階段を降りるとそこは棺桶が並んだ不気味な場所だった。
「ここは、『おばけ屋敷』ね」
ピーチ姫のいう通りここはおばけ屋敷だった。その名前の通りおはけの敵が多くいる場所だ。おばけの敵は基本的に倒せないのでかなり厄介だが、補助魔法に加え波動を少し使えるようになったピーチ姫にはとくに問題なかった。だが…
「マッスル?大丈夫?」
「え、ええ…」
この部屋に来てからM・キノピオは青い顔で震えている。
「まさか怖いの?」
「いや、なんというか…テレサとかは怖くはないんですけど、ほら、ボクの攻撃って基本物理でおばけにはあたらないじゃないですか?」
「ええ、そうね?」
「それってつまり、ボクって役に立たないってことじゃないですか…」
「まぉそうね」
「ひ、姫!?そんなハッキリ…」
まじで落ち込むM・キノピオ。ピーチ姫はそんなM・キノピオの肩を叩く。
「確かにあなたはおばけとは戦えないけど、おばけ屋敷だからこそのあなたにしかできない役割はちゃんとあるわよ」
「姫…ありがとうございます…でも…」
「まだなにかあるんですの?」
煮えきらないM・キノピオのようすにレサレサが体を傾げる。M・キノピオはしばらく地面を見つめたあとゆっくり理由を話始める。
「さっきも言いましたけどおばけは怖くないんですよ、でも、ビックリする系はほんとに苦手で…」
「あぁ、そういうことですの」
「確かにおばけの本分でもあるわね」
「レサレサ嬢はともかく、姫は大丈夫なんですか?」
「以前は正直怖がっていたけど、今はほら、倒せるから」
と言って拳を握って見せるピーチ姫。
「…本当にたくましくなられましたね」
なんともいえないため息をつきながら、ついでに恐怖も吐き出す。
「すいません、もう大丈夫です。先に進みましょうか」
気持ちを持ち直し部屋の出口のドアに手をかけた。
「お嬢様ーーーーーーーー!!!」
「ぎゃああああああああああ!!」
ドアノブをひねった瞬間、大声とともになにか丸いものがM・キノピオをすり抜けてレサレサの元に飛んでいった。M・キノピオは白目を向き泡を吹いて気絶した。
「セバスチャン!」
それはレサレサに仕える執事テレサのセバスチャンだった。白い眉毛と髭を蓄えモノクルをしている。片方の手には上質なタオルを持っている。そのセバスチャンは涙を流しながらレサレサの無事を喜んだ。
「お嬢様ーー!じぃは、じぃは嬉しゅうございますー!」
「セバスチャンも無事でなによりですわ」
「ああ、ありがたい御言葉…」
喜びで体を震わせるセバスチャン。そのセバスチャンにピーチ姫も声をかける。
「セバスチャンさん、この度はご迷惑をおかけして申し訳ありません」
深々と頭を下げるピーチ姫。その時初めてピーチ姫の存在に気づいたセバスチャンはアワアワと慌てる。
「ピーチ姫様もご一緒でしたか!姫の御前でもうしわけありません!というか頭をおあげください!今回の件もクッパの仕業だということは存じ上げております!!」
「そういっていただけると助かります」
「しかし、何故ピーチ姫様がこちらに?クッパに捕らえられているとばかり…」
「現状を説明いたしますわ」
ピーチ姫は自分がこの城からの脱出を考えていることを話した。その途中でレサレサに出会って協力してもらっていることも話した。
「そういうことでしたか」
「セバスチャンはなにをしていたの?」
「わたくしはレサレサお嬢様をお探ししていたのですが、気づいたらここに迷い込んでしまっていたのです。わたくし、戦闘はからっきしですし、とりあえず隠れながらこの屋敷を探索していました。これをご覧ください」
セバスチャンは一枚の紙を取り出した。
「この屋敷の見取り図でございます」
「まぁ、セバスチャンさんが作ったんですか?」
「ピーチ姫様、セバスチャンとお呼びください。わたくしなりにこの屋敷の最短ルートを考えました。この屋敷は二階建てになっており、地下も一階あります。出口は一度地下に降りてからまた一階に上がる必要があります。今いるのが二階の奥の部屋ですので、まずは一階に行く必要がありますね」
セバスチャンの作った屋敷の見取り図は完璧だった。部屋の間取りはもちろん、家具や小物の配置に加え、トラップの位置まで網羅していた。
「よくやったわセバスチャン!」
「度々お褒めにあずかり光栄の極みでございます。しかし、敵の数までは把握できませんでした」
申し訳なさそうにしゅんとするセバスチャン。そんなセバスチャンをピーチ姫がなでる。
「そんなことはないです、セバスチャンのお陰で効率よく行動できますわ」
「ピーチ姫様にまでそのような御言葉をいただけるとは…うぅ、もう死ぬほど嬉しいです」
「もう死んでますよね」
いつのまにか意識を取り戻したM・キノピオが青い顔をしながら会話に参加する。
「ほほほ、キノピオ様、ツッコミありがとうございます。では、皆さんにこれを…」
セバスチャンが短い手をぱちんとうち鳴らすと棺桶が一つ開き、大量のアイテムが出てきた。回復用のキノコや魔法攻撃用のファイヤフラワー、対おばけ用のせいすいまである。
「セバスチャン、これはどうしたの?」
「はい、戦闘はできないまでも屋敷内の探索とアイテム集めくらいはできますので、万が一お嬢様がいらっしゃった時かマリオさんがいらっしゃった時にと集めておきました」
「よくやったわ」
「ありがたき幸せ」
セバスチャンが喜びで体を震わせる。アイテムはピーチ姫がアイテムBOXに入れて持ち歩くことにした。
「それではいきましょうか」
「セバスチャンはどうするのかしら?」
「わたくしめはここに残らせていただきます。ついていってま足手まといになりますし、もしかしたら他の方々も脱出してくるかもしれませんので」
「わかりました。では私たちは行きますね」
「はい、レサレサお嬢様をどうぞよろしくお願いします」
今度はピーチ姫が扉を開けて部屋の外に出ていく。そこは廊下になっており左右に続いている。目の前にはとびらがいくつかあり、どれも不気味な気配をはらんでいる。
「地図によるとここを右ね」
「ハッ!」
「レサレサ嬢!?」
レサレサが急に人間形態に変身した。ビックリしたM・キノピオがすっとんきょうな声をあげる。
「レサレサ?その姿は消耗がはげしいんじゃ?」
「この場所なら大丈夫ですわ。体の維持に必要な霊力が満ち満ちていますもの。それより、気を付けてくださいまし」
「へ?なににですか?」
「マッスル、見えていないようだからあまり離れないで」
「だからなにがですピーチひ…」
「そこ」
ピーチ姫がなにもいない空間に正拳突きを放つ。するとピーチ姫が殴った先で「ぐにゃっ!」とつぶれるような叫び声が聞こえて一匹のテレサが現れ弾けて消えた。
「テレサ!?」
いくらM・キノピオがおばけに攻撃できないとしても見ることはできる。しかしこのテレサは全く見えなかった。一応テレサは“照れ状態”の時は見えないがこのテレサは攻撃体勢のようだった。それならばなおのことM・キノピオにも見えるはずだった。
「マッスル、私とレサレサから離れないで、囲まれているわ」
「えぇ!?」
M・キノピオは慌てて辺りを見渡すがなにも見えない。レサレサはピーチ姫を賞賛する。
「本当にピーチ姫はお強いですわね!完全ステルス状態のテレサを認識できるだけではなくて攻撃もできるなんて!はっ!!」
襲ってきたテレサ二匹をセンスで打ち払うレサレサ。
「見えているのとは少し違うかな?さっきのフロアで使った“波動”の練習もかねてテレサの“魂の波動”を見ているって感じ。攻撃には対魔の力を体に付与してるからおばけでも当たるの」
突っ込んできたテレサをかわし、そのテレサを鷲掴みにすると別の方向に放り投げた。
「ぎゃっ!?」
「げっ!?」
「うぎゃあ!!」
すると悲鳴が連鎖し、次々と隠れていたテレサが姿を現し落ちてきた。それをちらっと確認すると次に腰を捻り肘を鋭く打ち込んだ。「ぎゅむ!?」と何かがつぶれるような音とともにテレサがまた地面に落ちる。
「あっわわわわわ」
見えていないM・キノピオは完全にテンパって動けないでいる。そんなM・キノピオの背後にテレサが近づく。そして、意外に長い牙を剥き出し噛みつこうとしたが…そのテレサの背後に一人の影。
「甘いですわよ」
人型のレサレサがセンスを思いきり振り抜く。テレサはラケットに叩かれたボールのように吹き飛ばされ何匹かを巻き込んで飛んでいく。そして右手に持っているセンスを左手に持ちかえ体を左回転。周りにまとわりつこうとしていたテレサを弾き飛ばす。
何匹かがピーチ姫の方に飛んでいったが、ピーチ姫はそれをすでに予測していたのでまるで蚊でも払うように弾き飛ばした。
「レサレサ、元の姿よりいい動きね」
「この姿は元々戦闘のことを考えて産み出した姿ですもの、テレサの姿の時みたいに空中を浮游したり他の人を透明にできなくなるかわりに戦闘力はかなり高くなりますから」
「すごいわ~!」
ピーチ姫とレサレサがお互いを賞賛している隙をつこうと足元に隠れていたテレサがゆっくり顔を出す。
(くくく…足を押さえて動けなくしてやる)
テレサがレサレサの足に触れようとした時、それよりも先にレサレサの足が上がりそのテレサを思いきり踏みつけた。
「ぷぎゃ!!」
「レディの足を掴もうなんて無礼にも程がありますわよ?」
レサレサはハイヒールをはいており、その足をグリグリする。普通テレサに物理は効果がないが、同じおばけが相手なら話は別になる。
「ぎゃああぁぁああぁ!?」
耳を覆いたくなるような絶叫がこだまする。傷がついたり血が出たりはしないが、踏まれているテレサには今激痛が走っている。レサレサはまるで汚物を見るかのような目で踏みつけているテレサを見下ろす。
「同じテレサでありながら全く…あなた方には誇りというものがないんですの?」
足元のテレサはもはや声もあげられない。それでもグリグリをやめないレサレサを見た周りのテレサは完全に戦意を喪失している。
「ふん」
レサレサが足元のテレサを蹴り飛ばした。その音でテレサたちは我に返った。レサレサの隣にピーチ姫が並ぶ。
「もうわかっていると思いますが、隠れても無駄ですわよ?ねぇ、レサレサ?」
「慈悲や容赦なんて期待しないように」
「…!!」
テレサたちは二人の剣幕に固まってしまった。そんなテレサたちをピーチ姫とレサレサは一網打尽にするのであった。
「あらかた片付いたわね」
ピーチ姫とレサレサにボコられ姿を現したテレサが山積みになっていた。おばけは死なないが心は折れる。ピーチ姫が本気を出せばテレサを完全に浄化できるが、そこまでする必要もないと判断した。
「さ、早く一階のホールに行きましょうか」
「そうですわね、セバスチャンの地図の通りだとそこから一度地下に降りなければならないのでしたわね」
「少し面倒ね……マッスル?」
二人が歩き始めようとするがM・キノピオが動かない。
「どうしたのよ、早く行きましょう?」
「姫、ボクはこの先に行く意味はあるのでしょうか?」
「はい?」
M・キノピオの質問の意味がわからなくて首をかしげるピーチ姫。M・キノピオはポツリポツリと言葉を続けた。
「だって攻撃が当たらない上に姿すら見えないんですよ!?そんなボクじゃこの先…」
「ついてきなさい」
「え?」
顔をあげるM・キノピオ。その目に優しい微笑みをたたえたピーチ姫の姿があった。
「あなたがどう思っているかなんて関係ありません。私があなたを必要だと感じているんです、だからあなたは何も言わずに私についてきなさい」
「ひ、姫!」
ピーチ姫の言葉には深い慈しみと強い力があった。その言葉を受けたM・キノピオの心に熱い炎が灯った。
「わかりました!このマッスル、命の限りお供いたします!」
「命まではかけなくていいわよ。さ、行きましょ」
「わかりましたわ」
「押忍!」
こうして三人は次のフロアへと足を進めた。
やっと書き終えました。次のステージはストーリーの流れはだいたい浮かんでいるので早めに書けると思います。