のもとに駆け寄ってきた。

「私もご一緒します。」

「え、ああ…すみません。」

妖夢さんにおぶさってもらい、地上へと降りていった。

女の子にずっとおぶさってもらうのも申し訳なかったし、みっともなかったので地上についたところで下ろしてもらった。

神社までは二人で歩くことにした。

それにしても、昨日は夜だったからあまりよく見えなかったが、幻想郷の景色というのは、向こうの世界ではお目にかかれないような、懐かしさをそそる風景であった。

「そういえば〇〇さんが昨日私にくださった絵なんですけど、あれはなんという湖なんですか?」

「いえ、あれは湖じゃなくて海ですよ。」

「海…?」

妖夢さんはきょとんとしている。

「もしかして妖夢さん、ご存知でない?」

「は、はい。恥ずかしながら。私は普段からここで生活している身なので…」

そうか、幻想郷には海がないから、妖夢さんは知らないんだな。

「海っていうのは…まぁでっかい湖みたいなものです。世界の大部分を占めていて、陸地から見ると、湖が地平線の彼方一面まで広がっているような所なんですよ。」

「へぇ…」

下手くそな説明ながらも、妖夢さんは真剣に聞いてくれていた。

「〇〇さんもよく行かれるんですか?」

「ええ。嫌なこととか、忘れたいこととかがある時によく行きます。あの景色を見ていると、なんというか、そういう悩み事が小さく思えてきて、気づいたら忘れているんです。」

「ふーん…いいなぁ。いつか私も行ってみたいです。あ、着きましたよ。」

そんなこんなで、神社まで到着した。

境内では霊夢が掃除をしている。

「あら、早かったわね。…で、なんでコイツと一緒なの?」

と妖夢さんに目をやった。

「私ですか?私はその…〇〇さんの監視です。えっと…〇〇さんが迷ったり、どっか行ったりしないように監視するよう幽々子様に言われてまして、はい。」

「いや…僕別にどこも行きませんよ。」

霊夢はちょっと考えてからま、いいわ。と答えた。

「とりあえず裏庭の倉庫にあるもの、全部出してちょうだい。」

「「はーい。」」

霊夢は俺と妖夢さんを境内の裏の倉庫迄連れてきた。中には段ボールやテントの屋根や鉄パイプが置いてある。

「これ全部出しといて。」

「え、これ全部?」

「あんた男でしょ。これぐらいできるでしょ。それに助っ人もいるし。」

「ま、まあそうだけど…」

そう言って振り返ると、妖夢さんが親指を立てた。一緒に頑張りましょう、と言わんばかりに。

「分かった、分かったよ。」

とりあえず妖夢さんの助けも借りながら運び始めた。段ボールは何とか自分で持てるが、妖夢さんと協力して段ボールを運ぼうと2、3回往復してきた時、それは起こった。さっきまで山積みになっていた資材が、全てなくなっている。霊夢がやったのかと思ったが、霊夢は霊夢で境内の掃除をしている。となると、一体誰が…

「あ、もしかして。」

妖夢さんが心当たりがあるらしく、表のほうに戻っていった。俺も後を追った。

鳥居の前で霊夢と誰かが話している。魔理沙ではなさそうだ。よく見るとその人は、空中によりかかっていた。ハイレベルな空気イスでもしているのかと思って寄ってみると、二人が気づいたらしい。

「紹介がまだだったわね。こいつは八雲紫。まあ、幻想郷の最高責任者ってとこね」

「こんにちは、少年くん。」

「こんにちは、紫さん。」

ゆかりんでいいわよ、とゆかりん…紫さんは笑って言った。よく見ると彼女は空気イスをしているのではなく、穴のようなものに寄りかかっている。妖夢さんが、彼女は境界を操る能力を持ち、今はその結界にもたれかかっている、という事を教えてくれた。

「あ、そうだ、あれまだだったわね。」

紫さんは何かを思い出したようにその穴からさっき倉庫にあった資材を引っ張り出した。この人の仕業らしい。まあお陰で手間が省けたが。

「あと、ついでにこれも。私からの差し入れ。よかったら三人で食べて。」

そう言って紫さんは再び禍々しいスキマに手を突っ込み、中から菓子を出して俺たちに渡してくれた。取り出したい時に取り出したいものを出せるスキマとは、便利なものである。三人で紫さんのお菓子を食べながら談笑していると、紫さんが妖夢さんに突拍子も無いことを聞いてきた。

「ところで妖夢は、この少年のことをどう思ってるの?」

「!?」

妖夢さんも驚いたようで思いっきりむせた。

「う…ゲホッ…な、なんですかいきなり!?」

「気になったから。」

と紫さんは笑いながら答えた。

「で、実際どうなの?」

と霊夢も詰め寄った。

「そ、それはまあ…〇〇さん、見た感じすごく親切な方ですけど…」

「ほうほう、それでそれで?」

「親切な…方ですけど…」

そう言ったところで妖夢さんは口ごもってしまった。そりゃまあ、答えに苦しむよな。昨日会ったばかりなのにこんな質問されて。

「あら妖夢、幽々子が呼んでるみたいよ。」

紫さんが隙間をこじ開けると、幽々子さんが顔を出した。

「妖夢、そろそろ戻ってらっしゃい。」

「あ、幽々子さま…分かりました。すぐ行きます。」

そう言うと妖夢さんは軽くお辞儀すると、早足で行ってしまった。

「それじゃあ〇〇君、夕方になったら私たちもそっちに行くからよろしくね。」

幽々子さんもそう言ってスキマから姿を消した。

「…んふふ。」

二人の姿が見えなくなるやいなや、霊夢と紫さんが俺の方をにんまりとした顔で見始めた。

「…なんですか二人とも。」

「いや〜、モテる男っていいわね〜。」

「まさかあの庭師が…ねぇ。」

「…はぁ…。」

といった感じで、しばらく俺に対する弄りが続いた。別にあの反応で決めるのは流石に早とちり過ぎではないか。まぁ仮にそうだったとしたら、嬉しい事この上ないのだが。

その後、出し物をする妖怪たちが集まってきたおかげもあり、縁日の準備はお昼には終わっていた。

やることのなくなった俺は、縁側で霊夢と将棋を指していた。

「ところで、私あんたを見送った後思ったんだけど、あの階段をどうしてんの?普通に登ったら数日かかるわよね?」

「ああ…しょうがないから妖夢さんにおんぶしてもらってる。」

「あぁ…なるほど。」

霊夢はため息をつきながら頷いた。

「分かった。あんたには特別に、空飛ぶ方法教えてあげる。簡単だから。」

「え!?」

「別にやろうと思えばできると思うわ。ほら、裏庭で特訓してあげるから。いつまでも彼女の背中じゃ恥ずかしいでしょ?」

「…彼女じゃねえから。まぁ、確かにみっともないから、お言葉に甘える事にするよ。」

そう言うわけで、午後は霊夢による空を飛ぶための特訓が行われた。

俺は物覚えとか比較的よくない人間だが、どういうわけか、一時間ちょっとで会得した。これには霊夢も驚いていた。飛べるようになった俺は最初、これでこの世界を出ても苦労はない、と大いに喜んだが、霊夢に外の世界でこれらの能力を使う事は不可能、とバッサリ言われてしまった。まぁ本来の目的は妖夢さんにこれ以上苦労をかけない、という事だからそれでよしとした。結局時間が余って暇になってしまったので、妖怪たちの手伝いに回った。最初は妖怪だと言うので恐怖心もあったが、話しかけてみると皆親切な人(?)で、親睦を深めることができたと思う。

 

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