【完結】Kill・Yの病   作:ようぐそうとほうとふ

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わたしのかみさま

……

 

「地下5階から…10階位までは囲えてそうですが…んー、地下のはもう保たないとおもいます」

「射程はざっと5kmか」

「射程と表現していいのでしょうかね。このスタンドは単体で動くものでもありませんし、『単体で放置すれば5km離れた時点で消えてしまう』というのが正しいでしょう」

「そうだな…そして建造物なら区切られた空間である限り覆える。間違いないな」

「ええ。体積は増えてますね…ですが下準備なしではあの規模は無理です」

「新しい根城にうつっても休めるとは限らん。奴らは恐らく追ってくるだろう、しぶとく、な。…息子だというのに骨の髄までジョースターだな、ジョルノは」

「いちいち引き合いに出すなんて、よっぽど好きなんですね、ジョナサン・ジョースター…でしたっけ?」

「好きも嫌いももはやない。とにかく奇妙な縁で結ばれているというだけで…」

「やだなあ。言い訳すると本物っぽくて」

 

 二人は地下道を進み、コロッセオの裏手に停めてあったバイクを走らせて根城にしているホテルに戻った。必要最低限の荷物だけ包み、すぐに棺を積んだバンを走らせてローマから離れた小さな町へ向かっている。

 そこはありふれているせいで放置された古い町で、地下には手付かずの遺跡もある上におあつらえ向きの古城がぽつんと建っている。

 追手を迎え撃ち、仕留めるには絶好の場所だ。かつて教会として使われていたというのも吸血鬼にふさわしい。

 

「…感じなくなりました。みんな死んじゃった」

「やはりスタンドはお前が留まっていないとすぐに消えるのか」

「そのようですね」

 

 

 山井のスタンド。それはあの悪夢のような空間を現実世界へ転換する能力のようだ。一見スタンド使いにだけしか見えない幻想だが、あれは受肉し、実在している。さらにそこではルールに則った様々な現象が付随する。

 ディオが観察して発見したのは4つ。

 

 

①スタンド能力などの特殊な能力は発現しない

②そこで死んだ、もしくは傷ついた人間は空間に吸収される

③山井が手を下した場合侵食が早まる

④風や太陽光、気温に左右されない

 

 

 恐らく他にもルールはあるのだろうが今のところ確定しているのはこの4つだ。

 スタンドを出した山井を相手にスタンドによる戦闘は成立しない。あの二人、引いてはスタンド使い全員に言えるが、二人でタッグを組んでたたかった場合、スタンドマスターである山井が殺されない限り肉体的に強靭なディオの勝ちはほぼ確定している。

 

 山井は襲撃前夜からそれまでの不調が嘘のようにキビキビしていて、まるで憑き物が落ちたように柔和な笑みすら浮かべている。

 スタンド制御のコツを掴んだのだと言われたとき、ディオは自分の耳を疑った。

 

 トラックの助手席で林檎を齧る山井をちら、とみる。先ほどのホテルでグラス2杯分は血を出させてしまった。林檎ではなくもっと身になるものを食べてほしかったが、そこまで口を出すのは憚られた。

 

 

 

山井夜の血

 

 

 

 スタンド能力を制御した山井はディオが当初考えていた案よりも安全な逃走とより大きな犠牲がでる提案をした。

 

「いいのか?」

 

 と、ディオは決行前に訪ねた。

 漏斗で血を流し込む山井は目を丸くして答えた。

 

「ついでです」

 

なんのついでというのだろうか。わけがわからない。

 

「私はようやくあなたと同じ考え方に至ったということです。つまりー自分の天国のためならなんだってする。自分が一番正しいと信じることをするのです」

「じゃあおまえはついに自分の天国を見つけたと?」

「いいえ、そこにあったことに気づいたんです」

 

 山井は傷口をゆっくり指でなぞる。出血以上の血腥い臭気が薫りたつ。まるで沼の中にいるような抵抗感。空気がだんだん茂っていくような気がして思わず視線を隅々に向ける。

 異形は見えない。しかし居る。

 

「血を分け与えるってどういう行為かわかります?」

 

 山井は返事がなくても語る。

 

「人間の血を飲む儀式は古今東西どこにでもありますが…どれもこれも、その血を取り込む事によりそのものの力を得ようとすることが多いです」

 

例えば、イロコイ。

例えば、アステカ。

 

「チベットの鳥葬。あれは抜け殻の体を鳥に食べられることにより天へ還す儀式です」

 

 山井はウェイターの制服に袖を通す。日本人女性としては身長が高いとはいえだぶついている。そのまま髪をまとめ上げ、丁寧に編んでいく。

 

「私は思うんですよ、食事とは、口とは天国への門であると」

 

 血入りのボトルを持ち、本物のウェイターのように背筋を伸ばして立った。

 

「馬子にも衣装?」

「自分で言っては世話ないな」

 

 

山井はあんな事態になることを予測していたのだろうか?人がいくら死のうとディオには興味の無いことだったが、山井にとってはそうではなかったはずだ。

 今回の殺しは生きるために殺すことや目的達成のための犠牲のような言葉で飾ることができない虐殺だ。

 

 

「だが、わたしの血を飲む理由は?まだ聞かされてない」

「それはそういうルールだからです。イザナミの国にとどまるには、そこのものを食べなければ」

「それではまるで…」

「間違ってないですよね?あなたは死体の肚から生えてきたんだから」

 

 山井はそう言うと会話を打ち切り、ワインボトルを掴んでエレベーターのボタンを押した。

 

「或いは単に、あなたを食べてみたいという気持ちがあるからかもしれません」

 

 

 あのときの会話はそれで終わりだった。

 

 

「夜。おまえは家族を食べたのか?」

「どうして?」

「天国への門なんだろう」

「そうです。だから私はずっと後悔していました。私は家族を、天に送ってやれなかった。そういう魂を救うのは、他の神様にまかせます」

「…まったく、神だの天国だの小難しいことを考えるようになったな。前はこんなやつじゃなかった」

「あなたに話を合わせたくてこうなったんですよ」

 

 トラックは目的地に到着した。砂利を轢き潰し、路肩に止める。夜はまだあけない。早急に仕事を済ませなければならなかった。

 

「わたしの血を飲んだと言う事は、おまえは家族の代わりに私を救うつもりか?」

「ええ?やだな。ただ喉が渇いてただけですよ」

 

 

………………

 

 

アメリカ、テキサス州SPW財団本部。

 

 夏も終わりだというのに今日はやけに暑かった。空は吸い込まれそうなほどに青い。その空に向かって伸びているかのように建っている巨大なビルこそがSPW財団本部だった。

 隣接するヘリポートにはついさっき降りてきたヘリがあり、プロペラはまだゆっくり回っていた。そこへ向かってスーツの男が慌てて駆け寄る。

 

 

「空条博士、ジョースター様。わざわざこちらまで来ていただき申し訳ありません」

「ついでだ」

 

 スーツの男の差し出す手を老人は弾いた。まだまだ一人で歩ける、と言いたげに笑い、危なっかしく焼け付くようなアスファルトを進んだ。そんなジョセフを見て、あとからヘリを降りた男は小さくやれやれ、とつぶやいた。

 白い学ラン風のコートを羽織り帽子をかぶった巨漢がスーツの男に対し簡潔に答える。彼の名は空条承太郎。ディオを殺した男だった。 

 

 

 承太郎とジョセフはただっぴろいオフィスに、シンプルながらも座り心地のいい椅子へかける。

 

「最近財団に提携を呼びかけていたイタリアのギャングの事はお伝えしましましたよね?」

「ああ」

 

 数ヶ月前からパッショーネという名のギャング組織が、とある男のつてでこちらに声をかけて来ていた。

 なんでもその組織は麻薬などの悪を根絶するためにもぜひ提携したいと言っているらしい。公にはされてないが、最近そこで世代交代のようなものがあり、新しくボスとなった少年が健全化に積極的だとか。

 

 その少年は春に広瀬康一という少年に依頼して偵察してもらったジョルノという少年だった。彼から話を聞いていたとはいえ、奇妙な縁と危険を感じ、逐一組織に関する報告を聞いていた。これまで取り立てて大きな揉め事はなかったというのに、いざ事が起きたと思ったら電話口では言えないような内容だというのだからため息の一つも付きたくなる。

 

「…それで、じじいに念写してほしいっていうのはその組織の誰なんだ。もしくは何、か?」

「ふむ。正直先は聞きたくないのぉ。嫌な予感が最近ずっとしててな」

 

 承太郎の祖父、ジョセフは茶化しつつも真剣な面持ちだ。二人の言葉を受け、部屋の隅にいたスーツの男が部屋の明かりを消し、ブラインドを下ろし、壁に映像を映し出す。

 

「ここ一ヶ月ほどイタリア、ナポリで行方不明事件が多発していました。そしてまだ公にはなっていませんが、それに関連してローマで行方不明者が同時に大量に出る事件がおきまして…」

 

かしゃ、とスクリーンの映像が切り替わる。

 

「ローマグランドホテル…この中にいた客、業務員含めて100名以上が行方不明です」

「100…!?」

 

 がらんどうのエントランスにソファや装飾品が倒れている。スライドが切り替わる。宴会場だろうか。長テーブルと料理、そして床には割れた食器や片方だけの靴が落ちていた。まるでメアリーセレスト号だ。さっきまで人々がいたような痕跡があるのに気配がまるでない。

「このように、人間が忽然と消えてしまったわけです。さらに…」

 

 次のスライドはさらに奇妙なものだった。

 白い床に目が一つ生えていた。床から肉が隆起してまぶたと、まつげと、その中に目玉が。今にも眠ってしまいそうに薄く開かれた瞼。まつげの一本一本までが映っていた。生きている人間のそこだけを切り取った出来の悪いコラージュのようだった。

 スライドがまた、切り替わる。そこには何もない白い床が写っていた。

 

「この…なんといいますか。目は、この後溶けるように消えてしまったので、サンプルは手に入りませんでした」

 

 続いて映し出されるのは肉の残滓たちだった。どれもこれも靄のように溶けて中に溶けるように舞い上がっている。

 

 

 

「…生存者によると、『とても現実とは思えない光景が広がって、わけのわからないまま逃げてきた』と。そして偶然ですが、パッショーネの幹部がそこに居合わせたようです。情報統制がとても手に負えないようで応援を呼ばれたので対応しています。」

「スタンド使いの内輪もめ…とかじゃないのか?」

「それが…その、どうやらDIOを名乗る人物が裏に居る様子でして」

「DIO…!?」

 

 ジョセフは動揺して杖を取り落とした。承太郎が拾って握らせてやると、その手は驚くほど冷たく、動揺の具合が知れた。

 

「奴は確かにエジプトで死んだはずだ」

「リークに近い情報ですので、本当にDIOが存在するかはわかりません。ですが少なくともDIOを知っているスタンド使いがいるとみて間違いないでしょう。今回ジョースターさん達をお呼びしたのはそのスタンド使いについて念写していただくためです」

「フム…確かにこれは無視できないの」

「……万が一。本当にDIOがいた場合は、オレは黙ってはいられないぞ」

「勿論。それを確かめたくて承太郎さん達をお呼びしたのです」

 

 男はポラロイドカメラをジョセフに差し出した。ジョセフはかつての輝きを取り戻したような目で承太郎を見つめた。承太郎が頷くと、ジョセフはゆっくりと左手を空に挙げた。

 

「隠者の紫…!」

 

ジョセフは骨と皮だけになってしまった老いた腕を勢いよくカメラに振り下ろす。カメラは壊れなかった。しかし手を覆う茨がカメラを包んだように見えた後、写真が一枚ポロリと吐き出された。

 

「……これは…」

 

 承太郎がそれを拾い上げると、そこには一人の女の後ろ姿がうつっていた。女の首筋は白い蛇のように艶めかしい。その女の向く闇の向こうから、あるはずもない視線を感じた。

 よく目を凝らす。スタープラチナが現れ、手渡された筆記用具でその姿を描いた。そんなことしなくたって、直感でわかっていた。

 

「………やれやれ、だ」

 

 そこにいるは紛れもなく、宿敵DIOだ。

 

 

 

 

 

 

…………………

 

 

『ジョルノ。独断で申し訳ないが、あのホテルの件はSPW財団に任せる。』

「いや、独断じゃない。英断だポルナレフ。金にかけては僕らに勝ち目はない」

『……DIOは、本当にいたのか?』

「ああ。聞いていたような邪悪な男だった。そしてその下についている女も…。このまま放っておくわけにはいかない」

『DIO…本当にやつがいるとは…なんてことだ。実はジョルノ…この件で一人の日本人がそっちへ行くかもしれない』

「日本人?」

『その男が、かつてDIOを殺した男だ。単独で動いているらしく、こっちからは連絡が取れない。しかしきっと力になってくれるはず。』

「わかった。とにかくホテルの件に関しては任せる」

 

 そう言い、ジョルノは電話を切る。

 助っ人に日本人?ディオを倒した男とはいえこれ以上イレギュラーを考えるのは憂鬱だ。あのホテルで起きたことを検証した結果、スタンド能力に頼っていられないらしいことがわかった。

 

 あの場所は『突然現れる』

 あの場所は『スタンドが使えない』

 あの場所は『仲間を欲している』

 

 あの肉たちの世界は、おそらく山井が引き起こしているのだろう。だが明確な前兆がないので一度捕まったら最後、あっという間に閉じ込められる。スタンドの使えないあの空間に。

 ディオが話に聞いたとおりなら、彼はスタンドなんて無くても虐殺はお手の物だろう。

 さらにあの場所では、そこら中に生えている肉や滴る血を口にすると奴らに侵される。ナイフで切りかかってきた手のことを考えれば傷も危険だ。あれは伝染し、増殖する。ガンのように。あるいはウィルスのように。

 

 

「ジョルノ…こっちは準備万端だぜ。リボルバーだけじゃなく自動式拳銃にサブマシンガンもある。」

「……まさかスタンド以外で戦うはめになるとは…」

「ピストルズも出番がねーって嘆いてるぜ…。スタンド無効されてる時、あいつらどこに行ってるんだ?」

「…山井を先に殺すべきだと思う。二人を別の場所に誘導しなきゃならんが」

「でも時を止めるんだろう?ディオってやつは…スタンドを使われたらまずくねーか」

「ああ。逆に言えば、スタンドが使えない状態で勝ち目があるように思えない」

「あ〜まあ吸血鬼を銃如きで殺せるかっていわれると微妙だな…あんま自信ねー。ホラー映画好きじゃねーんだよ」

「だったらまず女だ。理想はディオが女の死に気づく前に僕が気づくことだが…」

「無線機、あそこで通じるかな」

「わからない。だが一応持っていこう」

 

 

 銃を整備するミスタを横目に、ジョルノはあのぐちゃぐちゃに混じり合った肉の海を思い出した。

 あれがスタンド能力。山井夜の人となりだというのならば、その心はもう自分の知る道徳と倫理からかけ離れた場所にある。

 招くように揺れる白い腕。生きた人間の体を食い尽くしていく血管。滴る血。目玉だけ増え続けた姑。脚が溶けて動けないまま腕によりバラバラになったボーイ。腹膜がベールのように顔にかぶさり窒息した花嫁。

 

「…お、メール」

 

 ミスタが幹部から寄せられる情報をチェックする。よく動いてくれていて、ジョルノにとってありがたい限りだ。現在情報集めだけは組織全体に任せてある。しかし決して深追いするなと厳重に命令してある。

 数で攻めるのがきっと一番効果的なのかもしれない。

 だがそれは犠牲なしには成し得ない作戦であり、死を前提にした作戦を、それも自分のせいでやってきた災厄の後始末なんて部下にさせられない。

 

 あの光景は、なるべく人の目に触れさせるべきではない。あれには人の心を乱暴に鷲掴みにするような冒涜と淫らさがある。

 昏い美しさだ。

 決して世間に歓迎されない人間の暗鬱な側面をむき出しにしてぶちまけたようなあの光景。

 

「…ここから20km離れた町の城に怪しいトラックが乗り入れたそうだ。ちょうど月曜日の夜。これは決まりじゃないのか?」

「ああ、行くしかないだろう」

 

 ジョルノは扱い慣れない拳銃を拾い上げ、トリガーに指をかけず、あのホテルに銃口を向ける。

 

「見敵必殺…あんな事をしておいて、無事ですまない事を教えてやる」

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 




一部文章を訂正しました。(7/13)
誤字報告は誤字を直すのは便利なのですが文の添削には向いていないので、文章まるまるおかしかったりしたら感想なりメッセなりで教えてください。
指摘していただければ見直しますので!
誤字報告、感想、評価等ありがとうございます。
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