妖之恋2020 -LILAC-   作:伊須鳥

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4日目 -LILAC-

東の空がうっすらと明るくなり始めた頃、俺は目を覚ました。

妖夢はまだ、俺の腕の中で眠っている。起こさないように腕をそっとどけてから布団を出たのち、此処に来た時の服装に着替えた。

「じゃあな…妖夢。」

眠っている彼女の頬を優しく撫でながらそう耳元で囁き、部屋を後にした。

門の前に行くと、いつも起きるのが一番遅い幽々子さんが立っていた。

「行くの?」

俺は黙って頷いた。

「そう…。」

幽々子さんは少しだけ寂しそうな顔をして、桜の木の方を見た。

「あの光ってる花びらの一つ一つは、死んだ者たちの魂なの。それらはここに来て花を咲かせ、冥界に旅立って行く。貴方もいずれは此処にやって来るわ、あの桜の花としてね。それじゃあ〇〇君、貴方の人生が幸せに満ちたものになるよう祈ってるわ。いつまでも元気でね。」

「本当にありがとうございました。ご親切は忘れません。」

俺は深々と頭を下げた。

そして門を出て空に舞い上がり、全速力で地上へと向かった。幽々子さんは門前で、ずっと俺のことを見つめていた。

博麗神社が近づいてくるにつれ、霊夢と魔理沙が鳥居のところに立っているのが見えた。

「来たわね。」

「そうっぽいな。」

地面に着地した。

「早いな、〇〇。」

「まぁな。というわけで、早速だが霊夢。」

霊夢は頷いた。

「そこの鳥居をくぐれば、もう外の世界よ。ただし、一度出たら二度と戻れないから注意すること。」

「ああ、わかった。」

俺は鳥居に向かって歩き出した。

目の前が一気に明るくなり、思わず目を閉じた。

 

そして再び目を開けた時、そこには寂れた山道があった。

振り返ると、ぼろぼろになった小さい鳥居と、古い御堂がある。

帰ってきたのだ。

これで良かったんだ。

そう言い聞かせながら、俺は山を下る事にした。

 

 

 

いつもよりだいぶ遅く目が覚めました。私は昨夜、〇〇さんの腕の中で眠りました。

でも朝起きた時、そこに彼の姿はありませんでした。慌てて寝巻きのまま屋敷中を探しましたが、無駄でした。

「おはよう、妖夢。」

突然、幽々子様に声をかけられました。

「おはようございます!あの…〇〇…さん…は…」

「ああ、一時間ぐらい前に出たわ。」

「……そんな…。」

ですが、それはまぎれもない事実でした。着替えと朝食ののち、私は客間の片付けをする事にしました。そうでもしなければ、〇〇さんがいなくなった事で出来た心の穴はいつまでも埋まらない気がしたからです。

布団を片付け、床を掃除し、机を掃除しようと引き出しを開けると、そこには一通の手紙、そして紫色の綺麗な花が添えてありました。

〇〇さんからの置き手紙でした。

私は掃除そっちのけで慌てて読み出しました。

 

妖夢

まず黙って去った事を許してくれ。俺は弱い人間だから、妖夢の姿を見るときっと、向こうの世界に戻れなくなってしまうだろう。

だけど、こんな俺でもこれだけははっきり言える。

俺は妖夢ことが好きだという事を。

君と過ごしたかけがえのない日々を、俺は絶対に忘れない。

最後までどうしようもない奴でごめん。

そして、本当にありがとう。

 

〇〇

 

半人前の私に溢れ出る涙をこらえる力は、もう残っていませんでした。こんなにも私の事を想ってくれている人がいると、本当に嬉しくて。

でもそんな〇〇さんともう二度と会えないと思うと、本当に悲しくて。

どれだけ泣いたか分からなくなった頃、後ろに幽々子様と紫様がいた事に気が付きました。

「妖夢、あなたは彼に気持ちを伝えなくていいのかしら?」

紫様の言葉に私ははっとしました。

そうだ。〇〇さんは私に、本当の気持ちを教えてくれた…私も…伝えなきゃ…。

私は〇〇さんに手紙ををしたためることにしました。

 

 

 

どれぐらい経っただろうか。無論あの日々を忘れた事は一瞬たりともない。俺の頭には常に妖夢がいた。

俺は妖夢のことが好きだった。

普段の生活に戻ってから、あの時空いた心の穴を埋めることができないまま、俺はやるせない日々を過ごしていた。

家に帰宅すると、ポストに何か入っている。手紙だった。

手に取ってみると、それには達筆で「〇〇様」と書かれている。祖父母や親戚ではない。だとすると……

 

家に駆け込み、おそるおそる手紙を開いた。

 

妖夢からの手紙に紛れもなかった。

 

〇〇さん、お久しぶりです。

あれからというもの、私の心の中には、いつも〇〇さんがいます。

あの長いようで短かった三日間は、私にとって一生ので一度きりの、忘れられない初恋の思い出です。

私は〇〇さんとの思い出、そして〇〇さんを好きな、この気持ちを絶対に忘れません。

ですから〇〇さんも私の、妖夢のことをどうか絶対に忘れないでください。

〇〇さんの事、ずっと大好きです。

 

魂魄妖夢

 

 

「…はぁ……全く…」

俺はため息をついた。胸が締め付けられ、目頭が熱くなるのを覚えた。

あの時出来た心の穴が、何か切ないもので満たされてゆくのを感じた。

ここにいた、俺を大切に思ってくれる人が。

「…忘れろよ…俺なんかの事…」

ふと俺は、封筒の中にもう一つ、小さな紙が入っている事に気がついた。

紫さんからの手紙だった。

 

 

 

その日俺は、山に登っていた。

今回登るのは、別に景色を描くためでも、頂上を見るためでもなかった。山道を少し外れたところにある、古い神社。そこに目的がある。そこの鳥居をくぐると、目の前が一気に明るくなる。目を開けるとそこには立派な神社があった。懐かしい光景だ。

再び俺は、幻想郷に戻ってきた。

紫さんが出迎えてくれた。

「お久しぶりです。紫さん。」

「久しぶりね〜少年くん。さ、早くあの子の所に行ってあげて。」

俺は頷くと、地面を思い切り蹴った。空を飛ぶ、というのもかなり久しぶりだな。

道を突っ切り、無限の彼方に続く階段に沿って上へ、上へ。

暫く飛んでいるとあの大きな門が見えてくる。

門の前では幽々子さんが待っていた。

「お久しぶりです、幽々子さん。」

「久しぶりね、〇〇君。あの子なら庭の掃除してるわ。」

懐かしい景色が目に飛び込んできた。なにもかも、あの時のままだ。

耳をすませると庭の奥の方で箒の音が聞こえる。

いる。妖夢がいる。

妖夢は、桜の木の下で掃除をしていた。

急いで近くまで駆け寄り、声をかけた。

「妖夢!」

箒をはく手が止まり、彼女はゆっくりと振り返った。

可愛らしい瞳が俺を捉えた。

時が止まったようだった。

「〇〇さん…なの…?」

黙って見ていられなかった。勢いに任せて思わず妖夢を抱きしめようとした、その瞬間だった。

「…っ!!」

「!!」

俺が抱きしめるよりも早く、妖夢の唇が俺と重なった。

胸元に飛び込んできた妖夢を俺はしっかりと受け止め、そして強く、強く抱きしめた。

 

「妖夢…!」

「〇〇さん…〇〇さん…!」

妖夢は、俺の腕の中で、俺の名を呼び続けながら泣き続けた。

「妖夢、俺たちこれからはいつでも会えるよ。」

「ほ、本当ですか…!!」

「うん。俺ももう絶対に妖夢のことを離さない。ずっと一緒だ。」

そう言って俺はまた、一層力強く抱きしめた。

「〇〇さん…」

妖夢もまた、俺のことを力一杯抱きしめた。

「大好き…いいえ……愛してます…〇〇さん…」

再会を祝福するかのように、あの桜が咲きほこっていた。

 

 

ちょっと離れたところにいる幽々子さんと紫さんと霊夢。

「紫色のライラックの花言葉は『初恋』。なかなか粋なマネするわねアイツ。」

「ホントね。どう、あの2人。」

「私もう砂糖吐きそう…。」

「私も〜。一度でいいからあんな恋愛してみたかったな〜。」

「ってそんな事より、どういう理由であいつを呼び戻したのよ。」

「ああそれはね…」

「実は、そろそろ妖夢の殿方を決めてもいい時期なんじゃないかって思い始めていてね。」

「ま、まさかあんた達…」

「ふふ、相手は誰になるのかしらね?」

「そうね、楽しみね〜。」

「はぁ…やれやれ。」

どうやら、俺と妖夢の物語は、ここからが始まりになりそうだ。




最後まで読んでいただきありがとうございました!
僕自身、妖夢はかわいいし、いざという時はかっこいいし、半分幽霊なのにおばけ怖いっていう一面もあり、東方の中で一番好きなキャラであります。

…さて、めでたく再開できた妖夢と〇〇ですが、最後の幽々子様の意味深なセリフは一体…。
これから二人はどうなるんでしょうか?
続きが知りたい方は番外編、妖之恋-冬物語-へGOです!

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