妖之恋2020 -LILAC-   作:伊須鳥

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3日目 -夕空- (前編)

結局昨日は、ほとんど眠れなかった。

ずっと妖夢さんの事ばかり考えていた。

妖夢さんは知っているのだろうか。

今日が、最後の日だという事を。

気を紛らわすために外に出た。

桜の花は、相変わらず散っている。

いっそ、俺がここの桜になれたら、とすら思った。

だが…それは出来ない。

「あ、〇〇さん!」

ふと向こうの方から声がした。

妖夢さんが、俺の方に駆け寄ってきた。

「おはようございます!」

「ああ…おはようございます。」

「…どうなさったんですか?なんだか顔色が悪いですよ?」

「い、いえ。」

「…本当にですか?」

そう言って自分の手を俺の額に当てようとしてきた。

「だ、大丈夫ですよ!妖夢さんの気のせいですって。」

「なら…いいんですけど。」

「妖夢ー!朝ご飯まだー?」

向こうの方から幽々子さんの声が聞こえる。

「あ、はーい!今から支度しますので!それじゃあ〇〇さん、また後ほど。あ、あと今晩は〇〇さんの好きなもの作ってあげますから!」

「あ…え?」

「日々の感謝の気持ちも込めて、です!それでは!」

妖夢さんは笑顔で台所へと向かっていった。

…やはり、分かっていないのだ。妖夢さんは。

俺は再び、桜の木をぼうっと眺め始めた。

「〇〇くん。」

俺の名を呼ぶ声がした。振り返ると幽々子さんだった。

「ああ、幽々子さん…おはようございます。」

「あなた、まだ妖夢に伝えてないの?」

俺は黙って頷いた。

「妖夢さん…今晩は僕の好きなもの作ってくれるとかで大張り切りなのに…俺はどうすれば…。」

「いいわ。今日一日妖夢は貸してあげる。その代わり、今日が最後になるのを伝える事。それから、あなたの気持ちも伝える事。」

「はい…って幽々子さん…俺の気持ちも分かってたんですね。」

「勿論。でも、貴方も分かってる通り、妖夢も同じ気持ちよ。だからせめてその気持ち、ちゃんと妖夢に伝えるの。そうしないとあの子、きっと一生貴方の事で苦しむだろうから。これは、私からのお願い。」

「分かりました。」

俺は強く頷いた。

それから暫くして朝食になった。

妖夢さんはいつにも増して笑顔だった。俺はそんな彼女の笑顔を見るのが辛くてならなかった。

「妖夢、今日一日休暇あげるわ。」

「え!?」

「休暇よ。久々に遊んでらっしゃい。〇〇君とね。」

「え、でも…よろしいんですか?」

「遠慮することないわ。あそうだ、ついでにこの本図書館に返してきて!」

と、自室から本を取ってきて、妖夢さんに渡した。

支度を済ませたのち、俺と妖夢さんは白玉楼を出た。とりあえず幽々子さんが返して欲しいと言う本を返しに行くことにした。

「で妖夢さん、図書館なんてどこにあるんですか?」

「紅魔館っていうところです」

紅魔館。名前からしてヤバそうな所だ。確か霊夢が、あそこには近寄らないほうがいい、と言っていたからよっぽどな場所だろう。

「…俺変なことされたりしませんよね?」

「大丈夫です。いざとなったら私が守ります!」

「はは…頼もしいですね。」

湖の先に、怪しげな巨大な館がそびえ立っている。

「あれが紅魔館です。」

近くで見ると、欧風レンガ建築のお屋敷だった。

門の前に行くと中国風の服装に紅い髪の女性がいた。しかも俺より身長が高い。ケンカ売ったらぶっ殺されそうだが、気持ちよさそうに居眠りしている。起こすのも申し訳ないぐらいの熟睡っぷりである。

「また寝てますね…」

妖夢さんは呆れたように門の端っこにあるインターホンを押した。なんで異世界にインターホンが…と思いつつ、それに近づいてみると、その横になにやら注意書きらしきものが書いてあった。

 

ご用件のある方へ

門番が寝ている場合はこの呼び鈴でお知らせください。

紅魔館 メイド長

 

「いだだだだ!!ごごごごめんなさい咲夜さん!!寝てないです!!寝てないですってば!!」

突然今までぐっすり寝ていた門番が断末魔の悲鳴を上げ始めた。発狂でもしたのかと思わずのけぞると、彼女の背中、腰、尻に無数のナイフが突き刺さっている。(というかナイフぶっ刺されて「痛い」で済むのかよ)

「何かご用でしょうか?」

突然背中から声がした。いつのまにか俺の後ろに銀髪のメイド姿の女性が立っている。左手にはナイフを持っていた。どうやら門番にナイフぶっ刺したもこの人らしい。

「あ、咲夜さん、この前お借りした本を返すように幽々子様から仰せつかまりましたので。」

「そうでしたか。では、お二人ともどうぞこちらへ。」

そう言って咲夜さんは俺たちを門の中に通した。門をくぐると、そこには植物園が広がっていた。色とりどりの花が咲き乱れている。何よりめちゃくちゃ広い。白玉楼も相当広いが、ここの比ではない。館の中へ入り、地下に続く階段を進む。何十段か降りたところでメイドは、こちらです、どうぞ、と大きな扉を開けた。

「すげぇ…」

学校の体育館の2、3倍ほどの大きさの部屋に、本がびっしり詰まっている。

「あの…蔵書ってどのくらいなんでしょうか。」

と咲夜さんに聞いてみると、

「うーん…私も正確に数えたことはありませんが、数万冊はあるんじゃないかと…」

国会図書館かここは。

妖夢さんと俺は貸し出しカウンターっぽい所に行き、司書であろう赤髪の女の子に本を返した。

「ちょっと見てまわってもいいですか?」

と妖夢さんに聞くと、どうぞ、と言ってくれた。

「あ、回るのでしたらこちらをどうぞ。」

司書の女の子が図書館の地図をくれた。…そう、地図が必要なのである。とりあえずこの世界の歴史が気になって、それに関する本探していると、後ろから声をかけられた。振り返ってみると宴会で見かけた薄い青髪に赤い目、コウモリの羽をつけた少女が立っていた。

「ごきげんよう、殿方のほう。」

「…どうも。」

完全にカップル扱いである。

「せっかくですし、お茶にしましょう。お菓子とお茶は咲夜に用意させてあるから。こっちにいらっしゃい。」

そう言って少女は俺を連れて図書館から出、広間へと連れて行った。

どこかの王室の宮殿に勝るとも劣らない豪華さだ。

「どう、私の家はお気に召したかしら?」

「…すごいですね。もうなんというか、どこかの王室の宮殿みたいで…。って…え?私の家?」

「ああ、自己紹介がまだだったわね。」

そう言って少女は振り返った。

「私がこの家の主、レミリア・スカーレットよ。」

「ど、どうも、〇〇って言います。」

…この女の子がこの家の主…?どう見ても12歳ぐらいの小学生にしか見えないが…。

「〇〇ね。よろしく。」

そうこうしているうちに、俺はレミリアに連れられて、大きな温室に通された。巨大なテーブルの上に、洋菓子が山のように乗せられている。

まさしく貴族の暮らしだ。

「あ、〇〇さん!早く早く!」

既に妖夢さんは椅子に座っていた。

その後、パチュリーという少女やレミリアの妹のフランドールも加わって、賑やかなお茶会になった。

レミリアもすっかり上機嫌である。

「いやー、〇〇って本当に面白いわね。もし機会とかあれば、またうちに遊びにいらっしゃい。」

…いや…だから俺はもう…

この事を伝えるなら…今しかない。

「実は、妖夢さんにも話そうと思ってたんですけど…今日で幻想郷とはお別れなんです。」

「え…」

「ええー〇〇帰っちゃうの?」

「あらそうなの。残念ね。面白い子が増えたと思ったのに。ねえ。」

「ええ、残念ですね。」

紅魔館の住人たちは残念そうな顔をしていた。が、妖夢は違った。

俺が言葉を発したその時から、表情が固まってしまっていた。それから何も話さなくなくなった。

そんな空気のまま、俺たちは紅魔館を後にした。妖夢さんはまだ黙って下を向いたまま、俺の後ろをついてきている。

「あ、あの妖夢さん……」

「…そうですよね。そうでしたね。〇〇さんは、縁日の手伝いに来ただけでしたよね。…あ、私、用事思い出したので、白玉楼に戻りますね!」

そう言うや否や、妖夢さんは俺をおいて走り去った。落ち込んでいても仕方がない。そろそろ博麗神社へ行かなきゃいけない。俺はゆっくり歩き出した。

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