ピーチ姫の脱出大作戦   作:長星浪漫

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今回はバトルシーンを頑張ろうとした結果かなり長くなってしまいました。


W3-2「とりつくおはけ」

 廊下の突き当たりを左に曲がり、目の前の扉を開けると玄関ホールに出た。階段を降りホールの扉の方へ向かって扉を開けようとしてみた。

 

「やはり開かないわね」

 

 扉はびくともしない。押したり引いたり叩いてみたり、色々したが全く開かない。

 

「セバスチャンが言った通りここからは出られませんわね」

「じゃあ、地下へ降りる道を探しましょうか」

「そうね、あら?」

 

 ピーチ姫が振り返るとボールの隅の方にうずくまって震えているなにかを発見した。

 

「あの後ろ姿は…」

 

 ピーチ姫は足早にその何かへ向かっていく。M・キノピオとレサレサもそれに続く。近づいてみるとそれは小さな二人のキノピオだった。

 

「あなたたち!!こんなところでどうしたの!?」

「ヒィッ!?」

 

 急に声をかけられた二人のキノピオはビクンと体を震わせるとゆっくり、恐る恐る顔をあげた。声の主の正体を認識した時二人のキノピオの顔が安心に満ちた顔になった。

 

「ピーチ姫えぇぇぇ!!」

 

 二人は泣きながらピーチ姫に抱きついた。ピーチ姫は優しく二人を抱きしめる。

 

「姫えぇぇぇ!!怖かったですぅぅぅ!!」

「よしよし…もう大丈夫ですよ」

 

 ピーチ姫は優しく二人の頭を撫でる。二人は顔をうずめて泣きじゃくる。ひとしきり泣き終えて落ち着いた二人は自分達の現状を説明した。

 

「クッパがピーチ城をさらった時に逃げ遅れたんです!」

「出口を探していたらここに迷いこんでしまったんですぅ!」

「そうだったの、もう安心よ、なかないで」

 

 聖母のように優しい微笑みでキノピオを撫でるピーチ姫。二人のキノピオはその優しさにすがりつくように泣いた。そのようすを少し離れた位置で見守るレサレサとM・キノピオ。

 

「まるで母親のようですわね」

「そこもピーチ姫のいいところなんです。時に強く、時に強く、時に強く、そして時にと優しい…」

「“強く”が多すぎませんこと?」

「だって、ここまでの経緯を考えると…とにかく、ボクたちのピーチ姫は素晴らしい人なんです!」

 

 力説するM・キノピオ。その間も泣きじゃくるキノピオ。さすがに泣きすぎだな、と思いながら何となく二人のキノピオを見たM・キノピオ。その瞬間

 

「(ニヤリ)」

「!!」

 

 ピーチ姫の胸の中で泣きじゃくるキノピオのうちの一人の表情が歪み、醜悪な笑顔になった。その顔は先程までのキノピオとは明らかに違うものだった。

 

(んん!?)

 

 一度目を擦りあらためてみると特に変わりないいつものキノピオだった。

 

(気のせいかな?)

 

 二人のキノピオは落ち着きやっと話せる状態になった。二人の話ではこの玄関ホールに強力な力をもったテレサが一匹いるそうだ。三人は周りを警戒したが近くには気配を感じなかった。

 

「とりあえずこの子達をセバスチャンさんに預けにいきましょう」

「そうですわね、セバスチャンなら安心してまかせられますわ」

「じゃあ、行きましょうか。マッスル、この子達をお願いね」

「わかりました。さっこっちへ」

 

 二人のキノピオはM・キノピオのもとに近づいていった。ピーチ姫とレサレサが前衛をつとめた。M・キノピオはその後ろを二人のキノピオを守りながらついていこうとした。

 

「ん?おい、くっつきすぎだ少し離れてくれないか?」

「…」

 

 M・キノピオの指摘に反して二人のキノピオはさらに近づいてくる。

 

「ちょ、聞いてる?おいって」

「…」

 

 二人のキノピオはなにも言わずゆっくり顔をあげた。

 

「!!」

 

 その顔は先程見た醜悪に歪んだ笑顔だった。

 

「ケケケ」

「おまえ、!」

 

 M・キノピオは離れようとしたがそれよりも先にキノピオの口から何かが現れM・キノピオの体のなかに入っていった。

 

「うぐぐぅ…!?」

 

 M・キノピオは苦しそうに喉を押さえ膝をついた。

 

「マッスル!?」

「どうしましたの!」

 

 M・キノピオの異変に気づいた二人が駆け寄る。ピーチ姫がM・キノピオに触れようとした瞬間、M・キノピオが思いきり拳を振るってきた。ピーチ姫は殺気を感じて身を引きかわした。

 

「…っち、外したか」

 

 M・キノピオは舌打ちをしながらゆっくりと立ち上がった。その表情は完全に本来のM・キノピオとは大きく異なっていた。

 

「マッスル?」

「いえ!違いますわ!今のマッスルはとりつかれています!」

「とりつかれてる?」

「…ケケケ!さすが同族!そのとおり!この体は俺がもらっ…たぁ!?」

 

 M・キノピオにとりついたテレサ(以降憑依テレサ)は突然攻撃してきたピーチ姫の蹴りをかわしたが、少しかすってしまった。

 

「いってぇ!?なにさやがる!!」

 

 憑依テレサが文句を言ってきたが、無視をしてレサレサに話しかける。

 

「レサレサ、いくつか質問が」

「な、なんですの?」

「あのテレサはどの程度までマッスルを操れるの?」

「完全にはわかりません。憑依ができるテレサ自体珍しいですから。でもそれを可能としているのならM・キノピオを操るだけでなくその潜在能力を百パーセント以上に引き出せると思いますわ」

「痛覚があるようでしたが、消したりはできないのかしら?」

「消すことはできます。しかし、憑依はかなりエネルギーを使います。さっきの小さいキノピオならともかく、マッスルであればすべての感覚を繋いでいないと憑依状態を維持できないと思いますわ」

「なるほど、では最後の質問、ダメージを与え続ければテレサはどうなる?」

「恐らくダメージを与え続ければ消えてしまうと思いますが…」

「ありがとう、そこまでわかれば十分よ。じゃあ、レサレサ、次は二つお願いがあるの」

「お願い?」

 

 ピーチ姫はレサレサにこそっとお願いをした。

 一方憑依テレサはピーチ姫になんの躊躇もなく攻撃された上に無視をされていることに怒っていた。

 

「無視すんじゃねぇ!」

「では、レサレサお願い」

「ピーチ姫がそうおっしゃるのであれば大丈夫なんですわね?わかりましたわ」

 

 レサレサは了承すると奥の闇に消えていった。

 

「逃がさねぇよ!」

 

 憑依テレサがレサレサを追いかけようとする。ピーチ姫はそれを受け止めた。

 

「邪魔すんじゃねぇ!」

「行かせませんわよ?」

 

 ギリギリとお互いが力を込めて押し合う。しかし、パワーだけを見ればM・キノピオのほうがピーチ姫より勝っている上に憑依されていることによっていつもよりパワーアップしているので、ピーチ姫のほうが徐々に押され始める。

 

「ケケケ!どぉしたぁ?さっきの攻撃には驚いたが、力負けしてるぜぇ!?」

「……そうみたいですね」

「かわいい自分の部下を攻撃するのをためらってるのかあ??だったらこのまま無抵抗で部屋に帰れやぁ?」

「お断りします♥」

 

 ピーチ姫の膝蹴りが憑依テレサ、M・キノピオの腹にめり込んだ。

 

「はあぁ…!?」

 

 いきなりの攻撃とあまりの痛みに嫌な汗がわき出る憑依テレサ。ピーチ姫の放った攻撃は全く手加減されていなかった。憑依テレサの手から力が抜けたのを感じるとすぐに手を離しうずくまろうとした憑依テレサの顎にアッパーをぶちかました。

 

「あぎゃぁ!?」

 

 腹部を触ろうとした憑依テレサは後ろにのけ反り二、三歩下がる。ピーチ姫が追撃してきたのであわてて距離をとる。

 

「おまっ、なにやってんじゃあ!?自分の部下が死んでもいいのかぁ!?」

「このくらいでは死にません」

「なにぃ?」

「あなた、キノピオを少しなめているようですね。先程の小さいキノピオはともかく、彼らはキノコ王国の兵士なんですよ?」

「それがどうした?」

「わかりませんか?キノピオたちは我が国の軍隊なのです。日々激しい訓練を行っています。30kmのマラソンに10kmの遠泳などを毎日繰り返しています。その中でもM・キノピオはより戦闘に特化しています」

「んなこたわかってんだよ!」

 

 憑依テレサが力をこめた一撃を降り下ろす。ピーチ姫は拳が降り上がったと同時にダンスのステップを踏むように後ろに飛び退いた。空ぶった拳が地面にめりこむ。その拳を右足で踏み押さえその足を軸にして左足で憑依テレサの横っ面を蹴り飛ばす。

 

「ああぁぁぉー!!!」

 

 痛みに悶え苦しむ憑依テレサ。その様子を見下ろしながらピーチ姫は口の端を持ち上げる。

 

「その訓練の中には拷問などの痛みをこらえるための訓練もありますの、つまり…」

 

 ピーチ姫が憑依テレサのキノコの部分をわしづかみ顔を覗きこむ。

 

「つまり、普段痛みを感じないあなたが憑依して感じている痛みがどれ程かはわかりませんが、痛みを感じたままだと本体が死ぬまでにあなたがどうにかなっちゃいますよ?」

「!!!」

 

 驚愕し口をあんぐり開けた顔に膝蹴りを叩き込むピーチ姫。憑依テレサは声をあげることもできずに吹き飛びホールの壁に激突した。

 

「っいっ…で…ぇほっ」

 

 普通なら肋骨が何本か折れていてもおかしくないが、M・キノピオの強靭な肉体のお陰で体へのダメージはほとんどなかった。しかし、痛みは凄まじかった。普通のキノピオ兵より訓練を重ねてきたM・キノピオならばこのくらいのダメージは慣れているのだが、普段物理的なダメージを受けなれていない憑依テレサにとっては想像を絶する痛みを感じていた。

 

「おわかりになりましたか?」

 

 ヒールの音を響かせながらピーチ姫が憑依テレサに近づく。憑依テレサは両手を地面につき歯軋りをして悔しがった。しかし、その目はまだ怪しい光をともしていた。

 

(ケケケ…向かってこいよぉ、けケケケ…)

 

 憑依テレサの目はピーチ姫の後方にあるろうそくの燭台を見ていた。その燭台が数本音もなく外れろうそくを刺す部分がピーチ姫の方を向いて浮かんでいる。  

 

(傷つけちまうのはあれだが、しかたねぇよなぁ?)

 

 憑依テレサはポルターガイストでろうそくを動かしピーチ姫の手足に突き刺し動きを止めようという魂胆だった。ピーチ姫は憑依テレサを真っ直ぐに見つめているので後ろを見てはいない。

 

(今だ!)

 

 憑依テレサが拳を握ると浮いていた燭台五台がピーチ姫の方へ向かって飛んでくる。しかし、同時にピーチ姫も動いた。

 かかとを振り上げ、燭台のひとつを蹴りあげる。その燭台が別の燭台に当たり二つとも落ちる。足を下ろすとすぐに体を横向きにし頭を少し後ろに傾けた。残りの三つがピーチ姫の体のギリギリを通りすぎる。一つだけ胸をかすった。三つの燭台はそのまま憑依テレサの方へ飛んでいき頬や頭のキノコをかすり後ろの壁に突き刺さった。

 

「あいたぁ!」

 

 憑依テレサは痛みに悲鳴をあげる。

 

「あらあら、大丈夫ですかぁ?」

 

 ピーチ姫がくすくすと笑いながら近づいてくる。さっきまで余裕だった憑依テレサに焦りが見え始める。

 

「近づくな!それ以上近づくとさっきのキノピオを……あれ?」

 

 憑依テレサは人質にしていた二人のキノピオがいなくなっているのに気づいた。

 

「なっ?どこ行った!!」

「よそ見をしている余裕なんてありませんよ」

 

 すかさずピーチ姫がスピードをあげ、一気に距離をつめた。憑依テレサは両腕でガードしたが、ピーチ姫はお構いなしにガードの上に攻撃する。攻撃はガードの上で止まった。憑依テレサが胸を撫で下ろした瞬間、ピーチ姫は“波動”を流し込んだ。

 

「いぎゃあ!?」

 

 憑依テレサは悲鳴をあげながら後ろに転がった。ピーチ姫は攻撃をやめない。

 

「…このぉ!」

 

 憑依テレサも根性を振り絞って向かっていく。

 憑依テレサの右ストレート、すかさずピーチ姫が蹴りあげる。隙ができたところにピーチ姫の右ストレート。しかし、憑依テレサも学習し、右足を後ろに引き左足を軸にして回転、ピーチ姫の攻撃をかわしつつ左手に力を込める。ピーチ姫はその動きを予測しパンチが来る予想位置に左手のひらを構えた。それを確認した憑依テレサはニヤリと笑い手の力を緩め体制をさらに低くし、攻撃を手から足に切りかえ足払いを狙った。ピーチ姫は即座にジャンプしてかわしたが、着地の時にバランスを崩してしまう。

 

「おっとと…」

「もらったぁ!」

 

 その隙を逃さない憑依テレサ。M・キノピオの体のバネをフルに使ってたいあたりした。ピーチ姫はなんとか受け止めたが、かなり重い攻撃に骨がきしむ音が聞こえた。

 

「くぅ…」

「まだ終わらねぇぜ!」

 

 憑依テレサはピーチ姫の細い腰を両腕でガッチリとはさんだ。そしてそこからスープレックスに持ち込む。しかし普段実体のある体に慣れていない憑依テレサ。ピーチ姫との身長差を考慮にいれていなかった。

 ピーチ姫は両腕を万歳をするように伸ばした。伸ばした腕が先に地面につき衝撃をやわらげ、さらに両腕を、バネに体を弾ませる。

 

「うおっ!?」

 

 突然の予想外の動きにピーチ姫を拘束していた憑依テレサの腕が外れた。そのまま憑依テレサは仰向けに倒れた。ピーチ姫はバク転を2回行い体制を立て直し、その間に憑依テレサも起き上がった。一拍おいて、二人同時に相手に向かって突っ込む。

 

「やあぁぁぁぁ!!」

「おおおおおお!!」

 

 憑依テレサが少し早くパンチを繰り出す。ピーチ姫はそれを左にいなしみぞおちに鋭いパンチをめり込ませる。

 

「ぐうぅぅ…!?」

 

 口から液体を吐き出しながらも痛みをこらえピーチ姫の腕を両手で掴む。しかし、ピーチ姫は特に気にせず両手を使っていることでがら空きになっているM・キノピオの顔面に右手の拳を連続で叩き込んだ。

 

「あっあぎ、がはっ、ごふっ」

 

 M・キノピオを介して伝わってくる痛みに意識を奪われそうになったのでたまらずピーチ姫の手を放す。ピーチ姫を直接拘束しようと抱き締めようとするがピーチ姫が身を屈めたため空をつかんだ。その一瞬の隙に姿勢をあげるのと同時にアッパーを憑依テレサの腹に打ち込んだ。

 

「おぐぅっ…」

 

 呼吸が止まるのを感じる憑依テレサ。だが、痛みを受け流すよりも先にピーチ姫のパンチが連続で打ち込まれる。

 

「はあぁぁぁりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!!」

「が、ぎっっ、ぐ、げえ、えぇ、ごっふ…」

 

 下からの驚異的なスピードのラッシュでM・キノピオの体が浮き上がる。百発くらい打ち込んだのち、右手を大きく引き、最後の一撃をぶちかます。

 

「やあぁ!!」

「ごふぅあ!!」

 

 少し回転がかかった右手の拳がM・キノピオの鳩尾を深くとらえピタリと止まる。憑依テレサは意識を朦朧とさせながらもなんとか気絶しないでいる。

 ピーチ姫は息を整え仕上げにかかった。M・キノピオの体を少し上に放り投げタイミングを見計らって蹴り飛ばした。

 

「やぎゃっ!」

 

 憑依テレサは地面に二、三度バウンドして痛みで完全に動けなくなった。

 

「ふぅ~」

 

 ピーチ姫は大きく深呼吸した。

 

「戦いかたは本来のマッスルには遠く及ばなかったけど…体の固さはさすがね、ちょっとつかれちゃった」

 

 少し荒くなった呼吸を整えながらピーチ姫はクールダウンのストレッチを始めた。

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