Fate/Digital traveller   作:センニチコウ

13 / 49
第十一話 願い

 聖杯戦争も終盤に差し掛かり、決勝戦の日も近づいてきた。

 校舎の空気もピリピリとしたものに変わってきており、居心地がいいとは言いにくい。

 元々そこまでよくなかったけど。

 

 いつも通り食堂で朝食を取り、校内を探索する。

 廊下を歩きながら他のマスターを観察していれば、なんとなくだが彼らの現状を把握することができた。

 未だ真名が分からず焦る者もいるし、既に英霊の弱点は得たと余裕を見せる者もいる。

 流石にここまでくると、真名を把握しているマスターも出てきたようだ。

 私も昨日手に入れた情報を調べなければ。

 

 でも、今日はまず教会に行って改竄をしてこよう。

 二日前に改竄を行ってから、それなりの数のエネミーを倒している。スキルの一つや二つ、取り戻すこともできるだろう。

 それに、あの人に聞かないといけないこともある。

 

 あとは上げるステータスだけど……やはり耐久値はあげといた方がいいだろうか。

 ランサーの装備は限りなく薄い。というか、鎧は腰にしか着けていない。それも、鎧と言っていい類のものか微妙だ。

 まあ、鎧がないのもスピードを落とさないようにするためなのだろうけど。

 

 でも、やっぱり彼女の無防備さは不安だ。

 うん、せめてDくらいまではあげることにしよう。

 もちろん、ランサーに確認をとってから、にはなるけれど。

 

 

 *

 

 

 教会の扉を開き、中に入る。

 中には青子さんと橙子さんの二人しかおらず、他のマスターの姿は見えない。

 これならここで改竄について相談しても大丈夫そうだ。

 

「あっ、君は確か、あのランサーの」

「あ、はは……どうも、改竄をお願いしに来ました」

 

 あのランサーって。

 一体どんな覚えられ方だ。確かに、彼女の姿は一目見たら忘れられないくらいの衝撃があるけど。

 

 思ってもなかった覚えられ方に苦笑いしながらも、早速改竄をお願いする。

 どのステータスを上げるかを問われ、隣に現れたランサーを見上げた。

 

「君は何を上げたい?」

「そうね……やっぱり敏捷かしら。次点で魔力ってところね」

「なるほど」

 

 ランサーは敏捷と魔力を優先して上げたいらしい。

 敏捷に関しては同意するが、私としてはやはり防御力、耐久を優先するべきだと思う。

 

 その事を伝えてみるが、いい顔はされなかった。

 彼女自身はあまり防御力を注視していないようだ。

 気持ちはわかる。ランサーの戦闘スタイルは、敏捷を生かして高速で移動し、踊るように敵を蹴り倒す。決して、攻撃を受けて反撃をするタイプではない。

 けど、だからといって耐久を疎かにするわけにはいかない。全ての攻撃を避け切ることなんて不可能なのだから。

 

「ある程度の耐久値は上げとくべきだよ」

「……たしかに、最低値のままではいけないわね」

 

 そういうことだ。

 一回戦のうちに、なんて無茶を言うつもりはない。だけど、全ステータスをワンランク上に上げたいとは思っている。

 ステータスの値が低いのは私のせいなのに、ランサーに頑張ってもらわなければならないというのは、正直心が痛むけど。そういうことを言っている場合でもないのが現状だ。

 

「それじゃあ、改竄をお願いします」

「オッケー、任せといて」

 

 結局、今回は敏捷と耐久を中心に上げてもらうことにした。

 改竄が始まり、カタカタとキーボードをたたく音が教会に響き渡る。

 私はその様子を横目で見つつ、橙子さんに近づいた。

 

 この前の続きを聞くために。

 

「橙子さん」

「ん? お前は確か……」

「二日前に言った”珍しい”の意味、教えてくれませんか」

 

 あの言葉は、図書室で言っていたレオの言葉と何か関係があるはず。

 

 私は人間だ。そのことについては確信がある。

 だけど、どうしても彼女たちの言葉が心に引っかかってしまう。気がかりは早めに無くしておいた方がいい。

 

「そうだな……いいだろう、少し待っていろ」

 

 そう言って、彼女は展開していたモニターを軽く弄ってから閉じていく。

 どうやら探し物の邪魔をしてしまったらしい。

 一言謝ろうと口を開けば、彼女は手を上げひらひらと動かした。気にするな、ということだろうか?

 この様子だと、お礼も止められそうだ。だったら、と頭を軽く下げ、気持ちを伝えた。

 

「さて、私がお前を珍しいといった理由、だったな」

「はい」

「お前が他のマスターとは違うからだ。言っておくが、性格とか容姿のことじゃないぞ。もっと根本的な所だ」

 

 その言葉に、体が強張るのがわかった。

 レオと言っていることが同じだったからだ。

 でも、彼女はレオと違って確信を持っているようだった。

 私が何者なのか、彼女は知っているのだろうか。

 

「それは……」

 

 声が震える。

 もし、人間でないと言われてしまったら。そう思うと、続く言葉が中々出てこない。

 ようやく出てきた声も、大分震えていた。

 

「私が、人間ではないという意味ですか」

「うん? どうしてそうなる。お前は人間だよ、正真正銘のな」

 

 あっさりと帰ってきた言葉は、私の不安を吹き飛ばした。

 何をバカなことを言っているんだ、というような目線も、今は正直安心する。

 強張っていた体から力が抜け、ほっと息をつく。

 

 でも、それなら橙子さんとレオの言う意味が分からない。

 根本的に違う、と彼女たち言った。一体、その根本とは何のことなんだ。

 

「その答えは自分で見つけろ。ただ、そうだな。ヒントをやろう」

「ヒント?」

「お前はなにかを失くしているだろう? それを見つけろ。そうすれば、答えも見えてくる」

 

 驚きに目を見開く。

 記憶のことなんて一言も言っていないのに。橙子さんはなんでもお見通しのようだ。

 

 どうして知っているのか聞こうとした時、ちょうど改竄が終わってしまった。

 前回もだったけど、タイミングがいいのか悪いのか。

 まあ、知っている理由はいいか。知りたいことは知れたし。

 

 橙子さんにお礼を伝え、ランサーに近づく。

 何かを確かめるように軽く体を動かしている。

 不機嫌ではないから、今回も特に支障なく終わったのだろう。

 

「調子はどう?」

「いいわね。霊格も一つ取り戻したわ」

 

 これならスキルも使えそうだと言うランサーは、いつもより上機嫌だ。

 表情もいつもとは違って明るい。

 そんな顔もするんだ。新たなランサーの表情が見れて、なんだか嬉しくなる。

 

「それで、これからどうするの?」

「図書室で昨日得た情報から真名を調べるよ。アリーナはそれからかな」

 

 残念ながら、私は英霊について詳しくない。

 詳しい人ならあの情報で何人かの武将が思い浮かぶかもしれないが、私は一人も浮かんでこない。

 だから図書室で地道に調べるしかない。

 アリーナに向かうのは、それからでも遅くないはずだ。

 

「今日もありがとうございました。またお願いします」

「もちろんよ。リソースが集まったら来てね」

 

 手を振り見送ってくれる青子さんに頭を下げ、教会から出ていく。

 大きな扉を開けると、眩い光が差し込んできた。

 薄暗さに慣れた目にその光は少し眩しい。軽く目を手で庇いながら、広場に出る。

 

 早速図書室に向かおうと校舎に足を向ける。

 校舎と広場を繋ぐ扉。その扉が開き、広場に誰かが出てきた。

 

「あら、ヴィオレットさん?」

「……小鳥遊」

 

 現れたのは、私の対戦相手。

 少し驚いたように立ち止まった彼女の隣に、セイバーが姿を現した。

 小鳥遊を庇うように少し前に出て、こちらを警戒している。

 

「ここで戦うつもりはないよ」

「それを信じろと?」

「こっちはペナルティを受けたくないんだ。そっちもでしょ?」

 

 正直、小鳥遊の能力はお世辞にも高いとは言えない。

 礼装だってアリーナで手に入れたようだし、戦闘中は一切指示を出していなかった。

 そこから考えるに、彼女は戦闘経験があまりない。いや、もしかしたら一切ないのかもしれない。

 どちらにせよ、ペナルティを受けるのは避けたいはず。

 

 そして、それはこちらも同じだ

 なんとか指示は出せているが、私自身の力は高くない。こんなところでペナルティを受け、更に弱くなるわけなはいかない。

 

「大丈夫よ。彼女、そこまで悪い人ではなさそうだし」

「……わかりました」

 

 小鳥遊の言葉に、セイバーは渋々と姿を消した。

 完全に姿を消す前に睨みつけてきたのは、忠告の一種だろう。

 攻撃をすればその首を刎ねる、とでも言われてる気分だ。

 

「こうして校舎で会うのは初めてですね」

「そう、ですね」

 

 小鳥遊が話しかけてくる。

 その様子があまりにのんびりとしていて、拍子抜けしてしまった。

 一体何の目的があるんだろうか……もしくは、なんの目的もなかったり。

 いや、流石にそれはないか。

 

「ちょっとお話しませんか? 私、あなたと話してみたいです」

 

 チャンスだ、と思った。

 攻撃するつもりはないが、情報を聞き出すことができるかもしれない。

 小鳥遊の提案に頷き、広場にあるベンチに二人で座る。

 

 一体何について話すべきか。

 いきなりサーヴァントについて聞いたって意味がない。むしろ、セイバーを刺激してしまうだけだ。

 じゃあ世間話でもするのか。対戦相手であるマスターと?

 

「ふふ」

 

 何を話そうか唸っていると、隣から笑い声が聞こえてきた。

 思わずそちらを見れば、小鳥遊が口元を抑えクスクスと笑っている。

 なにがそんなに可笑しいんだ。

 

「ごめんなさい。そんなに悩むとは思ってなくて」

「……まあ、悩みますよ」

 

 対戦相手なんだから当たり前だ。

 でも、小鳥遊はそこまで気負った様子はない。

 悪く言えばなにも考えていないと言えるけど……。

 

『クレアは考えすぎなんだよ』

 

 だ、よねぇ。

 

 白乃の言葉を思い出し、思わず肩を落とした。

 気軽に行くのは案外難しい。でも、深く考えすぎて動かけないのは最悪だ。

 とりあえず、今回は無理に情報を聞き出そうとは思わず、聞き出せたらラッキー程度に思っとこう。

 

「ねえ、聞いてもいいかしら」

「え、何をですか?」

「あなたが聖杯を求める理由」

 

 なんの前置きもなく聞かれた質問は、私には答えにくいものだった。

 聖杯を求める理由。そんなものは正直ない。

 

 私はこの戦争に巻き込まれた、恐らくただの一般人。

 そして私が求めるのは聖杯ではなく、その過程にあるだろう記憶だけだ。

 例え聖杯を手に入れたとしても、叶えたい願いなんてものはない。少なくとも、今は。

 

「……そういう貴方はどうなんですか?」

「あら、答えてくれないのね」

 

 だけど、それを言うのは憚られた。

 記憶がないことを伝えて何になる。デメリットもなければ、メリットもない。

 それに、親しくもない人に話すことではない。

 

 結局答えは濁し、逆に質問を返す。

 その質問自体は、私も興味があるからだ。

 

 小鳥遊はどうしてこの聖杯戦争に参加したのか。

 どんな願いを持って、戦うことを選んだのか。

 

 私は、どんな願いを踏みにじろうとしているのか。

 

 それが、どうしても気になった。

 

「私の願い、ね」

 

 小鳥遊は空を見上げる。

 0と1の羅列が並んだ、海のような空を。

 

「生きることよ」

「え?」

「私が叶えたい願い。もう、あなたが聞いたんじゃない」

 

 それは、そうだ。

 だけどまさか答えてくれるなんて思ってなかった。

 

 生きること。

 それが、小鳥遊飛鳥の叶えたい願い。

 

 それを否定するつもりはないけど、生きたいなんて当たり前のことじゃないか?

 わざわざ聖杯に願うほどのことじゃない。というより、生きたいと願うならこんな戦いには参加しないのが普通だ。

 

 ……いや、願わなくては生きていけないのだとしたら。

 

「地上の私はね、病気なの。不治の病らしいわ」

「……だから、聖杯に」

「ええ」

 

 小鳥遊はこちらに顔を向け、にこやかに笑って見せた。

 その表情からは、とても病に罹っているようには見えない。

 

 ああ、でも最初に彼女を見たとき、その健康的な肌に違和感を覚えたっけ。

 恐らくアバターを弄って肌の色を変えているんだろう。

 地上の彼女は、もしかしたらもっと青白いのかもしれない。

 

「電脳世界にダイブするのが趣味だったわ。現実とは違って自由に動けるもの。だけど、やっぱり現実で普通の生活をしてみたかった」

 

 思い出しているのだろう。

 ここではないどこかを見ながら、小鳥遊は語る。

 

「草原の上で寝転がったり、海を泳いでみたり。色々なことをしてみたい」

 

 当たり前のことをできない彼女は、誰もが簡単にできる願いを口にする。

 それは、彼女には夢物語と同じものなのかもしれない。

 

「なんて、ちっぽけな願いだったかしら」

「……いいえ、そんなことは決して」

 

 彼女にとっては、この戦争に参加するほど大きな願いだ。

 その願いがちっぽけなものだなんて、絶対に言ってはならない。

 

 それに私だって人のことは言えない。

 むしろ、目的はあっても願いはない私は、本来ここにいるべきではない存在だ。

 生き残り、記憶を取り戻したいがために人の願いを踏みにじろうとする私が、彼女の願いをバカにすることはできない。

 

「でも、どうしてその話を私に?」

 

 別に言う必要はなかった。

 私と同じように濁すことだってできたのに、どうしてそれをしなかったんだろう。

 

「私のこと、誰かに覚えていてほしかったの。あなたは優しい人だから、きっと覚えてくれると終わったわ」

「私が、優しい?」

「ええ。昨日、過呼吸になった私に近寄ろうとしてくれたじゃない」

 

 そんなこと、しただろうか。

 覚えてない。多分、無意識に動いていたのだろう。

 

 でも、それだけで優しいと思うか? あの状況なら、とどめを刺すために近づいたと考えるだろう。

 流石に警戒心がなさすぎではないか。

 

「いいのよ。私、これでも人の見る目に自信はあるんだから」

 

 彼女はどこか楽しそうに笑って、ベンチから立ち上がった。

 長い髪を翻し、小鳥遊は笑顔を私に向ける。

 

「楽しかったわ。ありがとう、ヴィオレットさん」

「はあ……私、何も話してないですけど」

「誰かとこうして話すのは久しぶりだったの。だから、私は十分楽しかった」

 

 確かに、彼女は変わらず楽しげな表情を浮かべている。

 その笑顔が眩しくて、思わず目を逸らした。

 

 これ以上、彼女のそんな表情を見たらいけない。

 

「それじゃあ、次はアリーナで会いましょう」

 

 その言葉を最後に、小鳥遊は教会の方へ向かっていった。

 元々改竄をするために来ていたようだ。そうじゃないとこっちにはこないか。

 

 小鳥遊を背が教会の中に消えていくのを見届け、私もベンチから立ち上がる。

 やることはまだ残っている。図書室に行って、彼女のサーヴァントの真名を調べないと。

 

「……願い、か」

 

 聖杯にかける願いはない。

 でも、私にもいつか見つかるのだろうか。

 

 聖杯に託したいほど、叶えたい願いが。




今回はクレアとその対戦相手、小鳥遊飛鳥の話でした。
小鳥遊は慎二と同じようにアバターで見た目を変えています。といっても、肌の色くらいですが。

さて、話は変わりますが、昨日からTwitterを始めました。
この作品で出てくるオリジナルキャラのイラスト投稿と、更新報告がメインとなります。
現在は主人公であるクレアの立ち絵のみ上げてますが、一回戦の終盤あたりに小鳥遊飛鳥の立ち絵も載せる予定です。

とか言っていましたが、結局趣味垢と統合することになりました。(8/18追記)
興味のある方は、アカウントページから飛べるので見てみてください。

これからも、よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。