「くそっ!くそぉ!!」
床にうつ伏せになり悪態をつきながら憑依テレサは床を何度も叩いていた。
「なんでこうなった!?予想外のことが起こりすぎたからだ!!」
この戦いで憑依テレサにはいくつもの誤算があった。
1、M・キノピオの精神力が強すぎていつもならはずしてしまう感覚までつながなくてはいけなかったこと
2、ピーチ姫が攻撃を全くためらわなかったこと
3、ピーチ姫が強すぎたこと
「ぐぐぐ、しかも攻撃がすべて急所を外れている!手加減してこの強さ…!」
憑依テレサが肉弾戦に慣れていなかったことも敗因の一つだった。ここまで打ちのめされながらもまだ憑依テレサは諦めていなかった。
(だが、ピーチ姫の攻撃でこのキノピオも大分弱ってきている。今なら痛覚を外しても十分に操れるぞ!)
今の憑依テレサは痛みを恐れて無意識に防御主体になっていた。しかし、痛覚を遮断することで痛みに対する恐怖がなくなるのでよりむぼうな戦いかたができる。
(そうすればピーチ姫もいつかは疲労するだろう。倒せなかったとしてもこの体が壊れるだけだ…)
ニヤリとピーチ姫にばれないように痛覚をはずした。これでもう痛みを感じないと余裕の表情を浮かべる憑依テレサ。その頭(M・キノピオのキノコの部分)を後ろからわしづかみにする者がいた。
「ぎゃっ!?」
「つかまえましたわ」
憑依テレサがなんとか後ろを見るとそこには人型に変身したレサレサが勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「痛覚をはずしましたわね?これなら
レサレサの手に力が込められる。憑依テレサは慌てて痛覚を戻そうとするが時すでに遅し、レサレサによって一気にM・キノピオの体から引き剥がされた。
「うおおおおおおお!!」
必死にしがみつこうとしたがレサレサがそれを許さない。完全にM・キノピオから引き剥がされた憑依テレサはレサレサの手のなかで必死にバタバタする。
「くっそ!はなせ!!」
「放すわけないでしょう?」
「くっ、ならば他のなにかに憑依して…」
「残念ですが、あなたの周りには憑依できるものはありませんわよ?」
M・キノピオを安全な場所に移動させたピーチ姫がなにやら青い瓶を持って近づいてくる。後ろにはM・キノピオと一緒に先ほどの小さなキノピオも二眠っている。
「いつの間にそこに!?」
「あなたがピーチ姫と遊んでいた間に…透明化してわたくしが助けておきましたの。気づきませんでした?ですわよね!なにせわたくしが完璧過ぎるんですもの!!オーッホッホッホ!」
片手に憑依テレサを鷲掴みながら高笑いするレサレサ。
「まったくその通り、レサレサは私が出会ったどのテレサより素敵だわ!!」
「うふふ、ありがとうございます。姫に言われるとよりうれしいですわ、さて、これはどうするんですの?」
今だ暴れる憑依テレサ。その姿を微笑みながら見つめるピーチ姫。
「そうですねぇ…いつもであればそこまでひどいことはしないのですが…」
後ろを振り返るピーチ姫。そこには気を失っているキノピオ達がいる。
「………今回は私のかわいい臣下が危ない目にあわされましたから」
「ひぃ!」
再び視線を戻したピーチ姫の顔は笑顔のままだったが、目は笑ってなかった。
「おいたが…過ぎましたね…?」
手に持つ瓶の栓を開ける。その瓶にはテレサに×印がついたイラストが貼られていた。
「そ、それはぁ!!」
「それ」がなにかわかった憑依テレサはさらに暴れだした。
「ちょっ、おとなしくなさい!」
「ふざけんなよ!お前もテレサ族なんだろ!?ならあれがなにか、オレがどうなるのかわかってるんだろ!?」
必死な憑依テレサに対してレサレサは冷静だった。
「『せいすい』、ですわよね?それがなにか?」
「あれは俺たちみたいなおばけを完全に排除するアイテムだろうが!あれかけりれたら俺は完全にいなくなっちまう!同じテレサ族ならピーチ姫を説得してくれよ!」
「あなた…」
レサレサは憐れな物を見る目で憑依テレサを見る。そして首を左右に振ったあと憑依テレサの耳元(恐らく耳があると思われる位置)で囁く。
「なにを都合のいいことを言ってますの?まだ、自分がしてしまったことを理解できていませんのね」
「いいから、早く!!」
「ですから、無駄です。なぜなら…」
ピーチ姫が目の前までたどり着いた。
「ひいぃ!!」
ピーチ姫がせいすいを高くかかげる。憑依テレサは恐怖の表情でそれを見上げ、レサレサはフッと息をはいた。
「あなたは、触れてはならないものに触れてしまったのですから」
「!!?っ!??……!」
せいすいをモロに浴びせられた憑依テレサは声も音もなく消えていった。
「ご、ごごごごごめんなさいレサレサ!」
「大丈夫ですから、お気になさらないでください」
「だ、だってぇ…」
数十分後、ピーチ姫、レサレサ、M・キノピオの三人は地下に続く階段を下っていた。憑依テレサ消滅後小さいキノピオ二人をセバスチャンに預け、先に進んでいた。その最中ピーチ姫は何度もレサレサに謝っていた。
「あの状況ならわたくしにもせいすいがかかってしまうのは仕方のないことですわ」
レサレサの言う通り、さっきの戦いの最後に使ったせいすいが少しレサレサにかかってしまったのだ。せいすいは霊体以外にはただの水だが、霊体にかかると硫酸くらいの威力はある。
「リボンが少しなくなっちゃったし…」
「このリボンは実体ではありません。この霊力が濃い場所ならすぐに…ほら、直りましたわ」
レサレサの言う通り少し消えていたリボンが元に戻っていた。しかし、それを見てもピーチ姫の気持ちはまだ納得していなそうだったのでレサレサは話題を変えることにした。
「それより!アレは大丈夫なんですの?」
「アレ?」
レサレサが指し示した方には肩を落としてトボトボ歩くM・キノピオの姿があった。先ほどピーチ姫の容赦ないラッシュでダメージをかなり受けたM・キノピオだったが、己の頑丈さとピーチ姫の癒しの魔法ですぐに回復した。しかし、このお化け屋敷ステージに入ってからろくな活躍をしていないM・キノピオ。それどころか体を乗っ取られ主人に手をあげてしまった自分に失望していた。
ピーチ姫はM・キノピオの頭を撫でる。
「もう!気にしないでって言ってるでしょ!」
レサレサに言われたことをそのままM・キノピオに言うピーチ姫。M・キノピオはゆっくりとピーチ姫に顔を向ける。
「ボクのことは構わないでください…こんな…ボクを…」
「マッスル…」
ネガティブなままさらに進もうとするM・キノピオ。しかしピーチ姫は前に立ちM・キノピオの肩を掴み…腹に膝蹴りをおみまいした。
「ぶっふぉ!!」
よく弾むスーパーボールのように弾みながら吹き飛んだM・キノピオ。突然の展開にレサレサも口をあんぐり開ける.。そんなことはお構いなしにピーチ姫はビシッとM・キノピオを指差した。
「その頑丈さ!」
「…はい?」
主の奇行にそろそろ慣れ始めたM・キノピオは体を起こしながら疑問符を浮かべる。
「わたしがさっきあそこまで躊躇なくあなたに攻撃できたのはその頑丈さがあったから、つまり、あなただからできたの!」
「ボクだから?」
「そう!あなただからあそこまでできたの!」
「ボクだから…」
少し気持ちが持ち直し始めてきたM・キノピオ。ピーチ姫はここぞとばかりに自分の中の最高の誉め言葉をぶつける!
「とっても殴りやすいサンドバッグみたいだったわ!」
「サン…」
一瞬考えるM・キノピオ。フォローのつもりのピーチ姫。「生者の中では誉め言葉なのかしら?」と首をかしげるレサレサ。
「ありが…とう…ご?ざいま…す?」
かなり納得できていない感じだったが考えることで他の余計なことを考えなくなったのか落ち込んだ感じはなくなったのでとりあえず先に進むことにした。
地下廊下の突き当たりにひとつのドアがあった。三人はその前で止まっていた。
「確実になにかいるわよね」
扉の向こうでは正体がわからない物音が鳴り響いていた。
「ピアノの音かしら?だとしたらひどい旋律ね」
「バタバタいっているのは何ですの?」
「紙が擦れるような音もしますね」
周りを探っても近道のようなものは見当たらない。後ろには先ほど進んできた廊下しかない。先に進むには目の前の扉を抜けていくしかないようだ。
「ここでモタモタしていてもしかたないわ先に行きましょう」
「ではボクが先頭にいきますね」
少し自信を取り戻したM・キノピオが扉を開ける。M・キノピオの後ろで二人が攻撃体制をとる。完全に扉が開いたその先の部屋では…ピアノや本が生き物のように蠢いていた。
「これは…?」
「道具おばけ…でしょうか?」
道具おばけとはその名の通り道具に憑依または道具が化けたものを意味する。ピーチ姫たちの目の前では蓋の部分に牙が生えたピアノや空中を飛来するたくさんの本、勝手に動く石像などが部屋のなかを縦横無尽に暴れまくっていた。時々壁に当たったりして下に落ちるがすぐに動き出す。その様子を見たM・キノピオはレサレサに質問した。
「アレ…実体があるんですか?」
「ありますわ」
「じゃあ倒すにはどうするんですか?」
「ぶち壊せばいいんですわ」
「ふふ…」
肩を震わせて笑うM・キノピオ。その様子が少し気味悪かったのでピーチ姫は様子を探った。
「マッスル?大丈夫?」
「姫ぇ!」
「はい!?」
急に手を掴まれたピーチ姫は小さく悲鳴をあげた。M・キノピオの目はキラキラ輝いていた。
「やっとお役にたてます!実体があるのならこちらのものです!ははは…やるぞう!!」
指をポキポキ鳴らし軽くストレッチをしながら敵のただ中に入っていく。ピーチ姫とレサレサはそれを見送った。
M・キノピオがテリトリーに入ってきたのを感じ取った牙の生えた本“キラーブック”が三冊ほど口をガバッと開けて真正面から襲いかかってきた。M・キノピオは近くにあった直径一メートルくらいの丸テーブルを片手で持ち上げ横に一閃、三冊同時に叩き潰した。キラーブックはポンッ!という音と共に消え去った。それを見たM・キノピオのテンションは最高潮になる。
「いよっしゃあぁぁぁ!かかってこいやぁ!!」
嬉々として突っ込んでくるM・キノピオに困惑しながらも部屋中のおばけが攻撃してくる。噛みつこうとするキラーブックの歯をへし折り、無理矢理閉じて鷲掴み、その本の角で残りのキラーブックをはたき落とす。後ろから虹色の球体が飛んできたので手に持っているキラーブックで防御し、球体を飛ばしてきた相手、大きなお目目のアイクンの群れに突っ込んでいく。アイクンたちは同じ球体を乱れうちしてくるがスピードは遅いのでM・キノピオは難なくかわし一番前にいたアイクンに正拳突きをお見舞いする。
「ピギィ!」
鳴き声ともなんともつかない音を発しながら小さくなって消えるアイクン。それを見た周りのアイクンが怯んだ。M・キノピオは近くにいた一匹をM・キノピオから見て斜め45度の方向に飛んでいくようにぶん殴った。殴られたアイクンはまるでビリヤードの球のように他のアイクンを弾きながら転がっていった。
たった一発のパンチでアイクン群れを蹴散らしたM・キノピオは次にジャンジャン音を鳴らしまくるピアノに目を向けた。ピアノもM・キノピオをターゲットにとらえ文字通り牙をむいて襲ってきた。
「ふしゅうぅぅぅ…」
M・キノピオは息をはくと同時に全身に力を入れる。グランドピアノくらいあるおばけピアノが押し潰そうと飛び上がった。
「ふんっ!!」
足に力を入れおばけピアノを両手で受け止める。
「!?!?」
暴れるおばけピアノ、しかしM・キノピオはそのままおばけピアノの裏側、生物でいうとお腹の辺りを思い切り殴った。パンチは裏側を突き破り中の精密な機械部分をぶち壊した。同時におばけピアノはただのビアノに戻った。M・キノピオは左手でピアノを支えながら右腕を抜きピアノを投げ捨てた。大きな音をたててピアノは崩れ落ちた。M・キノピオの圧倒的の攻撃に周りを飛び交ったり暴れていたおばけたちが警戒しM・キノピオから距離を取る。M・キノピオは逃げ損ねたキラーブックを握りつぶし鋭い視線を残りの敵を睨み付ける。
「攻撃が当たるっていいなぁ?…覚悟しろよ…」
M・キノピオは嬉々として敵の群れに向かっていった。
その様子を少し離れたところで見守るピーチ姫とレサレサ。アイテムBOXから出したテーブルでティータイムと洒落こんでいた。
「ねぇ、レサレサ。おばけって食べたりできるものなの?」
「普通は無理ですわ。ですが高位のテレサになってくるとわたくしのように食物をエネルギーにすることもできるようになりますの」
「へぇ~!やっぱりレサレサはすごいわね!」
楽しくおしゃべりしているうちにM・キノピオは羽が生えたモアイみたいな敵を粉々にしていた。
「しかしすごい気迫ですわね。主に似たのかしら?」
「私はあそこまでじゃないわ(多分)、このステージに来てからずっと物理攻撃が通用しない敵ばかりだったからいいストレス発散になってるんでしょうね」
「それはいいことですわね」
「ええ」
二人が談笑していると部屋の奥の暗がりから何かが飛んできた。
「ふっ」
ピーチ姫がそれをキャッチする。飛んできた方向はM・キノピオがいる方とは真逆で誰もいない。つかんだ物を見てピーチ姫は渋い顔になった。
「ハンマー…」
それはここに来るまでに何度か見たハンマーだった。ピーチ姫は慎重にあたりを見渡すがどこにも誰もいない。
「レサレサ、もしかして近くにあいつがいたりする?」
「…いいえ、近くにはいないですわ」
同じくハンマーに見覚えがあったレサレサも面倒そうな顔でハンマーの持ち主がいないことを確認した。
「じゃあこれはただのイタズラ?」
そう思おうとしたときM・キノピオが大声で二人を呼んだ。
「大変です!ピーチ姫!」
「どうしたの?」
ティーセットをしまいつつ、なんとなく何が起こったか察しながら一応状況の説明を求める。
「ハンマーが飛び交っています!」
M・キノピオの言葉通り大量のハンマーが部屋中を飛び交っていた。しかしピーチ姫が予想していた相手の姿はなかった。
「あら?少し予想外だわ」
ハンマーの持ち主と思われる敵を探したがどこにも見当たらない。ハンマーも投げらたものではなく本当にふわふわと空中を漂っていた。
「本体はいないのかしら?」
不思議に思ってM・キノピオに近づこうとした時、ふわふわ漂っていたハンマーが急に意思を持ったようにピーチ姫目掛けて飛んできた。
「ピーチ姫!危ない!!」
M・キノピオが主の身を案じたが、普段の運動神経に加え、波動のコツもつかみ始めてきたピーチ姫にとってハンマーを避けるなど容易いことだった。
「もう確実にあの方なんだけど」
「本体がいませんわね」
ピーチ姫とレサレサが二人で首をかしげていると、二人の後ろを見ていたM・キノピオが青ざめた顔で騒ぎ出す。
「お二人とも!!後ろ後ろ!!」
「え?」
二人はM・キノピオの慌てぶりを不信に思いながら後ろを振り返った。するとそこには…
「う~ら~め~し~や~」