最後の部屋の扉はとても大きかった。
「明らかにボスの部屋よね」
「見るからにね」
どうやって開けようか考えながら近づくと扉はひとりでに開きだした。三人は顔を見合わせると頷きあい扉の中に入っていった。
最後の部屋は最初の部屋のような装飾で最初の部屋より大きかった。奥に進んでいくと祭壇がありその上に大きな箱が置いてあった。
「箱はあったわね」
「うん、でも…」
祭壇の前にツタンカーメンのようなたてがみをしたライオンのような像が置いてある。デイジーはそれに見覚えがあった。
「キング・トトメスね?」
デイジーがそう呼ぶと像がゆっくりと動きだし、体の表面を覆っていた石が剥がれ落ち中から石像の姿まんまのボスが現れた。
「ぐおおおぉぉぉぉ!」
キング・トトメス。デイジーの故郷サラサランドのある国のボスでもある。ツタンカーメンのようなたてがみをしたライオンのような姿で火を吹いたり、鉤爪で攻撃したりする。デイジーはこの敵をよく知っているので余裕の表情だ。
「動きはワンパターンだから問題ないわ」
攻撃体制をとるデイジーとピーチ、レサレサは後方に下がりいつでも支援できるように準備する。
「じゃあ行くわよ!」
まずはデイジーが攻勢に出た。しかし一歩を踏み出したデイジーは自分の体の異変に気づいた。
「あら?」
思い切り踏み出したつもりだったのだが普段の半分くらいしか動けていない。それはピーチも同じだった。
「体が…重い?」
二人の動きはまるで重りをつけているかのように遅かった。その隙をキング・トトメスは見逃さず鉤爪でデイジーを襲う。
「ワア~待った待った!」
ギリギリ攻撃をかわすがやはり体が重い。重く感じるだけでいつもよりも力をいれれば動けるが感覚が違って戦いにくい。
「なんなの!」
「今までの疲れが出たのかしら?」
「!!いえ、違いますわ」
レサレサが霊視しあることに気づいた。
「お二人の中に先程までの珠の光が渦巻いていますわ!」
「珠って、あの部屋にあった!?」
「はい、理屈はわかりませんがその珠がお二人を縛っているように見えます」
「やっぱり罠でもあったのね」
ピーチの考え通りこの珠を取って戻っていくシステムにはカメックババによる罠でもあった。珠を取る毎に身長が戻っていくのと同時に体内に特殊な魔法が蓄積していくようになっており、最終ボスのキング・トトメス戦でその魔法が『重さ』となって二人の枷になるようになっていたのだ。
余計なことをせずにほっておこうとも考えていたがそれだとアイテムを使ったり、別の解除方法を見つけて戻ってしまう可能性もあったのであえて元に戻る方法を提示することで他の可能性から意識を背けさせ、罠にはめることにしていた。そして今ピーチとデイジーはその罠の真っ只中にいる。
「がおおおおお!」
キング・トトメスは咆哮しながら素早い動きで攻撃してくる。
「わっと」
「むぅ…」
ピーチとデイジーは重い体を動かし何とか回避を繰り返していたが、体にかかる重さはかなりのもので血液がすべて鉛になってしまったのかしら?と考えてしまうほどだ。加えてキング・トトメスの動きは機敏で少しずつかわすのが難しくなってきている。
「く、きついわ」
「うぅ、でも…あっ!」
突進してきたキング・トトメスの攻撃をかわしたデイジーだったが、さらに尻尾で追撃され吹き飛ぶ。それに一瞬気を取られたピーチはキング・トトメスの前足の一撃を横っ腹にもろに食らってしまう。
「あぐっ!」
空中に放り出されたピーチにキング・トトメスは火球をはいた。
(反撃が間に合わない)
動きが遅いため攻撃が間に合わないと判断したピーチは魔力を動作が少ない防御に切り替えた。ギリギリで障壁が展開されたが硬度が薄く、火球を防ぎきれずダメージを受けてしまう。
「あつっ…!」
炎をはらいながら着地したところをキング・トトメスが襲いかかる。その動きを見切り紙一重でかわした。キング・トトメスは方向を変えて高い瞬発力で爪で切りかかる。
「ぐっおも…!」
いつもなら簡単に避けられるのだが、呪いの重さが邪魔をして回避が間に合わない。爪が二人を襲う寸前、
「危ないですわ!」
レサレサが割り込み“すきとおり”で二人を隠した。キング・トトメスは驚いたものの体勢を整え三人を睨み付け距離をとる。ピーチたちも迂闊に近づかず一定の距離を保つように心がける。
「気持ちと考え方を切り替えましょう」
唐突にピーチがそう言った。意味がわからずデイジーとレサレサはピーチを見る。
「この体の重みはすぐにどうこうできるものではないわ。なら考え方を変えましょう」
「どう変えるの?」
「これは“修行”よ」
「修行?」
「そう、実際にやったことはないけれど、格闘家とかって体におもりをつけて修行したりするって聞いたことがあるの。だから今の状況をそう置き換えるのよ」
「なるほど!」
「ですが、そんなことで変わるものですの?」
「考え方って結構大事なのよ、考え方一つで全然変わるんだから。でも今まで通りサポートはお願いね」
「わかりましたわ、お二人ともお気をつけて」
「まかせて」
ピーチとデイジーは軽く体をほぐしキング・トトメスに不適な笑みを浮かべた。
「「さあ、ここからが本番よ」」
「うがぉぉぉ!!」
キング・トトメスが動く少し前にピーチとデイジーは左右に別れた。キング・トトメスは一瞬悩みピーチを追いかけようと向きを変えたところ、目の前に小さなボムが落ちてきた。
「“ピンキーボム”」
「うぎぃ!?」
爆発がキング・トトメスを襲う。怯んで隙ができた敵の横っ腹にデイジーが思い切り下から蹴りあげた。
「とりゃああぁぁぁ!!」
「ぎがぁ!?」
軽く吹き飛び体を地面に打ち付けながらも俊敏に体を起こす。
「ぐるるる…」
急に二人の動きかよくなりさらに警戒を強め守りに入った。しかしそれは今相手にしている二人に対しては愚策だった。キング・トトメスは気付く、今度はピーチがいない。
「ふっ!」
ピーチがキング・トトメスの牙の一本を狙って攻撃を打ち込んだ。ボキンと鈍い音をたてて牙が吹き飛ぶ。
「ぎゃわあぉ!?」
痛みに悶え涙目になるキング・トトメス。痛みをこらえ鋭い爪でピーチを攻撃する。
「よっほっ」
痛みで集中力を欠いた状態で繰り出した攻撃が当たるわけはなくピーチは簡単によける。そして一瞬の隙をついて桃色の光の球を打ち上げた。その光はキング・トトメスの目の前まで上がると一気に強く輝いた。
「うぎゃああああ!?」
目の前で強い光が弾け視界が真っ白になるキング・トトメス。ピーチは追撃はせず距離をとった。
「まさか体が小さいってことがこんなところでいかせるなんてね」
体が小さいことで敵の視界から外れやすくなり、攻撃もかわしやすかった。体の重みもすでに気にならなくなり完全にいつもの調子を取り戻していた。
キング・トトメスも視界が回復してきた。視界が奪われていた間、二人が攻撃をしてこなかったことを不審に感じ目を向きさらに警戒を強め五感全てを使い二人の動きを探る。
「守り主体じゃだめだよ?」
「!!」
目の前、まさか真っ正面に堂々と現れるとは思っておらず驚愕するキング・トトメス。しかし先程よりは身構えていたのですぐに炎をはいた。
「どっりゃぁぁぁぁ!」
デイジーはよけずに真っ向から障壁で強化した拳を打ち込んだ。炎は弾け、四散した。あまりの力業にキング・トトメスの口はあんぐり開いて固まった。
「チェストー!!」
渾身の一撃がキング・トトメスの眉間にめり込む。
「うっがぅ」
ものすごく情けない声と共に前足を上げてのけぞるキング・トトメス。すると背中の方から声が聞こえてきた。
「はまったわね」
その声に反応しようとしたが完全に二人のペースにはまっていた。
「はあぁ!」
ピーチのパンチがキング・トトメスのお尻の辺りを攻撃する。今のキング・トトメスは二足立ちに近い状態なので下半身が前にすべり背中から転倒しお腹を見せる状態になった。そこにメタル化したデイジーが容赦なく落ちる。
「ぎぃやああぁぁぁ!」
ものすごい悲鳴が響き渡りキング・トトメスは泡を吹いて痙攣した。ピーチとデイジーは祭壇の箱に近づき箱を開けようとするがびくともしない。
「あら?まだダメみたいね」
「まだ倒してないってこと?」
「そうみたいね」
キング・トトメスは目を覚ました。
「ガルルゥ!?」
飛び起きたキング・トトメスは気を失う前の事を思いだし震える。と、そこに近づく影二つ。
「あらぁ?まだ起きてたのね?」
「さすがボスよね」
「ガグぉぅ!?」
驚きと恐怖で変な鳴き声になるキング・トトメス。完全に戦意は失っているが、完全に倒しきらないとピーチたちの目的は果たせない、つまり…
「「いくわよ、だめ押し」」
「ーーーーーーーーーーー!!」
キング・トトメスの声にならない悲鳴が部屋中に響き渡った。
祭壇の箱が輝き最後の珠が現れた。光が消えるとピーチとデイジーの体が元に戻り体の重みもなくなっていた。
「ふうぅ~!やっぱり元の大きさが一番ね!」
「えぇそうね」
「では遺跡から早く出ましょう」
「そうはいかないのじゃ!」
三人以外の声がして振り向くといつの間にかカメックババがいた。少し怒っているようだった。
「よくもこの遺跡を攻略したねぇ!ほめてやる…」
カメックババの台詞が終わる前にデイジーが跳躍し握った拳をカメックババに向けていた。
「せーのー」
「はやぁ!?」
慌てて空中を移動しカメックババはなんとかかわす。
「なにするんじゃ!?」
「もう少しだったのに」
残念そうにするデイジーにカメックババはさらに怒る。
「むきー!もう怒ったぞ!」
カメックババが杖を掲げると赤い光が炸裂し部屋全体を覆った。光はすぐに消えたが同時に遺跡が揺れだした。
「これはまさか」
「ひーっひっひっひ!この遺跡はわしが魔法で作ったんじゃ!壊すくらいすぐにできる!生き埋めになってしまいな!」
「あら、じゃあ早く出ましょうか」
「はえ?」
ものすごく冷静なピーチの反応にカメックババの笑いが止まる。
「よいしょ」
ピーチがアイテムBOXから“1”と書かれたマットのようなものを取り出し下に置いた。
「ねぇピーチ、これなに?」
「“ワープパット”よヨースター島から持ってきたの」
「ワープ、ということはどこかに繋がってますの?」
「えぇ、実は入り口に出口用のワープパットを置いてきてるから一気にそこまで行けるわ」
「さっすがピーチ!安全確認もかねて私が先に行くわね!」
デイジーがワープパットの上に乗ると光がデイジーを包み込んで姿が消える。
「すごいですわね、では次はわたくしが」
レサレサも中に消えていった。目の前で起こる出来事にカメックババはまだポカンとしていた。最後にピーチがカメックババに笑顔をむける。
「じゃあねカメックババさん、あなたも早く出た方がいいわよ?」
「は!まて…」
カメックババが我に返った頃にはピーチの姿はなくワープパットも消えていた。
「くそぁぉぉ!」
カメックババの悔しそうな叫び声は遺跡の崩壊音にかき消された。
ピーチが出口用のワープパットに現れるとデイジーとレサレサはほっと息をついた。遺跡が完全に崩れ落ちると背後に扉が現れた。
「なんだかいつもより疲れたわね」
デイジーが肩をゴキゴキとならす。ピーチも腕を伸ばした。
「そうねぇ、中は暗くて埃っぽかったし、狭かったし、小さくもなったしね」
「でもレサレサがいてくれてよかったわ」
「ほんとにそう!助かったわありがとう」
「オーッホッホッホ!いいんですわ!」
感謝の言葉を受け高笑いをあげる。そんなレサレサを見てピーチはあることに気付く。
「ねぇレサレサ、あなたなんだかお肌のツヤがよくなってない?」
「そういえばそうね」
「あら?気づきました?」
聞かれたレサレサは「よくぞ聞いてくれました!」とばかりに胸?をはる。
「あの遺跡にも幽霊屋敷と同じような霊気が漂っていまして、それを吸収しましたのでかなり調子がいいんですわ」
「触ってもいいかしら?」
「えぇどうぞ」
ピーチとデイジーはレサレサに触ってみた。
「本当にすべすべだわ!」
「うらやましいわ~!」
「うふふ、くすぐったいですわ~」
次の扉を背にしばらくきゃっきゃっと戯れ、体を休めたあと三人は扉を開けて次のステージへと進んでいった。